しばらく練習の続きをして、ふと高見は台本をめくる手を止めた。 「ところで、桜庭。」 「はい?」 「ドラマの本番ではキスするの?」 「えぇっ!?しっ・・・しないですよぉっ!寸止めです寸止めっ!」 「そうか。それはよかった。」 「?」 「誰だって好きな子のキスシーンは見たくないだろう?」 ここまで言うと露骨かな?と思ったが、自分のことでいっぱいいっぱいの桜庭にはこの言葉も届かなかったらしい。 「へぇ〜高見さんもファンなんですか?松島夏美。かわいいですもんね。」 桜庭は今月9のドラマで共演しているアイドル歌手の名前を上げて言った。 「・・・かわいい・・か。」 よっぽどお前のほうがかわいいけどね。などと腐った脳味噌で考える。 いつからこんな風な感情を目の前の身長が185cmもある同性の後輩に持つようになったのか。 そんな俺の気持ちなど気付きもせずに桜庭はにこにこと笑いながら共演者を褒めちぎっている。 「すっごい人懐っこ〜い笑顔で、それがかわいいんですよね〜。女性アイドルって意外とワガママで性格が悪かったりするって言うじゃないですか?でも、彼女はテレビの中のまんまなんですよ。気さくでちょっと天然ですっごくいい子で。おかげでドラマのロケのほうもなんとか楽しくできて、正直助かってるんです。ちょっと積極的なとこがあるんでドキマギさせられることもあるんですけどっ。」 などと聞き捨てなら無い事まで言ってのけて、のんびりと微笑んだ。 天然はお前のほうでしょ。と心で高見は突っ込みを入れる。 目の前で微笑む人物の好きな相手が進であるということは知っている。 桜庭にとって進が特別であること。 気付かないほうがどうかしている。 だが、それが叶わないものであったとしても、だからと言って自分の想いが届くものではないことも気付いていたし、まして桜庭の職場には魅力的な異性があふれているわけで・・・冷静かつ常識的な思考で考えるならば同性でなく異性へと想いが移って行くのが正しい人の道というものだろう。 「・・・かわいい・・・か。」 「えぇ。人気アイドルなのに偉そぶらないし、ほんと気さくで。あぁ〜こういう子彼女にしたら幸せなんだろうなって感じのいい子ですよ。気も利くし・・・あ!うちのマネージャーにちょっとタイプが似てるかな?」 「へぇ?」 桜庭はそういうタイプが好みですか。気さくで気の付くかわいい女の子。 それにしてはその理想と進とは大きくかけ離れているような気がするんだけどね? 桜庭はそんな俺の心の突っ込みなど知りもしないで言った。 「サインくらいならもらえるかも!いります?」 恐らくはこの練習のお礼のつもりなんだろう。 どうせなら、もっと違うお礼をもらいたいところなんだけれどね? 「いいや。俺はファンじゃないからいいよ。」 「え?だって好きって??」 「それより、そんなかわいい子と一緒だとその気にならない?」 少し気になった事を聞いてみる。 桜庭は一見人付き合いが上手そうに見えて、実はガードが固くて、甘えるのが下手だ。 そんな桜庭がサインをもらえる程度には仲が良くて、しかも、理想的な彼女タイプで、かつ人気アイドルだけあって顔ももちろん愛らしいとなると・・・。 「へ?いや、まぁ、そりゃぁ俺も男ですから、演技とわかってても潤んだ瞳とかにはぐらってきますけど〜。」 「そうか・・・ぐらっときちゃうんだ。」 やはりそういう事になりますか。予想通りの答えに少し浮かんだ苦い想いを噛み潰す。と、思いもかけなかった言葉が後を継いだ。 「けど、やっぱり初めてのキスくらいは好きな人としたいな・・・って思っちゃうんですよねぇ〜。」 「へぇ?」 少し驚いた声をあげて見つめると、 「なんですか?」と桜庭は少しバツが悪そうな顔をして俺の顔を見返した。 俺はたぶん、さっきまでと違って、機嫌の良さそ〜なだらしない顔をしているに違いない。 「まだしたこと無いんだ?」 「うっ・・・高見さんはありそうですよね?」 「そう?でもないよ。」 「うそだーーーっ!絶対あるでしょ!高見さんそういうのスマートにやりそうですもんね。」 桜庭は勝手に決め付け言い切った。 まったく・・・おまえ、俺の何を知ってるっていうの?そんなことができるくらいなら、今頃お前をここで押し倒してますって。 桜庭の尻の下に引かれているマットに目を向け不埒な妄想を頭に浮かべる。そんなことなど気付きもせずに桜庭は勝手な高見伊知郎像を披露している。 「・・・何のかんの言って、モテモテですよね。高見さんって!隠れファン多いしなぁ〜。」 「それは初耳。」 「なに言ってるんですか!試験は必ず学年10位以内、っていうかむしろ5位以内!スポーツはもちろんできるし、おしゃれだし、話もうまいし、エスコートとかも上手そうだし、俺が女の子だったら絶対一度は告ってますよ!」 「女の子だったら・・・か。」 「?」 「それは美人だろうね。」 「ばかにしてーーーっ!」 桜庭はまるでタコのように口を尖らして頬を膨らませた。さすがに松島夏美もこんな桜庭の顔は見たことがないに違いない。そんなことを考えてテレビの中のアイドルをライバル視していた自分に思わず笑ってしまう。まったく・・・桜庭を好きになってからどんどん自分は愚かになっていく。 「俺よりも絶対にモテる桜庭に言われてもなぁ〜。」 「モテませんって!だいたい・・・女の子達が見てるのは俺じゃなくってアイドルの桜庭春人だし。」 最後の方は聞き取れるかどうかの小さな呟きになっていた。 「・・・そんなことないと思うけど?」 「偶像だけが一人歩きしてるんですよ。」 「そうかなぁ〜?中学のときからモテてたじゃないか。」 「クラスで一番でかいからだけですよ。身長だけ。」 「そんなこと言ったら俺も大田原もモテモテだよ?」 「だから高見さんはモテますって!」 「大田原は?」 「・・・い・・・いい天気ですね。」 「苦しい逃げ方だね。」 「あはは。」 「少なくとも、俺はここにいる素の桜庭春人が好きだよ。」 「・・・。」 驚いた顔をして固まった桜庭ににっこりと笑って見せると、茶化すような声音で続けた。 「告られたら一生幸せにしてみせるくらいの勢いでね。」 その言葉に桜庭はほっとしたように力を抜くと、とけるように微笑んだ。 「うわ〜・・・ホント女の子に生まれときゃよかったですね。そしたら一生面倒見てもらうのにな〜。」 「・・・ここにいる素の桜庭春人って言ったんだけどね。」 小さくぎりぎり桜庭に聞こえない程度の声で呟きを漏らす。まだ、桜庭に伝えるには早すぎるから。 聞き取れなかった言葉に桜庭は「へ?」といいながら俺の顔を見上げた。 そんな桜庭に、安心させるように微笑んで言った。 「なんでもないよ。さぁ、遊びはこれくらいにして続き始めようか。」
*** あーーーしんどいです。いつまでこの残業の日々が続くのでしょうか。 いつまで高見さんこんなあつかいなんでしょうか(涙) しんどそうや・・・ごめんなさい。でもそれでも見守りつづけてくれる高見さんが大好きですっ。 一緒にしんどい日々を乗り切りましょう! って?また現実逃避か・・・ドナドナド〜ナド〜ナ〜〜♪ 子牛は明日も仕事です。
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