バーバー ヴァイオリン協奏曲 Barber: Violin Concerto


 バーバー ヴァイオリン協奏曲
Barber: Violin Concerto
ヒラリー・ハーン ヒュー・ウォルフ セント・ポール室内管弦楽団 1990年
Hilary Hahn Hugh Wolff Saint Paul Chamber Orchestra

涼しげでどことなく和風の感覚が漂う。甘美で幻想的、絡みつくようなフレーズで、たれっと聞こえてくるが、この演奏は、目の前を風が通るような感触だ。ハーンさんのヴァイオリンだけでなく、オケ全体がそんな雰囲気を持っている。
楽章の最初の方こそは、多少甘い香りを嗅ぐことができるが、抒情的という感覚以上のもので、楽章の中盤になると、怖いぐらいに冷気を感じさせるフレーズが流れる。枯れ草の香り、芒の草原のなかで風になびいているような光景がイメージ。背筋がすーっとするほど甘美だが、透明度の高いハーンさんの高音域のヴァイオリンの音色は、凄みさえ感じる。甘さと共に、背筋の凍る冷たさ。ブラックボックスを覗き込んだような空間。真っ暗闇の世界を覗き込んでしまったかのような怖さ、果てしなさを感じる。これがハーンさんの魅力だろうか。
第2楽章に入ると、レクイエムのような静けさがあり、感覚が麻痺して痛みを通り越したような悲しさ。諦めているわけではないが、どうしようもない感覚が伴ってくる。単に甘いだけの楽曲ではないとは予見できたけれど、空恐ろしい空虚さを伴っていることに気づかされた。この演奏で音を追いかけるのは無用だろう。目をつぶってこの演奏を聴いていると、流れてくる音の世界にすっぽりはまりこんで抜けられない。からみとられた感じがする。なかなか得難い体験をしたが、今度は、一歩引いて聴いてみないといけないかも。第3楽章は、無窮動の楽章で、テンポが速い。SFX映画で、メタリック系の小型の虫が、いっぱい飛び交っているような感じがする。速すぎ~っ。オケもヒートアップして、天空に飛ぶというよりは、水平レベルで一直線に飛んでいる感じがする。アナタは、まっすぐ飛ぶのに羽根を動かさないとダメなの? という感じでハーンさんのヴァイオリンが進んでいく。すげ~テクだと思いつつ、あっけにとらている間に終わってしまった。凄みがあって独特のクールな世界に連れて行かれる演奏でした。
カップリング:エドガー・メイヤー ヴァイオリン協奏曲


 バーバー ヴァイオリン協奏曲
Barber: Violin Concerto
ギル・シャハム アンドレ・プレヴィン ロンドン交響楽団 1993年
Gil Shaham André Previn London Symphony Orchestra

録音状態は極めて良く、抜群の安定感。振幅の度合いもほどよく、溺れない演奏が素敵だ。バーバーの楽曲に浸かりって、浪漫派の名残りを堪能したければ肩すかしを食らうかもしれない。 しかし、大変美しい演奏で、美意識の高さに惚れ惚れする。
バーバーのヴァイオリン協奏曲は、絡みつく調べが冒頭に置かれているが、何度か聴いていくと、シャハムさんの演奏には甘味料は含まれていないことに気づく。耽溺を期待すると、素っ気ない演奏と言われるかもしれない。でも、下手をすると、タメすぎてべたつくように思う。プレヴィンさんと共に、かなり手慣れた大衆性を持ち合わせており、ベタベタに塗りたくる風ではない。語尾にメリハリがついて、すっぱり、さっぱりとした風情で、ゲンダイ音楽に仕上がっているように思う。大上段に構えず、大衆受けを避けている気がする。中音域の響きが主となり場面では、開放的にゆったり、まろやかに響く。総体的には、熱気や粘りは見られずあっさり風味だ。
第2楽章では、オーボエと弦が絡むフレーズで始まり幻想的だ。シャハムさんの演奏は、第2楽章がより印象深く聴ける。鳥肌が立ってくるほど美しく、ヴァイオリンの暖かい音色とオケの淡い音色が、さりげなく官能的だ。オーボエやホルンの音色と、とろけるヴァイオリン、1人で浮かび上がってくるヴァイオリン。スクリャービンより、よほど美しく官能的。シャハムさんのヴァイオリンの暖かさと強さ、まろやかさ、冷たさ。様々な風合い聞こえる。また、オケも巧い。引き立て役に徹しているようで、なかなかの役者だとお見受けした。第3楽章は、華麗で、しなやかに動き、無窮動でありながらもタイトな印象を与えない。音符が、ぎっしり並んでいる筈なのだが、文脈が見通せて、しっかり句読点が見えるというか。もう少し、熱があっても嬉しいが、いや、悠然とした演奏で、おみごとでした。
カップリング:バーバー ヴァイオリン協奏曲、 コルンゴルト ヴァイオリン協奏曲、コルンゴルト 組曲「空騒ぎ」より


 Barber: Violin Concerto
竹澤恭子 レナード・スラットキン セントルイス交響楽団 1994年
Kyoko Takezawa Leonard Slatkin Saint Louis Symphony Orchestra

竹澤さんの演奏は、深い音色で始まり、しっとり溺れることのない甘美なフレーズで綴られる。消えそうになるかと思ったら、すかさず続けて深い音が鳴り始め、より深さと艶が出て響いてくる。品性があり、妙に幽霊のような幻想ワールドに陥ることなく演奏されている。背筋がすっとするほどの甘美さではないけれど、喉を振るわせるところは魅力的。穏やかさと危うさがないまぜになって高音域で不可思議な世界を覗かせる。跳躍する場面では、感情過多にならずに燃えているし、冷気を漂せながら高音域の不協和音の不可思議な音を奏でていく。美しいし、見事だと思う。
挑発型の演奏も面白いが、情感はたっぷりあるのだが、流れず怜悧に木質的な響きで綴られると、日本人としては、DNAを刺激される。足がしっかり地に着きつつも、幻想的で浮遊感があり、ゲンダイだが浪漫的で、馴染みやすいが人を寄せ付けない距離感や空気感があり、両面を含んだ含蓄ある演奏だと思う。特に第2楽章は、しっとりした潤いある演奏で、高音域が素敵だと思った。大抵、首が寒くなるような、ひぃ~っとして痒みを伴う高音になりがちだが、高音域でありながらも、太く渋く響いて聞き惚れた。
第3楽章は、無窮動は、布の織目が段々と詰まっていくような感じで、柔らかさが硬めの感触に変わっていく。ヴァイオリンは、しなやかに1音1音硬めに弾かれるが、オケの響きが柔らかいのが残念。あっという間に終わって寂しいぐらい。良い演奏でした。
カップリング:バーバー ヴァイオリン協奏曲、チェロ協奏曲 スティーヴィン・イッサーリス(1994年)、ピアノ協奏曲 ジョン・ブラウニング(1990年)


 バーバー ヴァイオリン協奏曲
Barber: Violin Concerto
フー・クン ウィリアム・ボートン イングリッシュ弦楽オーケストラ 1992年
Hu Kun 胡坤 William Boughton English String Orchestra

1963年中国生まれのヴァイオリニストである。現在は、指揮者としても活躍されているようだ。チェロとヴァイオリンの響きが、冒頭から幻想的な甘美な音で流れてくる。絡みつくような印象的な調べで始まり、抒情的な演奏だ。フー・クンさんの ヴァイオリンの音色と共に、バックのオケの音色、特に、低弦のチェロの甘い響きが一体となってカラダを包まれる。バックの弦が喉を振るわせ、揺れながら半音階でのぼっていく場面が印象的だ。蜃気楼のように、すっと立ち上って消えてしまう。室内オケらしく、ちょっと薄めの響きで豪華さには欠けるが、繊細で儚げな雰囲気がする。第3楽章は、横主体の流れから一転して、垂直に切り立った崖のよう。
超メタリック系の響きでもなく、しなやかに弾力ある無窮動でもなく、ちょっと中途半端に感じる。録音の関係か、ヴァイオリンの音が遠く感じられる。テンポが、ちょっと遅めで、密度をもっと圧縮して欲しいな~と思ってしまった。


■ バーバー ヴァイオリン協奏曲
Barber: Violin Concerto
アン・アキコ・マイヤーズ クリストファー・シーマン ロイヤル・フィル 1988年
Anne Akiko Meyers Christopher Seaman Royal Philharmonic Orchestra

バーバーのヴァイオリン協奏曲は、1993年録音のシャハム盤、1999年録音のハーン盤が登場して以降、人気となり演奏される機会が増えたのではないだろうか。1980年代後半の時点では、あまりCDが録音されていなかったように記憶する。アン・アキコ・マイヤーズさんは、1970年生まれだから20歳前の演奏である。ヴァイオリンと弦の響きが柔らかく、近代の作品とは思えないほどロマンティックな香りのする曲に合っている。この曲を聞き始めた時に、大変お世話になった演奏だ。
ヴァイオリンは少し線が細めだが、爽やかに切なく、憂いや翳を描いていく。遅れてきたロマン派、退廃的で爛熟した世紀末的な香りのする演奏だろうと思う。第2楽章は、ヴァイオリンが思いを断ち切るように、空気を静かに払いのけ、高い音域に伸びていく。その声の震え、低音に落ちてきた時の声は安定している。第3楽章は、オケが緩く感じられた。フレーズの受け渡しや語尾が甘いこととソフトフォーカス的な録音で、ヴァイオリンがオケに埋もれそうで、もったいない気がした。また、ラストは、キレキレで演奏されることを期待してしまうので、カンっカンっカンっと切って、乗れるリズムを形成してほしいようにも思った。


バーバー ヴァイオリン協奏曲
1988年 アン・アキコ・マイヤーズ シーマン ロイヤル・フィル Canyon ★★★
1992年 フー・クン ボートン イングリッシュ弦楽オーケストラ nimbus ★★
1993年 ギル・シャハム プレヴィン ロンドン交響楽団 G ★★★★★ 
1994年 竹澤恭子 スラットキン セントルイス交響楽団 R ★★★★
1999年 ハーン ウルフ セント・ポール室内管弦楽団 SC ★★★★★★
1996年 ベル ジンマン ボルチモア交響楽団 Dec 未聴
2011年 ミハイル・シモニアン クリスチャン・ヤルヴィ ロンドン交響楽団 G 未聴

バーバー(Samuel Barber)は、1910年生まれのアメリカの作曲家です。弦楽のためのアダージョが特に有名ですが、ここでは、ヴァイオリン協奏曲について。ウィキペディア(Wikipedia)を元に記述すると、作風は、同世代のパリに留学したアメリカ人作曲家、コープランドやカーターなどとは違って、モダニズムや実験的姿勢に走らず、和声法や楽式において、かなり伝統に従っています。豊かで華麗な旋律が特徴的で、新ロマン主義音楽の作曲家に分類されており、同じくイタリア留学組のハワード・ハンソンと並んで、「最後のロマンティスト」と評されます。しかし、このヴァイオリン協奏曲のフィナーレにおける無調は、現代的な要素が皆無というわけではありません。他に、交響曲が2作、協奏曲では、このヴァイオリン協奏曲、チェロ協奏曲、ピアノ協奏曲があります。ヴァイオリン協奏曲(作品14)は、1939年に作曲された協奏曲です。1楽章 ト長調 Allegro、2楽章 ホ長調(ただし嬰ハ短調が支配的)Andante、3楽章 イ短調で終止するが概ね無調(無窮動によるプレスト) Presto in moto perpetuo 
20世紀に入ってからの作品ですが、とろけるように甘い濃厚な楽章と、無窮道の速いパッセージをクールに駆け抜けて行くラストと、甘さとクールさの両極端を楽しみ、そして技巧を聴くという、聴き手にとっては大変美味しい作品です。


 

YouTubeでの視聴

Barber: Concerto for Violin & Orchestra, Op.14
ギル・シャハム - トピック Gil Shaham - Topic
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=hubHqr2lKjE
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=nuETejnmkX4
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=5IbX8AEEk1s


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