7回目の運動会



ポンポンッ!と華やかに鳴り響く音。


晴天の秋晴れに恵まれた10月初めの日曜日。
此処、帝丹小学校では秋の大運動会が開催されていた。


「あ〜・・・たりぃ・・・。」

運動服を着たコナンはたるそうにグラウンドに向かっていた。

「コナンく〜ん、早くっ!」
「早く来いよ、コナンっ!」
「コナン君、何してるんですか?」

探偵団の皆はよほど楽しみなのか、ゆっくりと歩いてくるコナンに大声で呼びかけてくる。

「おう・・・。」

手を振ってコナンを呼ぶ探偵団に応えるように手を上げながらゆっくりと近づく。

「楽しみだねっ!コナン君っ!」
「あ・・・そうだね・・・。」

歩美の本当にニコニコと楽しそうな笑顔に押されながらもコナンは愛想笑いでやり過ごそうとする。
その後ろから、くすり。と皮肉げに笑う灰原の声がコナンの耳に届く。

「んだよ、灰原?」
「無邪気で楽しそうじゃない。それに比べて随分とやる気なさそうね?」
「・・・オメーはやる気あるのかよ?」
「そうね。こんなのは初めてだし、結構楽しみよ?私。」
「そんなもんかね・・・。」
「あの子たちだってそうでしょ?1年生なんだから小学校に入学して初めての運動会だもの。」

灰原の言葉にコナンは神妙な表情になる。

「・・・そうか。そういや、そうだったな・・・。」
「貴方を基準に考えないほうがいいんじゃない?7回目の運動会だったかしら?」
「ふん。」
「・・・それにあまりやる気なさそうにしてたら『誰かさん』が心配するんじゃない?」
「は・・・?」

灰原の少し神妙に変わった表情と声にコナンは少し不思議に思う。
そんなコナンに気づき彼女は首だけをくいっとあさっての方向へ向けてそのまま歩美たちのほうへ歩いていった。

「何だ・・・?」

不思議に思ったコナンは灰原が向けた方向へと視線を向ける。
そうして逃げたくなった。

「あっ!コナンく〜んっ!」
「らっ、蘭っ!」

思わずそう呼び捨てて「やべっ!」と慌てて口をつぐむ。
蘭の方へと足早に近づき殊更子供のフリをする。

「蘭ねえちゃん。」
「頑張ってねっ!コナン君っ!」

にこにこと応援の言葉を投げかける蘭にコナンは最早愛想笑いしか出来ない。






あ〜あ・・・みっともねえ。

はあっとため息をついて入場門に居た。
入場行進のために此処に居るのだ。


「コナン君、どうしたの?ため息ばっかりついて?」
「元気ありませんね?コナン君。」

歩美や光彦は心配そうにそうコナンに話しかけてくる。

「うな重でも食べ過ぎたのか?コナン!」
「も〜!元太君じゃあるまいしっ!」


元太は相変わらずの発言をして光彦のツッコミを受けていた。

「いや、なんでもねーよ。」
「本当に?運動会これからなんだもんっ!楽しみだねっ!」

そうわくわくとした気持ちをそのままストレートに表しながら歩美はニコニコと話しかけてくる。
「そうだね。」としか返せないままじっと保護者席を見つめていた。


ま、蘭に心配かけんのもナンだしな。
精一杯子供になって行くことにすっか!

「おしっ!」とコナンがひとつ気合を入れたところで入場の合図の言葉が耳に届いた。


「ただいまから、生徒たちの入場ですっ!皆さん、拍手で迎えてください。」

よく通る小林先生の言葉が言い切ると入場行進するのに丁度よさそうな曲が流れてきた。







なんだかんだとうだうだやっていたコナンではあるが、始まってしまえば体育会系の血が騒ぐのかそれなりに楽しんでいた。

「おい、光彦。次俺たちなにすんだ?」

元太の質問に光彦がパンフレットを見ながら順番を探す。

「エーとですね。今5年生の徒競走ですから次は玉いれですねっ!」
「俺たちどっちなんだ?」
「私たちは赤だよっ!元太君!」

歩美が被った帽子を指差しながら元太に教える。
漸く自分の色が分かった元太は高らかに宣言する。

「よーし。少年探偵団やるぞっ!」
「「お〜っ!」」


歩美と光彦がそれにならって、掛け声をかける。


・・・元気だな、こいつら・・・。

コナンは愛想笑いをしながら半目で見ていた。

「コナン君〜、頑張って〜!」
「蘭ねえちゃん!」

ニコニコと手を大きく振ってコナンを応援する蘭と園子の姿が見える。
コナンは手を振ってゆるく手を振り返した。


「貴方も頑張らなきゃならないようよ?」
「灰原・・・。」

蘭の声に目ざとく反応した哀は楽しそうな笑みを浮かべてかごの近くに落ちていた玉を二つ拾い上げた。

「ほら。玉入れのやり方くらい覚えてないの?」
「うっせー・・・。」

悪態をついては自分をからかう灰原の手ではなく、落ちていた玉をひとつ拾い上げはるか高いかごを見上げた。


ちょうど蘭たちの居る場所からはコナンの姿はよく見えた。
こちらからみて、蘭の姿がはっきりと分かるのだから特にそうなんだろうと目測をつける。
蘭に心配かけないためにも、怪しまれないためにも、ここは必死さを見せなければならないとコナンは覚悟を決めた。




結果。


「コナン君、大丈夫〜??」
「張り切りすぎるからですよ、コナン君っ!」
「オメー案外ドジだなあっ!」
「あはは・・・。」

探偵団に次々に言われるほど、コナンはドジってしまった。
必死さを見せようとして、ポールに引っ掛けて指を切ってしまったのだ。

「コナン君、血出てるよ!?」
「え?」

歩美の大声にコナンは彼女の指差す方向を見た。

「あ〜・・・ホントですね。」
光彦は冷静にコナンの指先を見る。

「大丈夫だよ、コレくらい。なめとけば直るよ。」

そういいつつコナンは指先を口にくわえる。
少し強めに吸い出すようにすると口に血の味が広がる。

独特の血の味。
でも少しの甘さが混じる気がする。

甘さって・・・吸血鬼じゃあるまいし。

くっと笑いそうして考え付く。


甘いか。
なんたって俺の中に流れる血、蘭の血が混じってる。
だからだな・・・。


「コ、コナン君、大丈夫?」
「へっ?」

自然ににやけていた自分を心配してか歩美は恐る恐るコナンに話しかけたのだ。

「大丈夫みたいよ、吉田さん。とりあえず江戸川君は救護室に言って絆創膏でも・・・。」

其処までで突然止めてしまった灰原に不思議そうにコナンは話しかける。

「んだよ?」
「・・・救護室へ行くまでも無いみたい。」
「へ?」
「さ、行きましょ。”誰かさんの血”に喜んでるようなおかしな人はほっといたほうがいいわ。」

くすくすと笑い、哀は、歩美たち少年探偵団を引き連れて歩き出した。

「・・・ほっとけ。」
蘭の血にちょっと浮かれていた自分を見抜かれ、ちょっと罰が悪そうに小さく言うコナン。
「コナン君、なめちゃ駄目よ?」
「らっ、蘭姉ちゃんっ!!」
「はい、絆創膏。気をつけなきゃ駄目よ?」
「ありがとう・・・。」

はい。と手渡される一枚の絆創膏。
ソレを受け取り、コナンは顔を紅くさせる。

さっきまでのやり取りを蘭に聞かれていないか・・・の心配だった。
だが、蘭は安心なことに聞いては居なかったらしく、普通に接する。


「でもコナン君、凄く頑張ってるね。」
「そ・・・かな。」
「うんっ!そういうのって凄く素敵だと思うな。」
「そうか・・・な。」
「絶対よっ!」

ニコニコとそう応える蘭にコナンも初めはだるかった運動会もそう悪いものでもないのかもしれないと思ってきていた。



結局、誰よりも頑張り、誰よりも楽しんだ運動会になった。




だけども。とコナンは思う。
きっと蘭が見に来ていなければ自分はこんなに頑張らなかっただろうと。




祝日企画小説第12弾、「体育の日」です。

江戸川の日から近いから・・・というわけでもないのですがね。
初めからこの日はコナンでと決めてました。
やっぱり運動会!といえば小学生、コナンでしょ!
という単純理由からです。

世にもまれな「7回目」を経験する彼です。
・・・中学になったら「体育祭」と名を変えるから(・・・って、管理人はそうだったんだけど違うところもあるかも?)

コナンが血を舐めて喜ぶとはヘンタイチックなとは思いましたが。
元ネタは「みゆき」(あだち充著)です。初出の時からこのネタが頭を離れなかったのです。
なので、書けて満足vv