ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」Beethoven: Piano Concerto No.5 "Emperor"


 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
Beethoven: Piano Concerto No.5 "Emperor" 
エフゲニー・キーシン C・デイヴィス ロンドン交響楽団 2007年
Evgeny Kissin Colin Davis London Symphony Orchestra

キーシンさんの演奏は瑞々しい。冒頭の、ば~んは重圧感なく、ちょっと弱いと思ったが、その後、噴水の前に立って水しぶきに濡れながら水滴を見ているかのようだ。演奏は細身系で、ガンガンとは弾かない。重々しい厳めしいベートーヴェンではなく、若々しく青春時代を楽しむかのような皇帝になっている。とにかく瑞々しさは随一って感じがする。オケは、旋律を膨らませず、さっぱりしている。低音のごろごろとした響きは充分にある。金管の音に耳がそばだち、木管の音の分離も良く見通しが良い。しかし、ピアノの主体性が際立たず、訴求力が低いかもしれない。これまでに、堂々とした皇帝を聴きすぎたかもしれないが。もう少し押しだしの強い、気迫溢れる演奏であれば嬉しい。第2楽章は、弱々しくか細いフレーズだ。テンポも遅め。1楽章が強烈なバックハウスさんの演奏だと、この2楽章に入ると、いっきに静謐の世界に誘われ、引きこまれるのだが、あまり1楽章との差が感じられないためか、キーシンさんの演奏を聴くと、まるで病気みたいだと感じてしまった。フレーズ自体は、恐ろしく綺麗なのだが、細かな音をパラパラパラと続けて行きたいのか、まどろみの午睡のような世界を描きたいのか、その意図がわからなかった。
ここまで遅いと、ちょっと息が詰まる。エゴロフ盤も、同じように遅く超スローだったが、テンポは揺らさないのでさっぱり系に聞こえた。キーシン盤はどうも陶酔型のように聞こえる。いずれにしても個性的な演奏だ。第3楽章は通常のテンポに戻るが、病み上がりのよう。快活になれきれず、ついていけない。これは無茶だ無理だ~疲れるなあと感じてしまった。1楽章では、繊細でクリスタルの響きだが、2楽章では病的に。3楽章では、右手の高音だけが煌めきを放っており、テンポをためて粘着気質である。生理的にイマイチ合わなかったとしか言いようがない。


 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
Beethoven: Piano Concerto No.5 "Emperor"
アルフレート・ブレンデル ラトル ウィーン・フィル 1998年
Alfred Brendel Simon Rattle Wiener Philharmoniker (Vienna Philharmonic Orchestra)

ブレンデルさんとラトルさんとのライブ盤は、ピリオド演奏を取り入れたもので、ワタシ的には違和感が残ってしまった演奏だ。その昔、ピリオド演奏は、大・大・大嫌いだぁ~ということで、完全お蔵入り状態となった。ベートーヴェンの皇帝を、こんなふうに演奏するなんてありえない。憤懣やるかたなし。というのが当時の感想だ。十数年ぶりに聴いたように思うが、実は、今でも同じように感じてしまう。ワタシの駄耳も慣れては来ているが、でも、やっぱりダメですね。ピリオドは。軽すぎるわけでもなく、そんなにスピードをあげて演奏しているわけでもないが、音の響きが苦手だ。どうして、こうもカッチカチに、カシカシっと弓を直線的に弾いているように聞こえるのだろう。木管はパコパコパコ~ 金管は、割れ音で荒れた音を立てて演奏しているのか。せっかくのVPOとの演奏なのに、がっかりしてしまった。ブレンデルさんのベートーヴェンは、既に、複数の全集があって愛聴してきた。好きなピアニストの1人でもある。ラトルとVPOとブレンデル、豪華な組み合わせだが。意図して、今までになかった特別なことをしたいと演奏しているのだろう。新しいものへの挑戦には頭が下がる思いだが、ワタシの耳には、硬すぎるほど硬く、無骨すぎるほど無骨で、柔軟な響きとなっていないことに、がっくりだった。せっかくの粒立ちの良い音が、ヘンチクリンな形に歪められた感じがして、ちょっと聴いてられない。(というのが、正直な感想でありました。)巨匠の演奏にケチをつけて、スミマセン。単なるワタシの好みの問題でございます。


 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
Beethoven: Piano Concerto No.5 "Emperor"
マウリツィオ・ポリーニ アバド ベルリン・フィル 1993年
Maurizio Pollini Claudio Abbado
Berliner Philharmoniker(Berlin Philharmonic Orchestra)

ポリーニさんの演奏はライブ盤である。硬質感の高い一音一音に響く演奏で、ピアノの鍵盤のように白黒はっきりしたモノトーンのような演奏だ。テンポは少し速めで、ガッツのある音がピアノ、オケともに圧倒的だ。どちらかと言えば柔らかい響きが好きだが、そんな好き好みを言わせない、有無を言わせず締まった音で迫ってくる。喜怒哀楽が表面に出ず、近寄りがたい存在だ。
オケのフレーズは、渋くて硬め。区切りがクッキリ、ダンダカダンと響くし、ゴリゴリしていて歯ごたえがある。オケもピアノも、
歯が折れそうなほど質感といい重量といい、硬め。音響としては広がりの少ない、無表情な杭打ちのような音だ。強打しているのにも関わらず、どこか情緒的に伝わってこないのは何故なんだろう。機械的なのだろうか。第2楽章になって、オケの響きに関して慣れてきたのか、良いな~と思いかけたが、1楽章とは違う人が振っているように聞こえる。綺麗だが律儀すぎて、聴き手のこちらに余裕が生まれず、いつも緊張感を強いる堅物の上司のようで、笑いの出ない職場に座っているみたいだ。第3楽章に入ると、ますます強烈なパンチを食らう。まるで響きのない音で、語尾のキツイこと。切り込みが強い。硬い木を切り出し、仏像でも彫刻して創ろうという感じがする。切磋琢磨されてノミを振るっているような、両者一体となった皇帝だろうか。特にこの楽章で、そう感じる。黙々と彫っていく彫刻家(芸術家)のようで、恐れ多い。ライブを聴きに行っていたとしたら、呑み込まれているんでしょうね。で、一瞬水を打ったように静まりかえった後、猛烈な拍手の嵐でしょう。(ハイ、CDの最後に凄い拍手が入っています。)


 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
Beethoven: Piano Concerto No.5 "Emperor"
クリスティアン・ツィマーマン バーンスタイン ウィーン・フィル 1989年
Krystian Zimerman
Leonard Bernstein Wiener Philharmoniker (Vienna Philharmonic Orchestra)

ツィマーマンさんの皇帝は、ライブ盤である。冒頭から、立ちのぼってくるピアノの粒立ちの良さに息を呑んでしまう。ありきたりな表現だが、すごく綺麗、美音でキラキラしてて、硬めの音で濁りがない。のけぞってしまうほどの美しさ。
テンポは速め。オケは、流麗ではあるが芯がふにゃっとしている感じで、甘美すぎるほど。ライブなので、録音状態にもよるのだと思うが、少しボコとしたティンパニーの響き、弦のドテドテ感。まあ、これをバックに、ツィマーマンのピアノが光って浮き上がってくる状態になるので、まあ結果オーライかもしれない。確かにピアノは綺麗だと思う。単に綺麗だけでなく、かなり強打しているように思う。金管が、吹き散らしているのだが、ピアノは、これに負けじと「どっどど~ん どっどど~ん しっしし~っ れっれれ~ん」と、あまりの気合いの入れ方に、びっくりするほど叩いている。「気合いだ~!」の3連発。硬さもしなやかさも、強さも柔らかさも、臨機応変に対処しているところが好ましい。第2楽章は、良い意味でとろける演奏だ。他の演奏者とは違う音色が出ているように思う。オケまでもが、少女のような可愛く変貌させられている。
第3楽章は、ソフトタッチ。肩肘はった演奏ではなく、そっ。ふわぁ。ためらいがちに1音目が出てくる。余韻を残して、実質2音目からスタートだ。さらりとした風合いだが、「ど ふぁらふぁら らどふぁふぁ~」このフレーズの後半、らどふぁふぁ~が強めで「そらっ ふぁふぁ~」の「そらっ」が強め、間に空間が生まれているので、リズミカルに弾んで聞こえる。強いタッチで果敢に攻めてくるところが印象的で、ピアノの高音域の音色が、多少高めに聞こえて楽しい。多彩な表情を持っている演奏で、柔らかいが、やるときゃやるって感じで、歯ごたえがある。しっかり聴かせていただきました。3番から5番までをライブで、1番、2番は弾き振りをして全集となっている。2020年にもラトル、ロンドン響での全集がある。


 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
Beethoven: Piano Concerto No.5 "Emperor"
ユーリ・エゴロフ サヴァリッシュ フィルハーモニア管弦楽団 1982年
Youri Egorov Wolfgang Sawallisch Philharmonia Orchestra of London

エゴロフさんの演奏は、繊細で女性的、皇帝というよりもお姫さまのよう。ちょっとヤワイが惚れ惚れするほどに美しい。冒頭、いきなり「ば~ん」と、オーケストラのトゥッティが鳴ったあとのピアノソロ。聴くなり、これは他盤とは違う。カデンツァは、すごく透明度が高く、辺りに露が飛び散るかのような瑞々しさを持っている。再び「ば~ん」・・・。細い指で奏でられたスタイリッシュな音を感じる。高音へ駆けのぼるところは、飛翔感があると言えばよいだろうか。これホントに皇帝かねえ。サヴァリッシュの振るオケの弦の響きは優しいし、このピアノに寄り添い、邪魔をしないでサポートしている。弦の歯切れ、見通し良く、かなり繊細でスマートだ。特に低弦がボコボコ鳴らさず、さらりと高音の響きが耳に残る。ティンパニーの響きをくっきり入れており、要所を締めている。女性的で、まるでショパンかシューマンか、幾分、なよっとした皇帝だ。
昨今、男性も女性化していると苦笑気味だが、決して、なよなよと儚げではない。瑞々しいので耳が洗われるような気がする。エゴロフの演奏は、とても新鮮だ。硬いタッチでリズミカルに、適度に深い強さを持っている。スリムだが筋肉質な演奏だ。特に、右手の高音域のタッチが丁寧で、1音1音、くっきり聞こえる。第2楽章のテンポは相当に遅め。レース越しに午睡している女性がいるので、そっとしておこう~という雰囲気だ。まるで、ラヴェルかと思うほど。アダージョだが、その存在の意味が、ちょっと分からない感覚に陥ってしまった。第3楽章は、2楽章からの午睡シーンを引きずっているよう。鳥が囁き、さあ朝ですよ。目覚めてください、とでも言われているような爽やかさ。粒立ちの良い、きめのこまやかな音が、たっぷり詰まった皇帝で、朝のシーンという感じがする。少しシナを作った皇帝とも言えなくもないが、粒立ちが良いので嫌悪感は抱かない。キーシン盤も、かなり女性的な演奏という感じがするが、浪漫的でテンポを揺らし、とろりとした演奏なのに比べ、エゴロフ盤は、すっきり系で1音の区切りが良く、テンポは揺れない。従前の皇帝というイメージが覆されるほど、女性的で大変美しくお姫様という感じだが、異色であるものの、清潔だし、丁寧で繊細な面が垣間見られる演奏なので、食傷気味の方は、一度おためしください。
カップリング:ベートーヴェン ピアノ協奏曲5番「皇帝」1982年、モーツァルト ピアノ協奏曲第20番 1985年


 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
Beethoven: Piano Concerto No.5 "Emperor"
アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ ジュリーニ ウィーン交響楽団 1979年
Arturo Benedetti Michelangeli
Carlo Maria Giulini Wiener Symphoniker (Vienna Symphony Orchestra)

ミケランジェリさんの演奏は、粒立ちの良い、繊細で優美に歌う皇帝で、多彩なフレーズを知ることができる。オケもピアノも、優美で繊細な感じのする華麗なるエンペラーで、しみじみ美音を噛みしめることのできるライブ盤(拍手入り)である。
まず拍手がある。冒頭「ふぁ~ ふぁらど ふぁらど ふぁらど ふぁ~・・・ どしどし」「れどしら らそふぁみ  れ~ ふぁらど ふぁらど ふぁらど~」高い音域の綺麗さが耳に止まる。高いところに駆け上っていく華麗なフレーズで、おっすごい。
いつもなら、もっと硬くてゴツゴツした音が聞こえてくるのだが、ミケランジェリ+ジュリーニの演奏だと、優美でしなやか。柔らかい。ふわっとした「どっどっふぁ~」なのだ。のびのびとした「皇帝」で、木管も優美そのもの。弦も繊細で絹糸のように艶やかだ。金管の音色もふわっ。弦と木管の絡みも大変美しい。ぶつ切りフレーズではなく、やっぱりジュリーニさんならではのよく歌い、滑らかなフレーズだ。すこぶる上質な耳のご馳走だ。
ミケランジェリのピアノも、このオケのまろやかな響きに乗って、デリケートに音を響かせている。端正で優美な美音である。かなりの美音なのだ。 それで、つい聞き逃してしまうようなフレーズも、新鮮に聴けてしまう。他盤で聴いていると、ついつい強いフレーズしか耳に止まらず、他の繊細な音が、まるっきり聴けていないような気がする。オケとピアノの強いフレーズの谷間に合間に埋もれてしまっているのか、私が聞き取れないだけなのか。他の間合いのフレーズも、こんなにもイッパイ詰まっているんだ~と、この楽曲の多彩さに聞き惚れてしまった。この盤を聴いて、まるで耳が洗われたよう。すっかり感心して聞き入ってしまった。
楽章最後は、かなりの強いタッチで迫ってきており、音量が最初とはまるで違う。タメも充分あり、パラララ・・・ ど~ん。パラララ・・・ ど~ん。津波のように迫力がある。でも、断然優美なのだ。特に、ホルンをバックに、ころころと、「そふぁみれどしらそ~」と駆け下りてくるところは、絶品中の絶品。背筋が寒くなるほど美しい。

第2楽章は、溜息のでるような弦の合奏のあと、ミケランジェリのピアノが、精巧なガラス細工のように出てくる。決して嫌みなタッチではない。幾分、メトロノームのようには弾いているけど、ポリーニのようには、硬く冷たい響きではない。「しし~ らそふぁみれふぁ・・・」ここは、前よりは強めのタッチ。硬めに凍るように響く。でも、すぐに柔らかくなるのだ。機械的に弾いてはいるが、なんとも優しい。「ぱっぱ~ん」と響き渡ったあとの残響。そして、その後の「そっ らしどれみふぁそらしらそふぁ・・・」と強めに弾くフレーズ、かなり対照的なイメージを与える。優しく聞こえるのは、ピアノだけではなく、伴奏の響きがソフトだからかもしれない。聞こえるかどうかの響きを感じる。ふわ~っとした空気感というか。
「みぃ~みぃ れみ~ ど~れどしそ ふぁみ~みれ そっそ らしど~みれ」「そ~ふぁみどそ そふぁれみどそ そ~らし らしど」 装飾音を交えての3連の和音付きのフレーズのやっさしいこと。柔らかくも、シッカリしてて、芯の強いフレーズが心地良い。 う~ん。みごとに、1音の大切さをしみじみ。これだけ弾いている方も大事にされているのだから、しっかり聴かなきゃって感じがする。

第3楽章は、「どふぁ ふぁら らど どふぁふぁ~」このフレーズは、ガシガシではなく、しなやか。もちろん、オケも優美にあわさってくる。「ど ふぁらふぁら らどふぁらら~」 1音目の「ど」より、ふぁら~の「ら」の音に重量とノビがあって、文字通り語尾が「ふぁっふぁ~」っと伸びている。う~ん。ガシガシにならない筈だ。
ピアノの「ふぁみれどしらそ」のフレーズだって、山なりなんだもん。こりゃ優美な筈じゃ。慌てず騒がず、よいテンポで歌っている。「み~みみふぁ そらっふぁふぁ~ ふぁ み~みみふぁ そらっふぁふぁ~」 奥の木管が、ずーっと鳴っているのが気になったが、この口調も柔らかい。そらっふぁふぁ~を、区切って紋切り調に、パンパンっと奏でる盤もあるのだが、このジュリーニのオケは、そんな荒いことはしない。カンタービレとまでは言わないが、しっかり歌ってますよぉ。「ふぁ~らら らどど どふぁふぁ~ ふぁみれどしら~」あ~ こんなフレーズまで、しっかり粒立ちよく聞こえてくる演奏って、あったかしらん。そう思わせるミケランジェリのピアノ。決して力づくではなく、ぐぐぐ~っと熱い、瞬間湯沸かし器のような音楽じゃない。
いつまでも、優美で華麗で、そして繊細。平常心を失わない。でも、格調高く、1音もゆるがせにしない完璧な音のように聞こえちゃう、その緊張感と、ソフトな歌い方。体温はあがらず、平温のまま。でも、やられちゃうんです。ハハハ~ う~ん。完全にやられちゃたな。これは。メチャ感動しちゃった。かなり食傷気味になっている楽曲だったが、ハイ、これは、メチャ新鮮に聞こえる。完全ライブのくせに、完璧美音です。傷なんか、なかったんじゃーないでしょうか。拍手。
カップリング:ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番、5番「皇帝」


 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
Beethoven: Piano Concerto No.5 "Emperor"
アルトゥール・ルービンシュタイン バレンボイム ロンドン・フィル 1975年
Arthur Rubinstein Daniel Barenboim London Philharmonic Orchestra

ルービンシュタインさんは、1987年生まれだから、録音された時点では、13+75で、単純計算して88歳? さすがにテンポは遅めだが、ところどころ、カ~んっ!っという鋭い響きの打音がある。ご高齢にもかかわらず、これだけ弾けるなんて信じられません。もちろん、さすがにテンポは遅めだが、アナタ88歳でこれが弾けますかって感じ。あやかりたいものです。スタインウェイのピアノを愛用されているとのことで、煌めき度の高い音で、始終、恰幅のよい堂々とした演奏である。華やかな演奏だ。ひとつの時代を創り上げた方だし、さすがに時代を背負ってこられただけあって、さすがに立派だと思う。バレンボイムさんのオケが、音が、途切れ途切れになっているところもあり、えっと驚く場面もあるが、総体的に遅めなので致し方なしという感じだろうか。第2楽章は、ゆったり噛みしめるテンポで、音がくっきりと描かれている。テンポ怪しく、ヨチヨチ的に弾かれている場面もあり、音の響きが残らず、途切れそうに持続音が続かない~っと悲鳴をあげそうになる。オケも大変だろう。
第3楽章では、トリル部分は可愛い。テンポは遅め。それにしても、煌めきの高さを、彼はどうやって維持していたのだろう。指の強さだろうか、手首だろうか、うーん。天才演奏家の生涯現役を絵に描いたような演奏で、技術なら若い方の演奏がいくらでも聴けるが、テクの維持の方法は? 長寿の秘訣は? アハハ~ きっと練習の鬼だったんでしょうかね。


 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
Beethoven: Piano Concerto No.5 "Emperor"
アルフレート・ブレンデル レヴァイン シカゴ交響楽団 1983年
Alfred Brendel James Levine Chicago Symphony Orchestra

ブレンデルさん3回目の全集である。華麗なるタッチが存分に楽しめる演奏だ。ライブ盤(拍手入り) 冒頭「どどふぁ~っ」と、オーケストラの音が鳴ったあとのピアノソロが、とても華麗だ、録音の透明度も高く、力強さ、線の美しさ、粒立ちの良さ。力強さと伸びやかさを同時に感じさせてくれる。特に、左手のフレーズが豪快だ。階段をダンダンダンと駆け上がりパワフル。
オケは、弦の高音域の音色が特徴的。シカゴ響だから、ゴリゴリで押してくるのかと思ったが、意外と軽めで軽快だ。しっかりした演奏なのだが、軽やかでスピーディだという印象を受ける。楽章最後、ピアノのソロは超弱音でテンポを落とす。「どっどふぁ~ ふぁみふぁそ らふぁれど~」最後に至るまで、このピアノは、オケと一体化して軽やかに飛翔している。
第2楽章、テンポはゆったり。弦のアダージョ感、まろやか。妙なフワフワ感が良い。煌めく動きが凄いし、溜息をつかれると、よろめいてしまう。抑揚のついたフレーズで甘美で純情。オケが主旋律を弾いている時の、ピアノの初期練習曲みたいな単調な伴奏フレーズも綺麗に弾かれている。コロコロ感がたまりません。第3楽章では、華麗なワルツのようで、細身の貴婦人のよう。若干線が細めなので、もう少し太めでもよろしくてよ~と言いたいが、上品な皇帝である。高音域で走る右手が、ため息の出そうなほど綺麗。後年、ラトルとの全集もあり、これが3回目の全集である。


 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
Beethoven: Piano Concerto No.5 "Emperor"
ルドルフ・ゼルキン 小澤征爾 ボストン交響楽団 1981年
Rudolf Serkin Seiji Ozawa Boston Symphony Orchestra

ゼルキンさんの演奏は、とても誠実に丁寧に弾かれている。楷書体でありながら、肩をいからした硬い響きではない。適度な硬さときめの細やかさを感じる。密やかさ、格調の高さを持ち合わせおり、弱音がことのほか美しい。強くありながらも、核心部分は柔らかく優しい音だと感じる。ぐいっと押してくる場面でも優しさを感じる。録音当時、すでに70半ばだと思うが、背筋のシャンとした几帳面なタッチで、リズムに乱れがない。そして、ガッシリと楔を打ち込むように音階を引き上げていく。ところどころ、ふわっと緩やかに息を抜き、間合いを取っているのでガチガチではない。オケは、サポートに徹している。第2楽章では、控えめで客観的に、奥ゆかしく空気感を醸し出している。そこに、ためらいがちなピアノが入ってきて、夢幻の世界が広がっていく。心情を抑制しながら、ぽつりぽつりと夢のなかで泳いでいくような浮遊感。また、喜びが発芽して段々と膨らんでいくような、春を待ちかねたような感じがする。陽射しの暖かさを感じ始めた、そんな時期を迎えてたかのような雰囲気だ。微笑みを浮かべながら、ピアノを弾いておられるように感じちゃいますねえ。そろっと、もう良いかな~って感じで、そろっと、テンポをあげていって、じわじわ~っと、喜びが広がっていく。この2楽章は、この、じわじわ~っと滲みていく感覚が気持ちよいです。第3楽章も、馥郁としてて、ふくよかだ。ぐいっ~っと圧の強い演奏ではないが、それでいて意志が強そうという感じがしてくる。可愛い音で、ブンチャッチャ チャチャチャ~、ころころころっと昇って行かれて、ん~ッチャッチャっと、個性的すぎないところが好ましい演奏です。


 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
Beethoven: Piano Concerto No.5
エマニュエル・アックス プレヴィン ロイヤル・フィル 1986年
Emanuel Ax André Previn Royal Philharmonic Orchestra

アックスさんの演奏は、さほど個性的ではない。穏やかで大らか、平和すぎるかもしれないが、綺麗な演奏である。とっても失礼なことに、アックスさんは、チェリストのヨー・ヨー・マさんとCDのジャケットに写っておられたイメージが強く、その昔は、ついつい伴奏者の方だと思い込んでいた。しかし、そうではないと知ったのが、このベートーヴェンの一連の協奏曲。
プレヴィンさんのベートーヴェンの交響曲が、しなやかで流麗、リズミカルで楽しい演奏だったので、ピアノ協奏曲も購入した次第だ。5番の皇帝は、さすがに強力な盤が目白押しで、かなり分が悪い。音が柔らかく繊細だ。そのくせ、結構硬めのカツンカツンと打音して強さもある。強烈な個性を持っている演奏家、いつ聴いても、ああ○○さんの演奏だと解るような演奏家が、主役を張っていくのだと思う。でも、アックスさんの演奏は、たぶん個性的な演奏家ではないように思う。プレヴィンさんのオケは、流麗で柔らかく、付点のリズムに弾力がある。アックスさんのピアノは、オケの一部のように組み込まれていく。質感が似ている気がする。
競い合い、一触即発的に演奏されるのも協奏曲の醍醐味。質感が似て、マッチングしながら相乗効果を生むのも協奏曲の醍醐味かもしれない。ちょっと穏やかすぎて、伸びやかにすぎる皇帝かもしれないが、平和で良いではないでしょうか。


 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
Beethoven: Piano Concerto No.5
ヴィルヘルム・バックハウス ハンス=シュミット・イッセルシュテット ウィーン・フィル 1959年
Wilhelm Backhaus Hans Schmidt-Isserstedt
Wiener Philharmoniker (Vienna Philharmonic Orchestra)

昔は、ベートーヴェンのピアノと言えば、バックハウスさん。なんだか、ずーっと名盤ランキングに名を連ねていた。往年の大名盤で、聞きしにまさる恰幅の良さ。堂々としてて文句のつけようがないと言いたいが、ん? と思うところあり。ワタシ的には、ちょっと、イッセルシュテットさんのオケに驚かされた。冒頭、ドスンっという音から始まり、そのなかからパラパラパラとピアノが出てくる。これがホントにパラパラ状態。さすがに高音域は綺麗だが、音の粒立ちはあまり良くない。勢いでやられちゃうタイプなのか、テンポは揺れ、はしょっちゃうところは、はしょっちゃいましょうという感じで走って行く。「らっそ ふぁみれど~」は、「らぁそぉっ~」とためて、「ふぁみれどっ」はクッキリ速めに区分されている。はあ~ なるほど、勢いがあるっていうのは、こういうことか。
ウィーン・フィルなのだが、オケの音は艶があるというよりは渋い。「ふぁ~ ふぁみふぁそ らふぁれどっ どっど ふぁ~」1音目の「ふぁ」に、ピアノの「ど」が被さってきて、低音のごっつい響きで重圧に耐えかねそうになる。すごく重い。「どっどふぁ~ どっどみ~」 金管が、どどど・・・と響き、ティンパニーが、どどど・・・ ハイ、圧迫感まで伴って、どどどど・・・と、強烈に押してくる。「どっどふぁ~」なんて、冒頭の1音目より、2音、3音目が強い。「どっど らふぁれど~」なんて、最後の「らふぁれどぉ~」が、最後のどぉ~を目指して、尻上がりに強くなっていくような感じだ。 なにせ、フレーズ最後には、全開って感じのパターンなのだ。で、同じフレーズが登場するたびに、段々と強烈になってきて、「らふぁれどぉー!」と叫ぶ。
まあ、そんな感じで、オケの強烈な音に耳を奪われてしまった。肝心のピアノは、すっかり忘れていたが、まあ。バックハウスさんにしては繊細な感じがする。オケが強烈で、パワー炸裂。爆演に近い。金管なんて、パア~ と全開で吹いてる。これウィーン・フィルだよねえ。シンジラレンよ。オケが、バックハウスさんのピアノを食っちゃう勢い。タフなオケに、タフなピアノ、多少荒くたい演奏会である。フレーズが、ゴツン、ドスンっです。(以降、省略させていただきます。笑)


ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
1959年 バックハウス イッセルシュテット ウィーン・フィル Dec ★★★
1961年 レオン・フライシャー セル クリーヴランド管弦楽団 SC 未聴
1967年 バレンボイム クレンペラー フィルハーモニア管弦楽団 EMI 未聴
1968年 ギレリス セル クリーヴランド管弦楽団 EMI 未聴
1970年 グルダ シュタイン ウィーン・フィル Dec 未聴
1975年 ルービンシュタイン バレンボイム ロンドン・フィル R ★★★
1976年 ブレンデル ハイティンク ロンドン・フィル Ph 未聴
1979年 ミケランジェリ ジュリーニ ウィーン響 G ★★★★★
1981年 R・ゼルキン 小澤征爾 ボストン交響楽団 Tel ★★★★
1982年 エゴロフ サヴァリッシュ フィルハーモニア管 EMI ★★★★
1983年 アシュケナージ メータ ウィーン・フィル Dec 未聴
1983年 ブレンデル レヴァイン シカゴ交響楽団 Ph ★★★★
1984年 アラウ C・デイヴィス シュターツカペレ・ドレスデン Ph
1985年 バレンボイム 弾き振り ボストン交響楽団 EMI 未聴
1986年 アシュケナージ 弾き振り クリーヴランド管弦楽団 Dec 未聴
1986年 アックス プレヴィン ロイヤル・フィル R ★★★
1989年 ツィマーマン バーンスタイン ウィーン・フィル G ★★★★
1993年 ポリーニ アバド ベルリン・フィル G ★★★
1998年 ブレンデル ラトル ベルリン・フィル Ph ★★★
1999年 内田光子 ザンデルリンク バイエルン放送交響楽団 Ph 未聴
2002年 アファナシエフ スダーン ザルツブルク・モーツァルテウム・オーケストラ OEHMS 未聴
2002年 エマール アーノンクール ヨーロッパ室内管弦楽団 T 未聴
2007年 キーシン C・デイヴィス ロンドン交響楽団 EMI ★★★


 

YouTubeでの視聴

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番 皇帝
Beethoven: Piano Concerto No. 5 in E Flat Major, Op. 73 "Emperor"
アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ - トピック
Provided to YouTube by Universal Music Group
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=jaZ7yA7BAMA
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=ms1afplNCuI
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=zwqkVe_bSVM


Beethoven Piano Concerto No. 5 in E-Flat Major, Op. 73, "Emperor"
エフゲニー・キーシン - トピック Evgeny Kissin - Topic
Provided to YouTube by Warner Classics
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=j0LtdnObDzg
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=NBQNd87QBA4
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=9sEtuJi4PTw


Beethoven Piano Concerto No. 5 in E-Flat Major, Op. 73 "Emperor"
Yuri Egorov/Philharmonia Orchestra/Wolfgang Sawallisch - トピック
エゴロフ サヴァリッシュ フィルハーモニア管
Provided to YouTube by Warner Classics
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=sDlcIMzWmFk
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=NbhiF1ihRbU
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=pIbfFKwTojQ


Beethoven: Piano Concerto No. 5 in E-Flat Major, Op. 73 - "Emperor"
マウリツィオ・ポリーニ - トピック Maurizio Pollini - Topic
Provided to YouTube by Universal Music Group  アバド ベルリン・フィル
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=wbLsDkptymc
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=4fRiR-g4EZE
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=gKC-tIIho8w


Beethoven: Piano Concerto No. 5 in E Flat Major, Op. 73 "Emperor"
ヴィルヘルム・バックハウス - トピック  バックハウス イッセルシュテット ウィーン・フィル
Provided to YouTube by Universal Music Group
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=W-EwUyNXI_8
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=SnIBqTkKN_k
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=5N_9vdyueoQ


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