ベートーヴェン ウェリントンの勝利、序曲「コリオラン」 Beethoven: Overture "Coriolan"

 ベートーヴェン ウェリントンの勝利またはビトリアの戦い
Beethoven: Wellingtons Sieg oder die Schlacht bei Vittoria
ヘルベルト・フォン・カラヤン ベルリン・フィル 1969年
Herbert von Karajan Berliner Philharmoniker (Berlin Philharmonic Orchestra)

ウェリントンの勝利という作品は、戦争交響曲とも呼ばれているようだ。番外編という感じの楽曲で、演奏機会はあまりない。(というより演奏が不可能なのかもしれない)というのも、チャイコフスキーの序曲1812年は、野外で大砲(空砲)をぶっ放すシーンがあるが、ベートーヴェンのこの曲は、歴史モノの映画に出てくるような歩兵が持っている細身の銃である。鉄砲の弾が飛び交うシーンがあるのだ。カラヤンの演奏では、野原での歩兵軍団の銃撃シーンが、音として? 収録されているようだ。そこまで、こだわって全集にしなくても良いだろうが、とても珍しい楽曲である。
ウィキペディア(Wikipedia)を元に記述すると、1813年6月、スペインにおけるビトリアの戦いで、初代ウェリントン侯爵アーサー・ウェルズリー率いるイギリス軍が、フランス軍に勝利したことを受けて、ウェリントン侯を讃える曲としてベートーヴェンが作曲したものだそうだ。前半は、ビトリアの戦いを再現したもので、左右からそれぞれの行進ドラムと進軍ラッパに続いてイギリス軍を表す「ルール・ブリタニア」と、フランス軍を表すフランス民謡「マールボロ将軍は戦争に行く(マールボロ行進曲)」が登場する。激しくぶつかり合い、やがてフランス軍が撤退していくというもの。後半は、イギリス軍の勝利を祝う華々しい凱歌(イギリス国歌の変形、原型)が演奏される。
演奏時間は約15分。Wikiを見ていると、マゼールやドラティ盤もあるようだが、ワタシは、このカラヤン盤しか聴いたことがない。クラシック音楽を聴くというよりも映画のワンシーンのようだ。激しい銃の音が、うるさいぐらい収録されている。堅物で真面目なベートーヴェンのイメージが崩れそう。いや試作品というような作品でしょうか。


 ベートーヴェン 序曲「コリオラン」
Beethoven: Overture "Coriolan"
ダニエル・ハーディング ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン 1999年
Daniel Harding Die Deutsche Kammerphilharmonie Bremen

ハーディングさんは、ラトルの路線を進むのだと思っていたのだが、2019年、指揮者としての仕事をお休みして、パイロットとしてエールフランスに就職したという。天は二物を与えてしまったらしい。ベートーヴェン序曲集のCDを購入した際、ジャケット写真を拝見したら、なんともヤワで貧弱そうで線の細いエリートのようで。しかし、コリオラン序曲の格好の良いこと。畳みかけてくる勢いの良いことと、スピード感がたっぷりあって、それはそれはスマートに決まっている。ティンパニーの響きは硬めだが、残響も適度にあり、細めの線ながらノビがあり、直線的な弦の響きが綺麗だ。ピチピチした勢のある演奏だと思う。
残響たっぷり、インパクトのあるティンパニーの響きが重なる。「ふぁ~(ドンっ)み そらそら ふぁ~(ドンっ)み そらそら し~(ドンっ)ら どれどれ~」と、ガツンと一発入ってくるのである。弦の語尾にキレがあり、切れる響きを持っている。ドンドンっと鳴るティンパニーと奥から聞こえる金管の咆吼、んパパァ~ んパパァ~っと付点のリズムのなかで、どろどろ~っと地響きのように転がる低音の響きが面白い。重戦車軍団のような響きを持ちながら、槍を持って突き進む歩兵軍団が間に挟まって、軍勢が快進撃を続けているかのようだ。うえに伸びようとする柔らかいフレーズと、打ち下ろしてくる音、ところどころで弾む音が、クロスしながら進んでいる。ベートーヴェンのコリオランって、こんなに面白かったっけ。ちょっと目から鱗状態だった。
オケの機能が十二分に発揮され活き活きした演奏である。
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 ベートーヴェン 序曲「コリオラン」
Beethoven: Overture "Coriolan"
クラウス・テンシュテット ロンドン・フィル 1984年
Klaus Tennstedt London Philharmonic Orchestra

テンシュテットさんの振るベートーヴェンって、悲痛で恐怖感の漂うすごみのある演奏だろうと予想していたが、冒頭こそ怖いものの、わりとスマートで潔さ、清々しい演奏だ。金管の残響もほどよく入っておりフレーズに推進力を感じる。勇壮さもまろやかさも感じられる。グロテスクなほどに怖い演奏かと思っていただけに、ちょっと拍子抜けしたぐらい。歌心もあり気持ちが良い。ンチャチャ ンチャチャと、弦に揺のある風合いがあり、歌い、そしてアクセントのついたリズムが生まれている。粘りが少なめの演奏だが、躍動感があり、長く伸ばす音には、ふんわり感もある。伸ばす金管にも開放感があり、なかなかに味のある役者だという感じ。カラヤンのような勇壮で劇的な効果がある演奏ではないが、さりげない脇役的演技で決められちゃっている感じがする。
主人公の心情的をえぐり出す演奏ではないが、金管の響きが揺らぎ、弦の響きが揺れ、涙声のように聞こえるのが印象的だ。古代ローマの英雄「コリオラヌス」を主人公にした劇の序曲だが、 そこからイメージされるような筋肉質な演奏でもない。もちろん、コロッセオの拳闘士のようなグラディエーターでもなく、スパルタカスでもない。意外や意外、どことなくオンナっぽく、女形のような色気さえ感じる不思議な演奏となっている。
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 ベートーヴェン 序曲「コリオラン」
Beethoven: Overture "Coriolan"
オトマール・スウィトナー シュターツカペレ・ベルリン 1981年
Otmar Suitner Sächsische Staatskapelle Berlin (Staatskapelle Berlin )

スウィトナーさんの演奏は、まろやかに深く聞こえる。低弦の響きも充分で、冒頭「らそふぁみ~」木管の音色が神妙で、続く金管の和音には悲愴感が感じられるが、木管の柔らかい残響が明るさを持っているため色彩がくすんでしまわない。ひいきの引き倒しではないと思うが、硬いとかゴツイとかというイメージの次元ではなく、オペラの幕開けのような感じがする。カラヤンのような歯切れの良さと、キッパリした口調、壮大さは持っていない。音と音の間合いにおいて、さて、何が始まるのだろうというワクワクした期待感が感じられる。お仕着せでない自律的なワクワク感なのだ。それが生まれる時間が聴き手には必要だ。
テンポは、ややゆったり。英雄コリオラヌスっていうマッチョな筋肉質の主人公ではない。モーツァルト風に聞こえるっていうと、ちょっと誤解を生むかもしれないけれど。アハハ~ いやいや正直申し上げて、モーツァルトの序曲集を聴いているよう。
「たららら たらら たららら~っ」と、フレーズが動くところは小気味よく。ティンパニーによって軽快な推進力が生まれる。ヴァイオリンの刻む音は、特筆すべき事柄で、芯はあるが柔らかいという耳のご馳走で、思わずニンマリ笑ってしまう。木管のソフトな音にも鷲づかみされてしまう。お米を炊いた時に、米が立っているという表現が使われるが、それと同じ気持ち。
ベートーヴェンのわりに柔いではないか~と言われるかもしれませんが、ワタシは好きですぅ。
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 ベートーヴェン 序曲「コリオラン」
Beethoven: Overture "Coriolan"
クリストファー・ホグウッド エンシェント室内管弦楽団 1987年
Christopher Hogwood Academy of Ancient Music

ホグウッドの演奏は、響きにどこか湿気が感じられて重めである。冒頭は、弦にキレがあり、ごごごぉ~という残響が適度に入っている。総体的には細身だが、他盤と比べて勢いがあり、シャープでスポーティな演奏だ。でも、ホグウッドの演奏は、ピリオド演奏になれた耳で聞いても、ちょっと軽量級という印象を受けるのではないだろうか。
リズミカルで瑞々しさもあり、多少の愉悦感も感じるのだが、ところどころ、アンサンブルの縦ラインが合ってるのか怪しげに感じるほど、前につんのめった感じがする。アクセントがついて速めに演奏されており、ティンパニーのスパイスも効いているのだが、金管の音だけは、どうもワタシには違和感を感じてしまう。金属片が詰まっているような耳に突き刺さる。古楽器演奏なので、現代の楽器とは違う響きなのは認識しているが、どうも苦手だ。弦の動きは、ンチャチャ ンチャチャと、見えるかのように楽しいが、ティンパニーや木管は、スケスケしすぎ。また、ごごぉぉ~「ら~ど しどしど れぇ~ど しどしど れぇ~ど しどしど」だと後ろの「しどしどっ」が、バタバタ気味に聞こえる。う~ん、どうも草食系男子ローマの将軍コリオラヌスさまという印象だ。
カップリング:ベートーヴェン 交響曲第6番、序曲「コリオラン」、「エグモント」序曲


 ベートーヴェン 序曲「コリオラン」
Beethoven: Overture "Coriolan"
ヘルベルト・フォン・カラヤン ベルリン・フィル 1969年
Herbert von Karajan Berliner Philharmoniker (Berlin Philharmonic Orchestra)

カラヤンの演奏は、昔からお世話になったもので、あまりボロクソに言えない。歯切れの良さと有無を言わせない壮大さを持っている。拍を幾分長めにとって残響も適度もある。リマスタリング盤であり、イエス・キリスト教会での録音とのことで響きは豊かだ。
金管の高いところが、ちょっと硬く強めだが、残響の豊かさに消され、流れに呑み込まれていってしまう。悲劇というより英雄色の濃い演奏で、それはそれは筋肉質で、活力ある壮年という風格を立派に表している。カラヤンの60年代の録音なので、活き活きとした雰囲気を持っており、優美なフレーズ「らーしらそみど どーれど~し らーしらそみど どーれどし~」というところは、なだらかで滑りが良いが、後年のように、レガートをかけまくりという状態ではない。引き締まった体躯で、キリリと品が良い。
テンポをあげず、きっちりと歩んでいくところも王者の風格だ。ヴァイオリンの高音は、他の弦の厚みと奥のティンパニーの響きのうえで、華麗に歩いて行く。教会の響きの良さもあり、低弦の重量感が揺れるさまは大変楽しい。主題が変わるところのちょっとした間合いや息づかいにも惚れ惚れ。冒頭のフレーズが戻ってくる際の金管の入り方も巧いです。最後の静かに終わるところも、たっぷり長めに時間をかけて、はりつめた緊張感のなかで終わる。やっぱりこの役者は巧いです。やられました。

カップリング:ベートーヴェン序曲集全11曲 2枚組BOX 
コリオラン、レオノーレ序曲第3番、フィデリオ序曲は1965年録音、その他は1969年録音である。
ディスク1:プロメテウスの創造物、シュテファン王、アテネの廃墟、エグモント序曲、コリオラン序曲、命名祝日序曲、献堂式序曲 ディスク2:レオノーレ序曲第1番、第2番、第3番、フィデリオ序曲、ウェリントンの勝利「戦争交響曲」


 ベートーヴェン 序曲「コリオラン」
Beethoven: Overture "Coriolan"
クルト・マズア ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1972年
Kurt Masur Gewandhausorchester Leipzig (Leipzig Gewandhaus Orchestra)

マズアさんの演奏は、重々しく悲劇性の強いフレーズで始まる。録音状態はまずまずで、残響は豊かで暖かみのある響き。さほどキレは良くないがスピード感はあり。ゲヴァント管なので、重々しい低弦ガリガリ音をたてて演奏するのかと思っていたが、意外と軽め。それなりに重いが重層的に響くという感じがしない。どこか、くぐもっているため、ティンパニーは迫力が薄い。「しっふぁみっしっ らっふぁれっ どっふぁれ・・・」と続く主題のなかで、チャチャチャと鳴る弦の、木管の響きは、ダメ押しする強さが足らない。英雄コリオラヌスという感じはぜず、凡庸なる将軍レベル。最後の方になって鞴のように低弦が唸ってきたが、ぐぐぐ~と底から湧き起こるようなパワーがないのでモノ足らない。やっぱ緩いかなあ。う~ん、響きが溶け合わないというか、録音状態がイマイチなのか、弦の響きが立体的ではなく、歯抜け的って言っちゃマズイが、ゲヴァントの低弦が(コントラバスだと思う)分離しているかのように聞こえる。
カップリング:交響曲、序曲集 90年代にも全集録音をしているが聴いたのは旧録音である。



ベートーヴェン ウェリントンの勝利またはビトリアの戦い
1969年 カラヤン ベルリン・フィル G ★★★★

ベートーヴェン コリオラン序曲
1965年 カラヤン ベルリン・フィル G ★★★★
1972年 マズア ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 V ★★★
1981年 スウィトナー シュターツカペレ・ベルリン De ★★★★★
1984年 テンシュテット ロンドン・フィル EMI ★★★★
1987年 ホグウッド エンシェント室内管弦楽団 Dec ★★★
1999年 ハーディング ドイツ・カンマーフィル Virgin ★★★★★
未聴盤もありますが、まだ整理できていません。(謝)


 

YouTubeでの視聴

Beethoven: Wellington's Victory or the Battle Symphony, Op. 91
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 - トピック  カラヤン ベルリン・フィル 
Provided to YouTube by Universal Music Group
https://www.youtube.com/watch?v=0jN3ZDnt-5c

Beethoven Coriolan Overture, Op. 62
ダニエル・ハーディング - トピック バーミンガム市響
Provided to YouTube by Warner Classics
https://www.youtube.com/watch?v=Yu-1Ai387_4


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