ブルックナー 交響曲第0番 Bruckner: Symphony No.0

 ゲオルク・ショルティ シカゴ交響楽団 1995年
Georg Solti
Chicago Symphony Orchestra

ショルティの演奏は、メリハリがありスイスイっと快速に飛ばしていく。1869年ノヴァーク版 ライブ演奏である。冒頭、弦のトレモロから始まるが、「そみ しみ そみ しみ」と弦の刻みが聞こえてきて軍隊行進のように勇ましく、ヴァイオリンのキキキキっとした音で強く奏でられる。インバル盤では、もわぁっとした空気感があったが、ショルティは明快にシャキシャキっと溌剌と進んで行く。低弦の響きは、もっこりした雲のように重量や体積を感じさせるもの。ヴァイオリンの旋律は直線的で、木管のフレーズはドライ。容赦ないぐらいにドライに描くので、雰囲気としては牧歌的な感じを受けない。インバル盤で感じた鳥の鳴き声を聞き分けようとする雰囲気にはならない。金管の咆吼は、馬力のあるシカゴ響らしく、開放的に単純なフレーズをぶっ放す。シンプルな音型は、無機質的に音を奏でるのだが無窮動的な面白さがある。

第2楽章は、フルートの二重奏から始まる。少しデリカシーが欲しいかも。ヴァイオリンのフレーズは精一杯雰囲気を出して歌っているが、清楚ではあるものの、それなりの雰囲気が欲しいという感じがする。弦のなだらかな息づかいや静謐さが、祈りの気持ちに繋がるようで、ちょっと~ 繋がらないもどかしさがある。
第3楽章は、ショルティさんの十八番という感じがする。金管の咆吼から始まるスケルツォで、「みぃ~ みふぁそら・・・(たらら らたったん) どぉ~し どしっ!」なんたって力強い。そして速い。勢いがあってアハハ~っと笑えてしまうぐらい豪快さ。「たら らぁ~ん ガンガンガンっ」荒々しいが、この無骨なスケルツォには合っている。低弦の力強さ、ガンガンっと進む弦のスピードが爽快だ。体育会系のノリでぶちかましてくれる。途中に挟まっている弦の夢幻的で、なだらかなフレーズが生きる。

第4楽章は、前楽章が勇ましかったためか、まるで戦いが終わった後、平和的な暮らしが蘇ったかのような風情がイメージされる。気を抜いていると、ティンパニーのロール、金管パッセージが怒濤のように押し寄せてくる。平和的な主題は、まったりと演じて欲しいが、デリカシーが不足気味で容赦なく咆吼を繰り返す。木管のフレーズが、あまり美しく感じない。何度も繰り返されるフレーズだが苦笑気味で終わる。ショルティの演奏で聴くと、豪快で、構造がわかりやすく聴き応えがある。しかし、悲しいかな雰囲気らしきモノが欠けちゃっている。インバル盤では、その後のブルックナーの楽曲をイメージして0番を巧く演奏している気がする。ショルティ盤を聴いて、はじめてインバル盤の良さがわかったように思う。(ショルティさん、ごめんなさい。)


 ブルックナー 交響曲第0番
Bruckner: Symphony No.0
エリアフ・インバル フランクフルト放送交響楽団 1990年
Eliahu Inbal
Radio Sinfonie-orchester Frankfurt (Frankfurt Radio Symphony Orchestra)

インバルの演奏は、その後のブルックナーの交響曲の起点だということがイメージできる。
冒頭は、なんだか、もわもわ~っとしているヴァイオリンのツラツラしたフレーズが歩くように繰り返される。ヴァイオリンの柔らかに雪崩落ちるフレーズ、金管のハーモニー、霧が晴れたかのような場面が登場してくると、ハイハイ、ブルックナー作品ですと確信を持って言えるようになる。弦の二重奏フレーズ、金管が合わさっていくところとか、大変美しいフレーズだ。森のなかを彷徨っていたら、小さな教会を見つけたって感じだろうか。テンポは、アレグロだが牧歌的な要素で、のんびりしている。そろそろ退屈する頃にフルートが登場したり、ホルンが鳴ったり、クラリネットが登場してくる。鳥の鳴き声。金管の執拗な繰り返し、弦の雪崩落ちは、0番からスタートしていたのだ。シンプルなので単調に聞こえるが、短いパッセージを組み合わせて積み上げていこうとするところ、執拗な繰り返し、トゥッティの金管のハーモニーなどブルックナー節が炸裂している。0番。ここが出発点なんだね。

第2楽章は、弦合奏とフルートの二重奏が美しい。これは、習作ではなく完全に出来上がっている。廃棄されなくて良かった。ブルックナーのアンダンテの楽章はホント美しい。木管群、低弦フレーズも、素直で清楚で心地よい。重厚な響きも良いし、低弦のポンポンっというピチカートのうえを、ホルンがハーモニーを響かせると敬虔な祈りの雰囲気が伝わってくる。美しく聴き応えがある。
第3楽章は、金管の咆吼から始まるスケルツォだ。無骨なスケルツォで、後の作品と同じ傾向。中間部は、牧歌的な美しい主題で、まるで天上でのお花畑シーンのようだ。で、唐突に荒々しい金管が鳴り、美しい世界をぶち壊す。ンチャッチャのリズムのなかで弦が渦巻くのも後の作品と同じパターンだ。無骨な舞曲でブルックナーの終生変わらない美しさと、猛々しさのサンドウィッチ状態は、この0番から創られていたのかと驚いてしまった。(反面、進化してない・・・とも思うけど 笑)

第4楽章は、後の作品と構成は変わらず、咆吼するかと思ったら、弦の美しいフレーズは入ってきたり、雷と天女が同居する世界が広がっている。ラストに近づくと、金管とティンパニーが天空を揺るがす。インバル盤で、44分6秒の演奏だった。ブルックナーの0番は、1869年に完成しているが1824年生まれのブルックナーだから既に45歳頃である。もはや成長しきったおじちゃんでしょう。ストラヴィンスキーのように時代と共に変化し、作風がカメレオンのようだと揶揄されるほど変化する作曲家もいる。しかし、ブルックナーは、0番で、既に作風を完成させているように感じる。


 ブルックナー 交響曲第0番
Bruckner: Symphony No.0
ダニエル・バレンボイム シカゴ交響楽団 1979年
Daniel Barenboim
Chicago Symphony Orchestra

バレンボイムの演奏は、メリハリがあってダイナミックだが、柔らかさも持ち合わせている。弦楽合奏のような雰囲気で、しなやかさや、ふくよかさが感じられる。1869年版である。バレンボイムさんの振ったブルックナーは、全集で2種あったと思う。この演奏は、1972年から約10年かけて全集にした1枚。後年、ベルリン・フィルと収録した全集(1990年~96年録音)もあるが、ワタシのお目当ては、珍しいヘルゴラント(男声合唱と管弦楽のための交響的合唱曲)だった。そうそう、2016年、ブルックナー交響曲全集からピックアップして、交響曲第7番とヘルゴラント、詩篇第150という組み合わせで2枚組BOX、SHM-CDが発売された。ワタシの所有盤は古いので、0番とのカップリングになっている。
シカゴ響なので、金管の咆吼に凄みがあると想像していたが、さほどバリバリしておらず弾力がある。弦も細やかで美音だ。フレーズの膨らませ方も自然で、思いのほか繊細で情感にも溢れている。1楽章のラストは、 「みみ~ふぁ そそ みみ~ふぁ そそ れ~ふぁみれっ しぃ~」「そふぁみ そふぁみっ そふぁみっ (どろどろどろ~) バンっ!」と、金管のトゥッティで終わるが、とても優しい。もちろん馬力はあるのだが、破壊するような威圧感はない。
第2楽章は、優しく抒情的で、思わず聴き惚れてしまった。素朴だけど美しく、弦楽合奏的の響きは、とても柔らかい。木管群も弦も、透き通った感じがする。深みのある息づかいに密やかさが感じられる。第3楽章は、無骨なスケルツォの楽章だが、とてもまろやかに演奏されている。弾力があり、リズミカルでしなやか。金管のアクセントが効いてて、しらしぃ~ しらしぃ~っと咆吼するが、華やかで柔らかい。特に、弦の聴き応えがある。ティンパニーも奥まったところから聞こえてくるので立体的に広がる。バランスの良い演奏だと思う。

第4楽章は、弦楽合奏のように穏やかな響きで、歌心があり馥郁としている。金管の分厚い旋律も、バレンボイムの演奏では、さほど、うるさいものではなく。ショルティの振るシカゴ響は、金管がやたら大きく、津波のように荒々しい勢いで、粗野な感じがするのだが、とても柔らかく、穏やかな雰囲気を伴っている。しなやかで歌ごころもある。分裂気質の主題が、バランス良く、トータルでバランスが整っている。無骨さが影を潜め、叙情的な演奏として好ましいもの。
カップリング:ブルックナー 交響曲第0番 1979年、ヘルゴラント 1979年、詩篇第150番 1979年


ブルックナー 交響曲第0番
1979年 バレンボイム シカゴ交響楽団 G ★★★★
1990年 インバル フランクフルト放送交響楽団 Teldec ★★★
1995年 ショルティ シカゴ交響楽団 Dec ★★★

ブルックナーの交響曲0番は、ウィキペディア(Wikipedia)を元に記述すると1869年に完成されたとされています。初演をウィーン・フィルの指揮者デッソフに打診したものの「第1主題はどこ?」と訊ねられたことで、自信をなくしてこの曲を引っ込めてしまったとか、この曲の誕生の経緯は諸説あるそうですが、それは研究者の方々にお任せするとして~
第1楽章 ニ短調 4/4拍子 ソナタ形式
第1主題は、はっきりしませんが第3交響曲の始まり方と似たアルペッジョのトレモロ音形です。第2主題は、牧歌的で美しく第3主題は力強いものの、どれも明確に主題らしくないように聞こえます。 楽章全体は、後のブルックナー作品の特質を備えています。

第2楽章 変ロ長調 4/4拍子 A-B-C-A-Bの三部形式
ベートーヴェンの緩徐楽章を思わせるような、のどかな旋律の第1主題、清楚な第2主題の対比から、素朴な中間部へと進みます。

第3楽章 ニ短調 3/3拍子 三部形式
荒々しく野性的な主部で、得意とするブルックナー休止につづいて、短いが平穏なトリオが現れます。トリオは、ト長調 3/4拍子 元の主部へと戻され力強く締めくくられます。

第4楽章 ニ短調 12/8拍子(序奏部) 4/4拍子(主部) 序奏つきソナタ形式ゆっくりとした内省的な序奏から始まります。このようなフィナーレの始まり方は初期のブルックナーの特徴です。主部は、対位法的な旋律の絡みがあり、攻撃的な第2主題へと進みます。正式なソナタ形式でなく、展開部と再現部を合体して構成されています。
出版譜は2種類。ひとつは1924年に出版されたヴェス(Wöss)版(いわゆる「初版」)と、1968年に出版されたノヴァーク版(第2次全集)です。ハース校訂による第1次全集は、この曲の校訂・出版に至らなかったそうです。なお、交響曲全集とされているもののなかには、この0番を含んでいるものと、そうでないものがあります。0番とはいえ、すっかり出来あがっている~ブルックナー節が炸裂しています。どうぞ、後の作品と比べて聴いてください。


 

YouTubeでの視聴


ブルックナー 交響曲第0番
Bruckner: Symphony No. 0 in D Minor, WAB 100
シカゴ交響楽団 - トピック ショルティ シカゴ響
Provided to YouTube by Universal Music Group
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=MH03DFdlGyk
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=UhsmbqMcjAw
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=wsNzQ6Su-EY
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=9uanxiM-Bqk


Bruckner Symphony No.'0' in D minor
エリアフ・インバル - トピック フランクフルト放送響
Provided to YouTube by Warner Classics International
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=OMf3-M7uFEo
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=JeY-95dTZi4
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=Vv4astNtDvo
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=khoFztSGZmY


Bruckner: Symphony No.0 in D minor - 1869 Version
シカゴ交響楽団 - トピック Chicago Symphony Orchestra - Topic バレンボイム
Provided to YouTube by Universal Music Group
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=PGp7ezXjG4k
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=lrVBIffrbDs
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=avLDUjaooeQ
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=jTl0OCiuM6Y


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