ブルックナー 交響曲第6番 Bruckner: Symphony No.6

 ブルックナー 交響曲第6番
Bruckner: Symphony No.6
リッカルド・ムーティ ベルリン・フィル 1988年
Riccardo Muti Berliner Philharmoniker(Berlin Philharmonic Orchestra)

ムーティの演奏は、爽やかでスポーティ。情感の機微も十分でストーリー性の高い美しい演奏だ。冒頭は、堅牢な刻みではなく流れる雰囲気がする。力強いエッジ感は少なめだが不足はない。ティンパニーの打音は鋭いし、金管の咆哮も付点のリズムを楽しく演奏している。木管も弦も、幻想的で浮遊感が漂い、靄に包まれているかのような雰囲気がする。6番で原始霧は不要だと思ったが、弱音の美しさは一級品で、絹織物がたなびくような軽やかで艶っぽい美しさがある。ブルックナーの6番の第1楽章だが、無骨だと思っていた冒頭のフレーズが、にわかに信じがたいほど幻想的な舞台となっている。まるで、天女が舞い降りてくるかのような繊細な美音で綴られており夢幻能のようだ。特に、金管のフレーズが美しい。ホルン、トロンボーンのハーモニーのうえにトランペットがふんわり絡んで、ベルリン・フィルの黒光りする響きで歌われると、メロメロになってしまう。大きな響きに包まれ満ちてくる喜びが、この楽章で味わえるとは。とても綺麗な演奏だ。

第2楽章は、木管のフレーズが際だって聞える。息の長い旋律のなかで、柔らかく流れていく。淀みのない清潔な流れで盛り上あり、ティンパニーの繊細な叩きと、低弦の暗澹たる響きが表れている。骨子の太い部分と、繊細なフレーズで、表情の機微がうかがわれ、複層的な響きを醸し出す。強弱のつけ方といいアンサンブルの妙といい、とても巧い。
第3楽章は、快活で、まるで冒険活劇風のスケルツォだ。キレがあり、しなやかで小気味よさが感じられる。尻上がりに飛びあがっているフレーズを聴くと楽しくなる。アハハ~すごいっ跳ねている。五輪の体操競技を見ているかのような気持ちの良さ。跳ねた上空でピタッと静止する音は美しい。遠くの金管には奥行き感があり、幕間の緊張感が伝わってくるかのようだ。音の合間に静寂が訪れ、それたまた気持ち良く感じられる。

第4楽章は、楽章の入り方が綺麗だ。テンポもさりげなく均質的に刻みを入れており、金管の力強さも自然だ。堅牢さは感じないが、全奏するところはパワーは炸裂する。炸裂すると言っても、品良くバランスが整えられており、弦、木管、金管が森のなかで囁き合っているかのようで、チャーミングで優しさのあふれる空間となっている。中盤以降は、厳つさが表れてくるが、二元的な世界を意識させることなく、弱音から流れで持って行く手法がとられている。世界観を分けるというのではなく、融和させて高みを目指す世界だと思う。実際的には、行きつ戻りつだが、大きなつかみとしては自然体で高い峰を目指して歩いている気がする。このストーリー性の高さは巧い。スポーティで爽やかで、気持ち良く乗せられる。これは拍手です。 


■ ブルックナー 交響曲第6番
Bruckner: Symphony No.6
フェルディナント・ライトナー 南西ドイツ放送交響楽団 1982年
Ferdinand Leitner SWR Sinfonieorchester des Südwestrundfunks
(South West German Radio Symphony Orchestra, Baden-Baden)ノヴァーク版

ライトナーの演奏は、透明度が高く純度が高い。録音状態が良く明晰で壮大だ。これがライブ演奏だとは驚き。パワフルだが決して粗野にならず、音の透明度を維持してパワーあふれる格調の高い演奏となっている。ショルティの演奏は、目の前で金管とティンパニーが炸裂し圧倒的な迫力を与えるものの、他の音が飛んでしまうが、ライトナーは、木管・金管・弦の音が明確に感じられる。奥行きの広さもあり、美しく残響を残して消えていく。納得の美しさ。色艶良く響いている。金管は、ちょっと荒っぽいかもしれないが、最終コーダ直前の複雑に交差するフレーズもスムーズに進む。整理が行き届き、理知的な良い演奏だ。
第2楽章は、ひんやり気味の美しい音で進む。総体的にクールな音色で、暖色系の演奏が好きな方にはお薦めできないが、何度か聴くと、じわじわっと良さを感じる。
第3楽章は、風変わりなスケルツォだが、あまり個性的に振っていない。余韻が残る美しい演奏で終始しており、テンポは、ややゆったりめ。ホルンの響きはまろやかに響くが、淡々と進み、スケルツォ特有の快活さやエキゾチックな雰囲気は醸し出さない。
第4楽章は、ゆったりしたテンポで、不思議な感じで引き込まれていく。他の演奏で感じる堅牢さ、豪快さはないが、弦のフレーズが特に美しい。アンサンブルが整ってて聴きやすいし美しい。いろんな要素が絡み合った楽章だが、無駄のない整ったフォルムで、バランス感覚の良さに舌を巻く。かなり純度の高い演奏だと思う。カップリングは、ハルトマンの交響曲第6番となっている。


 ブルックナー 交響曲第6番
Bruckner: Symphony No.6
ヴォルフガング・サヴァリッシュ
バイエルン国立管弦楽団(歌劇場管弦楽団)1981年
Wolfgang Sawallisch Bayerische Staatsorchester (Symphonieorchester des Bayerischen Rundfunks)

大変瑞々しい響きで残響の良さでやられてしまう演奏だ。演奏自体よりも残響で聞かされて、まろやかに言いくるめられているような気がする。このオケとの組み合わせでは、1番、5番、6番、9番の演奏がある。ミュンヘン大学大ホールでの録音だが、教会で録音されたように残響が多い。天上が高いのか響きが美しく、まるで教会の天上に描かれたフラスコ画を見ているような気分だ。かなりうっとりしてしまう。テンポは速め。ショルティの演奏のように、ティンパニーや金管だけが目立つわけでもなく、弦の三連符の音とコード進行が明瞭に聞こえてくる 。ヴァイオリンに艶があり、金管も大変美しい響きになっている。堅牢さはないが、あっさり、さらりと響きを残して音が行く。

第2楽章は、天上的な響きで美しいと思う。ちょっと情緒面ではモノ足らない感じもするが、贅沢な悩みかもしれない。美しい響きであることに変わりなく、ピュアな雰囲気で、さらさら~と流れるようなフレージングだが壮大だ。縦の線より横の線の方が主張しているが、旋律の膨らみを十分に感じさせる演奏で満足させられる。
第3楽章は、速めのスケルツォで、これまた、さらさらと流れていく。爽やかな風が吹いているかのようで心地良い。聴いているうちに、ふふふ、まるでワーグナーのようだと思ってしまった。楽劇の幕間の音楽ようにも聞こえる。他の演奏では、厳つく、強面のスケルツォが多いが、人の会話のように聞こえたり、自然の風景を想像させたりする演奏は、サヴァリッシュならでは~という感じがする。なにより響きのなかで陶酔できる。
第4楽章は、爽やかな最終楽章で、全体の響きで楽しむ楽章になっている。ふわーっとした弾力性のある、半透明の球体のなかに居るかのようで、まろやかで心地よさを感じる。いくら金管が咆吼していても、トゲトゲせず、弦が速度を速めても、ツンツンガシガシしていない。いつもブル6の最終楽章は、複雑な楽章だと感じるが、サヴァリッシュの演奏で聴くと、難しいとは感じさせず、緊張を強いてこない。堅牢な建物を、外部から見上げているような感じの演奏ではなく、母親の胎内に入っているかのような安心感を感じる。う~ん、これは凄いぞ。あまり難しく考えないで聴ける、親しみやすい演奏だ。何度も言うがすこぶる美しい響きだ。


 ブルックナー 交響曲第6番
Bruckner: Symphony No.6
ヘルベルト・フォン・カラヤン ベルリン・フィル 1980年
Herbert von Karajan Berliner Philharmoniker (Berlin Philharmonic Orchestra)

カラヤンの演奏は、ブルックナーにしては流麗すぎて、リズム感が独特で横に流れて居心地が悪い。冒頭、弦の神経質そうな、かすれた音が聞えてくる。テンポは、幾分速めで微妙に変化し、フレーズのなかで伸縮する。えっ、この冒頭で変える? う~ん、この楽章は、リズムの刻みが命なので、変えない方が良いと思うんだけど。ヴァイオリンのフレーズは綺麗だが、弦のリズムの刻み方が前面に出てきていない。弦の刻みの上に、他の楽器が乗っかって欲しいのだが、弦が埋もれてしまうのだ。また、金管が、フレーズの最後の部分で長くなっている。なーんか切れが悪い。車酔いをしたような気分だ。レガートは御法度だよなあ。楽章最後は、対旋律が出てきて、フレーズが交差するが、同じ音量で交差するのか弦と金管の音が濁って聞える。 この点、チェリビダッケやヴァントの演奏は、きっちりしていたように思う。
第2楽章は、綺麗な演奏で、さすがベルリン・フィル。深々としたフレーズが連綿と続いており美しい。ただ、無骨なブルックナーが綺麗すぎて、びっくり。第3楽章は、テンポが速く、軽快さと重厚感の両方が感じられるが、3拍子の最後の音のほとんどが軽くて短い。第4楽章は、迫力があって金管の重厚さがいい。弦が主体となり綺麗で聴かせ上手だし、ツボにハマルと熱くなってくる。でも、音量のバランスとか、旋律のバランスが均質的ではないようで、旋律の幅が変わるし音量が変わる。で、リズム感が独特で横に流れて気味が悪いという状況になっている。金管の綺麗さは抜群なんだけどなあ。


 ブルックナー 交響曲第6番
Bruckner: Symphony No.6
ハインツ・レーグナー ベルリン放送交響楽団 1980年
Heinz Rogner Rundfunk-Sinfonieorchester Berlin (Berlin Radio Symphony Orchestra)

レーグナーのブルックナーは、テンポが速い。飛ばす飛ばす。これでもか~と飛ばして颯爽としており、これは全くのベツモノだとは思うのだが、でも拍手できちゃう演奏だ。冒頭のヴァイオリンの三連符は、さほど感じなかったが、木管とティンパニーが絡んでくると、うへっ、やっぱり速い。速すぎやんと、のけぞって驚いている間にも、どんどん進む。軽快そのもので低弦の重厚さは無いに等しい。軽量で揺れ、二拍三連符が、ワルツになってるのかと思うほど感覚がずれてしまいそうになる。冒頭から、このテンポに乗せられて、揺れが快感に変わってしまうから、あら不思議。どこへ連れて行かれるかわからないジェットコースターに乗っている気分だ、残響は多めで、ふわふわしており、蝶々が舞っているかのようなブル6と言えばよいだろうか。しかしながら、怒る気分にはならない。ドラマチックなこと、音色が美しく滑らかなこと、テンポ良く乗せられることから、ある程度、快感だと感じる要素が含まれているようで、結果的に許容範囲内に収まってしまうようだ。

第2楽章は、テンポは落ち着いている。絹のようなしっとり感があり、手触り感が良い。ヴァイオリンの響き、金管のまろやかな響きと、フレーズの息の長さ故なのだろう。最後の方は、天上の音楽に近い感覚になっている。第3楽章は、歌うブルックナーという印象を受けた。テンポは速め。第4楽章は、迫力は無いけれど、軽快でメリハリがついてて好ましい。残響が多いせいか、金管はうるさく鳴らず、弦は歌っているし、最後は、盛りあげてくれて終わる、ちょっと作為的な要素も見受けられるが、人肌の温かさや喜怒哀楽を素直に感じられた。これは、この楽曲を聴いて初めて感じた気分だ。ブルックナーの楽曲は、堅牢な構造物や岩のようだと言われたり、神とか宇宙に例えられることが多いが、レーグナーの演奏を聴いていると、もっと身近な存在に感じられる。それが良いのかどうかは、う~ん。何とも言えないが、他の指揮者が振ったブル6とは、少なくともベツモノだと思う。


 ブルックナー 交響曲第6番
Bruckner: Symphony No.6
ゲオルク・ショルティ シカゴ交響楽団 1979年
Georg Solti Chicago Symphony Orchestra

ショルティの演奏は、シカゴ響の金管とティンパニーの重厚な音響に圧倒される。重量級で、スポーツを楽しむようなリズム感が前面に出ており、これはこれで圧倒感の与えるものすごい演奏だと思う。
あまり人気のないブルックナーの6番だが、これ面白い。いつもならホルンの原始霧から始まるが、かすれた神経質そうな弦のカシカシした響きから始まる。不思議なコード進行だなあと聴いていくうちに、恐ろしい音響が響き渡る。金管とティンパニーとセットになったリズムの刻みが凄すぎ。いきなり目の前に戦車が現れ、巨木でもなぎ倒されたようだ。ステレオの装置がティンパニーに早変わりして、まるで目の前で叩かれているような錯覚に陥る。この出だしで、わしづかみにされた感じで、いっぺんに虜(とりこ)になってしまった。ティンパニーが、多少ずれたように響く二拍三連音符の独特のリズムだが、何度か聞き直したところ、「たらん~たたた たらん~たたた」に聞こえた。「だっだ だだだ だっだ だだだ」ではない。口のなかで、このリズムをくりかえすと最後と最初がくっついてしまい「だっただただん」に聞こえてくる。それにしても凄まじい。シカゴ響のブラスはすごいっ。

テンポは遅め。ヴァイオリンのかすれた3連符と、オリエンタル風の香りをまき散らしながら不思議なコードが進行していく。イ長調なのだが、なんだか不思議な雰囲気がある。中央アジアの音楽のような雰囲気というのか。黒々としたドイツの森林のイメージとは異なり、ショルティの演奏で聴くと、湿気漂うジャングルに近いかもしれない。軍隊の行進かと思わせるマーチ風部分と、とろけるような天上の音楽のような旋律が交互にやってくる。ショルティの演奏では、天上には行けないが、人間くさい マッチョな主人公が大活躍する史劇映画のようで、叙事詩や英雄譚に終始している感じがする。

第2楽章は、ショルティの演奏では優美でもないし、天上の音楽には聞こえてこない。フレーズの長さが短すぎて、深々とした、まったりした楽章にならない。荘厳な雰囲気は感じられないし、どうしてヴァイオリンが、こんなに息切れしたように弾くのか、理解に苦しむ。艶のないカスカスの弦の音では、ちょっとダメですよね。第3楽章は、パッセージが短く歯切れの良いスケルツォだ。ノリが良く、粗野な感じは否めないが、まあ想定内だろうか。第4楽章は、やっぱり超パワフルで圧倒的な迫力で迫ってくる。この賑々しさに初めは苦笑気味だったが、楽章が進むにつれ、これぐらい派手に鳴ってくれたら嬉しいと思う。通俗的で、もはやブルックナーとは言えないような気がするが、豪快この上ない演奏で、学生時代は6番はショルティでなくっちゃーと思っていた。ブルックナーの交響曲のなかで、6番って、最も地味だと言われているが、それは違うだろう。少なくとも、このショルティの演奏を聴いたら卒倒するかも。いわばトンデモ盤かもしれないが。

ショルティの演奏は、普通、白眉とされる第2楽章は、さっぱりダメだが、1楽章と4楽章は、ハデハデなパワフルな楽章になっている。若い人が聴くには良いが、血の気が多すぎて辟易する人も多いだろう。熱気ある野趣あふれる演奏だ。独特のリズムと調性は、何度繰り返しても、つかみどころのない癖になりそうな灰汁の強さ。70年代後半で、こんなアプローチをする演奏は、存在しなかったかもしれませんね。なにせインパクトがありました。だから、いろんな演奏を聞き比べるのは面白い、やめられないですね。


 ブルックナー 交響曲第6番
Bruckner: Symphony No.6
オイゲン・ヨッフム シュターツカペレ・ドレスデン 1978年
Eugen Jochum Sachsische Staatskapelle Dresden (Dresden Staatskapelle)

ヨッフムの演奏は、ルカ教会での録音で、強烈なイメージはせず穏やかだ。テンポもゆったりしており丁寧で万人向けという感じがする。弦は広がりを見せるが、金管は飛び抜けてダイレクトに大きく聞こえる。意外なことにシュターツカペレ・ドレスデンの金管の音割れ等がありコケる。このテンポで金管が揃ってないとは大変悲しい。第2楽章は、深々としたアダージョで聴かせてくれる。神々しいとまでは言えないが、優しく慈悲深いので泣ける。総じてまろやかに響き、フレーズは息が深くて長い。ほんわかとしたアダージョだ。この演奏の白眉ともなっている。第3楽章は、トランペットがなんだか危なっかしい。音量の幅と低弦から高音域までのレンジ幅の広いスケルツォで、ホルンと弦の掛け合いが楽しい。中音域も可愛いと感じるフレーズが多い。
第4楽章は、速めのテンポで低弦による推進力が大きい。次第に、各楽器類がバラバラに演奏されているように感じて、まとまりが感じられない。ようやく最後、テンポがあがって、さあ~みんなで演奏しましょうという感じだ。弦は一級品だと思うのだが、コーダ前は、軽妙な感じでヒョイヒョイと奏でているようだが、なんとなく危うさを感じる。要はアンサンブルがイマイチってことなのだが、大雑把なのかなあ~ 意外だった。最後は金管の推進力が勝って、パンと終わってしまう。えっ、あっけない終わり方だ。


 ブルックナー 交響曲第6番
Bruckner: Symphony No.6
ギュンター・ヴァント ケルン放送交響楽団 1976年
Günter Wand WDR Sinfonieorchester Köln (WDR Sinfonieorchester)

ヴァントの演奏は、佇まいのキッチリした楷書体の演奏で勢いがある。ヴァントさんは、晩年、神格化され続々とライブ盤が発売されたが、この演奏は、セッションで、奥行き感や残響があり録音状態も良い。ヴァイオリンの高音域の音色は、天空で響いているような感じがする。ティンパニーは単純に3連符で打っている気がするが、金管は混濁せずに聞こえ、弱音が淀みなく耳に入ってくる。ケルン放送響との演奏は、目立った印象を受けたわけではないが、セッションでありながらも熱い演奏で、じわじわ地熱のごとく湧きあがってくる。
第2楽章は、淀みのない音でピュアな感じがする。弦の艶感は他に譲るが、深々とした息づかいは完成されているように思う。なによりも、高音域でのヴァイオリンは、この世の響きとは思えないほど、彼方から聞えてくるようだ。理屈では説明できない雰囲気がある。音と音の間合いが十分で息づかいが深く浮遊感がある。それでいて堅牢さを持ち合わせた演奏だ。金管の深い響き、弦の重厚な響き、そして、そこに乗って吹かれる木管、高音域の弦は、まるで石造物に施された精密なレリーフのように綺麗に浮かぶ。色彩で例えるから、黒い背景だからこそ、乗せた色が鮮やかに見えてくるって感じだろうか。

第3楽章は、力強いスケルツォの楽章で金管の炸裂がある。また、すごい音量のティンパニーにも圧倒される。テンポを変えず淡々と進んでいくが、木管が綺麗に乗って、引き締まった場面とゆったり描かれる場面を、しっかり書き分けておりメリハリ感がある。急→緩→急→急という4つの楽章だが、この第3楽章の急の部分にも、テンポが異なるものが挟まって意表をつく面白い構成だ。大きな落差を作って、すーっと滝壺に吸い込まれるかのようだ。
第4楽章は、いきなりの音圧と咆哮で驚かされる楽章だ。咆哮の響きのなかで、急流すべりのように滝壺に落ちていく。いったい、いくつの滝壺に落ちて行くのだろう。全く異なる性格の場面が用意され、変わり身の速さがある。強く突き進む勢いを保って進んでおり、多くの熱量を発する熱い演奏となっている。


 ブルックナー 交響曲第6番
Bruckner: Symphony No.6
オイゲン・ヨッフム バイエルン放送交響楽団 1966年
Eugen Jochum Symphonieorchester des Bayerischen Rundfunks (Bavarian Radio Symphony Orchestra)

ヨッフムの演奏は、クリーミーな上質感があり、人肌の暖かみが感じられて文句のつけようがない。ワタシ的には、1978年のシュターツカペレ・ドレスデンとの録音より良いと思う。テンポは、遅くもなく速くもなく進んでいく。品良く迫力があり、淀みなくさらさら流れていく感じがする。カペレのまろやかな響きと異なり、バイエルンの音は、硬質でカッチリ、透明度の高い高音域は、大きく広がる空間感を醸し出す。 尻上がりに調子が出てくるのか、ホルンを初めとした金管と弦の3連符のリズムは、エンジンの回転数が、ぐぐっとあがって濃密な重層感を生んでいく。遠くから響くホルンに弦が絡むところなど、唸るほどの絶品さ。フレーズの展開がスムーズだし、天上にも似た音が響いてくる。う~ん。シアワセ。弦のリズム回転にあわせて金管が吹かれ、合いの手を木管が奏でていく場面でも、起伏の大きさと繊細さが、とてもバランス良い。柔らかいフレーズがとても良いですね。金管は、かならずしも完璧じゃないようだが、トータルでみても良い演奏だと思う。

第2楽章は、木管が深く潜めたような息づかいで進み、低弦がヴァイオリンのフレーズを支えている。テンポは多少速めなのだが、葬送のテーマとされているフレーズになると、ぐっと速度を落とす。淡泊そうに見えて、結構、しっかり味が付いている感じで、低弦の存在が、それとなく引き締めているようだ。上昇していくこうとするパワーとか、雲の上を歩いている雰囲気でもないのだが、懐の深さとほんのりした暖かさを感じる。きっと、それはバイエルンの音の明るさと、木質的な響き、そして息づかいの深さなのだろうと思う。人肌の暖かさを生む、ほんわかした適度な硬さって難しそう。
第3楽章は、心持ち速いテンポで進む。アンサンブルがイマイチだ。他の演奏と比べて重なりが薄い気がする。トランペットとホルンの割れ気味な音が気になる。 う~ん、この楽章はぞんざいな演奏に聞こえる。

第4楽章は、テンポが速い。サラサラ流れる弦と、歯切れ良く吹かれる金管が、推進力になっている。意識的に金管を短く吹かせているのだろうか、弦が主体なので、叙情的な聴かせ処は十分にタメ感がある。上昇するフレーズでテンポがあがり、金管が吹き始めるとエネルギーを放出。で、いったん全休止して、再度、弦がコケティッシュなフレーズを弾き始める。少し軽めで薄口なのだが、これが箸休めにもなっているかなあ。重かったり軽かったりと、忙しい楽章なので、シーソーゲームのように、あっち行ったり、こっち行ったり~ バランスが大事だが、ヨッフムの演奏は、最後になればなるほど軽くなってしまう。「タタッタ タ~タータン」のヴァイオリンの高音での繰り返しが、ちょっと軽めで気になる。ここは、好き嫌いが分かれるかなあ。腰の低い遅めのテンポで、じわじわーっとあがっていくのが普通なのだが、そういう意味では、真逆の果敢なアプローチなのかもしれない。ブルックナーの6番は、後半が弱々しいって言われていたように思うが、う~ん、もしかしたらヨッフムの功罪かもしれない。


 ブルックナー 交響曲第6番
Bruckner: Symphony No.6
オットー・クレンペラー フィルハーモニア管弦楽団 1964年
Otto Klemperer The Philharmonia Orchestra

クレンペラーの演奏は、う~ん,第一印象は悪いのだが、どことなく天邪鬼で面白いかも。テンポは超スローで、弦が、タッタ タタタと、2拍3連符をブキミに奏でる。そのうちに、「タラ~タタタタラ~タタタタラ~タタタタ」に変わってくるのだが、まだまだ遅いのである。このテンポの遅さに冒頭から驚かされるのだが、2拍3連符の拍の調子は、きっちり弾かれていると思う。口ずさんでいるうちにテンポがずれる感覚に陥る変なリズムだが、当時としては、これぐらいの遅いテンポでないと、正確には刻めなかったのかもしれない。
ブキミに弦がガシガシと弾き出すと、一歩一歩の重量感が半端なく、苦いモノを噛みしめているように渋い。とにかく渋すぎて違和感が大きい。めちゃくちゃ堂々とした演奏なのだが、あれれ~と思うようなところでアンサンブルが微妙になったり、ティンパニーとフレーズがずれている気がしたり、これも違和感がある。のびやかなフレーズにおいても、むっつり。その内に、テンポは遅いが、録音状態が良く、明瞭なリズム感で綺麗に聞こえ、押しても引いても、びくとも動かない頑丈さと勇壮さにのめり込んでしまった。

第2楽章は、天上の音楽とはいかない。地面にしっかり足が、しっかりと貼り付いている感じで、どちらかというと黄泉の国の誰かさんと、ご対面~って感じがする。暗くて重々しくも美しいというゲニ恐ろしき世界だ。
第3楽章は、テンポは遅め。速くなると思っていたのに、リズムをしっかり刻んだ勇壮なスケルツォに仕上がっている。弦と金管が同じフレーズを演奏する場面もみごとに決まっている。なんと言ってもコントラバスの響きが、ものすごく大きく迫力満点。テンポは遅いが躍動感にあふれている。
第4楽章は、とにかく堂々としすぎるぐらい堂々としており、驚くほど伸びやか。テンポは揺らさないが、煽り気味に盛りあげて終わる。総体的には、硬さと柔らかさ、外はカリッ、中はジューシーという美味しい揚げ物のようだ。 繰り返して聴いているうちに、硬い、重い、遅い、とっつきにくいというのが好ましいように感じられてくるので不思議だ。この楽曲とクレンペラーの相性が良いのかもしれない。この偏屈で天邪鬼の聴き手(我が輩)にとっては、面白く感じられる演奏だった。



ブルックナー 交響曲第6番
1964年 クレンペラー フィルハーモニア管弦楽団 EMI ★★★
1966年 ヨッフム バイエルン放送交響楽団 G ★★★
1976年 ヴァント ケルン放送交響楽団 R ★★★
1978年 ヨッフム シュターツカペレ・ドレスデン EMI ★★★
1979年 ショルティ シカゴ交響楽団 Dec ★★★★★
1980年 レーグナー ベルリン放送交響楽団 Berlin Classics ★★★
1980年 カラヤン ベルリン・フィル G ★★★
1981年 サヴァリッシュ バイエルン国立管弦楽団 Orfeo ★★★★
1982年 ライトナー 南西ドイツ放送交響楽団 Hanssler ★★★★★
1988年 ムーティ ベルリン・フィル EMI ★★★★★


 

YouTubeでの視聴

ブルックナー 交響曲第6番
Symphony No. 6 in A major
リッカルド・ムーティ - トピック Riccardo Muti - Topic ムーティ ベルリン・フィル
Provided to YouTube by Warner Classics
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=4xhF-asKNQk
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=5vDqBDr488c
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=jpPcOrxACXA
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=39nm5wI91R8


Bruckner Symphony No. 6 in A Major, WAB 106
SWR Sinfonieorchester des Südwestrundfunks - トピック ライトナー 南西ドイツ放送交響楽団
Provided to YouTube by NAXOS of America
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=IpmaeVxyXyY
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=oi2HTsBnvXQ
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=VtRNd9bzyLM
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=hp9QIHchqsA


Bruckner Symphony No. 6 in A Major, WAB 106
バイエルン放送交響楽団 - トピック サヴァリッシュ バイエルン国立管弦楽団
Provided to YouTube by NAXOS of America
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=ylCn43drIPI
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=1A5MGYol5D0
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=I0e5FxWEnW4
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=mdpDcwssxpw


Bruckner: Symphony No.6 In A Major
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 トピック カラヤン ベルリン・フィル
Provided to YouTube by Universal Music Group
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=QvqYeG-CcIM
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=19CVf37Epns
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=05rmXP0ytEg
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=wBkPIWjl2jw


Bruckner Symphony No. 6 in A Major, WAB 106
ベルリン放送交響楽団 - トピック Berlin Radio Symphony Orchestra - Topic レーグナー
Provided to YouTube by Kontor New Media GmbH
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=V4f3w78q-qE
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=2NN1nFqy5fs
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=Lmye3RK11jo
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=jyNUnqMA3gA


Bruckner: Symphony No. 6 In A Major, WAB 106
シカゴ交響楽団 トピック  ショルティ シカゴ響
Provided to YouTube by Universal Music Group
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=h9yOc5HQk1I
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=eDcepGbKWps
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=TSXd2UohPDk
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=jS9gldDnzR8


Bruckner Symphony No. 6 in A Major
シュターツカペレ・ドレスデン - トピック ヨッフム シュターツカペレ・ドレスデン
Provided to YouTube by Warner Classics
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=mmV4e5_86ZY
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=10E_f1k-F94
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=-7DjjN2qr0o
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=xNk9IIPGKw0


Anton Bruckner: Sinfonie Nr. 6 mit Günter Wand (1996)
NDR Elbphilharmonie Orchester
NDR Klassik Schleswig-Holstein Musik Festival 1996, Musik- und Kongresshalle Lübeck 
動画は、1996年、シュレースヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭における演奏です。
ヴァント NDR響
https://www.youtube.com/watch?v=kYiK1lJ4sQI


Bruckner: Symphony No. 6 In A Major, WAB 106
オイゲン・ヨッフム - トピック バイエルン放送交響楽団
Provided to YouTube by Universal Music Group
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=IBmr0mmhOWA
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=gnGa1ayZGCg
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=PZNo9f1Cquo
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=oGGc1gVb6Xw


Bruckner Symphony No. 6 in A major
オットー・クレンペラー - トピック フィルハーモニア管弦楽団
Provided to YouTube by Warner Classics
Deucalion Project(第3楽章と第4楽章)
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=0dMSSiekBE0
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=EdFfjsrVdYI
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=UCDohcWOPps&t=1902s
第4楽章 https://www.youtube.com/watch?v=UCDohcWOPps&t=2465s


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