志貴皇子・四季讃歌


志貴皇子は天智天皇の皇子として生まれたが、天武系政権下、政治に関わらず、ひとり静謐を好み、思慮深く生きぬいた人と見られている。万葉集にすぐれた短歌7首を残している。

 

志貴皇子のよろこびの御歌

石ばしる 垂水の上の さ蕨の 萌え出る春に なりにけるかも
いわばしる たるみのうえの さわらびの もえいづるはるに なりにけるかも

志貴皇子 万葉集 1-51

岩の上をほとばしる滝のほとりのさ蕨が萌え出る春になったことだなあ。

 
わらび           歌碑

采女(うねめ)の 袖吹きかえす 明日香風 都を遠み いたづらに吹く

志貴皇子 万葉集 1-51

かっては采女たちがあでやかに袖を吹きかえしていた明日香風、今は都が遠いのでむなしく吹いていることだ。 持統8年藤原遷都後、明日香の宮を偲んで詠んだ歌。

 
飛鳥川源流           田原西陵

むささびは 木末求むと あしひきの 山の猟夫に あひにけるかも

むささびは こぬれもとむと あしひきの やまのさつおに あひにけるかも

志貴皇子 万葉集 3-267

むささびは梢をかけのぼろうとして漁師に見つかってしまったのだなあ。
政争の犠牲になった非運の皇子達を悼む意味が隠されているともいわれる。