平成十年一月
実家より 賀状来ぬのが 気にかかり 節料理 娘に任せ 舌鼓み
冬の日に 片寄せられて 鉢並ぶ 冬の午後 話せぬ友を 友と訪う
頂の 結ばれ並ぶ 枯れ菖蒲 木犀に 雀集まる 冬の昏れ
師も老へり へなへな便り 嬉しかり 養父いりの 土産を待ちし 幼き日 (1月16日)
細き雨 降る昼下がり 山茶花の散る 春の朝 ゴミ選り分けて 烏食う
水ぬるみ 佐保の流れに 雑魚群れて
水ぬるみ ここは我が家と 雑魚群れる

散歩道 とある門前 福寿草 持ちくれし 春蘭の根の 真白なる
三輪の ラッパ水仙 庭の映え はこべ咲く バス停椅子の 下に群れ
佐保橋に 吹く風もやや 春めきて 地に戻し 大き花咲く 金鳳花
アメリカの ひ孫帰りて 春うらら
草引くや 小さきとかげ よろひょろと うとうとと 彼岸の法話 聞き流し
紅葉の芽 一つひとつに 花の精 芽紅葉の 雫輝く 朝清し
落ち椿 アクセントにと 掃き残し
よく見れば なずなの咲ける 寺の庭 雲雀鳴く 平城旧跡 空広し
二三頭 鹿も渉れる 春の小川(かわ) こでまりの 揺れて雨らし 曇り空

花筏 ほんに筏師 立てる如 ブラジルの 移民が歌う 故郷の春
夕餉後 蝙蝠の飛ぶ 佐保住まい ガガンボの 羽音に暮れる 佐保川辺
今年竹 すくっと伸びて 空青し 声明に 心和めり 春夕べ(エルトン・ジョン)
山椒の 日陰にありて 棘やわら 初蛙 聞きて昼時 曇り空

従姉妹訪う 大山蓮華 活けてあり 大てまり 手毬のままで 落ちていし
菖蒲湯と 戸口にかかる 紺暖簾 姿とは 案外の声 鷺飛べり

忍冬の 塀越えて咲き 愛づる声 麝香草 仄かに匂う 触れるたび
老木の 洞に梅雨茸 盛り上がり 境界の 塀くぐり出ず 茗荷の芽
籐椅子に かけて夕刊 すぐこくり 蝸牛 芙蓉の葉裏 日盛りに
梅雨の蝶 又戻り来る 雪の下
花すくな 素枯れし花に 蜂出入り
アメリカの 風鈴土産 風を待つ 鳴き通す 蛙のありて 佐保の暁け
梅雨済みて 鴟尾も輝き 川も澄む 夕焼けに 鴟尾も輝き 佐保路暮る

ほととぎす 鳴き渡る見ゆ 円成寺
月下美人 誰にも会わず 萎みたり |