ブラームス 交響曲第1番 Brahms: Symphony No.1

 ブラームス 交響曲第1番
Brahms: Symphony No.1
ギュンター・ヴァント 北ドイツ放送交響楽団 1997年
Günter Wand Hamburg North German Radio Symphony Orchestra(NDR Sinfonieorchester Hamburg)

ヴァントさんの演奏は、硬く厳しく、とりつくしまもナシって感じで、まるで北極圏のようで凍り付きそう。いい加減な気持ちでは、とても近寄れない。まず、冒頭のティンパニーが猛烈に速い。硬く険しく猛々しく厳しいフレーズとなっている。誰かが運命の扉を叩いているどころじゃない。これでは崖っぷちに立っているようなもの。目の前がクレパスのような空恐ろしさがある。切迫感があり悲痛すぎる。スウィトナー盤でもティンパニーは強烈だったが、ヴァント盤も硬くてパワフル。ゴツゴツしたブラームスで刺々しく荒々しい。ティンパニーの強打に打ちのめされ、カツを入れられる。ヴァント盤は格闘技である。叩きのめされる前にタオルを投げたい気分で、へろへろになりつつ次の楽章へ。
第2楽章は、無骨で、痩せ細った変なおっちゃんが愛を囁いているような違和感がある。少しくらい歌って欲しいが、木管が、ひらべったく悲しそうに吹いており、弦には丸みがない。端的に言うとムードがなさすぎ。そんなモンっ、いらんわいっ!と一喝されるだろうな。でも、せめてこの2楽章ぐらいは、ゆったりしたいものだ。綺麗だが色っぽさが足らず 瑞々しさが欲しい。干上がっている感じがする。第3楽章は、弦と木管が絡んで、たらら~ら~ たらら~らら~と、可愛く歌っている。おっ、ちゃんと歌えると思ったが、聴いているうちにサラサラ流して、チャチャと速く切り上げて無骨だ。

第4楽章は、嵐の前の大粒の雨のように聞こえる。ピチカートは相当に怖い。氷のつららが落ちてくるよう。決断を迫られ追いつめられた後、重大な決断をしたようにティンパニーが鳴る。で、アルペンホルンが鳴るのだが。これは、とてもノー天気な高原のホルンではない。ありえない。ようやく、踏ん切りがついて心の安らぎを得たのだろう。フルートが吹かれて辺りを一掃してくれて清々しい気分。染み渡るような弱音でのホルン、弦の柔らかなフレーズ。はあ。安心した。これで清々しい気分で、成仏できるんやね~っと言ってあげるつもりだったのに。あの強烈なティンパニーが鳴る。やっと開放されたんじゃーないのか? 床に突っ伏したい気分で嘆きたくなる。雷どころじゃない。メチャ心臓に悪い。(単に、繰り返しがあるのを忘れていたのだが)
とにかく、このティンパニーは嫌だ。背筋がぞーっとするロールで地獄の閻魔大王なみ。最後のコーダは、喜びに満ちあふれているが。最後しか登場できなかったのかトロンボーンかチューバ。これらが和音を4回。とにかく、終わって、やれやれ~。
とてもブラボーなんぞ叫ぶ気分になく。どっと疲れてヘトヘト。生々しくリアルで徹底的に打ちのめされる。超絶的な演奏である。


■ ブラームス 交響曲第1番
Brahms: Symphony No.1
ベルナルト・ハイティンク ボストン交響楽団 1994年
Bernard Haitink Boston Symphony Orchestra

ハイティンクさんは、1970年代のアムステルダム・コンセルトヘボウと、1990年代のボストン響と、21世紀に入ってからのロンドン響と3回ブラームスの交響曲全集がある。ここでご紹介するのは、90年代に収録された2回目のボストン響。ボストン響との1番は、何度聴いても手堅いというか、個性的な盤ではない。なんとも感想の書きづらい演奏だと思ってしまう。最初のティンパニーの連打は、硬いわけでも柔らかいわけでもないし、途中、ふっと音が抜けた感じがするので何度も聞き直してしまった。音質は硬めで歌わず、素直というか平凡というか、いかつくもなく荘厳でもなく、ムーティみたいに温暖な気候で歌うわけでもなく、ゴツゴツした肌合いでもなく、北ドイツの荒野風の寒々しい感じでもないし、なんとも例えづらい演奏だ。もちろん、精緻さもあるのだが、締め付けた感じはしない。かといって朗々と歌われるブラームスとも違う。ヴァイオリンのキレは良いし、金管の響きも悪くないが、フレージングが素っ気ない。愛想が悪いっていうわけではないのだ。(別に、愛想を振りまいて欲しいわけでもないし)
艶のある音質で木質的な響きとも言い難いし、ホルンの甘い香りがするわけでもないし、木管のフレーズが酔いしれるほど美しいわけでもないし、重厚だとも言えないし、芳醇な香りが漂うという感じでもないし。う~ん ワタシ的には、森林のなかを呼応するような木管とホルン絡みでは、もっとまろやかな響きが欲しいと思ったり。よわったなあというのが正直なところだろうか。ホルンや木管の響きの印象が強く残らなかった。密度の薄い演奏に聞こえてしまった。
第2楽章は、室内楽的で、とても丁寧で、気持ちのよい弦のアンサンブルがきこえてくる。第3楽章は、木管の響きが美しい。第4楽章は、分厚い響きで、どろどろどろぉ~っという低弦の下降から始まり、最後は、感極まった感じで、いきなり朗々と歌う楽章である。弦のピチカートから始まり、ホルンとフルートの主題は、ゆったりと歌い始める。個性的な盤が多くある楽曲なので、ハイティンク盤の場合は、少し分が悪いが、ゆったり素朴に演奏されている中間楽章は聴き応えがある。


■ ブラームス 交響曲第1番
Brahms: Symphony No.1
ヴォルフガング・サヴァリッシュ ロンドン・フィル 1991年
Wolfgang Sawallisch London Philharmonic Orchestra

サヴァリッシュの演奏は、薄めの響きで、ゴツいのが好きという方には不向き。冒頭のティンパニーは、重すぎず、少しゆったりめに叩かれている。低音の響きよりは、上昇していく弦のフレーズが強めで、ホルンと木管の音色と交錯するが、ホルンの存在は薄いという珍しい演奏だ。フルートの音色は通りが良く、弦のノビ感が良い。どこまで伸びるのって感じで長い。もちろんティンパニーのロールの存在は大きいのだが、がががぁ~ ごごごごぉ~っという響きではない。静まったなかのチェロの音色は綺麗だし、間合いをとって、弦全体が醸し出す和音の響きは綺麗だ。間合いが良い。また、重すぎないフレージングで、コントラバスのゴリゴリ感はないが、低音のバランスが良い。ヴァイオリンの響きに艶が少ないのが、痛いよなあ~って思うのだけど、まあ、これはオケの特質なのだろう。木管の呼応は速め。ホルンの存在は、ホントに居るの?っていうぐらいに薄い存在だ。
後半に向かって、テンパニーの存在感が出てくるところが、聴きどころになるのだろうか。ティンパニーが合わさってくると険しい表情になる。最初は、ゆったりしたくせに、徐々に、その姿を表し、キレが出てくる。ラストになれば燃えるって感じ。木管とホルンの響きに弦が絡み、安定した響きの和音になって終わるように思う。

第2楽章は、聴きどころかもしれない。薄めの響きなのだが、優しい内声部の響きが、とっても大切に扱われているように思う。木管のフレーズが、たっぷり良く聞こえて嬉しいし、内声部に新鮮さがある。この楽章を丁寧に、しっとり演奏しており、弦の歌わせ方が巧い。決して美音ではないが、木綿の手触り感のような素朴さ、楽器の響きが、全体によく馴染んでいる。
第3楽章は、優美な舞曲風のフレーズが優しい。テンポは、畳みかけていくところと、ゆったりしているところと、メリハリがあり、弦の高音域になると、さらっと流れていく。タメ感が少なめで意外と速い。つかみが大きく、大きな流れで一筆書き。
第4楽章は、弦のピチカートがあっさり。低弦のゴツサが、ここでは欲しいだろうか。雷鳴のように叩かれるティンパニーは、迫力がいまひとつ。やっぱり低い音域の響きが、収録しきれていないのかもしれない。厚みが欲しいねえ~ やっぱり薄口なのだ。かすれ気味の高音域のヴァイオリンがメインでは、ブラームスを聴くには、ものたらないという感じになってしまう。
で、主題の歌い方が、もう少しゆったりでも良いのではないか。しみじみ感はあるが、オーバーアクションは厳禁って感じで、ストイック。オケの音質と録音状態が、足を引っ張ってるように思う。


■ ブラームス 交響曲第1番
Brahms: Symphony No.1
リッカルド・ムーティ フィラデルフィア管弦楽団 1989年
Riccardo Muti Philadelphia Orchestra

ムーティの演奏は、まろやかに響き、朗々と歌うタイプの演奏で、ワタシ的には、たまらない1枚である。冒頭のティンパニーと弦の響きが良く、ティンパニーの冒頭の8拍は力強いが、弦がワンフレーズを奏でた後、音量を抑えている。はは~ん。途中で、弦主体に切り替わっているらしい。この解釈は面白い。ドンドン、ダンダンダンと奏でられるブラームスが多いなか、ムーティらしい歌心ありのフレーズで、弦が階段をのぼって上昇し、水平に渦巻いているかのような感じがする。その後、底にいったん沈んみ、ウツウツ、モワモワと渦を巻き、危うい青春時代の精神状態のようで、自信に満ちあふれた英雄的であるかと思えば、すぐに落ち込んでしまって、ウツウツとしてしまう心情が描かれている。ティンパニーが1発鳴るが、その鳴るまでのちょっとした間合いが良い。ティンパニー1発の後、まるで、ふっきれた後のように、さっぱりした伸びやかな表情に変わる。この変わり方が面白い。ティンパニーを巧く使っているところが印象的。柔らかく、流麗なブラームスで、ジュリーニ盤に近い雰囲気がある。低音域の響きも充分あるし、弾力性の高い演奏だと思う。響きもわりと渋めに仕上がっている。若くてしなやかで、大きな響きを持っている演奏だ。

第2楽章は、ふわっとした感覚が絶品だ。思わず息をのむような美しさ。フルートは、儚げで奥ゆかしく、もどかしいほど美しい。この楽章もなかなかに美しい。ブラームスって、こんなに天上的な音楽を創っていたっけ。歌心ありの指揮者にかかると、ブラームス田舎臭い無骨さが、オブラートに包まれ、室内楽的な響きで、可愛く微笑ましい。呼応するホルンの鳴り方も、奥ゆかしく身をよじりたくなるようなカンタービレが奏でられている。第3楽章は、ふわ~っと出てくる雰囲気が、たまりません。「たらら~ら~ たらら~らら~」と舞曲風のフレーズが柔らかく、「そ~ふぁみれどしら~そ」「ふぁ~どらど そ~」のフレージングの美しいこと。 弦の囁き、ぱらら ぱらら~と鳴いているクラリネット、ホント天上的に響いている。特に、フルートの響きと、弦の柔らかさが絶品。木管の音色もばっちり。ブラームスの歌謡性が前面に出てきて、歌う歌う。
第4楽章は、低弦が「どしら~ そぁぁっ~」と湧き起こってくる。低弦のピチカートの響きが効いている。しなやかに蠢く姿が彷彿とさせられ、レアな感じを生んでいる。背筋がゾクゾクするほどの繊細で優しい歌い方だ。そして奥行きが、ものすごく感じられる。特に、金管とティンパニーの響きには唸ってしまった。こりゃ~すごい良いねえ。弦の響きも、キンキン、カンカンに鳴らず、う~ 涙目になって聞き惚れるほどの美音。いかにもドイツ風という、シャキシャキ バリバリ、軍靴を鳴らすかのようなアプローチではないのでソフトだが。ここまで歌いあげてくれるとシアワセ。ムーティ盤は、ジュリーニ盤と同じく、歌うブラームスである。ジュリーニ盤の弦は、きっちりした楷書体なのだが、このムーティ盤は、ちょっぴり行書体タイプである。


■ ブラームス 交響曲第1番
Brahms: Symphony No.1
リッカルド・シャイー コンセルトヘボウ 1987年
Riccardo Chailly Royal Concertgebouw Orchestra

シャイーの演奏は綺麗だ。清楚でありながらスポーティであり、艶もあって重厚な響きも忘れずについてきたら文句が言えない。ティンパニーの連打ダンダンダンダンと出てくる冒頭は、打音としては硬いが、厳つくなく残響が大きい。そして弦が柔らかい。すぐに、これは柔らかく、しなやかに演奏されている演奏なんだろうと予感させる。ブラームスは、重くいかめしく硬くなければならないという方には、お薦めできない演奏だが、ワタシのようにやわいのが好きという方は良い演奏だと思う。テンポは、定番って感じのインテンポで演奏されているが、弦がしなやかなのだ。ホールトーンが豊かで、厳しい凍てついた大地とは縁がなく、大らかに歌い、明るくのびやか。やっぱラテン系ですよねえ。刺々しく荒々しい、怖いようなヴァント盤とは、まったく違う。凍てつく大地と、ラテン系の国ほどの気候風土の差がある。で、ゴリゴリ、ガシガシ、ドンドンっと鳴らずに、あくまでも優美。弾むかのように鳴って、リズムのキレは、ヴァイオリンで、シャっ シャッと、弓のキレで表現できている。ホルンと木管の呼応するフレーズも、大らかに、まろやかだ。総体的には大柄だが、高音域のヴァイオリンの音が、上空においてすわっと広がるし、金管のフレーズも柔らかいがシャキっと広がっている。ところどころキレ感が味わえるように工夫しているのかも。美音には抗えない。大きなスピーカーで、幾分大きめの音量で流し、ゆったりと聴くのに適している。ふくよかな音が広がってくるように思う。

第2楽章は、歌うことにかけては、やっぱり絶品だ。木管の美しさ、まろやかさ、弦の優しさに、うっとりとさせられる。ムーティ盤の美しさとは、少し艶感が違うかもしれないが、ふくよかさは勝っているかも。イタリア人指揮者は、こうも歌うのが巧いのだろう。人を喜ばせるツボをご存知なのだろうぁ。大柄なのだが、この2楽章にうっとり~ 陶然としない方は、おられないんじゃないだろうか。
第3楽章は、まろやかな響きで、たまらないですねえ。「たらら~ ららら~らぁ~」という優美な舞曲風のフレーズが、豊かに響いていく。のびやかに歌い内声部の木管の響きに、金管の響きが絡み、密度の高い演奏となっている。この曲を何度となく聴いているが、これだけ木管の音色を楽しませてくれる盤って、そうそうないように思う。第4楽章は、「どぉ~ れぇ~ らぁ~」のという音につづいてティンパニーが叩かれるが、ちょっと弱いかも。ここは、もっとガッシリと決めていただかないと絞まらない。低弦のピチカートはアクセントが効いているが、唐突に入ってくる雷鳴のようなティンパニーにがインパクトが少ないかも。もっと強烈な打音が欲しいが、総体的には劇的効果があり、交響曲というより交響詩的。馥郁とした旋律だが少し抑えめなのが良い。あまり堂々としすぎると、ちょっとイヤミに感じるが、清楚だし木質感がたっぷりあって優美。このホールの豊かさと内声部の詰まった芯のある多層空間で、大変美しい演奏を聴かせていただけた。でも、感動するってわけじゃないんですよね。ん? そうなのよねえ。美音なんだけど、どうしてかしらん。


■ ブラームス 交響曲第1番
Brahms: Symphony No.1
ヘルベルト・フォン・カラヤン ベルリン・フィル 1987年
Herbert von Karajan Berliner Philharmoniker(Berlin Philharmonic Orchestra)

カラヤンの演奏って、表面的と言う人もいるが、1楽章は息苦しいほどの圧迫感があり、最終楽章はメチャ華やかに終わる。ここまでしなくてもぉ~と思いつつ、カラヤンって千両役者だよなあと感心しきり。
冒頭のティンパニーが、ドンドンドンドンと重々しく規則正しく叩かれるなか、ヴァイオリンやチェロの弦が重々しく階段をのぼっていく。ティンパニーの響きは、エコーが掛かっているような感じで響きが終わらないうちに、一打、また一打と、打ち込まれる。弦や木管が、息を詰めて弾いて、辛抱たまらず、たまりかねて息を吐き出したという感じで長い序奏が終わる。1980年代のカラヤンの演奏を聴くと、息が詰まりそうになる。冒頭のティンパニーで苦しくなる。まるで自分の心臓の鼓動を聞かされているような、そんな気がしてくるのだ。で、弦の上昇音階を聴いていると血管が浮きそうになる。カラヤン盤のブラ1は、あまり好きではない。ヴァント盤ほどには凍り付かないが、硬い癖に柔らかいし、磨かれて綺麗だと感じるのも事実だ。

第2楽章は、重厚でありながら、牧歌的なフレーズが流れる。まったり演奏している。低弦の響きの美しいこと。フルートの「どみふぁそ~み ふぁどど~どみふぁそ~みふぁどど~」は、これ速い。「どみふぁ~」と、他の盤だとのばしているのだが、素っ気ないほど短い。はあ? 美しい声をしているくせに、なんとも味気ないこと。弦もさらさら~っと、のぼりくだりしており、美しいくせに、鼻持ちならない女のようで愛嬌がない。弱音の雰囲気と、高音の声が美しい。ヴァイオリンのソロは、ホント美しい。でも、心を許してつきあえるほどの親しみは持てない。うち解けて貰えない、そんな悲しさを感じてしまった。これほど美しいのに悲しいとは。ジュリーニ盤のように悶えるほど美しいのに。心の扉を固く閉じている人に求愛しているような悲しさを覚える。

第3楽章は、間奏曲風の短い楽章で、弦と木管が絡んで、たらら~ら~ たらら~らら~と歌う。ここでは、木管が大活躍しているが、あまりに速くて硬い。横糸だけで、さらりと行くのも良いが、素っ気なさを感じてしまって興ざめしてしまった。何故か、息が短い。セカセカ演奏しているような気がする。第4楽章は、「れどーれーふぁ~」の和音に、ティンパニーが一撃。最後の「ふぁ~」では、弦が、一瞬悲鳴をあげたように強めに弾いたあと、息を盛り返す。悲壮感は漂っていないが、コントラバスのピチカートは、最初は遅いが快速だ。しばらく、うごめいていたが、唐突に雷のようなティンパニーの連打がある。この音は凄い。で、アルペンホルンが朗々と吹かれる。音色は美しい。文句がつけられないほど美しいが、どうしてか感動が、さほど湧いてこない。次に続くチェロのフレーズには、溜息が出るほど美しい。歌うフレーズは流麗で絶品。再度、チェロのまろやかな合奏がある。永遠に続いて欲しいぐらい綺麗だ。低弦の響きも絶品だ。歓喜の歌とも言われる最後は、各パートが美しく演じているし、キラメキを残して華やかに終わる。これほど華やかに終わるブラームスの1番って聴いたことがないかも。はあぁ~ 全楽章を通して聴くと、やっぱり、すごいわ。役者だねぇ~ 拍手は、素直にすぐには出ないけど。やっぱりあっぱれでしょうか。


■ ブラームス 交響曲第1番
Brahms: Symphony No.1
オトマール・スウィトナー シュターツカペレ・ベルリン 1986年
Otmar Suitner Sächsische Staatskapelle Berlin (Staatskapelle Berlin )

スウィトナーの演奏は、コントラバスの低音がしっかり入っており、木管もまろやかでクリーミーに聞こえる。メリハリがあり、特にティンパニーが強烈だ。ティンパニーとコントラバスで、ど~ ダンダンダンダンと出てくる冒頭が速い。先程までザンデルリンク盤を聴いていたのだが、最後のフレーズではテンポを落とすが、超快速である。ティンパニーは音量抑えめだが硬い。ヴァイオリンとチェロの弦が、半音階的にあがってくのだが、そこも力強い。半音の不安定なフレーズと雷鳴のようなティンパニーの響きで、相当暗いが切れ味がある。弦が分厚くガシガシ弾かれており、怒ってるのかと思うほど、怒りに満ちた雰囲気で近寄りがたい。辛口なのだ。硬い・怖い・不気味・愛想ない。フレーズが呼応しているのだが、バラバラのパーツが、ジグソーパズルのように思えて、ブラームスって幾何学模様の楽曲を作っていたの? 久しぶりに聴いて絶句してしまった。紋切り調のフレーズが、次々とやって来るだけで疲れた。最後、ティンパニーが鳴り響き、れしっ れしっ れしっと、弦とティンパニーの掛け合いが始まる。第2楽章は、牧歌的な楽章で、美しいフレーズで始まる。透き通るような声で、パンの笛のように吹かれ、前楽章とは違って幻想的。ようやく、このあたりで、シュターツカペレ・ベルリンのヴァイオリンの音色が渋さを放つ。クラリネットの美しさに気づく。ボリュームをあげてきくと、コントラバスの低弦のスゴイこと。この分厚さ。ヴァイオリンが他の楽器をバックに歌い、ホルンとヴァイオリンのソロの絡みがあって泣きたくなるほど美しさを放つ。

第3楽章は、木管が大活躍している。舞曲風に軽めに、ふわふわ感を漂わせて演奏される。テンポは幾分速め。第4楽章は、分散和音のなかにティンパニーが厳めしく叩かれる。また怖い1楽章のような様相に。コントラバス等の低いピチカートのなかで、唐突にティンパニーのロールが入るが、怖すぎ。なに? いったいなにごとだ! 風が吹き始め雷鳴が轟く。う~ん。そうでした。この時代のシュターツカペレ・ベルリンのティンパニーはスゴイのでした。(ペーター・ゾンダーマンさんだと思う。春の祭典も大活躍)アルプスの高原の朝のようなアルペンホルン。「み~れどそ~~ れ~みど~ そ~ふぁれ~ そ~れみど~」フルートも同じフレーズを吹く。神々しいまでの和音が美しい。たっぷり時間をかけて演奏されており感情没入。これはありがたい。このフレーズは、涙なしでは聴けない。チェロも絶品だが、ゴリゴリ感たっぷりの低弦が入って、ボンボン言わせ、ふわふわ艶やかなヴァイオリンの音色を聴きながら、最後、歓喜の歌とも言われているフレーズを聴く。この演奏の極めつけは、やっぱりティンパニーと弦の鋭さにつきる。


■ ブラームス 交響曲第1番
Brahms: Symphony No.1
レナード・バーンスタイン ウィーン・フィル 1981年
Leonard Bernstein Wiener Philharmoniker (Vienna Philharmonic Orchestra)

バーンスタイン盤は、ライブ演奏で、最後は熱いが、最後まで間が持たない。バーンスタインさんの強烈なファンではないので、ちょっと・・・。冒頭のテンポは速め。ボンボンボンと叩いている。弦の上昇する旋律と下降する旋律と交差しているのは、よくわかるが、低弦はあまり響いていない。録音状態はあまり褒められたものではないようだ。ただし、弦に艶があり木管も甘い。これは、有無を言わさず、音色の綺麗さはダントツ。華麗で艶やかな弦、木管の透き通った音、柔らかい金管、弦のフレーズが、特徴的でガシガシに弾かれることが多いなか、流麗すぎるほど流麗だ。弦のフレーズが、すごく長くのびて、息の長い、ホント長~く長~く 息継ぎをしながら連綿と続いていく。スカートが地面に着いて、ずるずる引きずって歩いている感じだ。この楽章だけで17分34秒というクレジットになっている。第2楽章は、カンタービレ調で、思い入れの強い歌が続く。申し訳ないが、ジュリーニさんの歌の方が好きだ。レニーさんの粘っこい演奏は、ちょっと、うっぷっぷ。シツコイ印象で、なよなよとシナを作った媚びた歌い方のような気がして、ヴァイオリンのソロまで間が持たなかった。しかし、これまた、ためにためて、子音+母音+小さな母音の2乗分という数式で表されるかのようで不快なのだ。(ハッキリ言っちゃった 汗) ダメ、ワタシには間が持たないです。
第3楽章は、濃厚で厚化粧すぎるが、テンポが速い分、美しく響いているし、ウィーン・フィルだから我慢しましょ。第4楽章は、まるで、R・シュトラウスのアルプス交響曲のよう。弦のピチカートは「嵐の前の静けさ」 ぽつりぽつりと雨が降ってきたようだし、駆け足で転がるように「下山」を急ぐ雰囲気だ。さすがにウィンドマシーンは登場しないが、ティンパニーは雷鳴そのもの。ここでは一気に晴天となり、アルペンホルンが吹かれ、ホルンもフルートも長い。聴いているこっちも息継ぎが辛くなってくる。なんで、こんな遅いテンポでするのかな。フレーズの途中から段々とテンポをあげて、最後は燃焼するが、違和感が残る。最後のコーダは、熱いし情熱的だが個性的すぎて、どうも好きになれない。


■ ブラームス 交響曲第1番
Brahms: Symphony No.1
カルロ・マリア・ジュリーニ ロサンジェルス・フィル 1981年
Carlo Maria Giulini Los Angeles Philharmonic Orchestra

ジュリーニの演奏は、朗々と歌うタイプが好きな人には、たまらない一枚になると思う。冒頭、メトロノームの刻みのような正確さでティンパニーが叩かれている。速くもなく遅くもなく雄大そのもの。最後の1音だけが、ちょっとタメがあって丁寧に叩かれているだけで、あと同じテンポだと思う。弦は、このティンパニーをバックにして軋みながら上昇していく。弦は、かなり楷書体でエッジが鋭い。ティンパニーの音の出し入れ(強弱)は、微妙にコントロールされており、無駄のない、そぎ落としたような演奏に聞こえる。木管とホルンの呼応は囁きに聞こえる。金管がわずかに強く吹かれているが、これもアクセント程度で丁寧に吹かれ、メトロノームの振りは変わらず。絶対って感じで1本筋が通っていて、揺るがないところが気持ち良い。テンポは総じて遅め。だいぶ遅いと思う。トータル53分01秒のクレジットとなっている。50分を超える演奏って、そんなにないと思う。でも遅いって、あまり感じないのだ。ちなみに1991年のウィーン・フィルとの演奏盤は、トータル51分42秒(VPO盤は2楽章と3楽章が遅い)ティンパニーの音が推進役になってしまっており、弦や木管が奏でる短いフレーズの集まりを一手に集約し、ティンパニーが絡め取っているように感じる。

第2楽章は、絶品で、最初の弦のフレーズだけで、これは、やられたと観念する。深々とした息づかいで、まったりたっぷり聴かせてくれる。弦の和音の美しいこと。思いがつのってたまりかねたように、オーボエの豊かなフレーズが聞こえてくる。息継ぎしているのか心配になるほど、音が伸びて切れめがない。弦が、溜息をつくように呼応する。身もだえしちゃうほどの美しさ。特に、ヴァイオリンの響きと共にヴィオラとチェロとの和音、これが女性の歌のように響く。そして、またオーボエとクラリネットのセッションがあるが、ヴァイオリンのソロは、悶えてしまいますねえ。ブラームスって、こんな凄い美しいフレーズを作ってくれてたんだと改めて驚く。この楽章だけでも聞き応えあり。

第3楽章は、最初こそテンポが遅めだが、フルートが出てくるところから、少しテンポアップ。雲が流れていくように、クラリネットと弦が奏でられる。他の演奏では、ぜったいに聴けないって言い切っても良いほど、魅力的な演奏である。第4楽章は、低弦が、深々としたフレージングで登場してきて、それを遮るようにティンパニーが鳴る。弦のピチカートは加速して最後は速い。ティンパニーは、心理的な葛藤を迷いなく斬るような役割だろう。弦により歌が底辺に流れているのが判る。ホルンの低弦の響きのなかから、アルペンフレーズが自然と広がりをみせる。弱音のホルンの美しいこと。金管と弦の呼応に傲慢さがなく、謙虚で敬虔で泣ける。愛がたっぷり詰まっているよね~って感じ。これが歓喜の歌という感じで、喜びに満ちあふれ、宗教的な神々しさまで感じられる。
渋くて硬くて~というブラームスのイメージが激変。ヴァント盤の演奏とは、おおよそ、同じ楽曲とは思えないです。こんなに優しくて柔らかい、弾力性のある演奏で聴くと美しい。1楽章は、短いフレーズの集まりで、硬いと思っていた楽章が、ふわふわ~ 波打ってくる。短いフレーズの受け渡しによって凹凸が出て、艶やかに輝く。力を込めてバンバンと一様に弾くだけが強さを表さないんですねえ。ふわっと弾力性があるモノでも、腰の強さを感じさせることもあるわけで。う~ん。ジュリーニの演奏は、上質で、しなやかで、気品があって。表面的には柔らかだけど、しなやかな意思力があって強いです。


■ ブラームス 交響曲第1番
Brahms: Symphony No.1
ロリン・マゼール クリーヴランド管弦楽団 1975年
Lorin Maazel Cleveland Orchestra

マゼールの演奏は遅め。かなり遅い。歓喜の声をあげて喜ぶというより開放された感が強い。冒頭、ドシン、ドシン、ドシンと、ティンパニーが叩かれている。重々しく、ひんやりした空気感で悲壮感が漂っている。まるで葬列の歩みのごとく。低弦が推進力となり、幾分テンポをあげてティンパニーの連打に繋がる。ティンパニーの一発は怖くないが、全体的にひんやり異様な雰囲気を放っている。特に、コントラバスの響きが、どっしり。ごりごり ごりごりと、ヴァイオリンがフレーズを弾いているなかで響き渡っている。粘っこい演奏で同じリズムを繰り返しているうちに、じわ~っと熱っぽくなってくるのは面白いものの不思議な感覚だ。
第2楽章は、牧歌的なフレーズが冒頭に流れる。情感たっぷりで気味が悪いほどに、とろりとしている。1楽章のクールさが嘘みたいで、まるで別人だ。弦のタメがすごい。チェロの甘い音が、ーちゃちゃーちゃっちゃとリズムを刻む。低弦が凄い音量で唸り、淡い幻想的な雰囲気ではなく、どろどろの情念が詰まっている感じ。弦の太い音が恨み節的にも聞こえてくる。ホルンとヴァイオリンのソロの絡みがあるが、トロケルような雰囲気をしつつも硬い。ヴァイオリンのソロも冷たく硬すぎ。 美しいとは思うが、身を固くしていないと誘惑されそう。妖艶さと凄みがある。とても牧歌的とは言えないよ。

第3楽章は、舞曲風のフレーズが次々と出てくるのだが、マゼール盤では歌うというより、気短にせっかちに流れていく。フワフワ感どころか忙しくて目がまわる。弾力性がないため、踊ることを強いられいるような気がして聴いていて疲れる。
第4楽章は、再度、冷たい空気が流れてくる。弦のピチカートが大雨の前の雨粒のように聞こえる。嵐の前の怖さがあり、コントラバスの響きが駆け回り、背筋が、すーっと冷たくなる。ホルンは、ふわっと吹かれ、いきなり別世界に飛んでいくような気分にさせられる。フルートの透き通るような音色も、どこか遠いところにいくような気配で。録音会場は、天上が高いのだろうか。上から聞こえてくるような、よく抜けている。このホルン、いいねえ。ドレスデンのような、まろやかさがある。最後の最後で、こんなまろやかに展開するとは夢にも思わなかった。この意外さに拍手っ。でも・・・ 「そど~しどら~そど れ~みれみどれ~れ そど~しどら~そど れ~みふぁみどれ~ど」という、この特徴のある歌謡フレーズが、速いんだなあ。これが。なんでー どーして、こんなに速く演奏するのだろう。(髪の毛を掻きむしりたくなる)
響きが、こんなにまろやかに変貌するのは、ホント驚き。クリーミーに溶けている。この楽章では、テンポがかなり変わる。速いと思っていたら、急に落ちるし・・・最後のコーダで、この速さでは突入できないと急に落としたのかもしれない。2度目の「そど~しどら~そど れ~みれみどれ~れ そど~しどら~そど れ~みふぁみどれ~ど」では、音量を増やしているようだ。クリーミーに変化したとは言え、弦のゴリゴリ感は、まだ相当あり、コントラバスが、後ろで、ボンボン鳴り続けている。(耳も、慣れてきている)最終コーダに向かうところ。弦のアンサンブルはみごと。勢いよく流れて、まるで急流下りでもしているかのようだ。
猛烈に流れるところ、まったり流すところ、はたまた、滝壺に落ちたようなところがあったり、劇的な効果で大変忙しい。最後のファンファーレは、トロンボーンかな。ここは、まったり、ゆったり~和音を聞かせてくれる。綺麗なのは、ホント綺麗なのだが、結果オーライかなあ~ オチがついているような気分で良かったかも。
たっぷり時間をかけて昇華させてくれるジュリーニ盤とは、正反対のアプローチで、聞き終わった後は、相当に疲れている。しかし、このブラームスは、ヘトヘトではあるが、 ある意味、まっとうかもしれない。なんたって、ブラームスなんだから。と思いつつ。多分、この曲の最後の最後で、歓喜でもって、マゼールから開放されるからだろう。(と思う。)楽曲のおかげだと思う。きっと・・・。ほっ。(笑) ワタシ的には、かなり変わり種の演奏である。やっぱ、マゼールさん。やらかしてくれた~って感じ。


■ ブラームス 交響曲第1番
Brahms: Symphony No.1
クルト・ザンデルリンク シュターツカペレ・ドレスデン 1972年
Kurt Sanderling Sächsische Staatskapelle Dresden (Staatskapelle Dresden)

ザンデルリンクの演奏は、ちょっと古めかしい感じで、演奏も丸みを帯びている。とろとろまろやかな演奏だ。渋みまで抜けちゃった感じがするんだけど、その昔は定盤で有名だったと思う。テンポはゆったり。冒頭のティンパニーは、田舎臭くほんわか響いて出てくる。かなり柔らかい響きで、まったり。弦は楷書体で弾かれており確かめて弾いているかのよう。エッジが柔らかく音の2/3ぐらいが頂点で、最後は弱く消える。第2楽章は、さらさら、ふわふわ流れ、室内楽的に聞こえる。低弦の響きが全体をまろやかに包んでいる。オーボエの主題フレーズも美しいしクラリネットも渋い響きだ。テンポがゆったりして弦に膨らみがあり、優しくて渋みのある美音だ。線は細いがソフトで儚げ。繊細に夢を見ているかのように溶け合っている。第3楽章は、総じてゆったりしており、弦よりも木管のフレーズが浮かんでくる。弦が裏方に徹している。第4楽章は、ホルンが天国の雰囲気を醸し出すように吹かれている。確かに柔らかく響いており、雰囲気としては良いが、総じてメリハリが少ないため、実にモッタイナイ感じ。柔らかさがめだたないのだ。ホント柔らかすぎて、もったいない。最後には、テンポをあげて熱烈に演奏しているが、全体的にさらさら流れてしまっている。劇的と振って欲しいとまでは言わないが、厳しいところと甘いところと分けた方が、より一層、甘く感じただろうに。かなり残念に思う。


■ ブラームス 交響曲第1番
Brahms: Symphony No.1
イシュトヴァン・ケルテス ウィーン・フィル 1973年
Istvan Kertesz Wiener Philharmoniker (Vienna Philharmonic Orchestra)

ケルテスの演奏は、驚くほどフレッシュで瑞々しい。ブラームスで元気になりたい人は、あまりおられないとは思うが、これを聴くと元気になりそう。聴いた後に爽快さが残る。冒頭のティンパニーの連打は重々しいが、テンポは幾分速め。驚くほど爽やかな出だしでスムーズに進む。ブラームスの1番冒頭で爽やかだと書くと、うっそーと思われるかもしれないが、ホントなのだ。どうして爽やかだと感じるのか? ティンパニーは確かに重厚だ。残響を残して他の盤よりテンポが少し速いというだけかもしれない。しかし、ティンパニーをバックに奏でている弦が、さら~っ、するする~と上昇していく。他の盤だと軋んだり悲痛な感じだったり、ガシガシ言わせて昇っていくように思うが、ケルテス盤は、実に優美にエレガントに昇っていく。弦は、楷書体風だが、エッジはきつくないし、エレガントだ。ウィーン・フィルって、やっぱ弦に艶があるし、中音域のまろやかさに改めて惚れ惚れ、驚かされる。アルトの豊かな声質だ。大人の色香だ。金管も木管も、のびのび~ 成長盛りのような若さがある。活きが良いっ。ブラ1って無骨で、ゴリゴリ、ガシガシが一般的だと思っていたが、これほどフレッシュとは。全部の弦が、まるで揺りかごのように揺れている。

第2楽章は、フルートの線が少し細い。若い女性が悲しんでいるような風情だ。オーボエやクラリネットも細めだが、洗練された感じで、さらっと吹いている。優しさにあふれ、新鮮で瑞々しさを感じる。弦はビブラートたっぷりめの演奏もあるけれど、自然体で、媚びを売らず癖のある節回しもなく歌っている。ホルンが「ふぁらしど~ ら~」と歌い始めると、ヴァイオリンが華麗な高音で軽やかに乗っていく。重量感の少ないシルクの布が、ふわーっと浮きあがって光を受けているように煌めく。ヴァイオリンにはやられた。透明度が高く、最後の一音の響きが言葉にならないほど綺麗だ。
第3楽章は、舞曲風のフレーズが柔らかい。力を抜いて、わざと、てれ~っと演奏しているのかと思うほどで、ちょっと気怠さがあるが、楽章に合っている。フルートの響きと受ける弦の柔らかさは絶品。素朴でもないし、天上的でもないし。なんて言えばよいのやら。草原の春風とでも言おうか。弦のうえに木管が鳴ると、羽根が生えて浮き上がってくるような感じがする。羽毛に近い。ちょっとした風で、ふわっと飛んでしまう羽毛だ。

第4楽章は、低弦が湧き起こってくる。それを形にしたティンパニーが厳かに鳴る。弦のピチカートは、深刻すぎず、よく響く。リズミカルに展開して風が舞いおこる。弦が、きらめきを漂わせながら深々とくだっていく。ティンパニーが、迷いに踏ん切りがついたように鳴る。すかさずホルンが明瞭に鳴り出す。若い。明るめで軽やかだ。「みー れど そー れーみど そーーふぁれ~ そーーれーみーどー」このフルートのフレーズも、新鮮で朝露がしたたり落ちているなかを、朝日が昇ってきた雰囲気。なにをおいても瑞々しい限りだ。ケルテス盤の4楽章は朝の雰囲気で、夜明け時に少し雨が降っていたのだろうか。そこから朝日が昇ってきたのだろう。朝の爽やかな澄み切った空気を感じる。チェロを主体としたフレーズは、目覚めの爽快さ、少し気怠いものの、さーっ頑張るぞっと言わんばかり。希望に満ちあふれた生活の朝のヒトコマのような幸福感が漂っている。ひぇ~っ、ケルテス盤って凄い。この楽章の最初から幸福感が漂っているのだから。他の盤だと、アルペンホルンが吹かれて、一気に変わるのだが、そのような劇的な展開ではなく、無理矢理、最終コーダで、とってつけたような盛り上がりをする演奏ももあるが、いやいや、ごく自然なのだ。ところどころエッジの強いところがあるが、それが光のように感じるのだから凄い。細切れになったフレーズが続くので苦痛に聞こえる盤もあるのに、「たらららら~っ」というフレーズが、何度か続いても畳みかけてこられる圧迫感がない。ここでの主人公は弦だ。歓喜の歌とも言われているフレーズは、軽やかに爽やかに歌いあげられ、最後のみ他盤と比べると軽量級だと思うが、この楽曲を通して聞いてきたら、この爽快さに納得ができる。


■ ブラームス 交響曲第1番
Brahms: Symphony No.1
ジョージ・セル クリーヴランド管弦楽団 1967年
George Szell Cleveland Orchestra

セルの演奏は、冒頭のティンパニーが軽くて速いこと、速すぎだ。1~3音は超快速で、そこからテンポが遅くなっている。思わず耳を疑ったが明らかに変わっている。ティンパニー部分だけ何度か聴いたが、誰が聴いても間違いようがない。このティンパニー3拍子数えて叩いている。どうしたのだろう。テンポを間違えたのだろうか。扉をたたいているという風ではあるが、薄めの木の扉のようで重々しさが感じられない。いささか無味乾燥風に聞こえるが、楷書体でスマート。良い意味で、余計な気持ちや迷いは感じられない。クリーヴランド管は、室内楽的とも言えるアンサンブルのみごとさが命。難渋な1番の1楽章なのだが、各パートがよく聞こえており混濁していない。ティンパニーを伴っての主題は、フレーズの語尾が、すっぱりして力強い。木管のすーっと通る声が良い。
第2楽章は、透き通るような静謐さと清潔さがある。楚々した少女が草原で花を摘んでいるような、ほのぼのとした雰囲気があり、愛の賛歌的には歌われていない。没入するタイプではないので自然にさらりと聴ける。硬さや格調があり正統派っぽいが、各声部が見通しよく聴けるので、単純なストーリーだが懐かしく嬉しい気持ちにさせてくれる。第3楽章は、テンポは速め。舞曲風のフレーズは、涼やかに展開する。第4楽章は、ティンパニーの連打は豪快だが大仰な演奏ではなく、シンプル・イズ・ベストという演奏だ。コントラバスのピチカートは、よく聞こえる。テンポは機敏に変えており、唸るほど小気味よいものだ。弦は小気味よく小股が切れ上がっている。全体的に速い演奏なので、熱が籠もってくる。テンポの良さと切れで、自分でヒートアップしていくらしい。


■ ブラームス 交響曲第1番
Brahms: Symphony No.1
ジョン・バルビローリ ウィーン・フィル 1966年
John Barbirolli Wiener Philharmoniker (Vienna Philharmonic Orchestra)

バルビローリの演奏は、さすがに古びた感じで、浪漫派、懐古調に浸りたいときには良いと思う。人によっては冗長すぎるかもしれない。冒頭のテンポはゆったりめ。ティンパニーの連打は、力強くインテンポで進む。弦の高音域の響きが、少しヒスっているような気がするが、さほど気にならない。弦のピチカートは穏やかだ。この年代のブラームスって、落ち着いて聴けるような気がする。人肌のぬくもりがある。ウィーン・フィルの弦は、中音域のアルトのように、少し太めの甘い声として聞こえる。オーボエの響きは透き通るように淡い音色で響く。最後の金管と弦、ティンパニー「んちゃちゃ んちゃちゃ・・・」と畳みかけるところは、テンポを揺らさず、どっしり弦が鋭い。中音域に暖かみと重厚感ある演奏だ。
第2楽章は、大いに歌ってて白眉になるだろうか。フルートの旋律は儚げ。奥ゆかしく前面に出てこない。「ふぁーどそ~っ」と弦が溜息をつきながら呼応している。オーボエもクラリネットも優しい音色だ。弦は、ビブラートたっぷりっ。ホルンも余韻と楽しみつつ聴くことができる。ふふふ~。これは絶品だねえ。ホルンが「ふぁらしど~ ら~」と歌い始めると、ヴァイオリンが華麗な節回しで演奏する。1音めを長く~ あと短く・・・ この節回しは、時代がかってはいるが、レースが風に吹かれて巻き上がったような。髪の毛が、くりくりにカールされたような感覚だ。時代錯誤だと思いつつ、結構、これに、うっとりしてしまう。3楽章の舞曲風のフレーズは柔らかく、すこぶる美形ではないが、優しい挙措の女性という感じを与えている。テンポは遅いが、幾分跳ねるようにしながらも、弦の和音の余韻を楽しみ演奏している。 弦を大きく弾かせ、テンポアップして盛り上がって喜びの賛歌を歌う。かなり浪漫派的演奏で濃密。だが、ひとりよがりでもなく強引でもなく、素朴に歌いあげていくところに好感が持てる。


■ ブラームス 交響曲第1番
Brahms: Symphony No.1
ブルーノ・ワルター コロンビア交響楽団 1959年
Bruno Walter
Columbia Symphony Orchestra

時代に応じてリマスタリングされていた昔の定盤。人情味溢れるというか、まろやかな演奏でしんみりしちゃう。テンポはゆったりしているが、力強く太くインテンポで進む。弦も、ゆったり、ふくよかで静謐さを感じさせる。ティンパニーのロール(連打)は雄大で、最初の印象は落ち着いた演奏だということ。何事にも淡々と冷静に対処しているという雰囲気がある。金管も1959年の録音とは思えないほど、たっぷり響く。バランスが良いのだろう。テンポを落として、ためをつくって次のフレーズに移動し、ニュアンスが豊かだ。
第2楽章は、優しいけれど悲しく、厳しいところがある。なんだか複雑な要素が入っている。木管は素っ気ないほど速いところがあり、すわーと風が吹いて、単なる牧歌的な雰囲気ではない。秋風が吹いているような涼やかさと共に物悲しい。ジュリーニ盤のような愛情にあふれたカンタービレ調ではないが、回顧調での雰囲気を感じる。線は細いがビブラートがかかり、少しお年を召した枯れた口調で、昔は○○だったんだよと語られているような気がする。ワルター最晩年の録音だからだろうか。思わず一歩さがり、頭をさげて拝聴させていただく気持ちになった。第3楽章は、軽快で、クラリネットが、ららら~ ららら~ と歌っている。アンサンブルが、ちょっと危なっかしいところもがあるが、草原で花が咲いているようなイメージ。

第4楽章は、低弦と共にティンパニーが立ち上がってくるが、物悲しい。ピチカートより、たら ららら~という弦のうめきのような音が印象に残る。迷いなのかなあ。ティンパニーのロールの後のアルペンホルンは、太い。晴れやかさに欠けている。アナログ時代の良さを、ふかぶかーっと感じる。味わい深いとしか言葉が見つからない。身近な人肌の暖かさ。それがすぐそばに感じられる喜び、そんなことを気づかせてくれる演奏だ。



ブラームス 交響曲第1番
1959年 ワルター コロンビア交響楽団 SC ★★★
1967年 バルビローリ ウィーン・フィル EMI ★★★
1967年 セル クリーヴランド管弦楽団 SC ★★
1973年 ケルテス ウィーン・フィル Dec ★★★★
1973年 ザンデルリンク シュターツカペレ・ドレスデン De ★★
1975年 マゼール クリーヴランド管弦楽団 Dec ★★★
1975年 ベーム ウィーン・フィル G
1977年 カラヤン ベルリン・フィル G
1979年 ショルティ シカゴ交響楽団 Dec
1981年 ジュリーニ ロサンジェルス・フィル G ★★★★★
1981年 バーンスタイン ウィーン・フィル G ★★
1986年 スウィトナー シュターツカペレ・ベルリン DS ★★★★
1987年 カラヤン ベルリン・フィル G ★★★★
1987年 シャイー コンセルトヘボウ Dec ★★★★
1987年 チェリビダッケ ミュンヘン・フィル EMI
1987年 サヴァリッシュ NHK交響楽団
1989年 ムーティ フィラデルフィア管弦楽団 Ph ★★★★★
1990年 アバド ベルリン・フィル G
1991年 ジュリーニ ウィーン・フィル G
1991年 サヴァリッシュ ロンドン・フィル EMI ★★★
1994年 ハイティンク ボストン交響楽団 Ph ★★★
1996年 ヴァント 北ドイツ放送交響楽団 R ★★★★
2012年 シャイー ゲヴァントハウス管 Dec
★印のないところは未聴です。


 

YouTubeでの視聴

ブラームス 交響曲第1番
Brahms  Sinfonie Nr. 1 mit Günter Wand (1997) | NDR Elbphilharmonie Orchester
チャンネル:NDR Elbphilharmonie Orchester ギュンター・ヴァント
https://www.youtube.com/watch?v=yGJEoUdEtiM


Brahms: Symphony No.1 in C minor, Op.68
フィラデルフィア管弦楽団 - トピック   ムーティ フィラデルフィア管弦楽団
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第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=WdyK27T-r9A
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=y08QRNTyTiE
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=NVvnK7QdWw0
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=KLVXB52CFN8


Brahms: Symphony No.1 in C minor, Op.68
Concertgebouworkest シャイー コンセルトヘボウ
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第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=seb6kB0CcBM
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=WfLeFwZxtYk
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=BfhIqkRk8Ac
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=_o2eU8qc6ns


Brahms: Symphony No.1 in C minor, Op.68
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 - トピック カラヤン 87年
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第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=MIvEyGm7AKc
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=Zp4MQy9qgik
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=jdwqATcP1Ec
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=UiK69cGAwks


Brahms: Symphony No.1 in C minor, Op.68
シュターツカペレ・ベルリン - トピック スウィトナー
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第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=zRJd4bXn-qE
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=6qe4e9JQDI8
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=Z9KuWINggYk
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=r3e8b_pKHss


Brahms: Symphony No.1 in C minor, Op.68
LA Phil Provided to YouTube by Universal Music Group ジュリーニ ロス・フィル
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=XYuaXniMpZw
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=XLMzFT-Fz0c
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=6EuByR0vV9Y
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=-0RNPqMCsyY


Brahms: Symphony No.1 In C Minor, Op.68
クリーヴランド管弦楽団 - トピック  セル クリーヴランド管弦楽団
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=zKQzjf70oqs
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=gyWWROopsxU
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=XHY4FIBxYPc
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=nnbPxjeVihk


Brahms: Symphony No.1 In C Minor, Op.68
ジョン・バルビローリ - トピック
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第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=rfYBuc14_RI
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=RDkjhR7I0tE
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=jMAdIhGZ6ok
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=prxNSksaa9c


Brahms: Symphony No.1 In C Minor, Op.68
コロンビア交響楽団 - トピック   ワルター コロンビア響
Provided to YouTube by Believe SAS
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=BLm6S5d6NE0
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=5_Fk6grt8fc
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=Epc1CNU0taU
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=v6qER_ScUz8


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