ベートーヴェン 劇付随音楽「アテネの廃墟」序曲、序曲「プロメテウスの創造物」

 ベートーヴェン 劇付随音楽「アテネの廃墟」序曲
Beethoven: Overture "Die Ruinen von Athen"
オイゲン・ヨッフム バンベルク交響楽団 1985年
Eugen Jochum Bamberger Symphoniker (Bamberg Symphony Orchestra)

ヨッフムさんの演奏は、デジタル録音のリマスタリング盤である。晩年のベートーヴェンの演奏になる。柔らかい音質のバンベルク響なので、ガツガツしたエッジの鋭い演奏ではない。ふくよかな中年の色香の漂う女性のようで、捨てがたい魅力を持っている。馥郁とした昔ながらの古風な上品な香りのする演奏で、劇的な要素が強く残響がまろやか。
この楽曲の冒頭は、ブキミでホラー映画のように不協和音が奏でられる。人々の恨みが積もった廃墟に佇んでいる。で、ホルンの響き、木管のフレーズが、これほど不安定で、どろっとしたものになっており驚かされる。穏やかに牧歌的に使われる楽器のはずが、なんだこれはと仰天させられるのだ。いやー 斬新すぎる。で、廃墟に陽が昇ってくると、やわらかな陽射しに変わる。ゆったりとした序奏のなかなから、穏やかな柔らかいオーボエが登場してくるのだ。バンベルク響のオーボエの音色は、とても清潔だ。そこから、モーツァルトのオペラのように可愛く演奏される。柳のようにしなやかで、綺麗にフレーズが続いている。旋律の柔らかい曲線が、ふわーっとした空気感を漂わせ、中音域の弦が良い響きと絡みあっていく。弦のハーモニーも美しくハモっており、心地よいものだ。録音状態は、決して褒められたモノではないが、音の質としては柔らかく可愛い。隠し味のように味を締める木管、高音域のヴァイオリン語尾がピンっと跳ねている。アルトの声、ちょっと太めの声でビブラートで喋られると、ぞくっとするほど色気を感じることがあるが、このオケの中音域は、そのアルトの声の雰囲気に、少女のような可愛さ要素を、ちょっと一滴足したような感じの演奏になっている。落ち着いてて穏やか。まるで、奈良・秋篠寺の「伎芸天」のような、腰の線はゆったり、顎の線も、ぷっくりしているような色香、ここに包み込まれそうな感じの演奏である。早い話が、中年女性の魅力に近い演奏。

カップリング:ベートーヴェン序曲集 全7曲 エグモント序曲、アテネの廃墟序曲、プロメテウスの創造物序曲、序曲コリオラン、フィデリオ序曲、レオノーレ序曲1番、同3番


 ベートーヴェン 劇付随音楽「アテネの廃墟」序曲
Beethoven: Overture "Die Ruinen von Athen"
ハインツ・レーグナー ベルリン放送交響楽団 1982年~83年
Heinz Rögner Rundfunk-Sinfonieorchester Berlin(Berlin Radio Symphony Orchestra)

レーグナーの演奏は、軽やかだが自然派のさりげない美しさ。まろやかで適度に歌い、劇的な感じがして盛り上がる。いや~やっぱプロですねえ。渋い匠の技満喫という演奏だ。レーグナーさんのベートーヴェン序曲集は、全部で9曲収録されている。ベートーヴェンの序曲のなかでは、「アテネの廃墟」ってあまり知らないし人気がない。さらりと描かれた小品でありながら、描写力は高く、主人公が女神さまだからか、女性的な優しいフレーズが詰まっている。
冒頭は、ホラー、スリラー映画のようだが、すぐに展開して明るい雰囲気に変わる。これが廃墟の悲しさだという。聴きどころは、弦のフレーズと牧歌的なホルン、透き通るオーボエのフレーズで、とても印象に残る。シンプルな3つの音があるだけ。アテネの廃墟が幻想的な舞台となり、女神さま登場と言われたら信じちゃいます。

さて、この「アテネの廃墟」(Die Ruinen von Athen)は、アウグスト・フォン コッツェブー(August von Kotzebue)の戯曲が元になった付随音楽である。この序曲と、ピアノに編曲されたトルコ行進曲ぐらいしか、今は、ほとんど演奏されていないらしいが、もったいない感じだ。メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」に負けないぐらい、軽やかで、とっても楽しい楽曲の幕開けって感じがするんですけど。で、どんなストーリーなんだろうと、ウィキペディア(Wikipedia)で調べてみたら、「知恵の女神ミネルヴァは、ソクラテスに対する嫉妬心から裁判所で彼を弁護をせず、その罪として彼女はゼウスによって、2千年の眠りにつかされる。2千年後、眠りから覚めた時、メルクリウスによって、アテネに連れていかれる。が、愛するアテネは、トルコに支配され瓦礫と化していた。ローマもにた荒廃ぶりだと教えられ、メルクリウスによれば、ミューズたちは、ハンガリーのペストへ逃れたという。そこで、ミネルヴァとメルクリウスはペストへ旅立ち、この地で人間が神々とミューズたちに忠誠を尽くしているのを見出す・・・」とのこと。ペストって、ハンガリーのブタペストのことだが、作曲の理由が、この地の劇場のこけら落としのお祝いのために作られたモノだから~ まっ 当地を持ち上げておかないといけないってワケだろうか。アテネとブタペストねえ。えらい違いやんとは思うが~ 最後は、ハンガリーのフランツ一世を讃えることになるらしいので、作曲家も、パトロンさまたちには、媚びを売らないと・・・。作曲家も、ツライ商売なんだろう。

この序曲「アテネの廃墟」「シュテファン王」「命名祝日」の3曲は、ほとんど同時期に創られている。実際、シュテファン王も、同時に発表されたんだっけ。シュテファン王の方も、親しみやすい楽曲だが、晴れやかで、お祝い用という感じがします。祝祭劇って言う言葉が本当に、ぴったりの序曲。いつ聴いても、朝の陽射しのなかで、鳥がさえずりっている。特に、ホルン、オーボエが、フルートが「らどれ みっどしらぁ~ らしどっ みどしらぁ~」「れみ ふぁっれっどし~ しどれ れっしら そぉ~」というフレーズを奏でるところは、やっぱり絶品。中間部は、ファゴットとフルートの二重奏、弦よりホルンに木管が大活躍する。涙が浮かんでしまうぐらい巧いっ。極上の4分49秒の演奏である。
カップリング:コリオラン、エグモント、アテネの廃墟、シュテファン王、命名祝日、献堂式、レオノーレ3番、フィデリオ、プロメテウスの創造物 全9曲


 ベートーヴェン 劇付随音楽「アテネの廃墟」序曲
Beethoven: Overture "Die Ruinen von Athen"
ヘルベルト・フォン・カラヤン ベルリン・フィル 1965年
Herbert von Karajan Berliner Philharmoniker(Berlin Philharmonic Orchestra)

カラヤンの演奏は、快速で響きもまろやかだが、意外とコクが薄めのような気がする。冒頭 ボンっという低弦の響き、間を置いてという木管の薄気味悪い響きが続く。幽霊でも出てきそうなアテネの廃墟だ。序奏部は、大変重々しく遅い。レーグナーの演奏が、さらりと流れていたのに比べて、ものすごく暗くて気持ち悪いほどに不気味だ。やっぱホラー映画のようで、ゴツゴツとした荒れた廃墟に、岩肌の間を亡霊が佇んでいるかのようだ。その後、オーボエが一筋の光が差し込んでくる。テンポは遅めだが2度目の繰り返しになると快速に変わる。女神が寝ている間にトルコに占領され、意気消沈していたのだろうか。フルートが入ってくると一気に明るくなる。フルートが入ってきたということは、ミネルヴァ神がお目覚めになり、祝祭が始まりましたという感じになる。
劇作家コッツェブーの祝祭劇「アテネの廃墟」が、イマイチわからないだけに、どこかワタシのなかでは未消化だ。アテナイ(ギリシャのアテネの古い呼び名)の守護神は、アテナだった筈。あれっ ミネルヴァだっけ? と、思ってウィキペディア(Wikipedia)で調べてみたら・・・あっ そうでした。アテナ=ミネルヴァでした。ギリシャ神話でゼウスは、ローマ神話だとユピテル(=ジュピター)になるのと同じ。
ミネルヴァ神(=アテナ神)さまは、知恵の象徴である、梟フクロウを携えておられるが~ 黄金の武具を身につけて、人々に勇気を与え、戦争での勝利を導くという戦いの神さまでもある。ミネルヴァが2千年後、眠りから覚めた時、メルクリウスによって、アテネに連れていかれる。 ということになっているが、このメルクリウスは、ヘルメス(=マーキュリー)でした。この神は、商業の神でもあるが、いずれも、軍神に近い存在ですねえ。カラヤンの演奏は、テンポが遅めで劇的効果を狙っていたようにも思うが、落差が大きく、ちょっと腑に落ちませんでした。そのわりには、ちょっとコクが薄めだったかもしれません。
カップリング:ベートーヴェン序曲集全11曲2枚組BOX


 ベートーヴェン 序曲「プロメテウスの創造物」
Beethoven: Overture "Die Geschöpfe des Prometheus(Prometheus)"
クラウス・テンシュテット ロンドン・フィル 1984年
Klaus Tennstedt London Philharmonic Orchestra

クラシックを聴きだして結構な年月が経っているが、恥ずかしい話ながらベートーヴェンが、バレエ音楽を作曲していることは知らなかった。ベートーヴェンの序曲集にバレエ音楽「プロメテウスの創造物」って書いてある。えっバレエ? 勝手にオペラの序曲だと思っていた。この曲、結構ノリノリの楽曲だ。冒頭の和音は厳かだが、以降は、弦が細かく振動し、木管群が小鳥のように囁きながら、付点のリズムが軽やか。テンシュテットさんの演奏も、付点のリズムに乗って軽やかに走って行く。
イチバン可愛いのが、フルートのフレーズ 「どそどみ そぉ~ っそ ふぁみふぁ れふぁらし らそふぁ~」で、この飛び交うフレーズと、なだらかなレガートの組み合わせが、とても可憐だ。「っそ そぉ~そ ふぁみれど」「ど み どっ」この単純な音の組み合わせなのだが、悶絶するほどのシンプルかつ可憐さ。効果絶大である。
特に、テンちゃんの演奏が素敵だというわけではないが、軽快で4分55秒に、楽しさが凝縮してて、フルートの軽やかな音色に絶賛してしまいました。 メチャ軽快で楽しい楽曲なので、演奏会の幕開けに持ってこいです。


 ベートーヴェン 序曲「プロメテウスの創造物」
Beethoven: Overture "Die Geschöpfe des Prometheus(Prometheus)"
オトマール・スウィトナー シュターツカペレ・ベルリン 1981年
Otmar Suitner Sächsische Staatskapelle Berlin (Staatskapelle Berlin )

スウィトナーの演奏は、和音の響きが美しい。しなやかで軽やかに推進力の高い演奏で、モーツァルト風って感じ。序曲集は、ベートーヴェンもモーツァルトも大好きである。軽快でアンサンブルは巧いし、残響も適度にあり、特に弦の推進力、愉悦性が高い。ティンパニーの威力も凄まじく、劇的な効果も高い。言うことなし~なのだ。プロメテウスの創造物も、最初の和音が美しく、そして怖いこと。ティンパニーが、力強く面白いほどによく鳴っている。全奏でのハーモニーは渋いが、和音の力強さと共に残響が、すわーっと広がって行く。この音の広がりが、なんとも言えない心地よさ。上に昇っていくフルート、地面を揺るがすティンパニー、この立体的な広がり感は言葉に表現しきれない。木管は艶っぽく、膨らみ感が絶妙だし、ソロになると本領発揮し、ホンモノの鳥のように歌う。フルートに心が震えそうだ。弦のしなりも美しく、耳のご馳走であることに間違いなし。思わずモーツァルトかと思ってしまうほど、今時、こんな美しいベートーヴェンを聴けるなんてと、大喜びしてしまった。
誤解を恐れずに言うと、古楽器の演奏なんて耳にツンツン、あんな尖った音は刺激的すぎて、とても好きになれない。スウィトナーさんの演奏に比べると月とすっぽん、あれは騒音だと一喝したくなる。(ごめんなさい)
カップリング:エグモント序曲、コリオラン序曲、プロメテウスの創造物、レオノーレ序曲、フィデリオ


 ベートーヴェン 序曲「プロメテウスの創造物」
Beethoven: Overture "Die Geschöpfe des Prometheus(Prometheus)"
ヘルベルト・フォン・カラヤン ベルリン・フィル 1969年
Herbert von Karajan
Berliner Philharmoniker (Berlin Philharmonic Orchestra)

録音状態は良い。カラヤン盤で聴くと、さすがに語り口が巧いというか、幕開けの様相が出ていて、冒頭の音の間合いが、ん?と思った瞬間に次ぎの音が出てくる。ほんのちょっと、待たせる語り口が憎いのである。で、そこから先は、流麗なフレーズで、さらさら~っと音が流れ出す。プロメテウスって、みなさんもご存知のとおり、ギリシャ神話の登場人物である。

Wikipediaの記述を元にすると、ゼウスの反対を押し切って、天界の火を盗んで人類に与えた存在として知られる。最近は、プロメテウスではなく、プロメーテウスと表記されているらしい。で、左の絵画は、プラド美術館所蔵のヤン・コシエールの絵画「火を運ぶプロメテウス」だ。ゼウスが、人間と神を区別しようと考えた際、プロメーテウスはその役割を自分に任せて欲しいと申し出た。
大きな牛を殺して2つに分け、1つは、肉と内臓を、食べられない皮で包み、もう1つは、骨の周りに脂身を巻きつけて美味しそうに見せた。そして、ゼウスを呼ぶと、どちらかを神々の取り分として選ぶように求めた。
プロメーテウスは、きっと、ゼウスが美味しそうに見える脂身に巻かれた骨を選ぶだろう。人間の取り分は、美味しく、栄養のある肉や内臓になるようにと策を巡らせていたようである。ゼウスは、すっかり騙され、脂身に包まれた骨を選び、怒って人類から火を取り上げたという。プロメーテウスは、寒さに怯える人類を哀れみ、火があれば暖をとることができ、調理も出できると考え、ヘーパイストスの作業場から火を盗み、オオウイキョウ(地中海に生息しているセリ科の多年草)に火をともして、地上の人類に持ち帰ったそうである。後に、プロメーテウスは、罰として、鷲に肝臓を啄まれることになるのだが。
ベートーヴェンは、粘土から人類を創造するために、ゼウスから火を盗んだプロメーテウスの神話に基づき、バレエのなかで、音楽や芸術を人に教えてくれたプロメーテウスへの感謝の気持ちや、人の無知、愚かさ等を描こうとしていたのかもしれないですね。ちょっと、その点は不勉強で解りませんが、カラヤン盤の演奏する序曲のなかでは、英雄を描いているかのように聞こえます。題材が、ギリシャ神話なので壮大すぎますが、後年、リスト、スクリャービン等もプロメーテウスを題材として作曲しているので、機会があればお聞きください。
カップリング:ベートーヴェン序曲集全11曲 2枚組BOX



ベートーヴェン 劇付随音楽「アテネの廃墟」序曲
1965年 カラヤン ベルリン・フィル G ★★★
1983年 レーグナー ベルリン放送管弦楽団 DS ★★★★★
1985年 ヨッフム バンベルク交響楽団 R ★★★★

ベートーヴェン 序曲「プロメテウスの創造物」
1969年 カラヤン ベルリン・フィル G ★★★
1984年 スウィトナー シュターツカペレ・ベルリン De★★★★★
1984年 テンシュテット ロンドン・フィル EMI ★★★★
未聴盤もありますが、まだ整理できていません。(謝)

プロメテウスの創造について、ウィキペディア(Wikipedia)で調べてみたら、「プロメテウスの創造物」(Die Geschöpfe des Prometheus)は、ベートーヴェンが作曲したバレエ音楽。現在は、もっぱら序曲のみが演奏される。ベートーヴェンは、生涯で2作のバレエ音楽を残している(もう1作は「騎士のバレエ」WoO1)。作曲の詳しい経緯は知られていないが、振付師のサルヴァトーレ・ヴィガノー(Salvatore Viganò)との密接な協力によってこのバレエ音楽が生まれ、1800年から翌年にかけて作曲された。ウィーンのホーフブルク劇場で初演され、好評を博したと伝えられている。しかし、現在は序曲以外ほとんど演奏されることはない。
ベートーヴェンは、バレエを、ドラマと舞踊と音楽の緊密な結びつきを実現しようとし、当時、彼がバレエ音楽として舞台にかけたとき、きわめてモダンな意図が秘められていた。そしてこの音楽は、当時既に詩人ゲーテとシラーのあいだで論議されていた、一種の「総合芸術作品」としての趣をもつ例となった。ベートーヴェンは作品の中にあるプロメテウスの素材をその後も活用した。交響曲第3番、エロイカ変奏曲などに、このバレエ音楽で用いた音楽的な素材を流用している。・・・とのこと。ワタシ、軽快で楽しい楽曲があるなんて知らなかった。目から鱗状態です。


 

YouTubeでの視聴

Beethoven: The Ruins of Athens, Op. 113
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 - トピック カラヤン アテネの廃墟
Provided to YouTube by Universal Music Group
https://www.youtube.com/watch?v=yNz6hM84jCo

Beethoven Die Geschöpfe des Prometheus, Op. 43: Overture
London Philharmonic Orchestra テンシュテット ロンドン・フィル プロメテウスの創造物
Provided to YouTube by Warner Classics
https://www.youtube.com/watch?v=Ky2jZrtnvQ4


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