ブラームス 交響曲第4番 Brahms: Symphony No.4

 ブラームス 交響曲第4番
Brahms: Symphony No.4
ギュンター・ヴァント 北ドイツ放送交響楽団 1997年
Günter Wand Hamburg North German Radio Symphony Orchestra(NDR Sinfonieorchester Hamburg)

ヴァントの演奏は、北の大地で生きる人の苦悩なのだろうか、恐ろしく厳しく硬く、まるで警告を発せられているかのような気分にさせられるものだ。80歳を過ぎて、巨匠ともてはやされた時代の全集の演奏で、渋く硬めのブラームスとなっている。素っ気ないほどの味で、弦のフレージングが、硬直し直線的だ。斧で樹木を伐採していくような味気なく、カチカチのボーイングである。余分なものが削ぎ落とされ、生々しい音である。聴き手の好みで好き嫌いが分かれるかもしれない。80歳を超えての演奏なので、ワタシには、まだまだ理解できない範疇なのかも。ゴツゴツとした寒々しいブラームス。ロマンティックな芳醇な香りとは縁のない、真逆のアプローチだ。枯山水の石庭を見ているような感じというか、ノミをふるった木製のゴツゴツした彫刻というか。迸るような感情は抑えられ、表情が険しい。無心になって座禅を組む世界だ。
第2楽章は、クールだが美しい。淡々とした演奏のなかに、ストイックさが見いだされ、好ましく感じられる。凍てついたような大地から解放され、ほっと薄光が射し込んでくるような、希望が見いだされる感じがする。歌わないが、高音域の弦が美しい。清楚で、ストイックな宗教感覚的な響きがある。キビキビした弦の動きが一糸乱れず歯切れよく整い、鋭く刻んでいく。

第3楽章は、勢いのあるテンポで進む。ティンパニーが恐ろしく響き「ごごごーっっ。どどどど~っと」鳴る。まるで滝壷で、恐ろしい高さから打たれているような気分。こりゃ~ 空恐ろしい。弦は歌っているし、鳥が鳴いて抜けるような青空を見上げているかのような気分で、トライアングルが可愛く響いているのだが、そこにティンパニーが絡むと。「ごごごごぉ~ どろどろどろ~」
思わずドンビキ、晴天の霹靂状態。神の怒り、鉄拳が落ちてくるかのよう。天国と地獄のような怖い世界である。旧約聖書の創世記のような雰囲気で~ 戦慄する。優美な演奏が多々あるというのに、戒律を守らないと、こうなるぞと言わんばかりの演奏を聴いて、なにが楽しいやら。
第4楽章は、ティンパニーの硬い響きが突き刺さり、トラウマ状態に陥る。金管の咆吼が神の警告のように鳴り響き、弦が、低く深く鋭く、えぐり出してくる。つきつけてくる鋭い攻めでタジタジ。ここまで怖い演奏って、他にあったかしらん。今までに聴いてきた4番が、あまりにも芳醇すぎたのだろうか、ヴァントの演奏を聴くには、修行に耐えなければならない。精神的に余裕がなく、一歩足を踏みはずしたら滑落してしまいそうな雰囲気だ。ティンパニーの鋭い打ち込みと、弦のエッジの鋭い響き。これにつきる。そら恐ろしいブラームスで、芳醇な香りの高いブランディーのような響きは、ここでは求められていない。北の大地の凍えるような響きと頑なな精神性。コツコツと大地を耕し、マジメに生きろ。さすれば~救われん。と言わんばかり。怒りを込めて、戒律を厳しく護りなさいっと言われているような演奏だ。ヤワで楽天家のワタシは、率直に言って逃げ出したい。そう思った。


■ ブラームス 交響曲第4番
Brahms: Symphony No.4
ベルナルト・ハイティンク ボストン交響楽団 1992年
Bernard Haitink Boston Symphony Orchestra

ハイティンクの演奏は、渋くて硬めだが安定感がある。穏やかだが熱く、歯切れも良い。堅牢さもありながら木質的であり、妙にバランスの良さに惹かれる演奏である。ハイティンクさんの振ったブラームスの交響曲全集は、コンセルトベボウを振った1970年代の録音と、このボストン響の1990年代の録音、ロンドン響とのライブ盤2003年~4年があったと思う。確実な全集モノだけで3種類だ。他にもあるかもしれない。日本では、何故か不人気なんだけどワタシ的には好き。それに、これだけ録音させてもらえるって、やっぱ人気があるんだと思う。ブラームスは、このボストン響しか所有していないが、ひとことで言うと安定・安心・安全。派手さは皆無で艶っぽくもない。ひどく地味だが、安定の演奏なので平常心で気軽に聴ける感覚がある。 平凡だけど大事なこと。思わせぶり感がなく、淡々とこなしている。弦のピチカートと弦の膨らみのある旋律が、みごとにブレンドされ、ノビもあるし、さびもあって、やっぱ見事にまとめあげている。ティンパニーの叩き方が、気合い充分の柔らかめの音で、硬めと柔らかめを綺麗に使い分けていると妙に感心したりする。楽章の最後は、結構、熱いんだよねえ。トランペットが入ってきて高揚感たっぷり。このトランペットの裏が、メチャ快感に聞こえてくる。1楽章だけ聴いただけで満足感が高い。

第2楽章は、素っ気ないように聞こえるけど、沈み込むほどではなく、穏やかなテンポだで、木管の繰り返す渋い音色が魅力的。渋すぎだな~と思っていたら、木管と弦が歌い始めて、高揚してくる。穏やかで渋い口調に、ほろり~。カラヤンのように色艶は良くないけど、渋みのある中間色のトーンが美しい。じっくりと聴き手が焦らず聴かないと、いっけん地味だと思っちゃうかも。腐葉土たっぷり感の土質のよさ、そして、木目の美しさを楽しむことができるように思う。

第3楽章は、ダイナミックな出だしで、力強くテンポが速め。推進力があり、どっしりしながらも快活だ。全体的に硬めだが、この硬質な感じと弦の流れるフレーズがマッチしており、低弦が、どどど~っと鳴っている間に、木管の透き通る音色が重なってきて、爽快さを与える。拍の感覚は鋭く硬い。弦には、しなやかさが少ない。妙に硬めのスケルツォ。まろやかさ、しなやかさに欠けているかもしれないが、無骨だけではない構成美を感じる。また、フルートを初めとした木管の通る音が無ければ、無愛想に感じるだろう。木管に救われた感がする。堅牢で、木質感の堅さ、重々しさを感じつつ熱さを帯びてくるところが快感になるかもしれない。
第4楽章は、やたらめったら遅く、重量では迫ってこない。語尾を短めに切り上げ運動機能性が高い演奏になっている。さっぱりとしたリズム感だ。第3楽章の終わりも、そうだったけど硬くて木質的だ。だが、低弦「どふぁ~ど しれ~ どふぁ~みれ~」と鳴ってから以降は、こってり味に変わる。硬質でありながら木質感も感じる不思議なバランス感覚が妙に気に入っている。


■ ブラームス 交響曲第4番
Brahms: Symphony No.4
リッカルド・シャイー コンセルトヘボウ 1991年
Riccardo Chailly Royal Concertgebouw Orchestra

シャイーの旧録にあたるコンセルトヘボウとの演奏は、全体的な響きとしては重厚さが薄めだが、各声部が綺麗に浮かび上がってくるもので魅力的だ。冒頭フレーズで、演奏されているオケの音質が解るっていっても過言ではない。シルキーとは言えないまでも、柔らかい響きで、ふわっとしている。凍り付いた北ドイツ風のブラームスとは異なり、イタリア人指揮者ならではとも言える明るく歌心ある演奏。木管の響きが、綺麗にすーっと流れ、低弦の響きも適度な残響で響く。もっさりした重めの響きではない。かなり見通しの良い演奏だ。テンポはやや遅め。高音域にキレがあり響きが上に向かって伸びていく。流麗で、和音の響きは、 縦にぐぐ~っと広がるため立体的に響く。ブラームスの重めの複層的な構造が、透けてみえるかのようで聴いてて楽しい。ウィーン・フィルのように艶のある美音ではないが、地味ながら、味わい深く、歌心で聴かせ上手。新鮮で面白く感じる。

第2楽章は、奥ゆかしいホルン、明るい元気な木管、特にクラリネットの響きは全てを包むかのようだ。チェロの奏でるフレーズから、天上的に響き、幸福感に包まれていく。コラールは、かなり美しい響きとなっている。フルートとホルンの柔らかい響きにとろけちゃいそう。低弦の響きが、じみ~っに響いてくると、心が揺さぶられ涙ぐんでしまいそう。ブラームスの4番の2楽章は、うるうるしちゃいますねえ。ホント良い曲だ。

第3楽章は、色彩豊かにリズミカルに演奏される。特に鮮やかな金管の咆吼と、フルートをはじめとした木管群のチャーミングな音質が彩りを添えており、明るい光が差し込んでいるかのようだ。力点が移動してて、沈むティンパニーと低弦の音と、華やかに開放感あふれる弦の弾んだ音が、乖離しているが、まるで宙に舞うかのように感じられる。この楽章では重心がかなり下にあり、低弦のゴツい響きが充満してくる。ティンパニーと低弦には、この楽章で頑張ってもらうぜ~って感じで、パワフルに活気ある響きとなっている。第4楽章は、少し中音域の響きが薄いかもしれないが、音の層の下では蠢くかのような波打つ感じが演出される。ヴァイオリンの揺らめきと中音域の響きが薄いのだが、とろけるような響きに仕上がっている。各声部が綺麗に浮かび上がり、それぞれが糸のように、あがりくだりしている。木管の響きは、常に、その存在を主張しており、弱音になるところでも、とても美しい。見通しの良い整理されたブラームスで、各声部にこだわって聴かせている感じがする。細部に、こだわりった演奏だと思う。


■ ブラームス 交響曲第4番
Brahms: Symphony No.4
クラウディオ・アバド ベルリン・フィル 1991年
Claudio Abbado Berliner Philharmoniker(Berlin Philharmonic Orchestra)

アバドの演奏は、絹糸のような軽さと、暖かさや艶やかさがある。ふ~っとした軽めの空気感を感じさせており、神秘のベールに包まれたかのよう。柔らかさと、しなやかさ~ ふんわりとした音の広がりがある。カラヤンのベルリン・フィル時代とは、全く異なる柔らかな女性的な雰囲気を持っている。硬めの音で凸凹した演奏ではなく、繊細で上品で軽やか。そのくせ重厚さを持ち合わせた演奏で、うっとりしてしまった。エレガントな演奏なのだ。ブラームスって、無愛想で古風で、無骨でゴツゴツ感が前面に出てくる演奏だと思い込んでいたが、まろやかで球体のような響きと奥行き感、秋の芳醇な香りのするブラームスである。決して熱くならず、穏やかで品の良さが光る演奏だ。第2楽章は、品があり格調高く演奏される。繊細で、美しく縁取りされて、他の演奏とは、かなり異なったアプローチだ。腰の細いコルセットでしめあげた美女が、庭園で佇んでいるかのような儚げな雰囲気を持っている。神秘的な響きが寄り合わせ合って、フレーズを構成し、ピチカートで演奏されるところは絶品だ。独自の繊細な世界だ。弱音にして囁きのように呟きのように、音が出てくる。高音域のヴァイオリンがメインとなってて、低弦のゴツゴツした響きは、すっかり抜け落ちて、取っ払われている。天上的な世界が広がっており、まるで教会のドームを見上げているかのような幸福感に襲われ、そしてついには飛翔感に至っていく。そんな感じ。音のハーモニーが、これほど美しい響きとして感じられるとは~と、驚かされる。

第3楽章は、すこぶる優美だ。以前、ハイティンクの演奏を聴いたが、野武士のような硬めの音づくりで、紋切り調に近い演奏だったが、アバドの演奏は、古風でエレガント、昔ながらの優美さで、高貴な響きが流れてくる。清々しい独自の空気感があり、気品があって、明るい音色と適度な重量感、ゆったりしたテンポを維持している。終始、アルカイックスマイルを浮かべた絵画的な雰囲気がある。特に、高音弦の綺麗さが特筆されるだろうか。第4楽章においても、あくまでも優美さを失わない。毅然としているというか、気丈夫な姿で、渦巻いていくところがある。弦の音が、特に気丈夫な姿で立ったまま。変に、揺れて渦巻かない。ガッシリ堅牢なブラームスとな印象を異にして、これほど優美な演奏も珍しい。優美すぎて深みが足らないとか、渋味が抜けきったという嫌いはあるが、これはこれで独特のイメージを描いている。


■ ブラームス 交響曲第4番
Brahms: Symphony No.4
ヴォルフガング・サヴァリッシュ ロンドン・フィル 1989年
Wolfgang Sawallisch London Philharmonic Orchestra

サヴァリッシュの演奏は、ラストで痛い。ブラームスの4番で、傷だらけのローラ風に辛くなっちゃった演奏って、他になかったような気がする。冒頭は、慈しむように出てくる。 1音目が少し長めで、「みど~」っと続き、すかさず「らふぁ~っ」と続く。「みみ~」で一段深くなり、「れれ~」で、また一段と深くなる。大きなうねりを作ろうとしている雰囲気がある。弦主体のフレージングは慎ましやか。 テンポは微妙にいじっている。録音状態がイマイチでコクが無い。薄っぺく感じるし高い気がする。高音域の弦にが擦れ気味で、低弦が充分に入ってこないためバランスが腰高のように思う。甲高い声で耳に優しくない。 デジタル録音なのだが、
バランスが悪く損をしている。テンション高く火がついたように熱いが、弦が悲痛な叫びをあげ、髪の毛を後ろから引っ張られているかのようで悲痛だ。第2楽章も同じ傾向が続く。まろやかさを期待するし、テンポも優しく柔らかい。後半のコラールのように歌われるところは絶品だと思う。弦の響きが、多層的で暖かく、深い息づかいで歌う。
第3楽章は、メリハリをつけて、歯切れ良く出てくる。1音目のアクセントは強い。唾が飛ぶような迫力がある。がっしりとした造りではない。ケンケン パッという昔、地面に絵を描いて、女の子の遊びがあるが、それに似た感じで弾む。もう少し、ためて欲しいが、テンポよく進む。ホルンの響きで場面転換するが、意外とさっぱり~ へ? 淡泊だ。出汁の効いていない、うすーい味噌汁のようで、がっかり。第4楽章は、カッと気合いの入った演奏だが、ぶつ切り状態のフレージングだ。重厚な響きとコク、ブレンドされた響きが楽しいところだが、弦のキシキシ、カシカシした動きが目立つ。熱い演奏でドラマティックだが、ティンパニーなんて、テンション高すぎて~ 金管だって熱すぎ~  せっかちに畳みかけて、ガッ!と切ってくる弦~ テンションの高さは嬉しいが、なんとも痛ましい演奏だ。


■ ブラームス 交響曲第4番
Brahms: Symphony No.4
リッカルド・ムーティ フィラデルフィア管弦楽団 1989年
Riccardo Muti Philadelphia Orchestra

ムーティのブラームスは色っぽい。少しくぐもった雰囲気で出てくる。よく聴いてみると、第1ヴァイオリンの旋律だけが大きく聞こえる盤が多いが、ムーティの演奏は、中間音域の弦の音が波打っている。いつも聴いている第1ヴァイオリン主体のフレーズではないように思う。情報量が多いような気がする。雰囲気的には、幻想的な高原の森林帯を歩いているような爽快さと共に、まどろみ感があって若々しい。かなり艶っぽく色めづかいのブラームスって感じがするが、これが結構良い感じ。色彩感覚が豊かで、凍てつく大地とは縁が無い。フィラデルフィア管の色彩能力との相乗効果がバッチリの演奏だ。ブラームスの楽曲の概念をとっぱらってくれるイタリア人指揮者の代表格って感じがする。木管の柔らかい、艶のある華やかな音色が、弦の音色を一段と鮮やかに、彩度は高いが嫌みにならない。渋みも苦みも、地味でもない。でも、デレっとした感じには緩まない手綱さばきだ。ティンパニーが入ってくるところでも、決してコワモテに叩かず、むしろ弱い。

第2楽章は、弱々しいほどに奏でられている。オケの持つ豊かな色彩感覚には、脱帽しちゃうが~ 美音で浮遊感ありすぎて上滑りしちゃいそうである。羽毛布団に乗っかっている、羽衣をまとった天女風じゃんと思うぐらい。低弦の響きは、しっかり刻まれて入っているのだが、木管や高音域のフレーズに丸みが帯びすぎているかもしれない。ティンパニーが入ってきて、「タタタ タタタ タタタ タ~」とリズムを刻むところも柔らかい。当然、そのあとの、弦の和音フレーズもメッチャ柔らかい。芳香剤のようなブラームスだ。幻影を追いかけるような、まどろみ感ある雰囲気に充ち満ちて、とろけちゃう。

第3楽章は、優美。アバド盤と双璧だが、もっと柔らかで茫洋としてしまう。フルートの音色を聴いていると波打ち際で、波がさわ~っと打ち上げてくるようなソフトな雰囲気がする。トライアングルの音色なんぞ、天使の羽根のように、チロチロチロ~っ まるで、ピーターパンのティンカーベル風。ティンパニーと弦、木管の掛け合いの場面は、じゃれあっているかのような雰囲気。メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」のような雰囲気が漂って、ぶっ飛んじゃう感じがする。そうなのだ、おとぎ話。夢物語。幻想。夢幻の世界へと誘われていると思えば、これほど、マッチした演奏もないんじゃないだろうか。全く聴いたことがないようなアプローチなので、首を傾げつつにやけてしまうほどの演奏だ。ムーティー盤を聞きた後、ヴァント盤を聴くと奈落の底に突き落とされちゃうだろう。第4楽章は、セレナーデのような耽美的な世界だ。色香に包まれ、弦楽セレナーデかと思いつつも、誰かさんの演奏のように、思わせぶりっこの嫌らしさには至らない。瑞々しさ、ヤサオトコの色香にハマル感じ。ホルンの柔らかい音色といい、ホント、これほど女性っぽくヤワなブラームスは聴いたことがない。それにしてもイタリア人の振るブラームスは、妙に色っぽい。今度は、アバド、ムーティ、ジュリーニ、3人比べて聴いてみても面白いかもしれない。


■ ブラームス 交響曲第4番
Brahms: Symphony No.4
ヘルベルト・フォン・カラヤン ベルリン・フィル 1988年
Herbert von Karajan Berliner Philharmoniker(Berlin Philharmonic Orchestra)

カラヤン1980年代全集の演奏である。1988年10月録音だからカラヤン最晩年、艶やかで華麗で堂々とした響き、どっしりとした低弦、流れるようなフレージング。弦は、大きな弓なりの曲線を描き、フレーズとフレーズを繋ぐ、ふわっとした受け渡し、カシカシと低弦が鳴ったあとの美しさ。息づかいの細やかさ、活きの良さ、テンポを揺らして速めに進むシャキシャキ感。ブラームスには、ちょっと艶っぽすぎる嫌いがあるが、ヴァイオリンのフレーズに惚れ惚れとしてしまった。弦が、大きなうねりとなり、ガッシリとねじ込まれ、太い注連縄のように編み込まれていく。

第2楽章は、ホルンの響きから入っていく。響きが柔らかい。木管の響きはソフトで、天上的に響いている。宗教的とまではいかないんだけど、弦のピチカートは良く響き、ドームのなかに佇んでいるようだ。管が鐘の音を模したような動機吹き、これはホ音を中心とするフリギア旋法(en)だそうである。後半にコラールのように歌われるところは絶品だと思う。厳粛な感じを与える。
第3楽章は、ドシンと来るかと思っていたのだが、意外と軽めに推進していく。ティンパニーはさほど強くなく、ヴァイオリンと木管が爽やかさを運んでくる。ごぉ~っと鳴る低音もあるが、高音域の響きの方が優位で、すっと通っていく。拍裏の響きの心地よさが伝わり、フルートとホルンの「れぇ~ど しらそ~ら れしらそみふぁ~ れ み ふぁ~」「そぉ~ ふぁみふぁそ しぃ~ らそふぁそ し~らそらし み~れ・・・」穏やかで綺麗な楽章となっている。ショルティの演奏とは異なり、柔らかく、木管やホルンを主体とした響きを主体としている。ラストに向かって、低弦に足を移し、ドンドンと硬めの響きを打ってくるが、最終楽章になだれこむ勢いに繋がっていく。
第4楽章は、重厚な響きのシャコンヌで、渦巻く深淵を覗くような気分にさせられるほど、テンポが渦巻く。他盤では、この楽章においてテンポが揺れる感じは受けないのだが、このカラヤンの演奏は、ものすごいうねりを感じる。まるで乳海攪拌されている感じ。
ホルンの合いの手がだろうか、中音域の低弦だろうか、弦のノビ感がすごい。低弦だけ、わざと伸びている感じがするんだけど、気のせいだろうか。いっきにテンポが落ちて隙間が空いてしまう、ブラックホール的なところが出来るが、そこでは虚ろな表情を見せる。その後、ホルンの響きを起点として、弦が立ち上がり、また凜とした表情に戻ってくる。う~ん匠の技というか、芸が細かいというか、なかなかに新鮮な演奏だった。


■ ブラームス 交響曲第4番
Brahms: Symphony No.4
レナード・バーンスタイン ウィーン・フィル 1981年
Leonard Bernstein Wiener Philharmoniker (Vienna Philharmonic Orchestra)

このバーンスタイン盤は、ライブだが完成度は高い。勢いもありシャープで、品良く、まろやかな芳醇な響きがする。柔らかい質感のあるブラームスで、さすがにウィーン・フィルの演奏だと思った。1990年代後半、ヴァントと北ドイツ放送響の演奏で、凍てついたツンドラの光景の広がるようなブラームスを聴いて、ぞーっとしたことがあるが、それとは真逆。シルキーな音色で奏でられると、かなり舞いあがってしまう。ブラームスの4番は、この音色でなければという方も多いかも。美しくも悲しいという独特な雰囲気があり、特に、木管と弦のバランスが絶妙だ。高音域の澄んだ音と、甘いチェロが、文字通り溶け合って美しさを倍増させる。思いのほか、ねっとりしたフレージングでもなく、主旋律と副旋律のバランスも絶妙だ。ティンパニーは、硬めにバンバンっと叩かれており、インパクトが大きい。展開部では3連符が畳みかけ、エネルギーを貯めてくるが、タメを十分にとって、ティンパニーと金管を鋭く吹かせて壮大に終わる。
第2楽章は、ホルンのまろやかな残響でシアワセに。テンポはゆったり~ うっとり~。深めの息づかいで、秋の終わりになって、寂しさを感じながらノスタルジックな光景となる。郷愁を胸に秘め切々とした歌い方で、後ろ髪を引かれるよう。フレージングのゆったり感は、執拗に感じない。情緒たっぷり系だが、さっぱりしている。濃密、濃厚というよりは、息づかいは深いものの、後に残るような、ねちこさはない。
第3楽章は、メリハリのある演奏で、速い。金管は短くシャープで、勢いを持って吹かれている。弦のフレーズになると、ゆったり、羽根がついたように軽やか。無骨なブラームスのイメージは、ここでも軽やかで涼やか。ティンパニーのロール部分や弦の入る直前など、ところどころに微妙な間合いがある。ホルンは、ふわっと優美に鳴るが、ティンパニーが入るところは、ゴツく重厚な響きをしている。ぱぁーっと、木管が鳴っているところ、トライアングルの入ってくるところ、軽やかな音の広がりがある。質感を場面で変えてくる演奏となっている。質感の異なる音との呼応は、とっても楽しい。山の向こうにエコーで響いている感じで、とても、気持ちが明るく、晴れやかとなる。金管の明るい響きが開放的。スポーツを楽しんでいるかのような愉悦性がある。
第4楽章は、まろやかなホルンと、シャープなラインを描く木管、また、まろやかな弦に、クッキリとした木管のラインが入ってくると、いっそう鮮やかに音が感じられる。これは、う~ん、惚れ惚れ。バロックのような通奏低音の響きのなかで、変奏曲が奏でられるという手法が面白い。首筋がすーっとした美女の後ろ姿のようだ。キリっとした容姿、整った響き。うふふ。美しいコラールは、嬉しい耳のご馳走だ。総体的に、かなりバランスの良い優美な演奏で、魅力的な音で奏でられている。深みが感じられ、慈愛に満ちたもの。オケがやっぱり、超ウマなのだ。これでライブ盤だったのかと、後になって再確認、すごっ!これはお見事でした。


■ ブラームス 交響曲第4番
Brahms: Symphony No.4
クルト・ザンデルリンク シュターツカペレ・ドレスデン 1972年
Kurt Sanderling Sächsische Staatskapelle Dresden(Staatskapelle Dresden)

ザンデルリンクの演奏は、渋いブラームスの代名詞的な存在だ。CDは輸入盤を購入したが、昔は、ブラームスの肖像画がジャケットのデザインで、日本ではDENON(日本コロムビア)から発売されていたように思う。評論家さんの覚えめでたく、ありがたく、そのまま受け入れて拝聴していた。いぶし銀という誉れ高いカペレの音色だと、聴いていた。
今では、弦の音に色艶のある演奏の方が好みになっており、若い頃の方が滋味好みだった。今更ながらに苦笑気味。好みは年齢と共に変わるし、音楽評論家さんたちの受け売り、思い込みで聴いていたなあ。今聴くと、乾いた、厚みが少し足らない感じがするが、音の余韻、木管の柔らかい響きは好ましい。おじいちゃん風の渋みのある枯れた味わい。相当に滋味なのだ。単に素朴とは違ってて、穏やかに心の底が安定している。自然すぎて気がつかない間に、音と時間が流れていく。聴いているのか、聴いていないのか、わからないぐらいに、引き込まれているというか、(←矛盾した表現)特に、なにがあるわけでもないが~ しみじみ~。
第2楽章は、これまた淡々と流れていく。自然すぎて怖いぐらい。すーっと入って出て行く弦の響きが空気のよう。通り過ぎていくのみである。音の流れが、不思議な空間を醸し出している。特に、低弦の響きが相まって来るシーンに入ってくると、ますます空気の層が厚みを増してきて、 ぐぐ~っと圧がかかり静かに高揚する。で、とーっても自然な、ナチュラルな呼吸ができて、とってもシアワセな気持ちになる。この2楽章は、シアワセ感が満喫できる楽章だ。

第3楽章は、ゆったりとしたテンポというより、おっとりした感じがする。活き活きとした感じがあれば、申し分がないが、重量感があり、喫水線が深く推進力よりも少し沈んだ感じ。音に艶が少ないので、幾重にも深い織り込んだ襞があり、微妙に揺れて、その重なりが楽しいのかも、人によっては、暑苦しいと感じるかも。音の響きとしては乾いた渋み。
第4楽章は、渋み、ここに極まりという音である。木管の響きが高く通っていくが、苦みのある渋さとは乖離している。歌う気持ちは少なく、夢のような世界は広がらない。田舎の風景のようなフルートが、懐かしい風を運ぶ。穏やかさと素朴さ、心の翳りを感じさせつつも、自然に微笑みが浮かぶ。至らぬワタシが言うのも変だが、なんだか、達観した世界観だな~と思う。真っ白ではない、白すぎない漆喰色というか。生成り色というか、 アイボリー色系の音がする。布で例えるとオーガニックコットン100%というか、幾分ざらついた木綿の風合いを持った演奏だと思う。ごくごく自然だが、妙に懐かしい演奏である。


ブラームス 交響曲第4番
1959年 ワルター コロンビア交響楽団 SC
1966年 バルビローリ ウィーン・フィル EMI
1972年 ケルテス ウィーン・フィル Dec
1972年 ザンデルリンク シュターツカペレ・ドレスデン De ★★★★
1975年 ベーム ウィーン・フィル G
1976年 マゼール クリーヴランド管弦楽団 scribendum
1978年 カラヤン ベルリン・フィル G
1978年 ショルティ シカゴ交響楽団 Dec
1980年 C・クライバー ウィーン・フィル G
1981年 バーンスタイン ウィーン・フィル G ★★★★★
1985年 チェリビダッケ ミュンヘン・フィル EMI
1986年 スウィトナー シュターツカペレ・ベルリン DS
1987年 ドホナーニ クリーヴランド管弦楽団 TELDEC
1988年 カラヤン ベルリン・フィル G ★★★
1989年 C・デイヴィス バイエルン放送交響楽団 R
1989年 ジュリーニ ウィーン・フィル G
1989年 ムーティ フィラデルフィア管弦楽団 Ph ★★★★
1989年 サヴァリッシュ ロンドン・フィル EMI ★★
1991年 アバド ベルリン・フィル G ★★★★
1991年 シャイー コンセルトヘボウ Dec ★★★
1992年 ハイティンク ボストン交響楽団 Ph ★★★★★
1997年 ヴァント 北ドイツ放送響 R ★★★★
2000年 ハーティング ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン Virgin
2013年 シャイー ゲヴァントハウス管 Dec


ブラームスの交響曲第4番ホ短調(作品98)は、1885年に作曲されています。ウィキペディア(Wikipedia)を元に記述すると
第1楽章 ホ短調 2/2拍子 ソナタ形式
ヴァイオリンによって、3度下降の連続、その後6度上昇の連続という動機による第1主題が奏でられます。続いて、チェロとホルンが旋律をロ短調で大きく歌います。木管と弦が緊張を解くように掛け合うと、 木管が、三連音を使ったなめらかな第2主題をロ長調を演奏します。展開部は、第1主題が原型のままに、再現部は、木管が寂しげに第1主題冒頭を再現します。コーダに入り、第1主題がカノン風に強奏され、悲痛に終わるもの。

第2楽章 ホ長調 6/8拍子 展開部を欠いたソナタ形式
ホルン、木管が鐘の音を模したような動機を吹きます。これは、ホ音を中心とするフリギア旋法です。弦がピチカートを刻むうえに、この動機に基づく第1主題が木管で奏されます。ヴァイオリンが、第1主題を変奏すると、三連音の動機で盛り上がり、チェロがロ長調の第2主題を歌います。弦の各パートが対位法的に絡み、 非常に美しいもの。再現部は、劇的に変化し、第2主題の再現は、8声部に分かれた弦楽合奏による重厚なものです。最後に、フリギア旋法によるホルン主題がもどって終わります。

第3楽章 ハ長調 2/4拍子 ソナタ形式
スケルツォ的な楽章で、第1主題が豪快に奏されます。ヴァイオリンによる第2主題は、ト長調で落ち着いた表情のものです。展開部では、第1主題を扱い、トライアングルが活躍します。ホルンが嬰ハ長調でこの主題を変奏し、 穏やかになるが、突如、第1主題の途中から回帰して再現部となり、コーダでは、ティンパニーの連打のなか、各楽器が第1主題の動機を掛け合い、大きな振幅で最高潮に達するもの。

第4楽章 ホ短調 3/4拍子
バスの不変主題の上に、自由に和音と旋律を重ねるシャコンヌ(一種の変奏曲)の楽章です。管楽器で提示されるパッサカリア(シャコンヌ)主題は、8小節で、楽章全体に、この主題と30の変奏とコーダから成り立っています。古い様式に、独創性とロマン性を盛り込んだ、円熟した作品と評されています。渋いけれど優しい楽曲だと思います。


 

YouTubeでの視聴

ブラームス 交響曲第4番
Johannes Brahms: Sinfonie Nr. 1 mit Günter Wand (1997)
NDR Elbphilharmonie Orchester  ギュンター・ヴァント 北ドイツ放送響
NDR Klassik
1997 führte Günter Wand die Sinfonie Nr. 1 mit dem damaligen NDR Sinfonieorchester (heute: NDR Elbphilharmonie Orchester) auf. Ein Mitschnitt des Konzerts vom Schleswig-Holstein Musik Festival in Kiel.
https://www.youtube.com/watch?v=yGJEoUdEtiM&t=262s


Brahms: Symphony No.4 in E minor, Op.98
マックス・ホウバート - トピック  ハイティンク ボストン響
Provided to YouTube by Universal Music Group
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=J4ExQ593h-A
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=I7lLaUEpHLI
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=PubENidcFxA
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=soKGJeKr1ms


Brahms: Symphony No.4 in E minor, Op.98
Concertgebouworkest  シャイー コンセルトヘボウ
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第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=WGw-8Nq1jxI
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=5fF-pDg3vqo
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=2DIr6ySMQ2c
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=WBoPiu5Ivg8


Brahms: Symphony No.4 in E minor, Op.98
フィラデルフィア管弦楽団 - トピック  ムーティ フィラデルフィア管弦楽団
The Philadelphia Orchestra - Topic
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第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=IQuS8KxXPws
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=ZdxhqNgQG04
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=2TtCAI0pA1Q
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=I_D61WyQucE


Brahms Symphony No. 4 in E Minor, Op.98
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 - トピック  カラヤン ベルリン・フィル
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第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=lZH1Sc9ZqUg
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=kTIEOqdr0eg
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=btPhMTy3vZo
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=A_h83ipiyAg


Brahms Symphony No. 4 in E Minor, Op.98
Herbert von Karajan  バーンスタイン ウィーン・フィル
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第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=BuACh8vBZw8
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=BuACh8vBZw8 検索結果 なし
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=A-WVrd0diKo
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=R1Ie254kQ0k



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