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ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」、チェロ・ソナタ

 ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」
Brahms: Violin Sonata No.1
ヴィクトリア・ムローヴァ ピョトル・アンデルシェフスキ 1995年
Viktoria Mullova Piotr Anderszewski

ムローヴァの演奏は、瞬間的に情念がわき起こるのだが、それを抑えている感じがすごくする。さりげなく一歩引いている感じだが、熱いものが感じられて、じわっと涙目になってしまう。実は、あまり期待して聴かなかったのだが、う~ん、こんなに、ムローヴァさんが、しっとりと奏でてくるとは思ってなかった。伴奏のピアノも素晴らしい。冒頭は、スマートで速めでキレのあるフレージングだ。さりげなく控えめに演奏されている。高音域へとのびていくところも、さりげない。すっとすました風にも聞こえたるが、高いところに昇ると、畳みかけてくる熱さがある。声が裏返ったようなフレーズの瞬間に燃える。ワタシのイメージだと、ツンデレ風のムローヴァさんだったが、えっ、いつの間に演奏スタイルが変わったの。大人の女性という感じがする。ピアノのフレーズも同様で、さりげなく、さらさら さらさら~っと流れるところと、熱く、うぅ~んっとうめき声をあげて歌うかのような歌いっぷりで、仰天してしまった。こりゃ~ 情念って感じで燃えている。そう思う。秘めたる恋慕という感じで、想いが詰まっている。恋心を曲に託しました演奏で、かなり聴き応えあり。

第2楽章は、寂しげにカラダを任すかのような感じで、揺れながら歌い始める。心が揺れている様を描いている。そう思う。それが、喜びに変わり、豊かさに変わる瞬間があるようで、すっと晴れとした気持ちに変わる。いや、あの、悶えるかのような悩みは、どこへ行った。確信に変わる瞬間、愛されることに確信を得たのだろうか。それでいながら、不安がよぎって来る。恋愛している時の感情の不安定さを感じる。とても素直な感情の発露が感じられて、羨ましいような気分に。
第3楽章は、フレーズの語尾がすっと消える。柔らかく、風のように素速く弾かれている。ピアノもヴァイオリンも、一心同体という感じで、風のようなヴァイオリンに、小雨が降っているようなピアノ。感情が昇華しちゃった感じで、すごい演奏。情念は、さりげなくフレーズに織り込まれ、ラストには、不倫愛なのかと勘ぐってしまうほど。恋慕が愛に変わったのかなあ。これは、やられました。ハイ、アナタの恋と愛を感じますという演奏感じだ。
カップリング:ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」、2番、3番


 ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」
Brahms: Violin Sonata No.1
チョン・キョンファ ペーター・フランクル 1995年
Kyung-Wha Chung Peter Frankl

キョンファの演奏は、テンションの高い押しつけがましいものと想像していたが、意外としっとり。梅雨時期のある日、鬱陶しそうな日が続くので、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」を聴こうかと、ベタな選曲をしてしまった。ピアノが柔らかくパンパンっと鳴らすのを合図に、ヴァイオリンが歌い始める。ウジウジした屈折気味の演奏とは異なり、クララさんに、好きだ、好きだ~っと言い続けているみたいに聞こえる。まるで鼻歌でも歌っているかのような優しいフレーズが続く。キョンファさんの演奏も、いつもの苛烈なフレーズが影を潜め、穏やかに、しっとり演奏している。
第2楽章は、教会の鐘が遠くから鳴っているかのようでもあり、揺れる心情が切々と奏でられていく。翳りのあるため息交じりのフレーズで、それを自ら振り切るかのような雰囲気もする。なるほど、鬱々とした心境を断ち切りたいのね。オセンチで、ピアノは強めに断ち切りたい気持ちなのだが、ヴァイオリンは、うねっと~鬱屈した感じのかすれ声で沈み込んでしまう。その時のヴァイオリンの重音で語られる和音が美しい。
第3楽章は、ヴァイオリン・ソナタにもかかわらず高音域の音が登場しない。幅の狭い音のなかを、歌うように奏でていく。さらっと悲しみを織り込んで歌うが、雨が降っているわけではなさそう。包み込むような大人の歌だ。さらっと展開していきながら、すっと消えていく雰囲気がある。自分の感情をもてあまず若者ではなく、ここでは、ほどよい恋愛感情が存在している。距離感を保ちつつ、遠くから見守っている感じの優しさが伝わってくる。ヴァイオリンの安定感のある重音、さりげない和音で終わるのだが、感情を爆発させてキレッキレの演奏ではない。情感を控えめに歌っている演奏である。
カップリング:ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」、2番、3番


 ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」
Brahms: Violin Sonata No.1
アンネ=ゾフィ・ムター ワイセンベルク 1982年
Anne-Sophie Mutter Alexis Weissenberg

段々と、ピアノに導かれて、ヴァイオリンが、大きくふくよかに歌っている演奏だ。ムターさんは、1963年生まれなので20歳頃の若い演奏である。ピアノ伴奏が、ワイセンベルクさんという豪華な録音で、超驚きの組み合わせ。ワイセンベルクさんが伴奏を務めているなんて、ちょっと信じられないほど。20歳前後の演奏なので、少し青いとは思う。もちろん、今のように、たっぷりと歌っているわけではないが、栴檀は双葉より芳しという諺が、そのとおり当てはまるかのような演奏だ。渋いピアノの伴奏のうえを、大きなフレーズでヴァイオリンは歌おうとしている。ムターさんのヴァイオリンは、少し硬いが、大人のフレージングだ。
第2楽章は、雨上がりのなかで、囁くように歌われる。ヴァイオリンが主題を奏でる時に、ピアノは抒情的に、しみじみ音を置いていく。強いタッチで付点のリズムを挟む場面は、短調で~ まるで悲劇のヒロインのように嘆く、濃い表情付け。ここは、ピアノの間合いで奏でているのか、ピアノのゆったりとした旋律が、ヴァイオリンを導いているようだ。

第3楽章は。テンポを速めに歌っており、控えめつつも熱い。旋律の終わりに差し掛かるとき、ふわっとした間合いを含めていく。まるで、お菓子作りの工程で、空気を取り込んで粉を混ぜ込んでいく感じ。狂おしいほどに好きと歌われているような、執拗さを感じるが、柔らかくテンポを落として、力を抜いて重音を奏でている。ワイセンベルクさんのピアノに導かれて、ムターさんのヴァイオリンが歌う。最初こそ硬めの音だったが、ピアノによって膨らみ、ふっくらとした大人のヴァイオリンに成長する。
カップリング:ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」、2番、3番


 ブームス チェロ・ソナタ第1番
Brahms: Cello Sonata No.1
ヨーヨー・マ エマニュエル・アレックス 1985年
Yo-Yo Ma Emanuel Ax

冒頭、ピアノの置いていく音のなかで、悲しそうなフレーズが綴られる。実は、先日、ロストロポーヴィチの演奏を聴いたが、旋律がクネクネとしており難しいという印象を受けた。沈みがちな主題が、ずぶっとハマって抜け出せず、やるせない気持ちになる。で、マさんの演奏を聴いてみたのだが、まだ唄うフレーズになっていて聴きやすいと思った。沈みがちのフレーズが歌謡風になっており、旋律として浮かびあがってきて聴きやすい、とっつきやすい印象を受ける。この1番は、ブラームスの30歳頃の楽曲だが、老練練でオジンクサイ作品だ。後の作品である2番は、ブラームスが50歳を過ぎての作品なのに快活なのだ。えっ? 作曲された順は逆なのではないかと思うほど。マさんのチェロも、いつになく、ゆっくりだし、もう少しぐらい歌って欲しい。

第2楽章は、メヌエットの楽章のくせに暗くて湿気ている。穏やかなのだが野暮ったく渋い。引きずった感覚が全体を占めており、鬱々と曇った空を見上げて、月が出てこないかと眺めているかのよう。どよん~とした曇天だ。ピアノのフレーズは、遠慮しがちなのか、どうも個性が感じられない。

第3楽章は、ピアノとチェロだけの演奏とは思えないほど充実感がある。ブラームスは、この当時バッハを研究していたという。フーガの技法を取り入れたということで、コントラプンクトゥスⅩⅢを引用しているという。ワタシは、バッハの作品は未聴で、勉強不足は免れないが、この楽曲は、ピアノへの依存度が高いように思う。ピアノが快活に活躍してくれないと、ちょっと~役不足になってしまう気がする。アレックスさんのピアノと、マさんのチェロとの2人の演奏は、もっと快活な演奏で、青空が抜けたような清々しい演奏だと思ったのだが、控えめだ。自由闊達で伸びやかな雰気は抑えられている。くすみ感のある中庸な演奏で、なんだか落ち着き払った演奏で、感傷的なフレーズがあるのに、そこをよけて通ってしまった感じを受けた。暗く険しい表情で終始してしまった感じがする。
カップリング:ブラームス チェロ・ソナタ第1番、第2番


ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」
1982年 ムター ワイセンベルク EMI ★★★
1995年 チョン・キョンファ ペーター・フランクル EMI ★★★★
1995年 ムローヴァ ピョトル・アンデルシェフスキ Ph ★★★★★

ブラームス チェロ・ソナタ
1985年 ヨーヨー・マ アックス SC ★★★★


◆ ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番(作品78)は、「雨の歌」と言われ、1879年に作曲されており、ブラームスが46歳頃の作品です。ウィキペディア(Wikipedia)を元に記述すると1853年頃に、イ短調のヴァイオリンソナタを作曲したのだそうですが、自分の判断で破棄。この1番は79年の夏に完成しています。77年に交響曲第2番、78年にはヴァイオリン協奏曲が作曲されています。
「雨の歌」という通称は、第3楽章冒頭の主題が、ブラームス自身による歌曲「雨の歌 Regenlied」「余韻 Nachklang」主題を用いているためです。「雨の歌」は、クララ・シューマンが特に好んでいた歌曲で、それを引用することでクララへの思慕の念を表現したというのが通説のようです。
第1楽章 ト長調
やや凝った複雑なソナタ形式による楽章で、軽やかで抒情的な雰囲気をもつ第1主題と、活気のある第2主題で展開されます。
第2楽章 変ホ長調、三部形式で叙情と哀愁が入り交じる緩徐楽章で、民謡風の旋律がピアノで奏され、ヴァイオリンが加わって哀愁を歌います。第1部は葬送行進曲風の調べで、この旋律は第3部で再び回帰してきます。
第3楽章 ト短調-ト長調 歌曲「雨の歌」と「余韻」に基づく旋律を主題としたロンドです。主題は、第1楽章の第1主題と関連があり、また第2エピソードとして、第2楽章の主題を用いるなど、全曲を主題で統一しています。
全3楽章の構成で、演奏時間は約27分。
ブラームスにとっては、意味深な~ ラブレターみたいなモノなのでしょうか。恋心を、音楽にて表現するとはニクイっ。音楽家としての最大の愛情表現・・・ 慎ましやかに愛の告白し、現実と理想の狭間を、こうやって埋めるとは。



◆ ブラームスのチェロ・ソナタは、2曲あります。ウィキペディア(Wikipedia)を元に記述すると、チェロ・ソナタ第1番は、1865年に作曲されており、3楽章の作品です。
第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ ホ短調 4分の4拍子 ソナタ形式 ホ長調で終わる。
第2楽章 アレグレット・クワジ・メヌエット イ短調 4分の3拍子 三部形式
第3楽章 アレグロ ホ短調 4分の4拍子 自由なフーガによる楽章で、主題はバッハのフーガの技法から、コントラプンクトゥスⅩⅢを引用しています。約27分の作品です。




YouTubeでの視聴

ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」
Brahms: Sonata for Violin and Piano No.1 in G, Op.78
ヴィクトリア・ムローヴァ - トピック Viktoria Mullova - Topic
Provided to YouTube by Universal Music Group
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=EZXBdX3rxHA
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=FMThrqer9t8
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=P1sQ4OifaaY


Brahms Violin Sonata No. 1 in G Op. 78
チャンネル:チョン・キョンファ - トピック
Kyung Wha Chung - Topic
Provided to YouTube by Warner Classics
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=2kma4AoDcNg
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=wtzR3zYi3PA
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=oaDtqwMF4hM


Brahms Sonata for Violin and Piano No. 1 in G Major, Op. 78
チャンネル:Anne-Sophie Mutter
Provided to YouTube by Warner Classics
第1楽章 https://www.youtube.com/watch?v=UmA0jrRpKkM
第2楽章 https://www.youtube.com/watch?v=e7HHw9Z-BGY
第3楽章 https://www.youtube.com/watch?v=0LS-CyBv0pA


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