「〜いただく」と「〜くださる」の違い
 「少々お待ちいただけますか」と「少々お待ちくださいますか」という表現はどちらも使えるようですが、この表現には違いがあるのでしょうか、それともどちらをつかっても問題ないのでしょうか。
 よく似た敬語の表現で迷った場合の解決法は2つあります。
1.敬意を含まない「基本語」に戻して表現してみる。
 「いただく」と「くださる」の基本語は、それぞれ「もらう」と「くれる」です。どちらも「相手から物を受け取る」行為ですが、基本語に戻してみると違いがはっきりします。自分側の行為であれば「もらう」=「いただく」=謙譲語。行為の主体が相手側にあれば「くれる」=「くださる」=尊敬語です。
 ●こちらから依頼した   「持ってもらう」=「持っていただく」「お持ちいただく」
 ●相手が自分からしてくれた   「持ってくれる」=「持ってくださる」「お持ちくださる」
 主体による使いわけがはっきりすると思います。

2.文末の表現を「基本形」「疑問形」「命令形」などに変化させて比較してみる。
 「この問題についてお考えいただく」と「この問題についてお考えくださる」を比べてみましょう。「お考えいただく」は「依頼」、「お考えくださる」は「感謝」の気持ちが感じられますが、命令として「お考えいただきたい」「お考えください」と使った場合には、こちら側からの依頼が含まれる「お考えいただきたい」の方がきつく感じられると思います。やはり「いただく」にはこちらの思いが強く含まれていることがわかります。
 例文の「少々お待ちいただけますか」と「少々お待ちくださいますか」は、「〜か?」という疑問形=依頼の表現です。「こちらからお願いして待ってもらう」のですから「お待ちいただく」という表現の方がふさわしいということになります。相手から「待たせてもらいます。」と意思表示された場合には「お待ちくださる」と表現するのがよいでしょう。「くださる」は相手の気持ちを受けるので「えっ、お待ちくださるのですか!?」「私みたいな者を好きだといってくださるのですね・・」という感情的な表現ができるということです。逆に「〜くださる」がなじまない場合があります。たとえば、こちらから無理にお願いして何かをしてもらう場合です。「手伝っていただけることになりました」とは言えますが、「手伝ってくださることになりました」とは言えません。後者の表現では、相手が自主的に手伝おうとしているように感じてしまうので、ニュアンスが違います。

 整理すると以下のようになり、「いただく」「くださる」にはそれぞれ3つの基本的な意味があることがわかります。
 A.待っていただく(依頼)  B.お待ちいただく(依頼)  C.お菓子をいただく(もらうの謙譲表現)
 A.待ってくださる(尊敬・感謝)  B.お待ちくださる(尊敬・感謝)  C.お菓子をくださる(くれるの尊敬表現)
 どちらにしても相手に対する働きかけの表現なので、「すみませんが、そこの本を取っていただけませんか」と「すみませんが、そこの本を取ってくださいませんか」などのように感謝や尊敬の気持ちをこめて依頼する一般的な行為には、厳密な使いわけは必要ないといえます。「こちらが無理にお願いする場合」「相手がぜひしたいと意思表示してくださった場合」に限り使いわけるのが自然でしょう。書面で表現する場合ならともかく、その場でぱっと表現しなければならない会話の中では、現在ではこの2つの表現はほぼ同じ意味あいを持っていると言えるでしょう。

2005.05.07改
フッタ
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