バルトーク ヴァイオリン協奏曲第2番 Bartok: Violin Concerto No.2


 バルトーク ヴァイオリン協奏曲第2番
Bartok: Violin Concerto No.2
アンネ=ゾフィ・ムター 小澤征爾 ボストン交響楽団 1991年
Anne-Sophie Mutter Seiji Ozawa Boston Symphony Orchestra

ムターの演奏は、暖かい温めの音質で、あまり引き締まったクールな感覚ではない。主題は、耳触りなものではないが、オケの音が気持ち悪く不思議な音だ。五音階のフレーズに、濃密に絡みつくヴァイオリンだが、オケの方が相手をしていないのか、相性が悪いのか、どうもスッキリとしない。相反する方向を向いているのではないだろうか。ヴァイオリンを汲みとれていないきがする。
オケの声は金属的な悲鳴だし、金管のプラッターは騒音のように感じる。もう少しハープの音が通っていれば、多少は、ひんやりした空気が通っていたのだろうが残念だと思う。短く断片的なフレーズのシュールな寄せ集めが、ぬるく生暖かい呼吸になっているのだ。鋭い躍動感や冷たい生理的な感覚、ニヒヒと笑う諧謔的な口元、これらが面白いと感じるほどには至らない。オケはタイトで堅苦しいのだが、遊び心を求めておらず、単にゴツイ風合いだけだ。打楽器の音に躍動感が少なく、ボコボコした音が広がっている。自由に飛び跳ねるヴァイオリンが、重く感じるのだからオケもメタボに近い。第2楽章は、浮遊感のある弦の歌謡風フレーズが美しい。録音のせいか、ティンパニーの不可思議な音が明瞭ではない。ハープの響きとヴァイオリンの掛け合いは神秘的で、絡んだ蔦が茂っている、むっとした熱気が籠もり、水蒸気が立ちのぼってくる幻想風景だ。ジャングルに潜む野獣ではないが野生の匂いがする。ティンパニーの残響が多めかもしれない。第3楽章の短い序奏のあと、ようやく、民族的なフレーズが登場する。キレ、軋み、歪んだイメージとしては遠いかも。静謐で神秘的な場面になると、疾風感のあるリズム感が生まれる。色彩でいうと青白く光るような発色体のイメージなのだが、演奏としては刺激が少なく生きてこない。


 バルトーク ヴァイオリン協奏曲第2番
Bartok: Violin Concerto No.2
チョン・キョンファ サイモン・ラトル バーミンガム市交響楽団 1990年
Kyung-Wha Chung Simon Rattle City of Birmingham Symphony Orchestra

オケに、重厚な響きと躍動感があり、メリハリ良く場面展開を行う。立体的な響きがして、晦渋だが聴きやすい演奏だ。壮大な雰囲気で五音階のフレーズを奏でており、木管の合いの手、オケのパッセージが素早くリズミカルに顔を出す。キョンファさんのヴァイオリン、オケ双方ともにスピーディー。オケの見通しが良く情報量が多い。オケが悲鳴をあげているところも、リアルトに絶叫している感じがするし、金管のプラッターは、大きな音で素早くパラパラパラと吹かれている。オケの大きさを感じつつ、キョンファさんのヴァイオリンも、ころころ変わる雰囲気に素早く対応し、膨らみを持たせ、大きな身振りで抑揚をつけてくる。短くて鋭い断片的なフレーズの寄せ集め的な楽曲だけに、たっぷりに歌ってくれるのは、とても嬉しい。モールス信号のようなフレーズも、メリハリやアクセントで、身振り大きく、オケの躍動感に乗せられる。五音階のフレーズと不協和音の細切れパッセージが、サンドウィッチ状になっているのが面白く感じられる。また、神秘性を維持しつつ、野蛮に変貌するところも面白い。

第2楽章では、予測不可能な音が続く。アダージョのような緩やかで優しいフレーズは、ハープと弦の音で夢幻的世界を描く。ヴァイオリンの音が、浮遊感と広がりを醸し出してくる。綺麗な和音を形成するわけではなく、互いに勝手にフレーズを奏でているのだが音程の間隔が、広くなったり狭くなったりすることで、不思議な時空間を作り出すようだ。ヴァイオリンが、不思議な空間を作るツールになっている。いつも旋律を奏でる主役なのにね。第3楽章は、低弦に押し出されて滑り落ちるかのよう。ヴァイオリンも音階を上り下り、音をカシカシカシさせる。暴力的な短い旋律だが、神秘的な雰囲気に変わったり、展開が速すぎ。
ヴァイオリン協奏曲なのだが、オケの立体的な響きが楽しい楽曲だ。躍動感、重厚な響き、場面展開の速さなど個性的で、パーカッションのちょっとした音とか、木管の音が随所に印象的に響くなど、聴きどころ満載という感じがする。毎回、どこに焦点をあてて聴こうかと思うほど情報の多い楽曲だ。幾重にも塗られた油絵を見ているようで、あっ ここに赤色を使っているのか、あらっ、ここで下地に青色を使っているという驚きの発見がある。興味深い楽曲と演奏だ。


 バルトーク ヴァイオリン協奏曲第2番
Bartok: Violin Concerto No.2
ギル・シャハム ブーレーズ シカゴ交響楽団 1998年
Gil Shaham Pierre Boulez Chicago Symphony Orchestra

シャハムの演奏は、クールで繊細に剛柔を使い分け、裏返った感じで歌われ背筋がゾクゾクする。バルトークのヴァイオリン協奏曲は、よほど聞き込まないと難しく、毎回新しい発見で驚かされる。シャハムさんの演奏は、緻密で、気持ち良いほどに、ピタッと音が収まっている感じがする。ブーレーズさんの振るオケも、当然のごとく見通しが良いもの。もしかしたらシャハムさんの演奏を食っちゃうかのような、見事さかもしれない。 ヴァイオリンは、柔軟に形を変え高音域に昇っていく姿は鳥肌モノ。楽曲自体が複雑多様、姿がすぐに変容し、気体になって蒸発するかのように逃げていく。速い場面展開に追いついていけないのかもしれないが、20世紀を代表するヴァイオリン協奏曲、あ~っ ワタシの耳は、限界突破できるのだろうか。

ちなみに、ヴェルブンコシュ(verbunkos)とは、ウィキペディア(Wikipedia)によると、募兵活動で使われた男性のダンスで、18世紀の終わりから19世紀中頃まで、ハンガリーで展開したダンス音楽のスタイルだという。歴史的な多くの要素の複合の中で生まれたらしい。たとえばヴェルブンコシュ音楽に使われている旋律要素の起源を辿って行くと、ハンガリー民俗器楽音楽の伝統的要素の他、イスラム世界・中近東諸民族・バルカンの要素、スラブ諸民族の要素、ルーマニアの要素、更にウィーン、イタリアの要素などを見い出せるという。でもね、こんな説明されても、さ~ぱり解りません。
第2楽章は、12半音階の用法が使われるというが、言葉だけでは解りづらい。1楽章と3楽章は抒情的で、繊細で綺麗な内省的なフレーズが続く。いろんな要素が詰め込まれすぎて、紐解くことができない。シャハム盤は聴きやすい。ヴァイオリンと共に、オケの響きも興味深い楽曲なので、双方共に力量が試される楽曲だと思う。それと同様に、聴く人にも能力を求めそうな楽曲だ。


 バルトーク ヴァイオリン協奏曲第2番
Bartok: Violin Concerto No.2
ヴィクトリア・ムローヴァ エサ=ペッカ・サロネン ロサンゼルス・フィル 1997年
Viktoria Mullova Esa-Pekka Salonen Los Angeles Philharmonic Orchestra

ムローヴァの演奏は、濃淡、メリハリが薄いもので、この楽曲の多彩な面が表現しきれていないように感じた。壮大な雰囲気で、五音階のフレーズが奏でられ、ヴァイオリンも、恰幅が良く太い声で、懐かしい古き良き時代の雰囲気を醸し出している。一度耳にしたら染みつくような懐かしさがある。しかし以降は、五音階、ゲンダイオンガク風に、スタイルをころころ変えて、わかりづらい楽章となる。途中で悲鳴をあげた音が響き、多数の断片が挿入され、時間が流れていく。
金管のフラッター音が唐突に入ったり、五音階フレーズに戻ってみたり、出入りが多いので気分が安定しない。ぽっかり空間が空いたり、田舎の風景を見ているのに、突然、都会の喧噪が入ってきたり、突然、ヴァイオリンが浮かれてみせたり。世俗的なフレーズが入ってきたり、聴いている時間の流れに沿ってくれないので、面食らってしまう。これを黄金比率で区切っているんですという説もあるそうだが、これでは混乱状態でしょうか。ちゃんと整理して聴かせていただかないと、解りづらいですね。
第2楽章も、途中でダレて、どうでもよくなってしまい、耳がお留守に。6つの変奏曲と言うが、へっ? 元になるテーマ音楽ありましたっけ。第3楽章は、面白い断片が見え隠れしているのだが、興味が湧かない。複数の断片を、そのまま提示されても聴いている方は、頭のなかで再構成できないのではないだろうか。濃淡やメリハリが薄いためか、印象も薄い。断片はただの断片で終わる。



バルトーク ヴァイオリン協奏曲第2番
1976年 キョンファ ショルティ シカゴ交響楽団 Dec 未聴
1990年 キョンファ ラトル バーミンガム市交響楽団 EMI ★★★★★
1991年 ムター 小澤征爾 ボストン交響楽団 G ★★★
1997年 ムローヴァ サロネン ロサンゼルス・フィル Ph ★★★
1998年 シャハム ブーレーズ シカゴ交響楽団 G ★★★★

バルトークのヴァイオリン協奏曲は、2曲あります。ここでご紹介する第2番は、生前には1番とされていたのですが、近年になって、若かりし頃の譜面が発見されたので、順番が変わって2番となったものです。この曲は、1938年に作曲され、翌年に初演されています。ウィキペディア(Wikipedia)を元にして記述すると、3楽章構成と変奏曲に加え、ハンガリーの民俗舞曲であるヴェルブンコシュ(ヴェルブニュク verbunkos)の様式が取り入れられており、冒頭でハープが静かに、ロ長調の和音をかき鳴らして始まるなど調性感が出ています。しかし、その反面、12半音階の音が全て出てくる調性感の希薄な旋律も登場するなど、とても複雑な感じがします。3つの楽章で約40分の楽曲です。

第1楽章 おおむねロ調(ロ短調) ソナタ形式
独奏ヴァイオリンが弾きはじめる第1主題は、ハンガリー民俗舞曲ヴェルブンコシュを踏まえた5音音階風ですが、次第に音が増えていき、第2主題は12半音階の音がすべて登場します。終わりは、ヴァイオリンのソロとなります。
第2楽章 ト調 6つの変奏曲
第3楽章 おおむねロ調 ソナタ形式
民俗舞曲的な疾走感が強く、1楽章の素材に基づいた主題が多用されるとのこと。バルトークの楽曲は、暗くて鋭く険しく、ムズカシイって感じがします。この楽曲の前年(36年)には、「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」が作曲されていますが、ヴァイオリン協奏曲は、断片的で、ころころ雰囲気が変わります。五音階の安定したフレーズと、鋭さと激しい気持ちの悪いフレーズが交錯しており、折衷しないまま断片的に残ってしまったような感があります。愉悦性の少ない楽曲ですが、聞き込めば、苦みやざらざら感が、癖になると思います。



 

YouTubeでの視聴

Bartok Violin Concerto No. 2 in B Major, Sz. 112
バーミンガム市交響楽団 - トピック  キョンファ ラトル バーミンガム市響
City of Birmingham Symphony Orchestra - Topic
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=R2MhTg5480E
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=XZQE1zskrg0
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=r3pflq62eSY


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