ブルックナー 交響曲第5番 Bruckner: Symphony No.5

 ブルックナー 交響曲第5番
Bruckner: Symphony No.5
ジュゼッペ・シノーポリ シュターツカペレ・ドレスデン 1999年
Giuseppe Sinopoli Dresden Staatskapelle

シノーポリの演奏は、ライブ盤で、響きがデッドで、モワモワ、ガシャガシャして聞こえる。ティンパニーのロールは充分に響かず、低弦は明瞭でなく靄がかかっている。堅牢さを競うかのような演奏が多いなか、流れるお茶目で、彼はこの曲で歌いたいらしい。あまり深刻にならず聞き流せる面があるが、明るく楽天的な面が取り柄では、う~ん。ちょっと困ってしまう。軽めが好まれる現在の風潮にはマッチしているのかもしれないが、好悪はっきり分かれる演奏かもしれない。第2楽章は、少し人間臭いアダージョというか、さらさらと流れてしまって残らない演奏だ。いや、これはやっぱりカジュアル過ぎという気がする。どうもヌルイ感覚なのだ。第3楽章は、キレに欠けるためか、もっさりしたスケルツォだ。金管が細身で、フレージングは、どことなく軟体動物のよう。シノーポリは、この曲をどのように演奏したかったのだろう。解りづらい。

第4楽章は、各声部を歌うように弾かせており新鮮に聞こえる。旋律を歌謡風に捉まえ、横に横にと流れていく。ブルックナーの交響曲のなかでも、おそらく堅牢さでは1、2を争う5番である。この曲を歌う? 恐ろるべし果敢な挑戦なのだろうか。最後の最後になって、えっ、もしかして、マーラーの歌曲付きの交響曲だったのか、と驚くような終わり方だ。失礼ながら、おもいっきり笑い転げてしまった。で、ようやく謎が解けたのだ。シノーポリは、マーラーのようにブルックナーを振っている。きっと。マーラーとブルックナーの振り分けができなかったのだろうか。このアプローチは、一風変わっている。いや、違うだろう。


■ ブルックナー 交響曲第5番
Bruckner: Symphony No.5
スタニスワフ・スクロヴァチェフスキ ザールブリュッケン放送交響楽団 1996年
Stanislaw Skrowaczewski Saarbrücken Radio Symphony Orchestra 原典版

スクロヴァチェフスキの演奏は、瑞々しく、メリハリある立体的に整った演奏だ。繊細かつ迫力ある演奏である。序奏の低弦のピチカートは、わずかに震える程度だが、金管のコラールになるといきなり大音量になる。低弦の響きが力強く、金管が同じフレーズを繰り返す場面でも、主題の提示は凄まじい。鬼気迫るという感じの形相で、いきなり問い詰められる感じだ。奥からティンパニーがどろどろどろ~っと響かせており、チューバやトロンボーンも猛烈にお腹に響く。重低音の響きが安定して、引き締まって良く聞こえてくるのだ。残響が適度にありホール感が感じられ、見通しの良い演奏だ。全ての音が全力で響いているのではなく、各パーツの音量の調整が微妙に行われているのだろう。で、特筆すべきは重低音の響き。トロンボーン、チューバの太くて豊かな響きが、持続されて美しい。惚れ惚れする。それでいて、キレのある素早いリズムで引き締まっており、推進力、透明感もあって、ブルックナーの5番って、こんなに美しく、楽しく聴ける楽曲だったんだ~と、目から鱗状態に。

第2楽章は、木管の主題も美しいし、コラール風の弦合奏が奏でられるところも大変美しい。ここでの弦の膨らまし方が繊細で巧い。対旋律が邪魔しないように、旋律を浮かせながら主役が巧く入れ替わっている。表と裏が同時に活かされているので響きの厚みが増す。主役を務める音、引き立てる音も、しっかり精緻に響いている。いつもなら退屈に感じる中間部も、瑞々しく美しいフレーズで、目から鱗状態に。こんなに美しい旋律があったんだと驚いてしまった。金管の和音のなか、身をよじって歌うかのような弦のフレーズに、惚れ惚れ。これは美しいっ。

第3楽章は、重心の低い重々しいスケルツォだが、快速で心地良く飛ばしていく。金管の力強さは瞬発力ではなく、音の引き締め感、緊張感があり、キレ味が抜群に高くなっている。また、アクセントを頭に置くことで、リズミカルに弾んでいるように感じる。単なる力任せというのではなく、弾力性を計算して、音の膨らみを持たせているようだ。金管の和音を綺麗に響かせていながら、そのなかを、別の楽器がすーっと通過していく。はあぁ、こうやって立体感を出すのねと聞き惚れてしまった。音の織物を見ている感じがして、うかつにも恍惚としてしまった。

第4楽章は、第1楽章の主題、第2楽章の主題が回想される。軽やかに弦が舞い始め、音が弾みリズミカルに響いていく。チャーミングにフレーズが奏でられ、リラックスしながら美しいフォルムを形成していく。ミスターSの演奏は、普段、あまり目立たないところを丁寧にお化粧し、綺麗に提示してくれる。その細かい細工に、惚れ惚れしちゃう。もちろんコラールの和音は、まろやかに響いて、軽やかで細かな動きをしている。音の濃淡の妙にひれ伏したくなるような演奏だ。ブルックナーの5番って、こんなに美しく、軽やかに楽しく聴けるなんて~素晴らしい。ちなみに、現在はOEHMSレーベルだが、以前はARTE NOVAから出ていた。


 ブルックナー 交響曲第5番
Bruckner: Symphony No.5
オトマール・スウィトナー シュターツカペレ・ベルリン 1984年
Otmar Suitner Sächsische Staatskapelle Berlin (Staatskapelle Berlin )

スウィトナーの演奏は、なだらかなフレーズで残響豊かに鳴っている。冒頭、静かに潜行しているなか、唐突に金管が咆吼する。咆哮を3回繰り返すなかで、テンポを速めて、ラストの「しれっそっ!」は、早口でまくしたてるかのよう。スウィトナーの振るブルックナーは、テンポ良く、速め速めに展開していく。主題が変わると、ピチカートで弾んで弾んでティンパニーで締める。 「ど~みれど~ しれ~ふぁれどしらしふぁら パッ パカ パン」 このフレーズの繰り返し。「ぱー ぱっぱっか ぱーん」と、音が変わるだけで、音型は同じだと思う。なんとも代わり映えのない、面白くもないフレーズばかり続けるものだと、最初は、唖然としたものだ。しかし、何故かしら単純な音型が耳に馴染んでくる。知らぬ間に口ずさんでいたりなんかするのだ。スウィトナーの演奏は、ソフトな音色で穏やかそのもの。金管は、まろやかに屈託なく開放的に鳴っている。 ベルリン・キリスト教会での録音で、残響が多めなので、好みが分かれるかもしれないが、演奏そのものを楽しむというより、音の響きが、たまらない。東ドイツ時代の録音なのだが、背筋がゾクゾクするほどの柔らかさ。快速で進み、最後、熱く盛りあがる。

第2楽章以降も、このスタンスは同じ。天上的なフレーズが響くアダージョでは、フレーズが交差し、室内楽的に響くところが、大変美しいと思う。しかし、スウィトナーの演奏は、総体的に素朴だ。安定感があって、いつもながらの聞き慣れた雰囲気がする。気さくさが持ち味なのだと思う。疲れた時、そっと流して聴いていると気が安まる。ブルックナーの5番は、マタチッチの演奏のように、巌のようにゴツゴツ感で押してくる演奏もあれば、ヴァントの演奏のように、鉱質的というか鋼のような硬い演奏もある。スウィトナー盤は、干し草、藁草のなかで転がっているような~とでも例えましょうか。まあ。そんな演奏です。


 ブルックナー 交響曲第5番
Bruckner: Symphony No.5
ベルナルト・ハイティンク ウィーン・フィル 1988年
Bernard Haitink Wiener Philharmoniker (Vienna Philharmonic Orchestra)

ハイティンクの演奏は、金管とティンパニーは目立つが、木管のフレーズが綺麗に浮かんでこない。遅めのテンポで停滞し、一辺倒というつまらなさ。ものすごい弱音で始まり、突き破るかのように大音量で鳴る。ウィーン・フィルの柔らかな響きを想像していると仰天するほど。弦のフレージングは硬く、金管の和音も、ちょっと美しいとは言いがたい。無理して無骨な雰囲気を漂わせているのではないかと思うほど。力強いが硬くてドスンっという響きだ。また、テンポが遅いので停滞しているかのよう。木管のフレーズは沈みがちで綺麗に浮かんでこない。低音の方に重心があり、弾力性がないので楽しく感じない。内声部の響きが欲しいし、剛柔兼ね備えた響きが欲しい。真逆な要素を、どう対比させるのかが面白い筈なのだが、一辺倒という感じ。

第2楽章は、美しい弦楽のハーモニーが聞こえてくる筈だが、とっても悲しい。歌わないし遅いし、なんじゃこりゃ。
第3楽章は、熊のダンスって感じで、単調なスケルツォとなっている。金管とティンパニーが目立ち、バランスが悪いようだ。中間の音域音が抜け落ちているのだろうか、もっと音量をあげて聴かないと駄目なのだろうか。単調だと思いつつ淡々と時間が流れていってしまう。第4楽章は、少し聴き応えが出てくる。弦の重厚さは味わえるものの、縦の刻みだけが気になる。厳つい主題はボリュームが感じられるが、コラール風の主題は、美音で響いているが、ここだけ帳尻合わせ的に吹かれても、う~ん、もはや遅い。1985年録音の第4番は、壮大な絵巻物を見ているようで良かったのだが、第5番は、どうもいただけなかったように思う。


 ブルックナー 交響曲第5番
Bruckner: Symphony No.5
ハインツ・レーグナー ベルリン放送交響楽団 1983年
Heinz Rögner Rundfunk-Sinfonie-Orchester Berlin(Berlin Radio Symphony Orchestra)

レーグナーのブルックナーは、快速テンポで進む。縦糸と横糸のフレーズが巧く組み合わされている。残響は少し多めだが、唐突に金管が咆吼する場面でも自然な大きさで、序奏部分が終わると快速に進む。「ど~みれど~ しれ~ふぁれどしらしふぁら パッ パカ パン」この「パッカパン」のリズムを、何度も弾いているうちにスピードアップ。弦のピチカートは、重量感と弾力性があるためか振り子のように感じられリズム感が爽快になる。全体的に柔らかく滑らかでしなやか。薄めの風合いだが、ティンパニーは豪壮で怖い音で響く。複層的だがコントラストがハッキリしているので、メインがどれなのか明確で糸が絡まず聴きやすい。

第2楽章は、さらりとしているものの渋い深みのある音だ。膨らみは大きく振幅も充分で息も長い。低弦の響きが感じられるため深みが感じられる。決して大仰な荘厳さではない。素朴にシアワセだと感じる程度だが、後半に入ると金管の響きが教会のなかにいることを思い出させ清らかな気分に。第3楽章は、快速に心地良く飛ばしていくが、重心の低い幅広く安定している。スケルツォの楽章では、中音域の美しさが強調され、木管と弦の透き通るような響きと、リズムを刻む硬めの音が距離感を保っている。 「タッタタ タッタッタ タッタタ」とリズムを刻むフレーズと、「た~ら た~ら」と横に流れるフレーズの組み合わせが気持ち良い。大きな流れのなかで、タテとヨコを上手に組み合わせて、時系列に応じて表裏を変えていく。爽やかで長めのフレージングが特徴だ。

第4楽章は、前楽章の主題が回想される。最初は、1楽章の主題が流れてくる。「ど~みれど~し~ふぁ れ~ふぁみれど~ どふぁっ」。続いて2楽章の主題、「みふぁ~ そらぁ~ みふぁ れみふぁ そふぁみふぁ~」弦のピチカート、そのうちに「どっど そっそ ふぁっふぁ らっらっ」と弾む旋律が出てくる。主題が入れ替わり立ち替わりするなかでテンポをあげていく。目に見えるかのようで、するりと弦が入って切り替わりがスムーズ。壮大な金管が咆哮してコラールとなる。残響が多めで残る。驚くほど、あっさりふわっとした壮大さ。低弦とティンパニーはパワフルだが、総じて明るく軽めの音色。渾然一体と鳴ることを期待していると、あっさり行かれてしまって、もう少し粘ってぇと思うが。コーダは、繰り返すなかで熱を帯びる。軽快に演奏するスタイルなので、軽すぎてダメだと烙印を押されそうだが、その反面、退屈しがちなところを救ってくれる効果もある。


 ブルックナー 交響曲第5番
Bruckner: Symphony No.5
ゲオルク・ショルティ シカゴ交響楽団 1980年
Georg Solti Chicago Symphony Orchestra ノーヴァク版

ショルティの演奏は、重厚で金管の圧倒的パワーが持ち味で、派手にガンガンして骨っぽい。いや~これは、はっきり言って野蛮です。でも、俗っぽいけれど聴きごたえあり。冒頭2分あまりで、耳元で吹かれているかのような金管の大音量と、ティンパニーに圧倒されて、ド迫力でノックアウトされる。絶句して終わり。まさしく、力ずくで押しきるタイプで、特に、金管の咆吼は野蛮にすぎる。これだけ派手にやられると呆気にとられる。テンポは速いのか遅いのか、これはリズミカルとは言わないぞと混乱してしまいそう。剛速球の重いストレートで、バンバン投げ込まれて構える暇なし。見逃し三振。太刀打ちできそうにもなく終わる感じだ。
第2楽章は、乾いた短いアダージョになっており、これでは天上に昇れない。当時のシカゴ響の弦、特にヴァイオリンは、カサカサで、細切れで句読点の多い散文詩的なフレージング。荒れた大地に地面に張り付くように咲いている草花のようで、冷たい風が吹いている雰囲気がする。ゴツゴツしてて骨っぽい。ヴァイオリンの高音の跳ねるような音が耳に刺さり、圧倒された前楽章の続きで、破壊した後の荒涼たる世界のようだ。前半は、どう聞いても天上を描いているとは到底思えず、後半は、金管の咆吼は柔らかくなっているが、地表から浮いた程度で改悛せねば天上には無理でしょうてな感じ。

第3楽章は、これまた激しい世界が描かれている。激流に飲み込まれたようなスケルツォだ。主題が変わって可愛い木管フレーズが聞こえてくると、これが誘い水となって楽しく踊る雰囲気に変わる。主題の表現が大きく、まるで巨人たちの饗宴に可愛い少女が招かれたような感じがする。 スケルツォは、ショルティの演奏は、個性的で面白い。とことん力で押し切ってくるし、無骨で野蛮なスケルツォだが、若い頃に聴く面白いのでなないだろうか。パワーに満ちた躍動感は、ワクワクさせるものだし、怪物たちが、ドシンドシンとシコを踏みながら踊っている風合いは、怖い雰囲気というより、ふふふ~っと笑えてしまうコミカルさも持ち合わせている。
第4楽章は、今までが嘘のように変身して、軽やかに旋律を奏でる。うっとりしていると、 低弦と金管が恐ろしい迫力で、世界を変貌させる。 一応、コラールなのだが・・・。主題が回想してくるので、第1楽章の主題が戻ってくると身の毛がたつほど怖い。まあ、ブルックナーも人が悪い。なぜ回想シーンを設けるのだろう。ブツブツ。荘厳さは、畏敬や畏怖の念を持ち、謙虚さも必要だと思うんだが、ショルティの演奏だと、あまりにも一方的。やっぱり何度も繰り返しては聴けないですね。


 ブルックナー 交響曲第5番
Bruckner: Symphony No.5
ルドルフ・ケンペ ミュンヘン・フィル 1975年
Rudolf Kempe Münchner Philharmoniker (Munich Philharmonic)

ケンペの演奏は、鋭い直線的の響きで、気迫に押されて鳥肌が立つ感じがする。冒頭から、すっきりとした端正な演奏で、ティンパニーを伴って沸き起こってくるところは直線的だ、低音から、ぐぐぐ~っと盛りあがってくる演奏が多いが、細身で槍をもって突き進んでくるような凄みがある。交響曲第4番でも感じたが、身をよじって突き進むパワーを感じる。ふわっとした感覚が少ない。マタチッチは、ゴツゴツした露出した岩盤のよう、ケンペは、直線的な鋭さを持っている。金管の鳴り方も、短くセカセカした印象を受ける。ティンパニーは硬く、弦もすぱすぱっ。後半、雰囲気が変わり、奥行きの深い響きとなって、ぐい~っと押し出しの強さに驚かされる。最後に至っては、捨て身的に突進してくる凄みがある。第2楽章は、静謐で端正で、透明度が高い。湖の底を見ているかのような、ツーンとした響きで、オーボエが寂しく吹かれている。フレーズは短めで、各声部が透き通るようだ。ふわっと重力感を感じさせない雰囲気ではなく、透き通る綺麗さがある。前楽章とは異なり、トランペットやホルンの響きがまろやかに広がってくる。凍り付いた体躯が、蘇ったかのように温かさが伝わってくる。天上で蘇ったかのような絵画を見ているようだ。高音域のヴァイオリンと木管が、頭の上をすーっと通過していく感覚だ。

第3楽章は、速めのテンポで進み、高音が透き通って聞こえる。直線的な響きで加速してくる。第4楽章は、無為の世界に引き込まれたような静謐さがある。この楽曲は、堅牢な石造りのゴシック様式だと感じるのだが、ケンペの演奏は、ちょっと違うようだ。もっとシンプルで直線的。ふわっとした膨らみの少ないフレージングで、ぐいーっとスピードをあげて直角に曲がる感じ。気迫に押されて鳥肌が立つ場面が多かった。オルガン的な響きや膨らみのある響きではなく、鋭い演奏となっている。


  ブルックナー 交響曲第5番
Bruckner: Symphony No.5
ギュンター・ヴァント ケルン放送交響楽団 1974年
Günter Wand WDR Sinfonieorchester Köln(Kölner Rundfunk-Sinfonie-Orchester)

ヴァントの演奏は、金管の幾分粗いぶっ放しとティンパニーの音に驚かされる。(原典版)ワタシが聴いたのは、ブルックナー交響曲第5番、第6番 2枚組BOX 1974年、1976年 ライブ盤ではない。ヴァントさんの演奏は、ヤワなワタシにとっては怖ろしい演奏で凍りつくタイトな演奏だ。ティンパニーの打ち込みの激しさ、金管の荒々しさに仰天。「ぱぁー ぱっぱっか ぱーん」の金管フレーズが勢いよく、「ばぁ~ ババンっ」とティンパニーの音が覆い被さってくる。間髪入れずにガガンっと岩を投げつけるかのよう。津波が押し寄せて荒ぶる神が登場するような感じ。ラストが凄まじい。熱血ライブかと思ったがセッションだ。凄いっ。

第2楽章は、弦のピチカート音をバックにオーボエの悲しげなフレーズが奏でられる。交差する旋律が室内楽的に響き大変美しい。コラール風の旋律の上昇するところと、ヴァイオリンのフレーズが、大変美しいものとなっている。弦の呟きがチャーミング、低弦の甘さが心地よい。3本のトロンボーンによるコラールは濁りぎみだが、微動だにしないでみごとだと思う。第3楽章は、異なる主題が入れ替わり立ち替わり演奏され、金管とティンパニーの破壊力たるや凄まじい。テンポがめまぐるしく変わり、ぶっ放す金管に驚かされる。変わり身の速さと揺れる拍子にホルンの牧歌的なフレーズが爆破される。パッパぁ~っと、開放的に、容赦なくぶっ放す音が強烈すぎて~ アハっ。滝汗となる。

第4楽章は、オーボエとクラリネットは良く響いているが、低弦のガッシリ感がすごみを効かせる。カッカッと踵を踏みしめて進んでいく。牧歌的なフレーズは回想されるが芯が硬く、高音域のヴァイオリンだけが空に浮き上がっているかのよう。フレーズの終わりには間髪いれずに金管が登場して驚かされ、低弦がガシガシと弾き出す。圧の強い演奏だ。金管の斉唱は、もう少し丁寧に吹かれても良いだろうに、明るい音が強く、レーザーポイントのように強い光が、さっと入ってくる感じがする。ホント荒々しい演奏で疲れ果ててしまった。

ヴァントのブルックナーの5番は、ここでご紹介するケルン放送響1974年、北ドイツ放送1989年、ベルリン・フィルとの1991年、ミュンヘン・フィルとの1995年、ベルリン・フィル1996年の演奏があるようだが、その全てを聴いているわけではない。持っているのは、1989年の北ドイツ、1996年のBPOがあるだけ。世評としては、後になるほうが良いと言われているようである。まあ、しかし、このCDのブックレットには、1993年8月、許光俊さんのヴァントへのインタビュー記事が掲載されており、それを拝読していると、メチャクチャ面白い記事になっていた。例えば、・・・とにかく私は自分のライヴ録音の出来を非常に誇りに思っている。こんなことを言ったからといってむっとしてほしくないが、私のライヴ録音と同じくらいのレベルに達した人は他にいないんだ。このことを BMGはあまりに自慢しなさすぎるのが腹立たしいね、(テーブルをボンボンと叩く。)誰かがまねをしてみたらいい。BやKのライブ録音はどうだ? 特にBのものはとても完璧とは言えないね。でも、われわれは幅広いレパートリーで、また、巨大なブルックナーの交響曲ですばらし成果をあげてきている。これは他の誰にもできないと思う。さあ、誰だって聴いてチェックすることができるよ。してほしいね。(ドイツBMGの人が口をはさむ「それはおっしゃるとおりですが・・・」それを断ち切って) そして、誰もそのことを言わないのだ。こんなこ とがあっていいのだろうか。いいや、許せない。・・・いいや。評論なんか読まないよ。くだらない内容のものが多いし、評論家は嘘つきだからね。評論なんかに興味をもつ芸術家なんてロクなもんじゃない。まあ、ひどい内容のときは腹が立ち、ほめられていれば嬉しい、そういうのが普通の人間だろう。怒るといったって、1時間かそこらのことだ。・・・ヴァントさんって寡黙な人だと思っていたんですけど、怒りをぶちまけながら喋っておられる(ような)インタビュー記事には笑えてしまった。CDを聴きながら、ご本人の素顔を拝見したような感じで、この憤懣やるかたなしにプリプリと怒る性格が演奏に反映しているように思えた。(茶化してごめんなさい。)


 ブルックナー 交響曲第5番
Bruckner: Symphony No.5
ロヴロ・フォン・マタチッチ チェコ・フィル 1970年
Lovro von Matačić Ceska filharmonie(Czech Philharmonic Orchestra)

マタチッチの演奏は、テンポが揺れに揺れムチ打ちになりそうな個性的な演奏だ。金管にまろやかさが感じられない。ティンパニーは、ポコポコポコと、しょぼい音に聞こえる。弦のピチカート部分に入るとテンポがぐっと落ちて、弾む筈のところが弾まない。テンポが、とにかくよく変わる。鼻歌まじりでスキップしているようなフレーズは快速だが、変化が予測できない。素っ気ないほどに、次のフレーズに、ぷいっと行っちゃう。急発進、急ブレーキの連発で、これじゃー鞭打ちになってしまうやん。がっしり刻んで欲しいところが、あらくたい。完全すっとばし状態で、熱気が形成されず崩れている。ティンパニーが個性的で猛獣のごとく、冒頭、ボコボコ言っていたのが嘘みたいに、狂気すら感じさせるほどに叩く。車酔いのように~くらくらっ。

第2楽章は、経典を詠むかのように陰気で、流れるフレーズになっていない。 壮大に鳴る箇所もあるが綺麗でも流麗でもなく無骨そのもの。 喉の奥に行かないほどフレーズ全体が硬い。録音状態もイマイチで、まるで鮫肌のようにガシガシ。 噛めば噛むほど渋い良い味が出るのかもしれないが、根気が要りそう。 これ、ホントに名盤なの?
第3楽章は、序奏部のテンポが速く、熊がダンスしているように踊っている。語尾の終いがしょぼく、気宇壮大という感じからは遠いように思う。ハース版(原点版)に独自性を加えたの改訂版らしいが、う~ん。後半、ますます速く、アクセルを踏み込んだパワフルな加速感覚にのけぞる。第4楽章は、シコを踏んでいるリズムで、ふんわりした場面がない。とっつきの悪い演奏で、晦渋な楽曲だと思いこんで終わってしまうかも。 最後、コーダ部分は、駆け抜け派手に終わるが、全体がわかりづらい。


 ブルックナー 交響曲第5番
Bruckner: Symphony No.5
オイゲン・ヨッフム コンセルトヘボウ 1964年
Eugen Jochum Royal Concertgebouw Orchestra

ヨッフムの演奏は、ドイツのオットーボイレン(Ottobeuren)修道院でのライブで、鬼気迫るところがあり油断ならない。昔から名盤とされているもので、かつて、ブルックナーといえば朝比奈隆さん、そして、ヨッフムさんの演奏が有名だった。有名な音楽評論家のおじさまも、すごい~っとのコメントでお墨付きだったと思う。音楽之友社から出ていた雑誌「レコード芸術」とか、ムック版の名盤○×○選的な書籍に、毎度登場していたように思う。それを見て、限られたお小遣いのなかから購入したのだが、今、聴いてどうかと言われたら、ちょっと困ってしまう。冒頭から、すんごい勢いで突っ走っており、ゆったりとした大らかな演奏だと思いきや信じられないほどに速く熱い。この速いテンポについていかなきゃ~という感じで、オケが、ガッシガッシ。コンセルトヘボウというオケの印象を覆してしまうほどの野趣あふれる演奏となっている。特に、楽章最後では、鬼気迫る勢いでぶっ飛ばす。
第2楽章は、うって変わって木訥としているが、主題は美しいし穏やかな表情を見せる。和音はやっぱり綺麗だし、大きな流れを形成して荘厳な感を受ける。残響がほとんど感じられないので、その点は残念。
第3楽章は、はやっ、速い~っ。金管の咆吼が激しく滑り落ちるかのようなスケルツォだ。ヴァイオリンのキレキレなボーイングが印象に残る。第4楽章は、後半のコラール部分が美しい。でも、表情は厳つく険しい。音が締まっているので、聞き慣れないうちは、最後まで聞き通すのがツラくなるだろう。すごみある圧の強い演奏で、堂々とした佇まいの立派な演奏だ。こういう演奏を、かつて評論家がこぞって名盤としていたのかと、今更ながらに、クールに聴いてしまった。



ブルックナー 交響曲第5番
1964年 ヨッフム コンセルトヘボウ Ph ★★★
1970年 マタチッチ チェコ・フィル Sup ★★★
1974年 ヴァント ケルン放送交響楽団 R ★★★
1975年 ケンペ ミュンヘン・フィル BASF ★★★
1976年 カラヤン ベルリン・フィル G
1980年 ヨッフム シュターツカペレ・ドレスデン EMI
1980年 ショルティ シカゴ交響楽団 Dec ★★★★
1984年 レーグナー ベルリン放送交響楽団 DS ★★★★
1987年 インバル フランクフルト放送響 T
1988年 ハイティンク ウィーン・フィル Ph ★★★
1989年 ヴァント 北ドイツ放送交響楽団 R
1990年 スウィトナー シュターツカペレ・ベルリン DS ★★★★
1993年 ウェルザー=メスト ロンドン・フィル EMI
1993年 チェリビダッケ ミュンヘン・フィル EMI
1996年 ヴァント ベルリン・フィル R
1996年 スクロヴァチェフスキ ザールブリュッケン放送響 OEHMS ★★★★★
1999年 シノーポリ シュターツカペレ・ドレスデン G ★★★


ブルックナーの交響曲第5番は、1875年~78年にかけて作曲されました。ウィキペディア(Wikipedia)を元に記述すると、
第1楽章 変ロ長調、2/2拍子 序奏付きソナタ形式
序奏は、低弦のピッツィカートで始まり、ヴィオラ、ヴァイオリンが弱音で奏でると、金管のコラールが吹かれます。高弦のトレモロのなか、ヴィオラとチェロが第1主題、ヘ短調で始まる第2主題は、弦によるやや沈んだ表情のもの。第3主題は、管楽器の旋律を中心に変ロ長調の頂点に達し、ホルンの響きを残しながら、弦のトレモロとともに提示部を閉じます。展開部は、ホルンとフルートの対話、第1主題が入ってきて発展し、第2主題も弱い音で重なります。金管のコラールが鳴り響き、再現部、コーダに入ると導入部の低弦のモティーフが繰り返され、第1主題が高揚し楽章を閉じるものです。

第2楽章 ニ短調、2/2拍子 A-B-A-B-A-Codaのロンド形式
ピチカートで始まり、各部は再現のたびに展開される。主部は、弦5部の3連音のピチカート、オーボエが物寂しい主要主題を奏でます。副主題は弦楽合奏によるコラール風の旋律、頂点を築くとティンパニだけが残り主部が回帰します。弦の6連符の動きの上に、管楽器が主要主題を展開し、木管とホルンにより主要主題が奏でられ、ヴァイオリンの6連符の動きの上に、トランペットなどが加わります。後半は、3本のトロンボーンによるコラール楽句、コーダは主要主題をホルン、オーボエ、フルートが順に奏して、あっさりと終わります。ちなみに、この第5番の最初に書かれた楽章で、冒頭のオーボエ主題は、全楽章の主要主題の基底素材とのことです。

第3楽章 ニ短調、4分の3拍子 複合三部形式
スケルツォ主部だけでソナタ形式、アダージョ楽章冒頭のピチカート音形を、せわしなく駆り立てる第1主題と、ヘ長調レントラー風の第2主題が提示されます。展開部では前半が第1主題、後半は第2主題。さらにコーダが続きます。中間部は、変ロ長調 2/4拍子 3部形式 ホルンの嬰ヘ音に導かれて、木管が愛らしい旋律を奏でます。

第4楽章 変ロ長調、2/2拍子 序奏付きのソナタ形式にフーガが組み込まれている。序奏は、第1楽章の序奏の再現で、クラリネットがフィナーレ主題の動機を奏し、1楽章第1主題、2楽章第1主題が回想されます。チェロとコントラバスが、第1主題、フーガ的に進行し、全休止の後、第2ヴァイオリンが第2主題を、休止の後、第3主題がクライマックスをつくります。再び全休止の後、金管が荘重なコラールを奏し、展開部では、コラール主題に基づくフーガ、これに第1主題が加わって二重フーガに。長いプロセスを経て再現部が始まり、第1主題の再現にもコラール主題が合わさっており、提示部に比べて短いものとなっています。第2主題は型どおり、第3主題の再現は大規模なもの。コーダでは、フィナーレの第1主題の動機が、繰り返して発展し、全管弦楽で強奏されます。最後に第1楽章第1主題で全曲を閉じます。とても長大な楽章です。でも、そうでもしないと美しいメロディーが登場するわけではないので、まとまり感が薄れ漠とするのかもしれません。


 

YouTubeでの視聴

ブルックナー 交響曲第5番
Bruckner: Symphony No.5 in B flat major
シュターツカペレ・ドレスデン - トピック シノーポリ
Provided to YouTube by Universal Music Group
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=858JzTrwKTc
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=maeIcHgdBo8
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=IMSRv8tmA8w
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=0Sz1EVgRUXk


Bruckner Symphony No. 5 in B-Flat Major, WAB 105
ザールブリュッケン放送交響楽団 - トピック
Provided to YouTube by NAXOS of America
スタニスワフ・スクロヴァチェフスキ - トピック
Provided to YouTube by NAXOS of America
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=Tsq7GOZtgyU
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=XIMMkrUzAJU
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=QFu4ojnggEQ
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=N-6YgJTebz4


Symphony No. 5 in B flat major, WAB 105
シュターツカペレ・ベルリン - トピック スウィトナー
Provided to YouTube by Kontor New Media
第2楽章しか見つけられませんでした。
https://www.youtube.com/watch?v=rzk-F3clGCU


Bruckner: Symphony No.5 In B Flat Major, WAB 105
Herbert von Karajan  ハイティンク ウィーン・フィル
Provided to YouTube by Universal Music Group
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=il8cGAp5r3g
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=QyphiSvfqr8
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=GslgSQ0peg8
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=BtTs8RXA8Us


Symphony No. 5 in B flat major, WAB 105
ベルリン放送交響楽団 - トピック レーグナー
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第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=-x_UgTIDKAA
第2楽章 掲載されていないようです。見つけられませんでした。(2022年2月時点)
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=LODaPgDb_4Q
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=B-QZ7n4ADog


Bruckner: Symphony No.5 in B Flat Major, WAB 105
シカゴ交響楽団 - トピック ショルティ
Provided to YouTube by Universal Music Group
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=2-Tisd-UOMs
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=ehgdub4TRRo
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=vs2O9y2-iH0
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=FP3VsR5t81k


Bruckner Sinfonie No. 5, B-Dur, WAB 105
Münchner Philharmoniker  ケンペ ミュンヘン・フィル
Provided to YouTube by Kontor New Media
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=s-xm56YgtCo
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=qDTThKL_-RA
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=wLJVvZd3pCs
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=fx9t3IpDPwg


Anton Bruckner: Sinfonie Nr. 5 mit Günter Wand (1998) | NDR Elbphilharmonie Orchester 
当映像は、1998年、シュレースヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭(Schleswig-Holstein Music Festival)における演奏の録画である。ヴァント NDR
https://www.youtube.com/watch?v=NJqC0-ohnQA


チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 - トピック Czech Philharmonic Orchestra - Topic
Provided to YouTube by Supraphon マタチッチ チェコ・フィル
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=JTHd5lv5Kxs
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=w3tCclQOBDQ
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=P3CCie-KRbw
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=BUIkYi_hLBA


Bruckner: Symphony No. 5 in B-Flat Major, WAB 105
(Live In Ottobeuren / 1964) Concertgebouworkest ヨッフム コンセルトヘボウ
Provided to YouTube by Universal Music Group
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=ueP4KCxXatw
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=xOm4BQNDDZc
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=0R95-XNr6BU
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=SmHm-eT5ngo



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