ベートーヴェン ピアノ三重奏第5番「幽霊」 Beethoven: Piano Trio No.5 "Ghost"

 ベートーヴェン ピアノ三重奏第5番「幽霊」
Beethoven: Piano Trio No.5 "Ghost"
トリオ・フォントネ 1990年 
Trio Fontenay
ヴァイオリン:ミヒャエル・ムッケ Michael Mücke
チェロ:イェンス・ペーター・マインツ Jens Peter Maintz
ピアノ:ヴォルフ・ハーデン Wolf Harden

トリオ・フォントネさんの演奏は、とても瑞々しく若々しい。冒頭から快活に出て、スイスイと繰り返して行く。チェロとピアノのフレーズが、エンジンの軽いトルクのように進み。転がる付点のリズムが、とっても柔らかく、煌めき度があり爽やかだ。途中で転調をしていくが、冒頭のユニゾンからの飛び出しがインパクトがある。パラパラパラ~っと、キュートなピアノの音が聞こえてくると楽しさを生む。最初の主題と、続く主題の繰り返しが行われ、三連符と十六音符が入れ替わるフレーズが続く。何度続いているのだろう。とにかく、「ん~タラ ラッタッタ」と弾んでいくところが、とっても楽しい。
第2楽章は、ボザール・トリオさんの演奏と比べると、さらっとしている。チェロが「みぃ~~しぃ~」 ピアノは「しぃ~どしらそぉ~み しぃ~」 チェロが「そぉ~~みぃ~」 ピアノは「らぁ~どしらそ そ らぁ~」と、掛け合っている。ボザ-ル・トリオの演奏は湿気て、メソメソ泣いてウツウツとした演奏だったのだが、この湿気感はない。幽霊というより、ノスタルジックな雰囲気がする。細身で楚々としている。楽章の最後では、ピアノの低音域の音が、ボソボソボソと沈んでいく。この時のピアノの拍感覚は均質的ではないのだが、そこがミソだったりする。うにゃうにゃ~っと歪み、ヴァイオリンとチェロが、襞のように美しく悲しみを蓄えていく。第3楽章では、楚々としながら可愛く奏でられる。ベートーヴェンの楽曲が、こんなにチャーミングで良いのかと思うほど、細身で軽やか。特に、チェロが、軽やかに奏でられており、渋く感じないところが、今風って感じだろうか。瑞々しく軽やかに付点を処理しているので、まるで、フランス系の楽曲を聴いている雰囲気がする。


 ベートーヴェン ピアノ三重奏第5番「幽霊」
Beethoven: Piano Trio No.5 "Ghost"
ボザール・トリオ 1964年
Beaux Arts Trio
ピアノ:メナヘム・プレスラー
ヴァイオリン:ダニエル・ギレ
チェロ:バーナード・グリーンハウス

ボザール・トリオさんの1960年代の旧録にあたる演奏だ。「幽霊」というタイトルがついているので、ん~タラ ラッタッタ タタタタ タタタタ・・・と勢いよく軽快に出てきて、びっくりさせられる。仰天するほどの勢いだ。タイトルとは全くイメージの違う楽曲で、最初に聴いた時、てっきり夏の夕涼み、肝試しに持ってこいだと思っていたのに、調子が狂っちゃったことがある。
ここに聴いた感想を書こうと、改めてウィキペディア(Wikipedia)で調べてみたら、「この曲は、1808年に、ピアノ・ソナタとして書き始められ、元々はルドルフ大公に捧げるはずであったが、エルデーディ伯爵夫人が、ピアノ三重奏曲の新作を熱心に依頼したために 、当初の計画を変更し、ピアノ・ソナタから、2曲のピアノ三重奏曲に変わったという。
この第5番の「幽霊」というタイトルは、ベートーヴェンがシェイクスピア悲劇「マクベス」のために書かれた、魔女の宴会のシーンのスケッチを、この作品に流用しようとしたためといわれている。しかし、魔女と幽霊は全くの別物であり、あるいは第2楽章の開始部分が、当時の聴衆にとっていかにも幽霊が出てきそうな不気味な雰囲気に感じられて、そう呼ばれたと言われているが、実際はそれほど不気味とはいえない。いずれにしても、この「幽霊」という名称は、作品の本質とは大きな関わりはなく、誰が命名したのかはいまだはっきりとしていないとのことだった。

へぇ~ なんだぁ。そうだったのか。足が無いどころか、元気で明るく活発そのもの。チェロが、冒頭、ガツンっと一発入れたと思ったら、ピアノとヴァイオリンが、巻き舌に乗って、カッカッカッカっと弾んでいく。ピアノとヴァイオリンが絡むが、再度、ん~タラ ラッタッタと弾んで元に戻ってくる。3拍子だけど、元気に弾んだ女の子のようで、かなり活発。チェロは、下支えをして地味なのだが、ヴァイオリンもピアノも、巻き舌風に軽やかに、舞い上がっていくようなフレーズが多用されている。
第2楽章は、短調に変わるので、イメージは暗くなる。ボザール・トリオの演奏も、チェロの響きが擦れ、憂鬱な暗さを秘めている。
いかにも、メソメソ泣いている。しかし、これでは幽霊というより鬱状態だ。
第3楽章は、ピアノが爽快に動き出す。甘いチェロの声が聞こえる。楽章間の関連づけはないのかもしれない。しかし、ボザール・トリオさんの演奏は、ひとこと渋い。第2楽章の落ち込み方が、救いようがなく、湿気てて、うっとうしいリアル感のある演奏だ。
このトリオは、1955年に結成され、メンバーの交代はされているが、2008年まで続いていた。このCDは、ベートーヴェンのピアノ三重奏の4番、5番、7番のカップリングとなっており、当初のメンバーで演奏されたもの。


 ベートーヴェン ピアノ三重奏曲 第5番「幽霊」
Beethoven: Piano Trio No.5 "Ghost"
ボザール・トリオ 1982年
Beaux Arts Trio
ピアノ:メナヘム・プレスラー Menahem Pressler
ヴァイオリン:イシドーア・コーエン Isidore Coken
チェロ:バーナード・グリーンハウス Bernard Greenhouse

このボザール・トリオの演奏は、新録にあたる。1964年の録音では、ヴァイオリンが、ダニエル・ギレさんだったが、1982年の録音では、コーエンさんに替わっている。ちょっと調べていたら、ベートーヴェンの作品1って、ピアノ三重奏曲第1番なのだ。1番~3番までが、作品番号が1になっていた。ちなみに1番~3番までは、作品1で、枝番付きで1-1 1-2 1-3と採番されている。4番は、街の歌とタイトルがある。5番が幽霊で、7番は大公というタイトルがついている。タイトルによってイメージが膨らむだろうと、単純、不純な動機で聴き始めたが、どこが幽霊なの? 拍子抜け。1楽章は快活で、転がる3連符が楽しい。「ん~たら らったったぁ~」と続く。聴きやすいが~ いつまで転がってばかりなのと、言いたくなってしまうほど、旺盛なトリルがついてて、ご丁寧に繰り返しがある。第2楽章は、ラルゴで、しっとり。じっとり。ヴァイオリンのすすり泣きが、幽霊っぽくもある。ボザール・トリオの演奏も、ピアノが密やかに寄り添い、沈みウツウツツ。シューベルトのピアノ曲のように暗く、つきあいきれない。階段をおりて、ぽそっと終わる。第3楽章は、ピアノは明るく、ヴァイオリンは高音域へ伸びて行こうとする。
改めて、ピアノ三重奏曲を聞くと、ピアノは異質な存在なのだと思う。弦の響きとピアノって、あまり寄り添わない、交わらないモノなのではないだろうか。同質化しないで、対抗しちゃう関係に陥りやすい関係なのかも。それにしても、当演奏も2楽章が暗すぎてどうかなりそうである。



ベートーヴェン ピアノ三重奏曲第5番「幽霊」
1961年 スーク・トリオ Sup 未聴
1964年 ボザール・トリオ Ph ★★★
1982年 ボザール・トリオ Ph ★★★★
1979年 アシュケナージ パールマン ハルレ EMI 未聴
1990年 トリオ・フォントネ TELDEC ★★★★


ベートーヴェンのピアノ三重奏曲第5番「幽霊」(作品70-1)は、1808年頃、ピアノ・ソナタとして書き始められましたが、途中で、ピアノ三重奏曲に変更されたものだそうです。ウィキペディア(Wikipedia)を元に記述すると、
第1楽章 ニ長調 3/4拍子 ソナタ形式
冒頭の第1主題(溌剌としたスタッカートによる)に続いて、ヴァイオリンとチェロがユニゾンで音階を動き出します。これを、第2主題としたり、第1主題の変形としたものとみなす場合があるそうですが、主題の動機を扱った経過部を経て、イ長調に転調して第2主題が現れます。提示部(反復あり)の後、展開部に入って再現部を経ると、展開部から反復し、そのままコーダに。冒頭のスタッカートの動機を奏して終わります。

第2楽章 ニ短調 2/4拍子 展開部を欠くソナタ形式
抒情的で悲歌的な雰囲気が漂う楽章で、第1主題は、弦のユニゾンの動機に、ピアノが呼応して繰り返されるもの。第2主題は、ヘ長調で幻想的な趣を深めます。展開部はなく、再現部からコーダへと続くもの。コーダでは、64分音符を奏しながら終わります。

第3楽章 ニ長調 2/2拍子 ソナタ形式
明朗な楽章で、8小節の序奏があり、ヴァイオリンとチェロによる第1主題が提示されます。主題は、ピアノによって繰り返され、経過部に続き、やさしく歌われる第2主題は華やかなもの。展開部では、第1主題が主に扱われ、再現部では第2主題がニ長調で奏でられます。弦楽器のピッツィカートで始まるコーダから、ピアノが華麗に弾かれて終えます。
ワタシは、このタイトルに騙されました。全くイメージが違うっ。(笑)




YouTubeでの視聴


ベートーヴェン ピアノ三重奏曲第5番「幽霊」
Beethoven: Piano Trio No.5 in D, Op.70 No.1 - "Geistertrio"
ボザール・トリオ - トピック  ボザール・トリオ 1982年
Provided to YouTube by Universal Music Group
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=eganX1NXU5A
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=7xud_tdamHY
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=_6uU03kcNh4


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