ベートーヴェン 序曲フィデリオ、レオノーレ Beethoven: Overture Fidelio, Leonore

 ベートーヴェン 序曲「フィデリオ」
Beethoven: Overture "Fidelio"
クラウス・テンシュテット ロンドン・フィル 1984年
Klaus Tennstedt  London Philharmonic Orchestra

テンシュテットさんの演奏は、どこか構えていなければならぬ、悲壮感の漂う演奏かと思っていたが、意外なほど伸びやかで涼しげである。フィデリオは、やっぱり冒頭の「ふぁ~どど らぁ~ふぁふぁ どぉ~ららふぁ みっ」と、遠くで響くホルンの音色だろうと思う。弦の歯切れの良さ、柔らかくて遠くで聞こえてくるホルン、続くティンパニーの音と劇的な幕開け効果が生命線だろうと思う。テンシュテットさんの冒頭は、弦をカッっと切って始まるわけではなく、むしろ弱いと思うほど軽やかに、すっと入ってくるところがある。ホルンの「ふぁっどど ふぁどど そしらそ ふぁらど そしらそ ふぁらど・・・」簡単だけど可愛いフレーズを繰り返し、段々と大きくなり、「そぉ~らそぉ~ ら~しら~ ど~れどぉ~」と、草原のような光景に導いてくれる。スピード感があって乗れる。
録音状態は良い。しなやかで推進力のある演奏で、意外と柔らかい。カップリング:ベートーヴェン序曲集フィデリオ序曲、レオノーレ序曲3番、プロメテウスの創造物序曲、序曲コリオラン、エグモント序曲 全5曲


 ベートーヴェン 序曲「フィデリオ」
Beethoven: Overture "Fidelio"
オトマール・スウィトナー シュターツカペレ・ベルリン 1984年
Otmar Suitner Sächsische Staatskapelle Berlin (Staatskapelle Berlin)

スウィトナーの演奏は、冒頭、ゆるやかにティンパニーが鳴り、段々と高揚してくる。女性的で、しなやかで優美な演奏だ。ホルンの響きもまろやかで涼やか。残響も良いし惚れ惚れしてしまった。勢いの良さはあるが、決して粗野にならず、涼やかさとまろやかさのバランスが良く。すごく楽しい。ホルンの音と弦、木管の音質のバランスと、躍動感のあるフレーズ「そらそらそら そぉ~」という、語尾の爽やかなヴァイオリンの弾みが満喫できる。フルートの可愛らしさといい、ホルンも、ふんわりと重なってくるし、合間に木管の爽やかな音が繰り出してきて、「ふぁどど ふぁどど そしらそ ふぁらどぉ~っ」と、品良く舞踏風のフレーズとして演出される。残響を伴って品良く鳴ってくるところが、ホント凄い。リズム感が良いところに、次々と波動のように繰り出して響きとなって大きくなるところが醍醐味。波動模様が見えるほどに感じられる。高音域の弦と金管の鮮やかさも幾重にも重なって流麗だ。こんな美しいベートーヴェンで良いのか、多彩な響きが広がり、耳にご馳走だぁ~という演奏である。
カップリング:エグモント序曲(1984年)、コリオラン序曲(81年)、プロメテウスの創造物(84年)、レオノーレ序曲(84年)、フィデリオ(84年)全5曲


 ベートーヴェン 序曲「フィデリオ」
Beethoven: Overture "Fidelio"
レナード・バーンスタイン ウィーン・フィル 1978年
Leonard Bernstein  Wiener Philharmoniker (Vienna Philharmonic Orchestra)

バーンスタインの演奏は、熱くて劇的なのだが、ここまで濃くなくても良いのだが~とドンビキしちゃう演奏である。荒々しい勢いがあり、ライブ特有の熱気にほだされる。
ベートーヴェンが作曲した序曲は、全部で11曲もある。復習しておくと、プロメテウスの創造物、コリオラン、エグモント、アテネの廃墟、シュテファン王、命名祝日、献堂式、そして、歌劇フィデリオの序曲として作曲したレオノーレの1~3番までの序曲と、このフィデリオである。つまり 歌劇「フィデリオ」には、4つの序曲があるってワケである。
それはともかく、バーンスタインさんの演奏としては、ニューヨーク・フィルの旧録があるが、ワタシが所有しているCDは、あまり録音が良くなかった。で。後年録音された、ウィーン・フィルとのライブ盤である当盤を聴いてみたのだが、これが熱いっ。
熱いってなモノではなく、正直言って、せっかちなほど勢いがあり、コテコテとは言わないけれど、冒頭のフレーズは、まるで怒髪天となって畳みかけてくる。そして、フィデリオで吹かれているホルンのフレーズは、ちょっと長すぎる。ホルンと軽めの木管の音の質感は、お世辞にも良いとは言えず。緩急の落差が激しく、木管楽器は、これほど長いと息が続かない気がする。ドラマティックなので、コンサート会場で聞いたら、きっと煽られちゃうと思うのだが、繰り返し聞くにはちょっとツライです。


 ベートーヴェン 序曲「フィデリオ」
Beethoven: Overture "Fidelio"
レナード・バーンスタイン ニューヨーク・フィル 1967年
Leonard Bernstein New York Philharmonic

1967年のニューヨーク・フィルとの演奏は、バーンスタインさんの旧録にあたる。冒頭のフレーズは、弦の強いタッチで奏でられ、そこにティンパニーの強打というのが1フレーズ。次に、ホルンの静かで消え入るような長音が2つめのフレーズ。これが交互に奏でられる。さすがに録音が古めかしく、ホルンが命という楽曲なのだが、さすがにイマイチ。弦も硬く、古いLPを聞いているような気がして、リマスタリング盤じゃなかったのかとガックリしてしまった。弦の擦れた硬い音にティンパニーの連打。 ホルンの和音が綺麗に決まっていないまま、熱くてガンガンに行ってしまうので、勢いだけかいっ。
ご存知のとおり、ベートーヴェンのただ1つのオペラ 歌劇フィデリオ序曲は、レオノーレとセットと言っても良いかもしれない。主人公は、政治犯として捕まったダンナを助けようとする妻 レオノーレさんの物語で、この妻、男装して牢獄に救い出す。男装していた時の名前が「フィデリオ」なのだ。えっ、ややこしいって。そうなんですよね。男装時の芸名?が。フィデリオで~ オペラの名前もこれに由来している。
現在、歌劇「フィデリオ」は、この序曲「フィデリオ」をまず演奏して、レオノーレ序曲が、第2幕と第1場の終わりに演奏されているらしい。だから、できたらセットで聞いて欲しい。7分弱の演奏だが、確かにねえ。バーンスタイン盤は勇ましいです。バーンスタインさんは、2回、ベートーヴェンの交響曲 を全集で出しているが、ニューヨーク・フィルとは、1回目の全曲演奏である。後年、ウィーン・フィルとの全集が発売されているものの、そちらの方もライブ盤で、ちょっと~(前掲したとおりです。)
個人的には、いくら男装しているからって、こんなに逞しくマッチョに強引っぽく演奏しなくてもいいと思う。かなり強引さを感じる。フィデリオは素っ気ないけど、レオノーレ序曲の方が、柔らかいし女性的、そして劇的な効果も高い楽曲です。


 ベートーヴェン「レオノーレ」序曲 第3番
Beethoven: Overture "Leonore No.3"
リッカルド・ムーティ フィラデルフィア管弦楽団 1988年
Riccardo Muti
Philadelphia Orchestra

ムーティさんのベートーヴェンは、昔、評論家に酷評だった記憶がある。確かに重厚ではないし、華やかに歌うようなベートーヴェンだ。試聴して買うという習慣がなかった頃、レコードもCDも高値で、評論家が良いというのであればと、お薦めに従って買っていたように思う。で、ムーティの振るベートーヴェンはダメだと思いこんでいた。しかし、実際に聴いてみたら、これが面白いんだよねえ。理屈抜きで楽しい。ブラームスだってカンタービレ調で朗々と歌っている。もっと早くに出会っていたら~とも思うが、まあ道草も楽しからずや。
さて、弦に艶があるのはもちろん木管の表情が豊かだ。オーボエとフルートの呼応が楽しい。単純な和音を吹いているが、これが活き活きしている。弦も同じ。3音の和音を分散して弾くが、迸るかのように速いスピードに乗って演じられる。エンジンを踏み込んだような加速感があり、音量もダイナミックに広がる。弦のクレッシェンドも身のこなしが優美で、速やかにぐい~っと強くなっていく。弦のボーイングがシュルシュルシュルーっ。
低弦の響きも充分で、まろやか。ティンパニーの間髪入れず打ち込んでくるのも格好良い。天才的だと思う。小気味良いのだ。レーサー顔負けって感じのスリリングさ。今聴いても、カッチョ良い。一番耳に残るフレーズ「どみそ ら~そ みどらそそっ」この前に、執拗な助走部分がある。ベートーヴェン特有のしつこさだが、あまりシツコク感じない。フラッグが下ろされるのを待つスタートライン前のレーサーの気分だ。速くて軽やか、する~っとテンションがあがって、いつも間にかテッペンに立っている。澄ました顔で、いっきに頂点に立ってしまうのだ。イタリア・オペラじゃないのにとも思うが、このすばしっこさにやられます。奥からトランペットが吹かれているシーンでは、相当にテンポを落としているし、巧みなのだ。ノビの良さと歌心、駆け上り下る運動神経の高さ。単純だと言われるかもしれないが、素人には、カンタービレ風の闊達さは、大好きだ。あっぱれっ、伊達男である。こんな楽しくて、面白い序曲が流れてきちゃうと幕開けからワクワク。ちょっぴり冒険活劇風にも聞こえるが、その点はご容赦を。


 ベートーヴェン「レオノーレ」序曲 第3番
Beethoven: Overture "Leonore No.3"
ハインツ・レーグナー ベルリン放送交響楽団 1982年~83年
Heinz Rögner  Rundfunk-Sinfonieorchester Berlin (Berlin Radio Symphony Orchestra)

レーグナーの演奏は、まろやかな響きがあり適度に歌い、しなやかに劇的に盛りあがる。渋い匠の技って感じの演奏だ。特別に格好良くもないし、いっけん普通。でも、しっとりまろやかに低弦の響きも豊かで、楽想に応じて硬さを打ちだしてくる。レオノーレ序曲を聴いていると、シーンに応じて、力の入れ方が見事に変わる。冒頭、ゴツンっとティンパニーが叩かれているが、気がついたら自然にフェードアウトしている。ふわっとした音の波があり一様ではない。力の抜き加減がなんとも絶妙。音が舞っているわけではないのに、どこか浮遊感があり、静かな海の潮目を観ているような感じ。気がついたら姿が変わっている。フルートの音は、透明で柔らかく、呼吸しているのが感じられる。派手さはないが、推進力があり、ガンガン、ガンガンっと低弦とティンパニーが壮大に鳴ってきたりする。畳みかける勢いはないし、優美でエレガントなレオノーレでもない。固いなあと感じるフレーズと、エレガントなフレーズが、サンドされている。フルートは女性的で絶品だ。トランペットが鳴ってくるところは、奥まった(バンダだろう)ところから、柔らかく高らかに響く効果が抜群だ。場面転換がお見事、視覚的に訴えてくる演奏で、豪快でありながら繊細、男性っぽいのに女性的、う~ん。そうなると、楽曲そのものの設定ということになる。


 ベートーヴェン「レオノーレ」序曲 第3番
Beethoven: Overture "Leonore No.3"
ギュンター・ヴァント 北ドイツ放送交響楽団 1990年
Günter Wand Hamburg North German Radio Symphony Orchestra(NDR Sinfonieorchester Hamburg)

ヴァントさんの演奏って、近寄りがたいほど完璧。ブラームスの交響曲第1番を聴いた時、メチャ怖くて背筋が凍る思いをしたことがある。冷たすぎて苦手だった。ベートーヴェンも同傾向にあり、冷たく厳めしくカチカチなのだろうと思っていた。が、今日聴いたレオノーレ第3番に限っては、いつも通りの堅牢さ、構築性を感じるが、ほのかに熱いものがある。とは言っても、冒頭から張りつめた空気感があり、余韻がいたづらに残らない。襟を正したぴしっとした音が出てくる。最後まで残ったフルートの音色をベースにして、ヴァイオリンが出てくるが、余計なモノがない端正さ。
曖昧さがなく、余計なものがなく、短めにフレーズを区切り、木管の響きもすっと終わる。分散的に和音が奏でられているところも、音量を抑制し、音を置いていく。1つの音自体がすきっとしているので、フレーズ全体も当然のごとく端正に響く。音自体も美音で、特にフルートが美しい。弦が渦を巻くように繰り返すクレッシェンドも、余分に膨らませたりせず、ぴりり~と鳴っている。
ムーティの演奏を引き合いに出して悪いが、全く違うアプローチだ。ムーティは歌う、歌う、歌う。でも、ヴァントさんは、無言のまま、ピクリともせずに指揮をする。オーボエもホルンも、まろやかに響くし、キリキリ胃が痛むような厳しさではない。
バンダのトランペットは、場面転換となる重要なポイントだが、奥行きがあり舞踏会のように響いている。フルートを初め、ホルンも美しく金管、木管が充実している。レオノーレ第3番は、わずか15分程度の楽曲だが、ストーリー性が高く、いろんな構成部分が丁寧に、有機的に描かれている。聴き応え充分、充足感のある演奏だ。


 ベートーヴェン「レオノーレ」序曲 第3番
Beethoven: Overture "Leonore No.3"
ゲオルク・ショルティ シカゴ交響楽団 1988年
Georg Solti Chicago Symphony Orchestra

ショルティのベートーヴェンは、剛毅で威勢がよく、溌剌としている。このレオノーレ序曲の3番も、イカツイけれど立派な風格を持って演奏されている。特に、弦のキレが抜群だ。そして、「ふぁそら~ふぁそら~ どみそ~ どみそ~」桜 桜~と呟いているかのような優しいフルートが登場すると、冒頭の嶮しさから解放されて、ほっとする。フルートとオーボエの音色が美しい。オペラ「フィデリオ」のために書かれた作品だが、ベートーヴェンが何度も書き直している。この3番より後にも、書いていたっけ。なにせ、やり直してばかりの産みの苦しみを味わった楽曲である。そのおかげで、完成度が高く、この3番はよく演奏される。

執拗なぐらいに助走を繰り返した後、タララ ラララ ラララと奏でてくる。助走部分が、まるでエネルギーをため込んで、今にも爆発するかのように熱い。パワフルさが、ショルティさんの真骨頂だ。内声部の木管、弦の穏やかさ、いつもならゴツゴツしているヴァイオリンの高音域もブラッシュアップされ演奏されている。ことのほか洗練されているようだ。
最後のトランペットが、遠くから優しく響く。男装して獄中に乗り込んで、夫を助けようとするレオノーレさん。オペラの名前は「フィデリオ」だから、ちょっと名前がヤヤコシイけれど。(妻レオノーレが男装して、フィデリオと名乗って夫を救出に向かうというストーリー)勇ましいけれど女性らしさもあって、むふふっ。まあ、この時代に、女が男を助けようとするんだから、画期的だと思う。(あり得ないと思うけれど、だから劇になるんだろう)冒険活劇風になっちゃいそうなモノだが、誠にご立派、風格ある演奏である。


ベートーヴェン 序曲「フィデリオ」
1967年 バーンスタイン ニューヨーク・フィル SC★★
1978年 バーンスタイン ウィーン・フィル G ★★★
1984年 スウィトナー シュターツカペレ・ベルリン De★★★★★
1984年 テンシュテット ロンドン・フィル EMI ★★★

ベートーヴェン 序曲レオノーレ第3番
1983年 レーグナー ベルリン放送管弦楽団 DS ★★★★
1988年 ムーティ フィラデルフィア管弦楽団 EMI ★★★★
1988年 ショルティ シカゴ交響楽団 Dec ★★★★
1990年 ヴァント 北ドイツ放送交響楽団 R ★★★★★
未聴盤もありますが、まだ整理できていません。(謝)


ベートーヴェンの歌劇「フィデリオ」(作品72)は、唯一のオペラです。ウィキペディア(Wikipedia)で調べてみたら、原作は、ジャン・ニコラス・ブイイさんで、主人公レオノーレが「フィデリオ」という名で男性に変装して監獄に潜入し、政治犯として拘留されている夫フロレスタンを救出する物語です。ベートーヴェンが構想したオペラには、他に「ヴェスタの火」というのがあるそうですが、未完になっています。で、このオペラ、相当に難産だったそうで、何度も、推敲を重ねたため、「フィデリオ序曲」(あるいは「レオノーレ序曲」)としては4曲が書かれているそうな。1つ目のものは「レオノーレ」第1稿の初演に使用された序曲で、現在「レオノーレ」序曲第2番となっています。2つ目のものが「レオノーレ」第2稿の初演に使用された序曲で、現在「レオノーレ」序曲第3番となっています。
しかし、この版は、オペラへの序曲とするには、あまりにも音楽的な内容が濃密に過ぎて、この序曲は現在では演奏会用序曲として、オーケストラのコンサートなど、メインの楽曲の前に演奏されますが、イチバン有名なものです。で、1807年、プラハでの上演の折りに、再び序曲を書き直した。これが「レオノーレ序曲」の第3稿で、現在「レオノーレ」序曲第1番となっているそうです。最後の版は、「フィデリオ」のために作曲されたもので、これが現在の「フィデリオ」序曲となっています。まあ、ちょっと、ややこしいのですが、レオノーレもフィデリオも、同じ人物で、同じオペラのために作曲されたものです。


 

YouTubeでの視聴

Beethoven: Fidelio Op.72 - Overture (Live At Musikverein, Vienna / 1978)
チャンネル:Leonard Bernstein バーンスタイン ウィーン・フィル フィデリオ
https://www.youtube.com/watch?v=FF9zFcNmTvA

Beethoven: Overture "Leonore No.3"
フィラデルフィア管弦楽団 - トピック The Philadelphia Orchestra - Topic
ムーティ フィラデルフィア管 レオノーレ第3番
https://www.youtube.com/watch?v=FV_87127Qfk

Beethoven: Leonoren-Ouvertüre III
NDR Elbphilharmonie Orchester Günter Wand, Dirigent
Schleswig-Holstein Musik Festival, Lübeck 1990  ギュンター・ヴァント NDR響
https://www.youtube.com/watch?v=3JtjyxkrCYU

Beethoven: Overture "Leonore No.3", Op.72b
シカゴ交響楽団 - トピック Chicago Symphony Orchestra - Topic
https://www.youtube.com/watch?v=QWE11IHbBlE



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