バルトーク ピアノ協奏曲第3番 Bartok: Piano Concerto No.3


 バルトーク ピアノ協奏曲第3番
Bartok: Piano Concerto No.3
エレーヌ・グリモー ピエール・ブーレーズ ロンドン交響楽団 2004年
Hélène Grimaud Pierre Boulez London Symphony Orchestra

グリモーの演奏は、きちんと自己主張しつつ軽やかに遊び、春風を運んできてくれる演奏だ。指揮者がブーレーズさんで固定、ピアニストは3人、オケも3つの団体というバラバラのセッションで録音された大変贅沢なCDである。ブーレーズさんの80歳記念企画で、この企画が大ヒット。第3番は、エレーヌ・グリモーさんと、ロンドン交響楽団との録音である。独特の和音づかいで、さわさわ~っとした弦をバックに、ピアノが出てくる。回転率が高く、拍の間に動くピアノの節回し、独特の付点のリズム感が良い。
録音状態もよく、オケも見通しが良く、弦の切れ味が良い。ピアノのふしまわしもキレ味が良く、リズミカルで跳ねる。単なる鋭いという言葉では、表現しつくせない味わいがある。まるで、近未来的で、ローカル色を排しもはや全国共通語のハイソな感じだ。ジャズの要素を含んだ旋律は、楽しげ。もう少しくだけ洒脱が効いててもよいのではという一歩手前だろう。緻密で粒立ち良く、密度が濃いというオケのなかで、ピアノも格調高く、びしっと決まっている。また、第2楽章の内省的な演奏は、とても聴き応えがある。弦楽器二声によるコラール風で、呼応して美しい。オーボエが神秘的に響き、鳥のさえずりのなかで森の奥で瞑想している。幻想的で瞑想しつつも、心のなかでは、人を恋しく感じているかのようなノスタルジックな面も感じさせてくれる。修行僧のようなストイックさを感じさせる演奏や、虚無的な空間だと思わせる演奏もあるが、グリモーさんは、女性が、心静かに座敷で座っているかのような感じ。
第3楽章は、ロンド形式で、「う ぱぁーぱー ぱ ぱー ぱぱぱ」というリズムが楽しい。理知的で、多くの楽器が、多層的に聞こえてくるので大変面白く聴ける。ああ~ ここでパコパコと木管が鳴っているとか、弦の補強された音、アクセント使いで補強されている音が、よく聞こえてくる。ティンパニーだけでなく、大太鼓のドスンっという響き、複雑なリズムが、ワクワク感を生む。もちろん、ピアノのソロも柔らかく弾み、中間色ながらも自己主張をしている。これだけの音が飛び交うなかで、なんてチャーミングな音で、ピアノは彩りを添えてくれるのだろう。激しい火柱が立つ洪水のなかで、血湧き肉躍る、どこか原始的で、蛮行を繰り返す付点のなかで、まるで、水遊びをしているかのよう。春風を運んでくれそうな感じで演奏されている。右手の弾み具合が、目に浮かびそうなほど理知的だが、楽しげで~ 難しい付点のリズムだと思いつつも何度も、一気呵成に聴き通してしまった。面白いっ。


 バルトーク ピアノ協奏曲第3番
Bartok: Piano Concerto No.3
スティーヴン・コヴァセヴィチ コリン・デイヴィス ロンドン交響楽団 1975年
Stephen Kovacevich Colin Davis London Symphony Orchestra

コヴァセヴィッチの演奏は、多彩さで群を抜いている。躍動感も、静謐感も、ジャズっぽさも、多彩な一面を見せてくれる。聴いてて楽しい。描く世界が広くて大きい。コヴァセヴィッチさんのピアノは、起伏があって凸凹しているの面白い。リズム感、弾み方がちょっと個性的だ。タランとしたフレーズではなく、かなりひきつれたフレーズを描く。つんのめった感触が、刺激的で、硬いが、その硬さと、んぐーっ。という、何とも伸びた音が組み合わさっている。伴奏のオケも、新たな音を発見して面白く聴けた。ピアノのキレの良いリズム感は、嬉しい限り。金管のタランと落ちてくる「みららみ そぉ~」は、ジャズを心得た方の演奏だし、オシャレで洒脱が効いている。気怠さと硬さ、ぬめっとした感覚とドライさ、両面を併せ持った演奏で、つんのめったかと思えばジャズの洒落た音が出てくるし、下手な親父ギャグで滑っているかのような多彩さ。
第2楽章は、神秘的な世界のもと、静かに高揚感が湧いてくる演奏だ。ポツンっと雨粒のようなピアノが聞こえてくる。水琴窟のように、音が落ちていくのを静かに見ているような、山間の岩から清水が落ちてくるのを見ているかのような感じ。思わず息をのむ。聴く人によって、想像する世界は違うだろうが、この楽章を聴いて、イマジネーションが湧かないなら、音楽を聴いてる意味ないと思うほどに、いろんなイマジネーションを与えてくれる。第3楽章は、血湧き肉躍る感じで鋭い。何とも言えない野蛮さがあり、適度に汚く濁るところにニンマリ笑える。どの方向から見ても飽きない感じで、多角面を見ているよう。適度に尖ってて、無機質的であり、唸る動物でもあり、突然、摩訶不思議な万華鏡のような世界を見せられたり、なんとも贅沢な6分19秒の世界だった。


 バルトーク ピアノ協奏曲第3番
Bartok: Piano Concerto No.3
ウラディーミル・アシュケナージ ゲオルク・ショルティ ロンドン・フィル 1979年
Vladimir Ashkenazy Georg Solti London Philharmonic Orchestra

アシュケナージの演奏は、バルトークのコミカルな要素、ジャズ要素が楽しい演奏だ。アメリカに渡っていた最晩年の作品なので、ジャズの要素が楽しさを倍増している。ショルティのオケも、ティンパニーや低弦が力強く、メリハリあるリズムを生んでいくし、オケもピアノも、意識してジャズ風味をいっぱい盛った成果だと思う。また、バルトークのピアノ協奏曲のなかでは、ロマンティックな要素がある楽曲だ。幻想的で、たゆとう気分にさせてくれる第2楽章が聴きどころでもある。鳥が鳴いているフレーズが聞こえくるので、てっきり朝だと思っていたが、CDの解説によると、夜なのだそうだ。梟のような鳥の鳴き声なのかと思い直したが、 この楽章に関しては、自分の好きなイメージのなかで遊べば良いと思う。
第3楽章は、切れ目なしに演奏され、いきなりのカデンツァがある。このカデンツァから猛烈な勢いで、アシュケナージもショルティも走り出す。疾風怒濤とはこのこと。ティンパニーを初めとして、オケ全体が血湧き肉躍る風情だ。魑魅魍魎とした血湧き肉躍るタイプの舞曲となっている。ショルティの振るオケが、野趣あふれて、汗くさく男臭く腕力勝負で、ガンガンいきまくる。地を揺るがすバーバリズムだ。ハンガリー+アメリカ 相乗効果抜群と称すべきだろうか。ぐつぐつ煮立った坩堝状態から、のし上がっていくパワーが感じられる。最後に駆け上っていくカデンツァは、 ぐわぁ~っと火柱が立っている。燃え尽きて火の鳥のように舞い上がるのだが、アシュケナージは、このオケに負けじと魔女のダンスのごとく弾いている。オケが火祭り舞台を用意し、そこに魔女が踊り狂う。すごい強烈な演奏でした。


 バルトーク ピアノ協奏曲第3番
Bartok: Piano Concerto No.3
イェフィム・ブロンフマン サロネン ロサンジェルス・フィル 1994年
Yefim Bronfman Esa-Pekka Salonen Los Angeles Philharmonic Orchestra

ブロンフマンの演奏は、しゃくりあげるように小刻みに飛び跳ねる。ソロになると、しゃくりあげて前につんのめって転んでいく。
これによってオケ全体が、蝶番が外れてた風だ。テンポが一定ではなく、硬いのか柔らかいのか、感覚が一定しない。色彩感は乏しく、音のメリハリが少なめ。ピアノの旋律の裏で低弦が唸っていたり、オケは忙しい。ジャズの要素も少なく、洒脱には遠い。
他盤で聴くと、神秘的な音が響きのする第2楽章だが、モノトーンで映像は生まれてこない。音のない世界に放り込まれたかのよう。水滴が落ちていくのを見ているが、水面に落ちても音が吸収され音が立たない、そんな虚無感が漂っている。オケとセッションを始めると命が宿るが、ピアノ単体では、音が吸い込まれて無音のようだ。第3楽章は、俄然、生き返ったみたいに活き活きするが、主題が入れ替わりる場面で、つなぎめが、ぱっくりと空いている。パーツごとに演奏しているのか、センテンスごとの区切りに隙間があいている。他の演奏だと、多彩な世界を積極的に提示してくれるが、ブロンフマンさんの演奏は、その点は希薄だと感じる。


 バルトーク ピアノ協奏曲第3番
Bartok: Piano Concerto No.3
ピーター・ドノホー サイモン・ラトル バーミガム市交響楽団 1992年
Peter Donohoe Simon Rattle City of Birmingham Symphony Orchestra

バーミンガム市響時代のラトルさんの指揮で、ピアノはドノホーさんである。ドノホーは、バーミンガム市響に打楽器奏者として在籍されていたが、1982年チャイコフスキーコンクールで2位だったことから、ピアニストとして注目を集めたそうだ。ラトルのお気に入りのピアニストの一人として演奏会や録音で共演を重ね、2002年、ベルリン・フィルの首席指揮者にラトルが就任してから、最初の演奏会でも共演を果たしたそうだ。レパートリーも協奏曲だけで160曲を数えるという。ドノホーの演奏は、明るくて元気、ちょっとバタバタしすぎかもと思う。金管のフレーズに、ジャズ要素が多分に入っており楽しい曲だ。
ピアノは重たい音だ。付点のリズムが重い。第3楽章は、冒頭のピアノのパラパラ~というフレーズから攻めてくると思ったが、意外とおとなしい。さすがに、テンポ速めでノリノリ感が出てくる。ピアノの弱音の付点リズムが、次々に繰りだされる場面は、聴きどころだ。オケの内声部である木管、金管の短いパッセージなど活気があり、見通しもよい。ピアノとオケの掛け合いも、息の合ったものだと感じた。いろんな要素を持って繰り出される主題に対し、飄々と楽しみながら演奏されている。


 バルトーク ピアノ協奏曲第3番
Bartok: Piano Concerto No.3
ゲザ・アンダ フェレンツ・フリッチャイ ベルリン放送交響楽団 1959~60年
Géza Anda Fricsay Ferenc Rundfunk-Sinfonieorchester Berlin (Berlin Radio Symphony Orchestra)

バルトークのピアノ協奏曲第3番は、最晩年の作品で、妻が演奏するために作曲されている。バルトークの作品のなかでは、人気があるし、かなり弾かれている楽曲だと思う。このゲザ・アンダの演奏は、1959年の録音である。作曲されて、さほど時間を空けずに録音されている。ジャズっぽい節回しは、さほど濃密ではないが、全体的に品良くまとまっている。
この楽章は、独特の付点のリズムがポイントで、既に何度も聞いてしまったためワタシには刷り込み済み。先陣を切ってこの楽曲を広めてもらった演奏だし、昔の定番中の定番の演奏なので、ワタシとしては、初めてきいた感興の記憶を辿り聴いてしまう。
第2楽章は、内省的で音に込められた想いが球体のように変形し、浮かび、漂い、消えていく感じがする。静けさが、何かに貼り付いているのではなく、表面張力のように弾力をもって張っている印象を受ける。大変、慈愛に満ちたものだ。ラストの楽章は、多くの演奏家が張り切って、パワフルに、スピード感溢れる演奏を繰り広げている。今となっては分が悪いかもしれないが、確固たる意思で、強く打ち込まれた音が印象に残る演奏だ。強いエネルギーを放出し、ガガガ~っと地面を引掻いていく足腰の強さ。背をかがめて、飛びかかっていく勢いだ。ピアノだけではなく、オケのティンパニーの響きも重要だ。古い録音とはいえ、やはり、いつ聴いても楽しい演奏で、わくわくする。理知的で、音が数理的に詰まっている感じだが、数式を解くのに夢中になる人の気持ちも、なーんか理解できそうな雰囲気(あくまでも雰囲気)がする。楽譜を書くって、方程式を書いているみたいなモノかしらん。(これも、あくまでも想像)ピアノ協奏曲第3番は、いつ聴いても楽しいですねえ。


 バルトーク ピアノ協奏曲第3番
Bartok: Piano Concerto No.3
パスカル・ロジェ ヴァルター・ヴェラー ロンドン交響楽団 1976年
Pascal Rogé Walter Weller London Symphony Orchestra

1970年中期の録音だが、とても録音状態が良く、ダイナミックに響く。ロジェのピアノは、とっても繊細で、細かく震えながら進んでいく。ゆらゆら揺れ、ガラスの煌めきのようにキラキラさせ蜃気楼のように立ち上ってくる。 適度に区切りのあるフレーズで、柔らかくて、少し暖かめの音で中性的だ。音のカッシリ感、硬めが好きな方には、音が均一に並んで来ないことに苛立ちを感じるかもしれない。ワタシは、ヒンヤリした硬質感のある演奏が好きだが、ロジェ盤はフランス語を聴いている感じで、即興的に聞こえる。音と音の間に揺れがあり、均質には聞こえてこない。さらっと横に音が流れるような感覚だ。横に流れ滑るスタイルが独特というか、フレーズのなかで、はっしょって、カチカチ カチカチと音が落ちて来ない。正直言って、ちょっと違和感を覚えた。
柔軟で温かみのある音は、馴れれば心地良いが、揺れる必要な楽曲なのかどうかは疑問だ。バルトークの渋くて硬め、どこか哲学的なイメージとは、ちょっと離れるかもしれない。


バルトーク ピアノ協奏曲第3番
1959年 アンダ フリッチャイ ベルリン放送交響楽団 G ★★★★
1976年 パスカル・ロジェ ヴェラー ロンドン交響楽団 Dec ★★★
1975年 コヴァセヴィッチ C・デイヴィス ロンドン響 Ph ★★★★★
1979年 アシュケナージ ショルティ シカゴ交響楽団 Dec ★★★★★
1984年 コチシュ フィッシャー ブタペスト祝祭管 Ph 未聴
1992年 ドノホー ラトル バーミンガム市交響楽団 EMI ★★★
1994年 ブロンフマン サロネン ロサンジェルス・フィル SC ★★★
1996年 シフ フィッシャー ブタペスト祝祭管 T 未聴
1997年 アルゲリッチ デュトワ モントリオール交響楽団 EMI 未聴
2004年 グリモー ブーレーズ ロンドン交響楽団 G ★★★★★

バルトークは、現在のルーマニア(当時はハンガリー)で生まれた作曲家で、多くの管弦楽曲や協奏曲がありますが、このピアノ協奏曲第3番は、1945年にラスト17小節の管弦楽のみを補筆されて完成された作品です。ウィキペディア(Wikipedia)を元に記述すると、第1楽章は、ホ長調 伝統的なソナタ形式 開始でピアノが、両手のユニゾンによって旋律を弾き始めます。第2楽章は、3部分形式で、ハ調の教会旋法により、弦楽器のコラールとピアノが交わす対話は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第15番の緩徐楽章に性格的に似ています。中間部はピアノや木管に切れ切れな動機が飛び交い、ややスケルツォ的な雰囲気を漂わせるもの。第3楽章は、ロンド形式で、管弦楽のための協奏曲のフィナーレと同じような民族舞曲調の主題が、ロンド主題に用いられ、フーガ風のパッセージや歌謡風の主題をはさみつつ進行しますとのこと。激しい打楽器の打ち込みは、最後まで影を潜め、非常に静かで内省的、幻想的な雰囲気を持っているので、じっくりと聴きたい楽曲です。ラストの楽章は、明るいノリの良い旋律が続くので燃えます。


 

YouTubeでの視聴


Bartók: Piano Concerto No. 3, BB 127, Sz. 119
ピエール・ブーレーズ トピック Pierre Boulez - Topic
グリモー ブーレーズ  ロンドン響
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=DodSK7ZODmE
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=_1NoDDqwTn0
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=FmE24V0iipo

Bartók: Piano Concerto No.3, BB 127, Sz. 119
ウラディーミル・アシュケナージ トピック  アシュケナージ ショルティ シカゴ響
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=lsx8dMG4qzc
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=AzNaL9nQ92s
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=CF-u7EIQ_3U

Bartók: Piano Concerto No. 3, BB 127, Sz. 119
アンダ・ゲーザ トピック Géza Anda - Topic  アンダ フリッチャイ ベルリン放送交響楽団
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=KFdd2RakTqw
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=8kgSjl7koxM
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=JB6ZOpgGF2c



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