日野原重明さん                        Update: July 23, 2017
【2017年7月18日、世田谷区の自宅で死去。105歳】  名言集
 

挑戦する限り老いない    卒業する  【リレーおぴにおん】 
                                    〜〜朝日新聞2011年3月3日掲載記事より〜〜

        聖路加国際病院理事長 日野原重明さん(99)

  今年100歳を迎えます。これまでの人生は助走段階で、さあ、これからジャンプだという感じですよ。

 卒業というと、日本では業を終えることを意味しますが、米国では「コメンスメント・エクササイズ」(commencement exercises)という。直訳すると「実習の始まり」。それまでは準備で、これから実社会での新しい生活の中で本番の学習が始まる。生涯学び続けるということです。

  日本では50歳代で肩たたき、60歳で定年です。しかし、米国の大学では、やる気と実力があればテニュア(終身在職権)を取得し、生涯働きつづけられる。実力さえあれば学外から研究費を獲得し、大学に貢献もでき、定年はない。

  私などは100歳に近づくほど、音がだんだん大きくなるクレッシェンドのようになる。講演や論文の数が増え、より生産的になってくる。今はパソコンが発達したお陰で、図書館に通わなくても文献検索が瞬時にでき、原稿用紙に時間をかけて手書きする必要もない。短時間で多くの情報を得て研究ができ、論文など生産物も多くなる。

  これまでの人生で、引退して悠々自適に過ごそうと思ったことはありません。業を終えるという意味での卒業や定年は、私にはない。現在も聖路加国際病院理事長をはじめ、さまざまな財団や学会、学校の理事や会長など90近くの役職についていいますが、多くがボランティアです。

  困った人を助けるボランティアの仕事は無限にある。報酬が発生しない自由な立場で、リーダーシップを持ってボランティアの仕事をやるときの生きがいは大きい。人は生きがいを感じながら年を重ねれば、いつまでも若くいられる。みなさんにもぜひ、ボランティアをやってほしい。

  それと、年を取ったから引退するのではなく、それまでやったことのない未知のものに挑戦してほしい。やったことがないのでできないというのは、能力がないのではなく、たた単にそれまで能力を発揮する機会がなかっただけなんです。以前、107歳の女性が「米国に旅行するので、その前に健康診断を受けたい」と、私のところへやってきたことがある。80歳で初めて油絵を描き始め、非常に立派な作品を描くようになった人です。107歳で米国へ行き、マンハッタンで個展を開くほどになった。いい遺伝子があったんだけども、それまで使う機会がなかっただけなんです。挑戦すれば才能は開花するんですよ。

  やったことがないから、なんて言わずにとにかくやってみようとポジティブに生きる。哲学者のマルチン・ブーバーは「人は創(はじめ)る事を忘れない限り、いつまでも老いない」言っています。いくつになっても前向きな気持ちで、新しいことに取り組めば、できるんですよ。

  常々三つのVを唱えています。まずビジョン(vision)をしっかり持つ。そして勇気ある行動に挑戦(venture) する。そうすると人生の勝利(victory)が実現される。

  100歳は次のスタートラインです。これからの10年を見据え、数ある役職も続ける。いま聖路加国際病院を基盤に、一般教養課程4年間、専門医学課程4年間の新しい医科大学を設立する一大プロジェクトに挑戦しています。数年はかかるし多額の費用も要る。募金も始めます。必ず完成させてみせますよ。それが私のミッション(使命)だと思っています。(聞き手・池田洋一郎)