「 頭のなかの ♪ おたまじゃくし 〜クラシック音楽を聴いてみよう〜」

リスト  巡礼の年 第1年スイス
Liszt: Première année: Suisse


リストの「巡礼の年」は、第1年:スイス、第2年:イタリア、ヴェネツィアとナポリ(第2年補遺)、第3年の4つのシリーズになっています。
ウィキペディア(Wikipedia)を元に記述すると、リストの20〜600代までに、断続的に作曲したものを集めたもので、彼が訪れた地の印象や経験、目にしたものを書きとめた形をとっています。若い頃のヴィルトゥオーソ的、ロマン主義的、叙情的な作品から、晩年の宗教的、あるいは印象主義を予言するような作品まで様々な傾向の作品が収められており、作風の変遷もよくわかるものです。特に、泉のほとりで、ダンテを読んで、エステ荘の噴水という楽曲が有名です。

ここでご紹介する「第1年スイス」(Première année: Suisse, S.160)は、1835年から36年にかけて、リストがマリー・ダグー伯爵夫人と共に訪れたスイスの印象を音楽で表現したものです。
第2、5、7、9曲の標題は、バイロンの詩集「チャイルド・ハロルドの巡礼」から、第6、8曲は、セナンクールの小説「オーベルマン」から、第4曲は、シラーの詩「追放者」からとられているそうです。

第1年スイスには、9つの楽曲あります。
1 ウィリアム・テルの聖堂 Chapelle de Guillaume Tell
2 ヴァレンシュタットの湖で Au lac de Wallenstadt
3 パストラール(田園曲) Pastorale
4 泉のほとりで Au bord d'une source
5 嵐(夕立) Orage
6 オーベルマンの谷 Vallée d'Obermann
7 牧歌 Eglogue
8 郷愁 Le mal du pays
9 ジュネーヴの鐘〜夜曲〜 Les cloches de Genève

リストは、1811年生まれなので、35年から36年にスイスを訪れたってことは、なんと25歳頃なんですね。
後に2曲を追加して55年に出版されたそうですが、単なる風景を描いたものではありませんが、爽やかさが残っている楽曲のように思います。このスイスでは、4曲目の泉のほとりで、6曲目のオーベルマンの谷が有名です。
では、これから、ボチボチと聴いていくことにします。

アルド・チッコリーニ 1961年
Aldo Ciccolini

ふむふむ。


録音状態はまずまず。懐の深そうな、落ち着き払った演奏だ。
かっちりしていて、楷書体なのだが、意思の強さを感じさせる迫力がある。

← 2枚組BOX全曲版である。
アルド・チッコリーニさんの巡礼は、とても、穏やかに演奏されている。
音が落ち着いて、カツンっという硬質感は少ない。
第1曲目のウィリアム・テルの礼拝堂に、打音の鋭さを、あまり感じなかったので、きっと高齢の時の演奏だろう〜と思っていたのだが、さにあらず。

チッコリーニさんは、1925年生まれなので、61年の録音は、あらっ、まだ、30歳半ばの演奏だったのだ。
それにしては、穏やかすぎるほど穏やかで、老練というか、既に、落ち着き払った感じがする。
懐が深いというか、確かに礼拝堂は、「らぁ しぃ〜 どどぉ〜  どぉみ〜 ふぁふぁ〜 れぇ〜 ら ららぁ〜」という大きなフレージングから始まり、堂々とした、石造りの堅牢な建物を想像させる。
ただ、硬すぎない音なのだ。
「ふぁ〜 れぇ〜 ら らぁ〜」という響きも、余韻を残して、高めに浮くのではなく、どこか、音が沈んでいく。
他のピアニストでは、音が、空に抜けるかのように、ちょっと高い音として、響いていくように思うのだが〜
空に浮かぶかのような響きではなく、地面に吸い込まれていくような感じだ。
で、激しく分散和音を奏でるところは、ごごご ごぉ〜っと、低音の地響きが立っているものの、でも、穏やかだ。
音が丸いのだろうか。低い音の和音が、しっかり、響きとして残っていく。

2曲目のワレンシュタット湖畔では、
冷たい湖ではなく、春の日射しを浴びた、新緑の頃の湖のようだ。
少し、聴き取りづらいほどの弱音で、サワサワ〜っと演奏されていく。左手の、たらら らん たらら らん というフレーズが、均質的な感じがしないのだが、かえって、自然な感じがする。
もたついているのか、これが譜面どおりなのか、ちょっと、わからないのだけど〜 静かな湖畔を、すわーっと、さざ波を立てて風がそよいでいく風景が目に浮かぶ。ワタシの持っているCDでは、少し音が割れそうになって、音が、ぽこん ぽこん と、落ちていくような感じがする。
 
3曲目のパストラールは、
みれど しらふぁ らふぁどふぁ〜  みれど しふぁら らふぁどふぁ〜 らそらしふぁふぁ・・・
この左手の「タタン タタン」という音のなかで、ウパパ パパパっと奏でて、続くリズムが、変拍子のように変わるんだよなあ。
このあたり、えっ このリズムの変化は、とーっても、難しそうだ。
右と左のリズムが、頭のなかで、こんがらがりそう。

4曲目の泉のほとりは、
高音域の音が、ちょっと悲しい。(あまり響いておらず、弦の響きではなく、ポコンと音が落ちる)
せわしない、揺れるフレージングで、牧歌風というより、こりゃ酔いどれでしょ〜って感じで、すごく速くて草書体。
ジャズのように、弾き飛ばしているかのように聞こえる。有名な曲なのだが、結構、印象が変わる。

5曲目の夕立は、
メチャクチャ、力強い打音で、のけぞって驚いてしまった。
落雷にあったかのような、内声部の強力な左手の音で、ごごごご〜と、とっても地響きを立てている。
ごろごろした大きな感覚があり、迫力がある。

6曲目のオーベルマンの谷は、
楷書体なのだが、ふわっとした幽玄の境地が感じられる。
こわばった感じもするが、震えながらも、萎えながらも、音の落ち方に意思の強さが感じられる。
かっちりした楷書体の演奏で、あまり、しなやかでも、繊細さでもなさそうだが、この強い意思に裏付けられた、力強さを感じさせられる。
それでいて、ひと呼吸おいて、間合いをとってからの上昇気流は、まるで靄が晴れていくかのような、昇華していくかのような響きが奏でられていく。ふわーっと、しながらも、力強く響く音は、どこか、神々しい。
段々と、晴れやかになっていく音が、胸一杯に高鳴ってくる。
この1曲で、充分だと思うほど・・・すごいパワーを感じてしまった。
また、オーベルマンの谷だけをピックアップして、他盤と聞き比べてみようと思う。

ラザール・ベルマン 1977年
Lazar Berman



録音状態は良い。強靱で、堂々としているが、繊細さもあり、瑞々しさと優しさも持ち合わせている。
← 3枚組BOXの巡礼の年全集版である。
ここでご紹介するのは、ラザール・ベルマンさんの巡礼の全集からの1枚である。
全集は、3枚組になってて、1枚目は、巡礼の年 第1年「スイス」、2枚目は第2年「イタリア」と2年補遺ヴェネチアとナポリ、3枚目は第3年である。

第1年「スイス」
1曲目は、ウィリアム・テルの聖堂
2曲目は、ワレンシュタットの湖で
3曲目は、田園曲(牧歌 パストラル)
4曲目は、泉のほとりで
5曲目は、夕立
6曲目は、オーベルマンの谷
7曲目は、牧歌
8曲目は、郷愁 ノスタルジア(ル・マル・デュ・ペイ)
9曲目は、ジュネーヴの鐘

ベルマンさんのスイスは、とても柔らくて、若々しく、瑞々しいロマンティックな詩情にあふれている。
この作品が、20代の頃に作曲された〜ということもあるのだけど、ガツガツしておらず、細やかな音が、ソフトに響く。
.ウィリアム・テルの聖堂は、「らぁ しぃ〜 どどぉ〜  どぉみ〜 ふぁふぁ〜 れぇ〜 ら ららぁ〜」というフレーズから始まるが、この「らら れ ららぁ〜」という鐘の音のような音こそ、力強いものの、これ以降のフレーズは、柔らかい。
激しさもあるが、総体的には、ごごごぉ〜という畳みかけるような劇場型の演奏とは、ちょっと違うように思う。
確かに、ダイナミックなのだが、力任せではなく、左手のばらけた旋律も、力強いが優美さを持っているように思う。
たっぷりした演奏だが、太いタッチと繊細なタッチを描き分けており、繊細で、詩情感があふれている。
10分14秒のクレジットの曲だが、聴き応えがある。

ワレンシュタットの湖は、もっと冷たくて、氷が張ったような湖のような演奏をイメージしていたのだけど、いやいや〜 水ぬるむという時期のようで、春の風がそよいでいるかのようだ。
もちろん3曲目のパストラルは、とてもチャーミング。
「みれど しらふぁ らふぁど ふぁ〜  みれど しらふぁ らふぁど ふぁ〜  らそら しらふぁ らそら ふぁ〜」
軽やかに弾んでいるし、にこやかに微笑みながら、少女が草原をスキップしているかのようだ。
あっという間に、CDを聞き終えてしまう。

このスイスは、村上春樹さんの本に登場するが、そもそも文学的な要素が強い楽曲らしく、バイロンの「ハロルドの巡遊」とか、セナンクールの「オーベルマン」などを読んで、スイスの風景を楽しんで、そしてリストの楽曲を聴けば、最高のシチュエーションになるのだろうが。まあ、我が家で聴いているだけでは、ハハハ〜 たかが、しれてるでしょう。
でも、楽曲自体が、とても素晴らしいので、イメージが豊かに広がってきます。
5曲目の夕立なんて、夕立どころか、山の上で雷が近づいたかのような、怖ろしい雰囲気が漂ってて苛烈だ。


ホルヘ・ボレット 1983年
Jorge Bolet

ばっちグー!

録音状態はまずまず。ちょっと音が濁っているかな〜って思うところが、なきにしもあらずだが、穏やかでかつ、静謐さもあって、柔らかい。
ウィリアム・テルの礼拝堂は、「らぁしぃ どどぉ  どみ ふぁふぁ〜 れぇ〜 ららぁ〜」というフレーズから始まる。
「ふぁそみ ふぁれみぃ」「ふぁふぁ れぇ〜 ららぁ〜」「らそぉ〜らそ ふぁぁ〜」
静かだが厳かに「ふぁぁ〜 れぇ ららぁ〜」というこのフレーズが、象徴的に繰り返される。
この鐘を象徴するかのようなフレーズが美しいし、心に残る。

この「ふぁふぁ そそぉ〜っ」と、音が飛ぶところが特徴で、「ふぁふぁ れれぇ〜」「ふぁふぁ みみぃ〜」と、スケール感あふれる繰り返しになっている。
リストが、若い頃にマリー・ダグー伯爵夫人と、スイスへ愛の逃避行を敢行した時に、このウィリアム・テルの礼拝堂に立ち寄ったんでしょうか。 「ふぁ〜れぇ〜ら ららぁ〜」という、「たたぁ〜」のところが、なにやから希望に満ちて昇っていくんですよね。 自信に満ちているというか、何かに打ち勝ちたいという意欲、意思の強さみたいな、決意表明のようなモノを感じる。
また、1回目のたたぁ〜 2回目のたたぁ〜が、木霊のように、残響のように響かせているので、空間的に広がっていく。

泉のほとりでは、「 ら しぃ〜み〜どぉ〜らぁ どぉ〜ふぁ れ〜ふぁ どぉ〜ふぁ れ〜らぁっ・・・」と、少し揺れるフレーズが好きだ。 で、 ボレット盤は、多少録音が甘いというか、残響が濁っている感じがする。
冒頭部分だけが、どう聴いても、ハウリングしているかのように濁るんだけど、完全にぼわっとしているわけではないし、フレージングは柔らかい。 右手の最後の音が、水しぶきってことは、よくわかるし、跳ねているので、キモチが良い。
今聴いているのは、残念ながら年末なので〜 ものすごく、寒々しいので、これは夏に聴く楽曲だよなあ。と思いつつ、選曲を失敗してしまったことを猛烈に反省している。

ちょっと今は、オーベルマンの谷は、聴いても難しいなあ〜と、心象風景というより、内面の葛藤部分が、いまいち聞き取れていないので、また次の機会に感想を書かせていただきます。

また、村上春樹さんの小説「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」が、話題となって久しいが、そこに登場するリストの作品「「ル・マル・デュ・ペイ」は、この第1年スイスの第8曲目にあたる。
普通、郷愁というタイトルの表記だが、小説家は、あえてカタカナにされたようである。
ワタシは、この小説家の作品とは、どうも〜 イマイチ、相性が悪いらしく、消化不良を起こしてしまうので、拝読していないのだが〜 音楽ファンとしては、小説に曲を登場させていただくのは、とっても、ありがたく嬉しく思っています。


1961年 チッコリーニ EMI ★★★★
1977年 ベルマン ★★★★★ 
1983年 ボレット Dec ★★★
1986年 ブレンデル Ph  
所有盤を整理中です。

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