日本語は、漢字を取り込むことですごく得をした? | |
日本語は「漢字」というかなり安定した表意文字を手に入れ、それを使いこなすことによって豊かな表現力をもつことができました。ただ「日本語」を使う人々にとって、自分たちの言葉を漢語にあてはめていく作業はそう簡単ではありません。歴史を長い目でみると、その混乱は現在もまだ続いているともいえるでしょう。漢字は漢語を表すための文字なので、日本語と漢字の意味がぴったり一致することはあり得ません。それは、英語で考えてみてもわかることです。 1.「見る」 watch look see 「話す」 talk speak tell 2.「姉」 sister 「妹」 sister 1.は英語には細やかな概念の違いがあるのに、日本語にはない例で、2.はその逆です。中国から漢字が入ってきたときには、日本語はまだまだ言語として未熟な段階でした。ですから 1.のパターンが圧倒的に多かったと思われます。 「みる」 見 視 観 看 診・・・・ また、当時の日本語には、総括的な概念の言葉がまだ生まれていませんでした。つまり、「春」「夏」「秋」「冬」などの個別の呼び名はあっても、それをまとめて呼ぶ「季節」という言葉も概念もなかったのです。極端なことを言えば、残念ながら、日本語はより文化の進んだ国の言葉を取り入れることにより、日本語としての進化がほとんど止まってしまったと言えます。その証拠に、概念を表す言葉の多くは「音読み=漢語」ですし、最近では外来語=カタカナで表すことがとても多い。日本人は与えられた言葉で考えるようになり、自分たちで生み出す力を奪われてしまったのです。そういう観点でとらえると、漢字を取り入れたことで「日本語は得をした」というよりも、むしろ「文字の獲得に困難をともない、混乱している」「日本語の発達がそこで止まってしまった」という点で、残念ながらマイナスの方が大きいと言わざるを得ません。 ただし、それをうまく使いこなそうとしてきた長年の努力の歴史があります。今になって損得を考えてもそんなに意味のあることだとは思えません。もし、アルファベットと漢字が同時に日本にもたらされていたら、きっと人々はアルファベットを採用し、今頃、日本語はアルファベット表記だったはずです。漢字を使う中国語が優れていて、アルファベットを使う英語が劣っているわけではないのですから。当時の日本人にとって漢字は輸入できた唯一の文字だったのです。 もし、日本語から生まれた日本字(?)が発明されていたら、もっとたくさんの日本的な日本語が生まれていたでしょうね。 |