ブラームス ヴァイオリン協奏曲 Brahms: Violin Concerto


 ブラームス ヴァイオリン協奏曲
Brahms: Violin Concerto
樫本大進 チョン・ミョンフン シュターツカペレ・ドレスデン 2006年
Daishin Kashimoto
Myung-Whun Chung Sächsische Staatskapelle Dresden(Staatskapelle Dresden)

綺麗な音で奏でられているが、テンポが遅く、ここまで遅いと別の曲のようにも思える。2006年11月ライブ演奏で、ミュンフンの振るオケは、超ゆったりしており、綺麗な音色ではあるのだが勢いがない。で、Daishinさんのヴァイオリンも、オケ以上にゆったりと奏でられていく。冒頭で、既にタイムスリップしたかのような時代がかった演奏で、退廃的な、倒錯した美しい演奏だ。かなりあやしげである。まるで、ヴィスコンティの映画を見ているかのような錯覚をおぼえる。1楽章だけで24分27秒という長さ。ブラームスのヴァイオリン協奏曲は、第1楽章が長大で、バランスの悪さを指摘されているが、こだわりが強いというか執拗というか。つきあってられないというのが率直な感想だった。語尾のしゅるっと抜けていくところが気持ち悪く、ちょっと尋常じゃない。
第2楽章は、オーボエの美しい旋律が登場する。甘美だが、力のない美しさで消え入りそうになっている儚い美しさ。そこに輪を掛けたように、儚げなヴァイオリンが入ってくる。ある程度わかったうえで受け入れられる美しさがあるが、ちょっと、やりすぎではないだろうか。第3楽章は、普通のテンポに戻る。ヴァイオリンの高音域には、鋭利な切れがある。オケの低音のごろごろ~とした響きを従えて、ヴァイオリンには高みに上っていくパワーがある。喉を震わせて泣くフレーズも、線の細さを感じさせるが、緊張感のあるフレージングだ。硬質感の残る美しさだが、ノビ感は少め。テンポをいじらず、そのまま最後まで行ききった。たいてい、スピードアップして、男性的に終わるんですけど。既成概念を打ち破る演奏ではある。一期一会に聴けても、そうそう何度も聴ける演奏ではないように思う。美意識過剰な足の無い幽霊的なブラームスで、ちょっとひいちゃったというのが正直なところ。別世界的な演奏で、ワタシの耳は、あまり喜んでくれませんでした。


 ブラームス ヴァイオリン協奏曲
Brahms: Violin Concerto
ヒラリー・ハーン マリナー アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ 2001年
Hilary Hahn 
Neville Marriner Academy of St. Martin-in-the-Fields

ハーンの演奏は、とても瑞々しくマイナスイオンが降り注ぐかのような演奏だ。ブラームスのヴァイオリン協奏曲っていうと、重厚な楽曲だというイメージが強いが、スマートで現代的、すっきりしてて、ちょっと冷たい感じのする演奏だ。オケの方もすっきりしているが、力強く歯切れよく、縦にカッシリと打ち込んでいく堅牢な感じを与えている。さほど大きな編成ではないが、悲痛なほどに、カシカシとボーイングして、張り裂けんばかりの余裕のなさ。長い序奏部分が終わると、キレの良いスマートなヴァイオリンが登場する。ヴァイオリンとオケの短いフレーズとの掛け合いは、キレキレっ。鋭い細い剣で天を突くかのようなヴァイオリンだ。また、軽やかに細身の声で、タメをもって歌い、ころころと喉を震わせて歌う。軽やかにステップを踏む姿は、まるで美少女のように感じられ、心を鷲づかみにされた。目からは鱗が、耳からアカが落ちたみたい。(ちょっと汚くてごめんなさい)引き締まった音でありながら、フレージングの優美さに、すっかりとりこになりました。

第2楽章は、オーボエの旋律から始まる。オケは素っ気なく、情感が籠もっていない感じがするが、ヴァイオリンは、アハハ~ これは巧い。すっきりした音だが艶のある華やかな音で演奏している。高音域のノビ感もすごいが、低音域のぐっと力の入り方が絶妙で、アクセントが効いている。冷たい音だが、するっと音が流れるところがあり、妙に色香を感じる。高音域にさしかかったところの艶っぽさとスリリングさ、張り詰めた感覚はたまりません。コロラトゥーラのアリアと評される部分だそうだが、聴き惚れてしまった。オペラの歌姫のようなヴァイオリンに絶賛。こりゃ~すごいです。何度でも聴けちゃいます。

第3楽章は、前のめりがちにテンポよく進んでいく。ここでは、タメがちに演奏する方もおられるが、ハーンさんの演奏は、小気味良く、弓の返しが速い。喉を震わせたように歌い、波の揺れが速い。トリルの回転が速いのと付点の刻みにキレがある。歯切れが良く細かく音が綴られ、きめが細かい。うっ、うつくしすぎる。これだけ速く、瑞々しく、 テンポよく、フレージングを細かく刻む演奏は、聴いたことがないかも。息をのむ暇もないほどに、明るく、のびのびと、ピュアで開放的で喜びに満ちあふれた演奏だった。オケとは格が違いすぎる気もするが、ヴァイオリンの魅力にのめり込んしまったので気にならない。清らかな泉で水浴びをしているようなブラームスのヴァイコンの演奏って、あったかしらん。まるで水の精をみているかのような演奏で、絶句しちゃいました。


 ブラームス ヴァイオリン協奏曲
Brahms: Violin Concerto
マキシム・ヴェンゲーロフ バレンボイム シカゴ交響楽団 1997年
Maxim Vengerov
Daniel Barenboim Chicago Symphony Orchestra

ヴェンゲーロフのライブ演奏は、すごく熱いのだがヒンヤリした演奏で、段々とスケールアップするにつれ、切れ味抜群でアタマが締め付けられる感じがする。シカゴ響は、低弦のものすごく厚いオケで力強い。喉をつぶさんばかりに強い合奏が奏でられる。全体的にクールな響きで、時代がかった雰囲気を持っており、歯切れの良さが意志の強さとなって表れているようだ。ヴェンゲーロフさんのヴァイオリンも、筋金入りの強さだ。そして、高音の音がすーっと伸びているかと思ったら、一瞬、ぴたっと高いところで止まる。この止まる具合が、なんとも言えない風情がある。揺ぎのない音で強靱でタイトなのだ。かと言って、完全メタリック調にならないところが凄い。高音域になって「ぴぃろぴぃろ~っと」と喉を振るわせて歌うところが凄すぎ。
太い切れ味があり熱いのだが、クールな響きが特徴だろうか。つれないね~と思わせる冷たさが、たまらないかも。甘すぎない耽溺しないで、声を引きつらせて熱く語る。カデンツァは自作らしい。聴きなれたヨアヒム版で良かったのに~ もちろんテクは超テクですけど。結構、長めの独奏カデンツァ部で、本人も酔ったかもしれない。

第2楽章は、牧歌的で可愛い楽章だ。透明度の高いフレーズが緊張感あふれる響きとして奏でられる。オケもヴァイオリンも、暖色系の音質ではない。冷えた凜とした感触があり、青空の下で霧氷でも見ているような、キラっとした煌めきのある空気感。ワタシ的には、ヴェンゲーロフさんの男臭い音色が好きだが、色気が漂うほどの温度には達しておらず、どちらかというとストイックな感じがする。純粋に、ヴァイオリンの演奏を聴くだけだと、耳にご馳走って感じがする。

第3楽章は、パワーのある演奏だ。巌を砕くような荒波のようでパワーが炸裂しているが、嫌みになっていない。オケも「タララ ラララ らぁっ」と、切れ味バリバリ音が炸裂している。アクセントが強めで、重厚さより切り裂き状態になっているが、硬さと冷たさの両方が表面に出てくる感じ。氷の粒が飛んでくるような感じがするが綺麗だ。「ふぁっ そっらっし どれみふぁ~」っと擦れながらも、しゅるしゅる~っと昇っていく強靱さ、高みを目指す力強さを感じる。中間部においても、ひといき着けそうな柔らかいフレーズがあるが、息を吐き出して、ほっとできる状態ではない。ムチで打たれそうな勢いで、ひーっと言う音が奏でられる。
ヴァイオリンもオケも一体になって、熱いが、冷たい氷河のような高い高山に登っている風というか、氷山が浮かぶ海を航海しているような~ そんな感じがした。オイストラフ盤のような、シアワセ感が漂ってくるような演奏ではない。このすさまじい演奏がライブとは、う~ん凄いです。ライブ盤 (拍手無し)
カップリング:ブラームス ヴァイオリン協奏曲、ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第3番 1998年


 ブラームス ヴァイオリン協奏曲
Brahms: Violin ConcertoBrahms: Violin Concerto
ギドン・クレーメル アーノンクール コンセルトヘボウ 1996年
Gidon Kremer
Nikolaus Harnoncourt Royal Concertgebouw Orchestra

クレーメルさんはブラームス協奏曲を3回録音している。1回目はカラヤン、2回目はバーンスタイン、3回目がこのアーノンクールとの共演でライブ演奏だ。で、話題になったのが使用されているカデンツァ。カラヤンの時は普通のクライスラー版、バーンスタンの時はマックス・レーガー作曲の「前奏曲とフーガ」第6の前奏曲を使用した。アーノンクールとの演奏では、エネスコのカデンツァを使用しているとのこと。天才演奏家ならではの挑戦だと思う。で、昔は、ツンツン尖っていたのに、穏やかに丸くなっている。テンポも遅めで、え、どうした? いつもは、かすれ気味の音で、きぃ~んと神経質そうな声で裏返ったり飛んだり、お忙しい演奏をされる方なのだ。クレーメルさんは、ワタシの好みとは違う。それなのにブラームスだけで、3枚のCDを所有しているのだから、自分でもぎゃふん。ブラームスのロマンティックな楽曲だが、素っ気ない感じがする。クレーメルさんのファンには申し訳ないのだが、強奏場面になると、ピシャっと鞭打たれるかのように聞こえるのだ。エネスコのカデンツァを拝聴したのだが、う~ん。さっぱりわかんない。主題をプツプツと細切れにして、現代風に幻想的に室内楽っぽく、アレンジした感じがするが、クライスラーのカデンツァとの違いと言われても困る。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の時も、シュニトケのカデンツァで超驚いたけれど、今回は、印象にあまり残らず、何度聴いても耳を通過してしまった。

第2楽章は、オーボエのソロは、細めのすっと透る声で、とても美しい。クレーメルさんのヴァイオリンの音質と似ていて、双子のように感じる。「しそれぇ~そ し~らそら~れ しぃ~それ~そ どしらそ ら~み ふぁ~られそ~ふぁられそぉ~」ヴァイオリンは、ひんやりとした声だが、柔らかく穏やかなフレーズとして奏でられている。つんとした声だと思い込んでいたが、バーンスタインとの演奏とは、アプローチが違っているようだ。曲線美、ゆったりとした間合いにより優美さが感じられる。
第3楽章は、ダイナミックで、かすれ声満載のヴァイオリンに変貌しており、ああ~ やっぱり。ざっくりとした弓さばきというか、大柄な音というか、大なたで料理されているごとくというか、振り下ろされているかのような鳴りっぷり。オケは、ここに至るまで、さほど気にならなかったが、ティンパニーの轟音のようなロールが強調されている。「みっ ふぁっそら しっどれっれみ そっふぁみれ どっしらそ ふぁみれ・・・」と昇っていくところは、フレーズが細切れとなり、テンポが遅めで活き活きした感じがしなかった。オケ全体は、いつものコンセルトヘボウとは思えないほどの乾燥傾向にある。


 ブラームス ヴァイオリン協奏曲
Brahms: Violin Concerto
竹澤恭子 コリン・デイヴィス バイエルン放送交響楽団 1995年
Kyoko Takezawa
Colin Davis Symphonieorchester des Bayerischen Rundfunks(Bavarian Radio Symphony Orchestra)

冒頭、渋い弦の響きと木管の音色で、主題が流れてくる。穏やかで綺麗なのだが、ヴァイオリンのソロは、なかなか登場してくれない。ヴァイオリンのソロの主題は、渋くて硬い弦の低音の厚い層から、殻を破って出てくる。栗の渋皮みたいに甘いフレーズの外には苦みがたっぷりの皮がついている。主題の後、夢見がちな優美なフレーズが続く。竹澤さんのヴァイオリンは穏やかで、バイエルン放送響の音質も明るさのなかに渋さが感じられる。優美かと思えば、暗く沈む。ブラームスの楽曲は、渋みを噛みしめないと甘さが出てこないような感じだ。低弦のフレーズの方が主体となって、渋い和音を響かせるが、ソリストの演奏も落ち着いて美音だ。夢幻的な雰囲気があり、息づかい間合いの良さが好き。硬いけれど太めで、カッチリしており、聴かせ上手である。
第2楽章は、オーボエが活躍する。この楽章も、ヴァイオリンにとっては登場するまで、じっと我慢。そして、登場すれば歌う。
第3楽章は、「ふぁぁぁぁ~」と声を震わせて泣いているのは、何の楽器だろう。鳥が鳴いているような、「ららららら~」というフレーズが印象的な楽章だ。ヴァイオリンが、あまり目立たないのは残念だし、とってつけたみたいに感じているのは、ワタシだけだろうか。何度か繰り返される主題は、聴き応えはあるが、ヴァイオリンのソロと、オケのゴンっという低音の音が対比されてリズムは生まれているが、この演奏を聴いて、オケに埋没してソロは曖昧な存在になりかねない楽曲だと、改めて認識した。録音状態は良い。ブラームス 交響曲全集、ピアノ協奏曲1番、2番(オピッツ)、ヴァイオリン協奏曲(竹澤恭子)5枚組BOX


 ブラームス ヴァイオリン協奏曲
Brahms: Violin Concerto
ヴィクトリア・ムローヴァ アバド ベルリン・フィル 1992年
Viktoria Mullova
Claudio Abbado Berliner Philharmoniker(Berlin Philharmonic Orchestra)

ムローヴァの演奏は、東京サントリーホールでのライブで、ライブならではのテンションの高さが感じられる。ここまで、張り切ってもらえる嬉しい。録音状態が良く、残響も適度にあって美音で奏でられている。低音のフレーズも、ティンパニーのロールも強烈に入っている。かーっと伸びあがっていくヴァイオリンのフレーズも、のっけからテンションが高く、すごい畳みかけで冒頭から既に燃えている状態だ。ムローヴァさんは、オトコマエに弾き出す。ワタシ的には、このヴァイオリニストは、クールな方だと思っていたのだが、のびやかに細身の声で歌う。細身の体躯を精一杯伸ばして、舞おうとしている感がする。そして、うねうねうね~っという音が魅力的だ。太くて音量があるヴァイオリンではないので、ふくよかな天女というわけにはいかないものの、逆境に立ち向かて、頑張って弾いてる感じがする。なにせ、オケが立派すぎなのだ。迫力満点で、ごごごぉ~と押し寄せてくる波打ち際って感じ。そこに、寂しく立っている細身の女性って感じがする。頑張りすぎて、楽章の最後になると、段々にツラクなってくるんだけど。

第2楽章は、頑張った前楽章のあと、牧歌的なフレーズに変わる。木管とホルンの柔らかい響きのなかで、ツーっと吹かれる息の長いオーボエのフレーズ。美音で天上の世界のようだ。フルートが合わさって、うふふっ。魅力的なブラームスのフレーズ。さすがにベルリン・フィルだと感心してしまった。この楽章は、ヴァイオリンの独壇場で、オケはバックに徹してくれるので、腕のみせどころだと思う。ワタシ的には、もう少し声量豊かに、情感たっぷり深く深く歌って欲しいのだが、これで精一杯なのだろう。かなりストイックに奏でられているヴァイオリンだ。
第3楽章は、舞曲風の弾んだ楽曲で、弦の声を震わせて鳴る音が力強く、ティンパニーの音が炸裂している。まあ、これぐらい叩いてもらわないと迫力が出ないが、繰り返す前のヴァイオリンのフレーズは、オケと合わせるのが難しいようだ。ヴァイオリンのフレーズは、細いけれど、高音域で響いているし、ノリ感もある。速めに駆け抜けて行こうとしているのか、かなり熱っぽい。重音で奏でるところは、いったんテンポを抑え、密やかに、チャーミングに奏でられている。リズミカルで、なかなかに表情豊かに演奏されていると思う。きっと、オケがソリストを煽ってるのだと思うが、双方共に、思いっきり燃焼した感がある。ライブ盤ならではの熱い演奏が聴けて良かった。


 ブラームス ヴァイオリン協奏曲
Brahms: Violin Concerto
アンネ=ゾフィ・ムター カラヤン ベルリン・フィル 1982年
Anne-Sophie Mutter
Herbert von Karajan Berliner Philharmoniker(Berlin Philharmonic Orchestra)

若い10代のムターさんの演奏で、華麗なる演奏なのだが、それが全体の風合いとして好ましいのかどうかは微妙。カラヤンの振るオケは、華麗すぎる弦主体の高い音で、きぃーんっという感じで鳴ってくる。腰高の強い硬めの音だ。ヴァイオリンは、低い音はかなり太く、高く伸びていくところは途中で、ひゅーっと細くなって声が裏返るのが特徴だろうか。ふくよかな音ではないが、力強く、高音域のひらひらした音のウェーブ感が、ひやっと裏返ってくところが背筋が寒くなるほど細い。一瞬で容貌が変わるところが、すごいと思う。1982年録音なので、ムターさんが20歳にもなっていない頃の録音。歯切れは甘めかもしれないし、ざっざっざっというキレ味の音は、さほど深くない。でも、甘く歌うところのフレージングは、甘く太めの耽溺傾向が感じられる。艶のある音色では、まだないように思うが、なにせ聴いたのがブラームス。耽溺するほどに甘くはないが、そんななかでも揺れて歌うところが垣間見られる。カデンツァでは、最初は、たどたどしさを感じさせるものの、高い音でヒロヒロと舞うところは、さすがに巧い。

第2楽章は、シンプルに木管たちが歌っていく。硬めのひんやりしたオーボエの音が、基調として存在し、そこに絹糸が絡むようにヴァイオリンが入ってくる。 クラリネットの少し甘めの音、フルートのふわっとした空気感、ホルンのまろやかな音が個々に絡んでいく。ソロ同士の楽しい演奏が醍醐味かもしれない。若い頃は、どうも、ブラームスは苦手で、特にこのヴァイオリン協奏曲は、この2楽章が超苦手だった。はじめて聴いたらなんだか、わからなくって、今でも、すーっとやり過ごしてしまいがち。牧歌的な側面は、あまり良くは感じられなかった。

第3楽章は、腰高なオケが、さらに一段高くなった感じで、オケの音全体が、ひぇ~っと裏返った音になっている。堅牢なピラミッドのような構成が、転がり落ちそうなバランスの悪さ。明るい雰囲気が、とんでもなく、ひらひらと薄っぺらな感じで、煌びやかな繁華街のような雰囲気になっている。奥行きが、あまり感じられないし、特にティンパニーの音が奥まり、弦の存在感も薄いように思う。平面的という感じだろうか。ブラームス独特の厚みのある響き、ごごご~っとオケが圧を伴って鳴ってこないのは、寂しい感じがする。ムターさんのヴァイオリンは厚みのある音だが、跳躍感、タメ感も少なめで、後年に比べると淡泊に感じられる。これは、甘美で太めの豪華な演奏を知っているからかもしれないけれど、今でも、若かりし頃の演奏を聴けるのは嬉しいことだと思う。


 ブラームス ヴァイオリン協奏曲
Brahms: Violin ConcertoBrahms: Violin Concerto
ギドン・クレーメル バーンスタイン ウィーン・フィル 1982年
Gidon Kremer
Leonard Bernstein Wiener Philharmoniker(Vienna Philharmonic Orchestra)

バーンスタインさんの振る浪漫派的な濃厚なオケの響きと、鋭利なクレーメルさんのヴァイオリンソロの組み合わせという、微妙なバランスで演奏されているライブ演奏だ。カラヤン、バーンスタイン、アーノンクールの3種類のうち、ゆったりとしたテンポで、ロマンティックに古風な感じのする濃い演奏である。重厚なオケと、神経質っぽいヴァイオリンのソロで、強く、ささくれだった、ちょっと粗い響きと、細くて切れそうな、うねるフレーズが特徴だ。エッジの立ったキツイ、切り方の激しいボーイングで、ざっくり傷口が見えるような感じがする。耳には優しい音質とは言い難く、ワタシ的には、とても苦手な音だ。フレージングは柔らかくないし、ほとんど、あまり、いや全く歌わない。バーンスタインの振るオケと、クレーメルのヴァイオリンは、音質が違いすぎるような気がする。豊かな音も垣間見られるが、高音域に至るところは、ぞっとするほどの美しさ、妖しさがあるが、ヒンヤリした空気感がつきまとい、首筋を背後から、ふいに撫でられる感覚がする。幽霊のように、すーっと、どこからともやって来て、するっと消えていく感じ。第1楽章のカデンツァは、マックス・レーガーの「前奏曲とフーガニ短調」を使っているとのことで驚き。耳慣れないことと、どうしてこの曲なのかよくわからない。

第2楽章は、テンポが遅めだが、白眉となっている。ストイックなオーボエと柔らかいクラリネット、フルートのハーモニー。 かなり穏やかな楽章だが、ここに、ヒンヤリした硬いヴァイオリンが重なってくる。氷が張った湖面で、真夏に聴くと涼を得られるかもしれないが、ワタし的には牧歌的な楽章だと思っているため、冷気漂い、悲嘆にくれているような気分になり、ちょっと違和感が残った。しかし、これも1つのアプローチで、細身の女性が悲しみにくれ、さめざめ泣いているようでもあり、深い悲しみという新しい一面を聴いた気もする。

第3楽章は、アタッカでガツンっと出てくる。ヴァイオリンの弦を揺らす音が、良く聞こえる。「ふぁぁぁぁ~っ ららぁぁぁ~っ」と身を揺らして泣く様は、執拗ではなく、結構、サッパリしている。音量が調整されているのか、ヴァイオリンの音を収録することに注視したのか、オケに埋もれるのを危惧したのか、女性的なヴァイオリンに焦点があたっている。ところどころ、聴いたことのなかったフレーズが、アタマをもたげて重厚だけだった楽章から脱皮している。面白いとも言えるが、微妙なバランスで成り立っており際どい気がする。ワタシ的には、危うい気がして気持ちよく、すっきりとは聴けませんでした。


 ブラームス ヴァイオリン協奏曲
Brahms: Violin Concerto
ギドン・クレーメル カラヤン ベルリン・フィル 1976年
Gidon Kremer
Herbert von Karajan Berliner Philharmoniker(Berlin Philharmonic Orchestra)

ギドン・クレーメルさんが、1970年にチャイコフスキーコンクールで優勝した後、75年にドイツでコンサートを開催してデビューした後、カラヤン、ベルリン・フィルと共演したもの。カラヤンのオケは重厚で堅牢で、ガッシリ。クレーメルのヴァイオリンは、なだらかな雰囲気で演奏されており、細身でキレはあるが、前衛的なとげとげしさは感じなかった。こう言ってはマズイかもしれないが、いたって普通っぽく聞こえる。もちろん、超テクの演奏だが、意外にも、しっとり気味に歌い上げている感じ。甘すぎず渋すぎず、ほの暗い甘さで、初老じみた甘さという感じだ。クレーメルさんは1947年生まれなので、この頃は、まだまだ若かった筈。
クライスラー版のカデンツァで、まだ初めてだったためか全うなもの。意外にも、ふわっとした歌心があり、甘酸っぱい雰囲気を漂わせて演奏されている。
第2楽章は、センチメンタルなセピア色の風景がイメージされる。秋の田舎の風景というか、落ち葉いっぱいの散歩道を歩いている感じで、いたって穏やか。拍子抜けしちゃいそうなぐらい静かな風景が続く。陽射しの暖かさのなかで、秋の風を感じるかのようなフレーズで、このアプローチは、きっとカラヤンが支配していたのだろう。第3楽章は、ゆったりしており落ち着いた演奏だ。愉悦性の高い舞曲風なのだが、オケの重厚さと高音域のスーッと通る音のなかで、細かいフレーズを、もくもくと淡々と、演奏しているように聞こえる。オケの低音が、ごごご~っと響いているが、そこに細身のソロヴァイオリンが絡みついている。ソロの部分は良く聞こえるが、オケとのバランスについては、う~ん。


 ブラームス ヴァイオリン協奏曲
Brahms: Violin Concerto
ダヴィッド・オイストラフ セル クリーヴランド管弦楽団 1969年
David Oistrakh
George Szell Cleveland Orchestra

オイストラフの演奏は、ちょっと古めかしい感じがする。しかし、解りづらい楽曲の謎を解き明かしてたみたいに、スッキリ、解りやすく聴ける演奏だ。端正だが豊かで、懐の深さを感じさせられる。冒頭、ゆったりとしたテンポで、端正なオケで始まる。カシカシカシした弦の響きで、歯切れのよいフレーズを作る。木管の一本筋の入った通る揺れない音色が印象的。区切りのよいフレーズで終始しており、オイストラフさんの艶のある太い声が絡む。野武士風というか筋金入りで、大きく歌うスタイルは、かなり時代がかっているのだが、聴いててわかりやすい。
第2楽章は、解りづらい楽曲だと感じてしまう演奏が多いが、妙にすんなりとフレーズが胸に納まってくる。 フレージングの妙なのだろうか。細切れにフレーズを区切ってて、切ない胸の内をぽそぽそと語っているような感じもする。過去を巡り、未来に淡い恋心を抱いて、ウツウツとしつつ、どこかシアワセ感が漂うような演奏だ。無骨なくせに少女のような可愛らしさがある。
第3楽章は、強いアタッカで始まるが、さほど決然とした導入ではない。意外と優しく、すっきり淡泊に鳴っている。リアクションのオーバーな、声を震わせて泣く演奏があるが、まるで、小鳥のさえずりのようなさっぱりした演奏だ。腰の柔らかさと共に弾力性のあるフレージング、説得力あふれる自信に満ちた優雅さが、ヴァイオリンから感じられる。牧歌的すぎず、冷たい都会センスでもなく、朴訥とした古風な演奏なのだが、どことなく解りやすく、妙に納得させられる演奏だ。 う~ん。どこが、どう違うのか。何度となく同曲を聴いているが、親しみやすい演奏に聞こえる。短いセンテンスで句読点をたっぷり打って、巧く、パッチワーク的にはめ込んであるような気がする。そして、遠めに、すっきりと見えるというか。近視眼過ぎないところが良いのかも。大づかみで一筆書きのように演奏されているのが、好感が持てるのかもしれない。


ブラームス ヴァイオリン協奏曲
1955年 ハイフェッツ ライナー シカゴ交響楽団 R
1959年 コーガン コンドラシン フィルハーモニア管 EMI
1969年 オイストラフ セル クリーヴランド管弦楽団 EMI ★★★★
1971年 グリュミオー C・デイヴィス ニュー・フィルハーモニア管 Ph
1976年 クレーメル カラヤン ベルリン・フィル EMI ★★
1982年 クレーメル バーンスタイン ウィーン・フィル G ★★★
1982年 ムター カラヤン ベルリン・フィル G ★★★
1982年 ムローヴァ アバド ベルリン・フィル Ph ★★★★
1985年 竹澤恭子 C・デイヴィス バイエルン放送響 R ★★★
1995年 ツィンマーマン サヴァリッシュ ベルリン・フィル EMI
1996年 クレーメル アーノンクール コンセルトヘボウ T ★★★
1997年 ヴェンゲーロフ バレンボイム シカゴ交響楽団 Tledec ★★★★
2000年 チョン・キョンファ ラトル ベルリン・フィル EMI
2001年 ハーン マリナー アカデミー室内管弦楽団 SC ★★★★★
2006年 樫本大進 ミュンフン シュターツカペレ・ドレスデン SC ★★★


 

YouTubeでの視聴

ブラームス ヴァイオリン協奏曲
Brahms: Violin Concerto in D Major, Op. 77
マキシム・ヴェンゲーロフ - トピック  ヴェンゲーロフ バレンボイム シカゴ交響楽団
Provided to YouTube by Warner Classics International
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=4pvYgllrZbY
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=pTUWm0k8N4c
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=CgGkGi0DAms


Brahms: Violin Concerto in D Major, Op. 77
ニコラウス・アーノンクール - トピック  ギドン・クレーメル アーノンクール コンセルトヘボウ
Provided to YouTube by Warner Classics
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=KJx7ZWPCXds
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=6RHADvhtCtc
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=ez6Ui7yoPmc


Brahms: Violin Concerto in D Major, Op. 77
ヴィクトリア・ムローヴァ - トピック アバド ベルリン・フィル
Provided to YouTube by Universal Music Group
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=bX521s6YzYs
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=QbvnMmE_N_c
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=B4JNnUjfV0g

Brahms: Violin Concerto In D, Op.77
Anne-Sophie Mutter ムター カラヤン BPO
Provided to YouTube by Universal Music Group
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=AVC_JXoK7Uo
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=IvlwXFQXiVk
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=CoVmE2V66EQ


Brahms: Violin Concerto In D, Op.77
ギドン・クレーメル - トピック クレーメル バーンスタイン
Provided to YouTube by Universal Music Group
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=qt_hhCkmWB0
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=-vX2234V7Ig
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=gycZYLD6RUM


Brahms Violin Concerto in D Major, Op. 77
ギドン・クレーメル - トピック クレーメル カラヤン
Provided to YouTube by The Orchard Enterprises
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=gOVWGS5YEno
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=uVKu64cf-NY
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=BzfKsBII63o


Brahms Violin Concerto in D Major, Op. 77
ダヴィッド・オイストラフ - トピック  セル クリーヴランド管弦楽団
Provided to YouTube by Warner Classics
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=aH6la5amYfA
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=tlXTQNkeBp4
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=1hfRw8H1PKk


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