Miss Ran Mori
to Japan
新しい年度を迎え今年から高校に入学した私の元へその手紙・・・。正確にはエアメールが届いたのは
入学後行われていた行事がひと段落した4月の半ばだった。
「ただいまー!!お父さ〜ん!!居ないの〜?もー・・・また居ない・・・。飲みに行っちゃったのね!!
全くもう!!またこんなに散らかして!!あ・・・ら?」
お父さんの机の書類を整理している最中、埋もれていた手紙の束の中から、一通のエアメールを見つけた。
「エアメール・・・?ラン・・・モウリ・・・え!?わたし宛!?」
エアメールなんて貰う事なんてありえない・・と思う・・・んだけど・・・?
それでも、誰からだろうと不思議に思って差出人を見た。
Yukiko Kudo
「え・・・!?有希子おば様!?嘘!!どうして!?」
思っても見なかった差出人にあせる。
工藤有希子さん。幼馴染の新一のお母さん。若くて綺麗で可愛くて。私の小さな頃からの憧れの人。
でも・・・。なんだろ・・・?
思いがけない人からの思いがけないエアメールを手に私は自分の部屋の机に学生鞄を置くと
制服を着替える手間さえ惜しみ、封を開いた。
Dear 蘭ちゃん
お久しぶりね!!元気にしているかしら?
高校の入学式にはいけなくてごめんなさいね。
蘭ちゃんの送ってくれた入学式の写真、とっても嬉しかったわ。
いつも新一のお世話してくれてありがとうね。
その感謝の気持ちも込めて、GW、アメリカへ来ない?いろんなところ、案内するわ!
新一にチケットを送っておくから、二人でぜひ、遊びにきてね。まってるわ。
有希子
「ア・・・アメリカ・・・?」
プルルルルルル・・・・・!!
「きゃあ!!」
突然の手紙の思いがけない誘いに呆然としていた私の元へ電話が鳴り響き、かなり驚いた。
「あ・・・。も、もしもし?」
「ら!!蘭か!?」
「え・・し、新一・・・?ど、どうしたの?」
電話は新一からで、しかも、何処かかなりあわてているように聞こえる。
「あー・・・。えっと・・・。あの・・・なんか・・・変なもの・・・届いてねーか・・・?」
かなり歯切れの悪い問いかけをする新一を不信に思いながらも有希子おば様からのエアメールの事に思い当たる。
「もしかして・・・。有希子おば様からの・・エアメール・・・のこと?」
「あ・・・。あー・・・。うん・・・まあ・・・。」
恐る恐る問いかけるわたしに何処か含みのある感じの新一の声が聞こえる。何だろ・・・?
あ・・・。もしか・・して・・。
「ご、ごめんね!!何かおば様に気を使わせちゃって・・・。」
「へ・・・・?」
「親子水入らずの方がいいよね?私断った方が・・・。」
「え・・・・?」
てっきり新一は私が一緒だと嫌だと思って断ろうとしたのに次に私が耳にしたのは新一のふてくされた声だった。
「ば!!バーロー!!誰が気を使ってんだよ!!だいたい親子水入らずってなー!!母さんは俺よりもオメーが
来ンのを楽しみにしてるに決まってんだろ〜!!」
「え・・・だ・・・だってGWって・・・。」
「何だよ?」
「・・・なんでもない・・・。」
やっぱり新一気づいてない・・・。やっぱり今年も忘れてる・・・。
GW中の5月4日は新一の誕生日だって事・・・。
多分、だからこそおじ様とおば様は新一を自分たちの居るアメリカへ呼びたかったんだ・・・。
年に一度の一人息子の誕生日を祝いたかったんだ・・・ってことに。
私を呼んで下さったのは多分、おじ様とおば様の気遣いね。
毎年新一の誕生日を覚えている私への・・・。
「んで・・・?どーすんだよ?」
ずっと黙り込んでしまっていた私にじれて新一が少しふてくされたように問いかけてくる。
「え・・・。どうする・・・って・・・?」
「おめー・・・行かねーの?」
「え・・・。」
「おめーが行かねーなら・・・俺行かねーし・・・。」
「え・・・?新一今なんて・・・?」
いきなりトーンダウンして新一の声が小さくなってしまったため、新一の声が聞こえづらくなってしまったのだ。
「い!いや!!何でもねーよ!!で?どうすんだ?」
「行って・・・いいの・・・?私。」
「だーから言ってっだろ?母さん俺が来るより蘭が来るほうを楽しみにしてるって!」
「じゃあ・・・。行く・・・。行きたい。」
「よし!じゃ決まりな!!じゃあ俺、母さんにそう言っとくし!じゃあな!!」
「あ・・・。う!うん!!」
約束を取り付けた新一は早々に電話を切ってしまった。
私は戸惑っていたけれど・・・。でも・・・嬉しい・・・!!海外旅行なんて初めてだもん!!
パスポート取って・・・。準備もしなくっちゃ!!あ!ガイドブックも買わなくちゃ!!
浮かれていた私は、ハッと気づいた。
あ・・・。5月4日・・・どうしよう・・・?
少し考えこんでしまったけれど、一つの妙案を思いついた。その後、私はあるところへ電話を入れた。
翌日、私はお母さんの所を尋ねていた。昨日電話したら丁度オフだというから、お母さんのマンションの方へ。
「あ、そうそう、蘭。昨日、有希子から電話があったわよ。」
「え・・?おば様から・・・?」
突然のおば様からお母さんの所への電話。その意味が全く分からずに私は首をかしげた。
「GW!アメリカ行くんでしょ?」
「あ!!え、嘘!おば様お母さんの所に!?」
「あの人に言ったら怒鳴られるかもしれないから・・・ですって。」
「あ・・・。」
「でも貴女、あの人に言ったの?」
「うん一応は。でもお父さんもGW商店街の人たちと旅行に行くから浮かれちゃってて・・・。」
「・・・まともには聞いてないかも・・・って事ね。」
「うん・・・。一応GW中新一と出かける・・・とはいってあるんだけどね。」
「まあ。有希子のところだし安心なんだけど・・・ね。」
お母さんがため息をひとつついたので不思議に思って
「何だけど・・・なあに?」
と、問いかけてみるが、
「別に、なんでもないわ。」
と、かわされてしまった。
蘭には英理のため息の理由など分かるはずもない。
(幼馴染・・・ね。まあ、推理小説は好きみたいだけど・・・。別にどうこうってわけじゃないものね・・・。
そんなに気にするほどでもないんだけど・・・。)
英理は娘が気づいていない娘の淡い気持ちに気づいていたのだ。ただ幼馴染ってだけなら・・・まだいいと思っていた。
学生の頃から才女と呼ばれていた英理もさすがに自分の恋とともに分からないものもある。未来・・・だ。
さすがに娘の幼馴染がこの直後から「探偵」として活躍しだすだなんて思いもしなかったのだ。
そのために娘を思い、ため息の回数は増えることになるのだが、それを彼女が知るのはまだ先の事だ。
「で・・・ね。」
少し言いがたそうに私はお母さんに問い掛けた。
「お母さん確か・・・時間になるとアラームがなる時計持ってたよね・・・?」
「え?ええ・・・。公判の時間とか忘れないように・・・。それがどうかしたの?」
「う・・ん。貸してほしいな・・って思って・・・。」
「貸す?まあ、かまわないけど・・・どうして?」
「う、うん・・・。私忘れちゃいそうだし・・・。」
「忘れる?」
「う!ううん!なんでもないの!!ね、お願い。お母さん。」
「はいはい。」
お母さんは私ののお願いを受け入れ、机の中にしまってあったそのアラームの鳴る時計を取り出し私にに渡してくれた。
「ありがとー!お母さん!!」
私は予定通りのものを手にできて安心しながらお母さんのマンションを後にした。
クシュン!!
「やだなあ・・・。旅行前なのに・・・。風邪・・・かなあ?今日は少し暖かくして早く寝よ・・・。
お父さん、今日も遅いのかな・・・?」
お父さんはアメリカ旅行が決まってからこっち、珍しく依頼が殺到し忙しくバタバタしており、まともに話ができていないのだ。
明日からお父さんは商店街の人たちと旅行に行くし、私も学校が終わったあとすぐに戻り空港へとすぐ向かわなくてはいけない。
「置手紙・・・しておこうかな。大丈夫よね。お母さんには言ってあるんだし。お父さんにも・・・一応は言ってあるし。」
風邪のためか少し寒さに震える体を旅行のために少し休ませようと私は前日、少し早めに床についた。
「らーん!!俺のハンカチどこだ!?」
「もー、お父さん、旅行の前日くらい早めに帰ってきて用意くらいしておいてよ!!」
「あー!!早くしねーとバスいっちまう!!」
「はい!ハンカチ!!もう、忘れ物ない!?」
「ああ!じゃあ俺が居ない間戸締り忘れるなよ!!」
「あ!!お父さん!!私もGW新一とでかけるからね!!」
「オウ!!」
お父さんのおかげでバタバタな朝を送る羽目になり、私も急いで学校へと向かう。
「おはよー、新一!」
「おお。・・・はよ・・。」
「なあに?まーた推理小説?」
「ああ・・・イヤ・・・それよりおめー・・・。放課後ダッシュかけるからな。」
「分かってる。」
学校が終わり新一と私はダッシュを掛けて無事、アメリカ・ロス行きの飛行機へと乗り込んだのだった。
ロス行きの飛行機の中でいきなり殺人事件に出くわしてしまい、どうなる事かと思ったけれど新一が見事にその事件を解いてしまった。
・・・まあ、とんでもない事聞かれちゃったけど・・・。解決のためによしとしておく。
ついてすぐ、おば様との再会を喜ぶ暇も無くいきなり又飛行機に乗せられてしまった。
なんだか不思議なんだけど・・・。ニューヨークについて・・・。それからの事があまり記憶にのこってないのよね・・・。
疲れかな?引きかけていた風邪が本格化したみたいだし・・・。
でも今日を忘れなくてよかった。ちゃんと、お母さんに借りた時計もしてる。これで時間を忘れる事は無いわ。
朝のセントラルパークでの散歩を終えて、ニューヨークの市内観光へ連れて行ってもらう。
見るもの見るもの、初めてで、少し興奮してきてる。
そして今、私と新一はニューヨークの少し郊外にある展望台へきていた。おば様は車を取りに行ってる。
そして・・・・。
ピピピピピピピ・・・・・・。
アラームが鳴り響く。
「な、何だ!?」
新一がかなりあわててる。私はバックに忍ばせてあったクラッカーを手に取り、
「新一!!」
「あ・・・・?」
「ハッピーバースディ!」
声とともに、クラッカーの紐を引っ張り、ぱあん!!と破裂させた。
「・・・・は・・・?」
「もう!また、忘れてたんでしょ?新一。5月4日!!自分の誕生日!!」
「あー・・・。」
新一、まだほうけてる。
「え、ちょ、ちょっと待てよ!今日まだ3日だぜ?」
ようやく気がついてくれた。
「そうよ。」
「一日・・・早くねぇ・・・か?」
「ニューヨーク時間の5月3日午前11時!!・・・日本時間、5月4日、午前0時。」
「え・・・。」
「新一、日本生まれでしょ?」
「あ・・・ああ・・・。」
「だから、今でいいの!!まあ・・・。生まれてきた時間ぴったりってわけじゃないけどね。でも誰よりも一番に言いたかったの。」
新一がびっくりした顔をしたまま動かない。
「でも、ごめんね。プレゼントはスーツケースの中なの。こっちの時間で4日になったらあげるね。もう一度ハッピーバースディと一緒に。」
「それまでおあずけかよ。」
「いいじゃない。めったにないよー?年に2度も祝ってもらえるなんて!!」
「・・・それいい事か・・・・?」
「なによお!嬉しくないの〜?」
「・・・サンキュー・・・な。」
少しぶっきらぼうな声。新一の照れ隠し。それが分かっていたから・・・。
「よし!!」
振り返ったところで、おば様の車のクラクションが鳴り響いた。
その日の午後0時。
「新一!!起きてる?」
「あー・・・。」
「ハッピーバースディ!!はい、これプレゼントね。日本で買って持ってきたからあんまりかさばるもの買えなかったから。」
少しの言い訳とともに私は新一にプレゼントを渡した。
「サンキュー。空けるぞ?」
「あ!ちょ、ちょっとまってよ!目の前で空けられるのはちょっと・・・。でてってからにして?ね!!じゃ、お休み!!」
別にそんな変なものじゃないけど・・・目の前で空けられるのはちょっと・・・ね。
とりあえず・・・ちょっと凝ってみた誕生日、少しはびっくりさせられたみたいでよかった。
戻ってきた部屋の窓から流れ星が見えた。
「来年も新一に一番におめでとうがいえますように・・・・。」