ベートーヴェン 序曲「エグモント」 Beethoven: Overture "Egmont"

 ベートーヴェン 序曲「エグモント」
Beethoven: Overture "Egmont"
ベルナルト・ハイティンク コンセルトヘボウ 1986年
Bernard Haitink Royal Concertgebouw Orchestra

ハイティンクの演奏は、重厚でゆったり、高音域のスッキリとしたフレージングがみごと。とても瑞々しく溌剌とした演奏だ。
ハイティンクさんのコンセルトヘボウ時代のベートーヴェン交響曲全集に収録されているエグモントで、いつまで経っても、良いものは良いという感じで聞き惚れた。爽やかで溌剌としており、冒頭のゆったりとした間合いと重厚な響き、スピードを上げていくところの美しさ。高音域のさらっとした弦のフレーズ感覚、ゴリゴリ感の少ないピュアな低音の響き。 ごごごぉ~っと地響きを立てて演奏しているものではなく、程よい音の響きで構築されている。しっかり木管の響きも入っており今に通じるバランスも良さ。ピリオド演奏を横目に、歯切れの良さも感じられるし、特に、低弦の響きが弾む、弾む。上からモノを落としても、跳ね返ってくるような低反発クッションのような弾力性。なんと柔軟で弾力性のある響きなのだろう。瑞々しい演奏で、あっという間の8分54秒の演奏だった。そう、これこれっ、こんな演奏を聴きたかったのだ。


 ベートーヴェン 序曲「エグモント」
Beethoven: Overture "Egmont"
フランス・ブリュッヘン 18世紀オーケストラ 1991年
Frans Brüggen Orkest van de Achttiende Eeuw (Orchestra of the 18th Century)

ベートーヴェンの楽曲を、当時の楽器で奏でるというブリュッヘンさんの18世紀オーケストラ。発売された当時は、まさか第9の合唱まで録音するとは思っていなかったが、終わってみたら交響曲全集になっていた。古楽器を使っての演奏は好きではないし、ピリオドに対しては苦手意識が強い。冒頭の金管の音色こそ、「ふぁ~~~~」と残響があるが、それ以降は息の短いフレーズを積み重ねたような演奏である。木管楽器に関しては、さほど違和感がないものの、弦の薄さ、少人数編成の機動力優先フレージング、どうも紋切り調で好きになれない。良く言えば。メリハリのついた、クッキリ、ハッキリした、スピーディな演奏だろうが、まるで音が投げられたように置いていかれる。ティンパニーの皮の揺れは激しいが、低音の響きに厚みがないと、どうもエグモントらしくない感じがしてしまう。音に残り香がなくノビが少ないため、音を掌で受け止めようとしてても、スポンと落ちる。古楽器のわりには、音の層は厚めだと思うが、細かく畳みかけてくるのは感じるものの、厚みや重みがイマイチ感じられず、音量も一様な感じがする。膨らみの薄い音で、同じ音型を繰り返されると、淡泊さ加減に辟易させられる。即物的で、こんなドラマは面白みがない。


 ベートーヴェン 序曲「エグモント」
Beethoven: Overture "Egmont"
アンドレ・プレヴィン ロイヤル・フィル 1989年
Andre Previn Royal Philharmonic Orchestra

プレヴィンさんの演奏は、聴かせ上手である。ピリオド演奏に辟易しているなか、しなやかに伸びて、しっくりした厚みある演奏をしてくれる。正直言って、聴いててほっとする演奏だ。巷では、あんまり人気が無いと思うが、実際に拝聴すると、堂々としており、明るい音質で軽やか。重心が軽いわけでもなく艶もあるし流麗だ。金管は和音が美しく、後ろで木管がよく響いてアクセントになっている。まろやかな木管は、大切に扱われ、ゆったり、ゆったりと歌わせている。テンポの変わり方もスムーズで、とても自然なもの。特に、チェロの響きが良い。ティンパニーのロールと絡んで、まろやかに推進力がついていく。低音域と中音域の溶け合った響きで、しなやかに歌われると、ころり~ うっとり~ となる。中音域の豊かさに、高音域のヴァイオリンが控えめにプラスされ、そこに弾けるティンパニーがアクセントになっている。金管も明るく響いている。後半、熱くもならず派手にも鳴らず、特段、盛り上がりもないが、なんて言うか、抜群の安定感がある。そう、香りの高いブレンドコーヒーを頂戴した気分だ。


 ベートーヴェン 序曲「エグモント」
Beethoven: Overture "Egmont"
ヘルベルト・フォン・カラヤン ベルリン・フィル 1975年
Herbert von Karajan Berliner Philharmoniker(Berlin Philharmonic Orchestra)

カラヤンの1970年代の交響曲全集からの演奏で、 冒頭の金管よりも低弦の響きの方が大きく、和音重視という感じがする。低弦の音が、ごつすぎてワザとらしい。二度目の金管の咆吼も、金管より弦重視のようだ。息づかいは深め。遅めのテンポで、じわじわ、スピードを上げる前のタメでは、あざとい演出で焦らされる。「れどしら れどしら れどしら~っ」という畳みかけで期待したのだが、何度も繰り返すなかで厚塗りし、ごごごごぉ~っという轟音を被せる。かなりの重量級だ。カラヤンの振るエグモントと言えば、この重低音の響きとリズムが魅力だろうか。まあ、ここまで厚みがあると軽やかには進まない。スピードよりも、雷のようなティンパニーともども、ごごご~っという地響きのような重低音でノックアウト。ホルンは、甲冑のようにキラキラ輝き、最後のファンファーレを飾る。歓喜きわまるところは、やっぱり華麗なる演奏だ。狂気的な喜びに近い、華麗なファンファーレでした。
(聴いててドンビキ状態ですが。)


 ベートーヴェン 序曲「エグモント」
Beethoven: Overture "Egmont"
ヘルベルト・フォン・カラヤン ベルリン・フィル 1985年
Herbert von Karajan Berliner Philharmoniker (Berlin Philharmonic Orchestra)

カラヤンさんの1980年代の録音で、3番の「英雄」とカップリングされている演奏を聴いた。序曲「エグモント」は、とても重厚感溢れる曲だが、この80年代のエグモントは快速で走っていく。金管は、ピッチが高いのか、キラキラ輝き鳴りっぷりの良いもの。息を潜めて進み、うねる弦、神妙な木管、「れどしら れどしら~れどしら~っ」と巻いて、スピードを速めていく。段々とスピードを上げていく様は、まるで猫が獲物を狙っているかのよう。お尻がフリフリしている。リズミカルで強い弦のボーイングが、すごく効いているのだ。ダッシュするスピードと、畳みかけの重量感。ホント、手慣れたものである。ホントに面白い。役者が二枚も三枚も違う。思わず、ほほぉ~すごい。一人つぶやきながら、何度も繰り返して聴いてしまった。

重低音の重い演奏かと思うが、いやいや、静まり方、弱まり方の方にも特徴がある。鎮まったうえでの甲高い金管の一音が、ものすごく効いている。黒色のバックに、さっと白色を一筋描いただけで、完璧に浮き上がる感じ。また、何度聴いても、「れどしら れどしら~っ」と畳みかけて巻いてくる音のフレージングが、格好良すぎる。速いんですけどね。えっと思うぐらい速い。アクセルの踏み込みが良いですね。エンジンの回転率があがってくるのが、面白いほど解る演奏で、踏み込んだら、ぐい~っと鳴ってくるし、老齢なエグモント伯爵というよりは、白馬に乗った若い騎士のよう。60年代の方が、もっと良い演奏かもしれないが、ホント高級乗用車のスポーツタイプに乗っている感じで、こんな格好の良いエグモントがあることに驚いた。スピード感と躍動感、見通しの和音、合いの手の木管、金管、弦も、すべてにバランスが取れており、完成された芸術品という感じ。1975年録音では、感心しなかったのにねえ~ この1985年盤はもちろん納得の拍手です。


 ベートーヴェン 序曲「エグモント」
Beethoven: Overture "Egmont"
クリストファー・ホグウッド エンシェント室内管弦楽団 1987年
Christopher Hogwood Academy of Ancient Music

ホグウッドの演奏は、冒頭の音からかなりの軽量級である。ハーモニーは美しいが、弦に続いて出てくる金管、ホルンの音に癖があるというか、「らっらっ らしっどぉ~」という「らしどぉ~」 の和音が、薄い金属のようだ。南部鉄瓶のような硬く燻したような音ではなく、例えが悪くて申し訳ないが、アルミ製の安物ヤカンのような感じで、やめてぇ~。弦の残響も少なめだし、ノンヴィヴラートの演奏だ。アタマで解っていても感覚の違いはすぐには変えようがない。「ん チャッチャ ん チャッチャ」と、軽やかにリズミカルに演奏されており、金管だけの和音も綺麗だが、なんだか音が足らないような気になってしまう。(もちろん、足らない筈はない)子供の頃に聴いた重厚な響きでないと、どうもおさまりが悪い。響きこそ薄いが、コーダ部分のクレッシェンドは、おみごと。驚くほど勢いよく盛りあげてくる。


 ベートーヴェン 序曲「エグモント」
Beethoven: Overture "Egmont"
オトマール・スウィトナー シュターツカペレ・ベルリン 1984年
Otmar Suitner Sächsische Staatskapelle Berlin (Staatskapelle Berlin )

スウィトナーの演奏は、美しい麗人、またはロビン・フッドのような身軽な演奏である。序曲「エグモント」は、とっても重厚な曲であるが、スウィトナーさんが振ったベートーヴェンは、軽やかで透き通り、しなやかさを持っている。冒頭、金管の咆吼が、なんとも不気味な乾いた残響を醸し出し、低弦の響きが重いのが普通かもしれない。でも、「そ+ふぁ~」のような不協和音的な響きが、ちょっと乾いた不気味さがあり、ミシッとした響きを与える。これは悲劇なのだと、さりげなくでも、極めつけのような音で出てくる。2度目の金管は、大きな音で鳴り響く。「そぉぉ~っ」ここの部分は直線的だ。その後は軽やかにスピーディ、木質的な響きで進んで行く。少し軽めの音ではあるが、息づかいが深すぎず浅すぎず。柔らかいが強くしなやかな弦のフレーズだ。
リズミカルなところが心地よく、粘りの強い音ではないところが、今風かもしれない。重厚な和音が、いっきに躍動感あふれるフレーズに変わるところが、楽しい演奏となっっている。木管の響きが柔らかく、春風のようにそよいでいる感じがして、悲劇的な様相を表す盤が多いなか、かなり女性的な様相がする。飛び跳ねてくるところが、メッチャ格好良く、ティンパニーのハジケルようなロールは絶品っ。「ん~タラ ラッタン ん~タラ ラッタン」というリズムが弾んでいる。細身系の音だが、フェンシングの突きで、チャンチャンと突き進んでいくようなスパークするような輝きがある。エグモント伯爵というよりは麗人、いや、ロビン・フットみたいに軽快で感心しきり。しなやかに躍動感あふれる、かなり格好の良い演奏である。


ベートーヴェン 序曲エグモント

1975年 カラヤン ベルリン・フィル G ★★★
1984年 スウィトナー シュターツカペレ・ベルリン De ★★★★
1985年 カラヤン ベルリン・フィル G ★★★★★
1985年 ハイティンク コンセルトヘボウ Ph ★★★★★
1987年 ホグウッド エンシェント室内管弦楽団 Dec ★★★
1989年 プレヴィン ロイヤル・フィル R ★★★★
1991年 ブリュッヘン 18世紀オーケストラ Ph ★★
未聴盤もありますが、まだ整理できていません。(謝)


 

YouTubeでの視聴

Beethoven: Overture "Egmont", Op.84
Concertgebouworkest  ハイティンク コンセルトヘボウ
https://www.youtube.com/watch?v=CQLDN6KCZBg

Beethoven: Music to Goethe's Tragedy "Egmont", Op. 84
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 - トピック  カラヤン 1975年
Provided to YouTube by Universal Music Group
https://www.youtube.com/watch?v=9OJNAyFeHbw



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