ベートーヴェン ピアノ協奏曲第4番 Beethoven: Piano Concerto No.4


 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第4番
Beethoven: Piano Concerto No.4
アルフレート・ブレンデル  ハイティンク ロンドン・フィル 1975年
Alfred Brendel Bernard Haitink London Philharmonic Orchestra

ブレンデルさんの演奏は、繊細で、瑞瑞しく煌めき度の高い理知的な演奏だ。最終楽章は、光の粉を撒き散らして疾走している感じがして、とても格好が良い。このハイティンク以降、1983年のレヴァインとシカゴ響とのライブ、1998年のラトル、ウィーン・フィルとの演奏がある。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番は、繊細なピアノから始まる。初めて聴いた時には、ピアノ協奏曲なのに、ピアノのソロから始まることに驚いたが、最初の主題の提示は、とてもチャーミングなものだ。右手の高音域は、繊細でキラキラしており美しい。詩情あふれる出だしで、これがベートーヴェンとは思えないほど。情感を抑制しつつ、リリカルに歌われているところが好ましい。粒立ちの良い、さざ波のように煌めいて聞こえてくるピアノで、硬質感のある鉱石のような音ではなく、もう少し柔らかいものだ。同音連打のメロディが、砂地から細かな気泡が出てくる湧き水のようだ。すごすぎっ。思わず清水に手を入れてみたくなる。
オケは、弦のフレーズが軽やかだが、どこか無造作に流れて行く。オーボエの音は、細くて硬く、うわずった音がする。繊細なピアノにあわせて、もう少し丁寧に演奏して欲しいと感じてしまった。カデンツァの部分は、もちろん煌めき度抜群で圧倒されるが、低音域になると、少しくぐもっている。第2楽章は、冒頭、弦のユニゾンで奏でられる。「ふぁ~ らそっら ふぁっど れっど れっれ れぇ~」ピアノの悲しそうなフレージングに驚かされるのに、ピアノの余韻に被さって弦が登場して、繊細な気持ちを削いでしまう。繊細な美女を相手に、オケが平凡すぎる。第3楽章は、装飾音で彩られピアノが可愛い。ラストは痛快に疾走していく。
それなのにオケは、鈍重というかダサいというか。エスコートできていないというか、はぁ~っ、まったく!


 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第4番
Beethoven: Piano Concerto No.4
エレーヌ・グリモー クルト・マズア ニューヨーク・フィル 1999年
Hélène Grimaud Kurt Masur New York Philharmonic

グリモーさんは、1969年生まれなので30歳頃の演奏である。ピアノ協奏曲と、後期のソナタをカップリングし、狼とのツーショット写真に超たまげたCDだった。ピアノは、とても柔らかいタッチで始まる。オケの方も、息づかいが柔らかく、オーボエが立ちのぼってくるところも雰囲気があって良い。もう少しクリアな録音を望んでしまうが、ピアノのタッチは、さらっとしてて水彩画のようだ。音の煌めきは、まるで水滴のよう。大変綺麗な演奏ではあるが、ガツンっと入ってくるところは、少しパワーが足らなかったのではないだろうか。他盤で聴いて染みついたワタシの印象が、ぬぐえないのだろうが、驚くほど、細かな音で紡いでいくので、とっても清潔で美しく、透明度も高く、チャーミングに歌っている印象を受けた。第2楽章では、厳しい低弦の響きのあとに寂しげにピアノが入ってくる。とても内省的で、低弦のユニゾンがウルサイほどに感じられるほど。ピアノの邪魔をしないで~っ。ここでは、低弦は、悪魔のように、小鳥を食べちゃうぞ~といわんばかり。その怖ろしい世界に震えるピアノという、どこか二元論のような世界が広がっている感じがする。怖くて身を固め、雨に濡れて、震えてるような感じのピアノだ。(深読みしすぎ傾向)
第3楽章は、うーん。ピアノはmテンポを落として、ゆっくり噛みしめながら内省的に演奏しているのに、オケが、たまらずにドカンっ! ごろごろ~っ。昔ながらに低音の音を鳴らすという体で、性格の違いを見せつけられて興ざめしてしまった。バババぁ バババぁ~ん、と粗野で不細工で。ああぁ~馬脚が。ラストに向けての走りっぷりは、なかなか良かったんですけどね。狼ならぬ、ゴツイ足のウマが、どどどーっと走って行くみたいに聞こえちゃいました。


 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第4番
Beethoven: Piano Concerto No.4
ピエール=ロラン・エマール アーノンクール ヨーロッパ室内管弦楽団 2002年
Pierre-Laurent Aimard Nikolaus Harnoncourt Chamber Orchestra of Europe

エマールさんの演奏は、ゆったりと詩情豊かに奏でられイメージが膨らむ。特に、2楽章はフランス音楽のように美しい。とっても、ゆったり美音で綴られるベートーヴェンで、独特の世界観が広がっている。ソリストのエマールさんは、当時は、さほど知名度が高くなかった頃だったように思う。最初に聴いた頃は、こんなにヤワになっちゃってと絶句した。今、聴いても、ワタシにとっては不思議ちゃんの演奏だ。4番は、 3番や5番とは異なり、ピアノのソロから始まり室内楽のように穏やかにスタートする。粒立ちの柔らかいピアノとオケである。弦のパートが加わっても無重力空間にいるかのようだ。キラっとしているかと思ったら、すぐに翳る。
第2楽章は、低弦が強く弾かれているがソフトフォーカスに鳴っている。堅牢で嶮しい巌のような低弦と、瞑想的なピアノで、オケとピアノは会話をしている。ピアノが、瞑想に深く入りすぎている状態で、会話がなりたつのだろうか。あまりにも存在している空間が違いすぎて、違和感を感じてしまった。淡いフランス映画を見ているかのような美しさが広がっている。第3楽章は、ピアノが、どこからともなく現れる。低弦の響きが少し団子状態のなか、瞑想から目覚めたようなピアノの音が聞こえる。オケの音は、ほとんど打楽器しか聞こえてこないので、洞窟のなかでの演奏会のような、風変わりな雰囲気がする。凡人のワタシには、アタマが硬く心が狭いのかもしれませんが、この演奏には馴染めませんでした。


 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第4番
Beethoven: Piano Concerto No.4
マウリツィオ・ポリーニ アバド ベルリン・フィル 1992年
Maurizio Pollini Claudio Abbado Berliner Philharmoniker(Berlin Philharmonic Orchestra)

ポリーニさんの演奏は、1992年~93年、ベルリンのフィルハーモニーでおこなわれた演奏会のライヴ盤である。ライブ特有の燃え方なのだとは思うが、オケが、伴奏に徹しているわけではなく、ピアノに負けじと煽るかのように演奏する。第1楽章の冒頭は、ピアノが呟きながら出てくる。オケのそろっとした出方、オーボエが入ってくるところのフレーズ、全合奏するところの表情の繊細さは、みごとだと思う。録音状態がお世辞にも良いとは言えず、低弦の響きがイマイチなのだが、それぞれに表情を持っている音で、フレージングの繊細さ、木管の輪郭線が鮮やかで、やはり天下のBPOだと、ひとりごちてしまった。特に、ピアノの詩情感溢れる音、際立つ音粒に仰天する。それでいながら、ふくよかに歌う。低音のごろごろごろ~っとした響きは、ピアノの繊細さを引き立てるために存在しているみたいで~  硬く砂を噛んだような不細工な響き。でも、まあピアノには関係ないですねえ。ピアノの打音の強さは、ぐっ、ガツっと押されており、右手の薬指、小指あたりの指のまわりぐあいが、やはり絶品でございます。左手がダイナミックに、ぐわんとパワフルに叩かれ、右手の指は、細かい硬い粒状で、まるで万華鏡覗いているかのようだ。
第2楽章は、ピアノが物憂げに登場する。硬い表情で音の広がり感が少ない。哲学的に考え込んでいるかようで、ロダンの彫刻でも見ている感じがする。樹木の影に、ひとり座り、穏やかに過ごすのではなく、古めかしい薄暗い図書館で、書物に囲まれているようだ。第3楽章では、図書館から鉄砲玉のように飛び出して、いきなり戦争にかり出されたかのような唐突さ。厳しさや激しさが顔を覗かせる。オケの大音量と突撃ムードへの変わり身で、この場面展開には仰天させられる。また、極端にスピードが速いだよね。オケはオケで、火がついたように騒ぎだし、さっきまで可愛いかったピアノは、エキサイティングにスピードアップしていく。
1楽章の冒頭は、なんと繊細なんだろうと惚れ惚れしたが、ベートーヴェンは、これぐらい勇ましく演奏しなくっちゃ~という固定観念の塊のように、硬く演奏されている。


 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第4番
Beethoven: Piano Concerto No.4
ルドルフ・ゼルキン 小澤征爾 ボストン交響楽団 1981年
Rudolf Serkin Seiji Ozawa Boston Symphony Orchestra

R・ゼルキンさんは、1903年生まれ。4番の演奏は既に78歳。少しテンポは遅めだが、キラッとした音で綴られる演奏だ。老境に達した方らしく、しみじみとした味わいの深い演奏で、オケは、頑張ってサポートに徹している。抒情的なフレーズで始まる4番なので、さほどガシガシと弾かれていくわけではない。しみじみ~じわじわ~っと、穏やかなフレージングが続く。特に、2楽章は、とっても味わい深い演奏だ。勇壮にユニゾンを奏でているが、ピアノは、疲れ果てたという感じで、枯れて気落ちした風情となっている。どことなく東洋風の虚無的な感覚に陥る。まるで、後期のピアノ・ソナタを聴いているかのようで、ピアノが、か細い声で間合いをあけ、息も絶え絶え~という様相である。オケは力強く演奏しており、ちょっとどうかと思ったが、まあ、このコンビで決めたアプローチなのだろう。ピアノとオケとが、全く別の世界に存在しているかのような感じがするのだが、そう考えるワタシは、凡人なのだろう。これだけ弱音で、しみじみと演奏されると、語る言葉がなかなか見つからない。


 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第4番
Beethoven: Piano Concerto No.4
エマニュエル・アックス プレヴィン ロイヤル・フィル 1986年
Emanuel Ax André Previn Royal Philharmonic Orchestra

アックスさんが、ソリストとして演奏されるのは珍しいだろうか。チェリストのヨーヨー・マさんの伴奏に登場してくる方だと思い込んでて、ソリストとしてのCDがあるとは知らなかった。4番の出だしは意表をついており、ピアノのソロから始まり、そこに弦が加わって、まるで室内楽のように穏やかにスタートする、弦合奏はとても印象に残る。質感の変化、比重の変化は、構築姓を感じさせるものだが。抒情的かつ女性的に終始する。そして、弦の全合奏に至るとパワーがアップしている。アックスさんのピアノは、雨あがりの朝、葉水が転がってくるかのような感じがする。唖然とするほど可愛い。山の岩の間から一筋水が湧いて、それが、落ちてきているかのような感じで、透き通った音色が聞こえる。穏やかさと瑞々しさ、詩情たっぷりの演奏にうっとり。まるで、ハープのようにパラパラパラ・・・と弾かれている。第2楽章は、オケとピアノの性格の不一致が見え隠れする。第3楽章は、ピアノのフレーズにオケの全合奏となり、リズミカルに力づよく始まる。再度主題が奏でられると、活気あふれ噴水のように、キラキラした水が迸って飛び出してくるかのようだ。チャーミングで可愛いピアノで、楽しそうに低音を伴ってオケも楽しんでいる。なかなかにオツな対比である。


ベートーヴェン ピアノ協奏曲第4番
1975年 ブレンデル ハイティンク ロンドン・フィル Ph ★★★★
1981年 R・ゼルキン 小澤征爾 ボストン交響楽団 Teldec ★★★
1986年 アックス プレヴィン ロイヤル・フィル R ★★★
1992年 ポリーニ アバド ベルリン・フィル G ★★★
1999年 グリモー マズア ニューヨーク・フィル Teldec ★★★
2002年 エマール アーノンクール ヨーロッパ室内管 Teldec ★★★

ピアノ協奏曲第4番ト長調作品58は、1806年に作曲し、「運命」と同様、冒頭は、同音連打のメロディの主題です。ピアノソロから始まる冒頭は、それまでに非常に数少なかった形式です。もしかして初めて? ウィキペディア(Wikipedia)を元に記述すると、
第1楽章 ト長調 4/4拍子 協奏的ソナタ形式
「運命の動機」を含む穏やかな主題が、ピアノ独奏でいきなり奏されると、オーケストラはロ長調によりそれに応え、新鮮な印象を受けます。カデンツァはベートーヴェン自身により2種類が書かれており、1つは100小節あり、多くのピアニストはこちらを演奏します。もう1つは、50小節あり、ポリーニ、ブレンデルなどの録音により確認することができます。

第2楽章 ホ短調 2/2拍子 自由な形式
オーケストラが低音に抑えられた弦のユニゾンだけで、即興的で瞑想的な音楽を歌うピアノと淡々と対話を続けるもの。

第3楽章 ト長調 2/4拍子 ロンド形式
ト長調だが、主題はハ長調に始められます。カデンツァはベートーヴェン自身により1種類書かれて35小節。バックハウス作によるドラマティックで技巧的なカデンツァも有名であるとのこと。
4番は、虚を突かれるかのような出だしで、えっと言っている間に引き込まれます。とってもチャーミングで、まるで少女のように瑞々しく詩情感たっぷり。でも、最終楽章は、威厳をもって演奏されます。硬くて堅牢な、ベートーヴェンのイメージを180度変えてくれるような楽曲です。


 

YouTubeでの視聴


Beethoven: Piano Concerto No.4 in G, Op.58
アルフレート・ブレンデル - トピック
Provided to YouTube by Universal Music Group
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=i4HNXSD1yI8
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=WCIBHp0PTys
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=2sLGIzL_u44

Beethoven Piano Concerto No. 4 in G Major, Op. 58
Hélène Grimaud グリモー
Provided to YouTube by Warner Classics International
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=AasA9g4sbHk
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=VuVBmCiPL-0
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=_-9OHcatyI8

出典:YouTube
Beethoven Piano Concerto No. 4 in G Major, Op. 58
ピエール=ローラン・エマール - トピック Pierre-Laurent Aimard - Topic
Provided to YouTube by Warner Classics International
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=3xTrEYLmEaU
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=E49UB9JFTh0
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=RroVimKdHcs



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