HAPPY CHILDREN DAY


黄金週間(ゴールデンウィーク)と名づけられた4月の終わりから5月の第一週に設けられた長い休み。
土日を挟むとまだ続くが、一応、休日としては今日で最後となる本日。
コナンは事務所のソファに寝転がり、小学生らしくない推理小説を読みふけっていた。


「コナン君〜!」


不意に呼ばれた声にコナンはソファから降りて自宅へと続くドアを開けた。

「なに、蘭ねえちゃん。」
「あ、コナン君。どこに居たの?」
「え。あ、事務所かな?」

子供らしくない本を読むとき、一応コナンは蘭に配慮して、目の届きにくいところで読むのだ。

「そう。」
「な、なあに?」

コナンはなるべくそちらの話題から目をそらさせようと、別方向へと話をふった。

「あ、お昼ご飯。出来たから食べよ?」
「うんっ!」
「じゃあ、その前に手をちゃーんと洗ってきてねv」

にっこりと笑い、蘭は台所へと戻る。
戻っていく蘭の後姿を見送りながら、コナンはため息をついて、洗面所へと向かう。

「ちぇっ!完全に子供扱いだな・・・。」

ばしゃばしゃと手を洗いながらコナンは一人ごちる。
確かに、今自分は小学一年生で、高校生の蘭からしてみたら完全に子供だ。
子ども扱いは当たり前なのだが・・・。

つまんね〜・・・。

これがコナンの偽らざる本音だった。


「うわあ、美味しそうだね〜!」
「ふふっ、ありがとう。」

テーブルの上には、簡単に作ったとはいい難い豪華なベーグルサンドウィッチがサラダと共に乗せられている。
子ども扱いにぶちぶちと文句を言いながらもコナンは疑われないように子供らしく振舞う。
最初はかなり恥ずかしかったこのしぐさも今ではもう、なれたものだ。

・・・コナンとしては、あまり慣れたくない行動ではあるが。


「最近園子が凝っててね。」
「園子姉ちゃんが?」

がぶりっ!と大口を開けてベーグルサンドにかぶりつきながらコナンは蘭の話を聞いていた。

「そっ!『今、ベーグルがキテるのよ〜!』ってあんまりにも言うもんだからね。つい買っちゃったんだv」

ぺろりっとと舌を出していたずらっ子のような表情を見せる蘭。
しかしコナンは、不意に見せられた蘭の舌にどきりとさせられた。

赤い・・・。


「あ、コナン君。」
「え!?な、何!?」

心臓がバクバクしている最中で蘭が不意に話しかけるものだから、コナンは素っ頓狂な声を上げてしまった。
蘭が不意に見せるしぐさにコナンは子供のふりをしている自分を素で忘れそうになる。

ただの高校生。
一人の女に恋する青春真っ盛りの思春期。
ちょっと危ない方向へと想像を飛ばしがちな青少年。

慌ててコナンは「自分は子供」と言い聞かせ、平静を保とうと努力する。


「ど、どうしたの?コナン君?」
「な、何でもないよ・・・!やだなあ、あははっ!」

必死でごまかそうとしているコナンをよそに蘭はまたしてもコナンの度肝を抜いてくれた。
白い蘭の指先がコナンの口すぐ近くにまで伸びだのだ。

「ら、蘭姉ちゃん!?」
「もう、また。」

ドキドキして心臓がオーバーヒートしそうなコナンとは裏腹に、蘭の声はどこか呆れている。

「え、また?」
「もう小学生なんだから、もっと綺麗にたべようね?口、ついてるわ。」
「あ・・・。」

何のことはない。
コナンはベーグルサンドにかぶりつくあまり、口を汚してしまったのだ。
それに気づいた蘭が口の汚れを取っただけの事。



ま、まるきり、子供にする仕草じゃねーか。ったく・・・焦らせやがって・・・。


「ほーんと!コナン君って、新一そっくりだね〜!」
「へっ!?」

三度、コナンの心臓が跳ねる。
もう正直勘弁して欲しい。

「新一も食べるの下手なんだよ〜。高校生にもなってまだ下手なんだから。」
「あ、そうなんだ・・・あはは〜・・・。(悪かったな、下手で。)」

ぶうっとむくれて言う蘭に愛想笑いをしながら、コナンは此処をやり過ごそうと早めに食事を完了させた。
・・・相変わらず口の周りは汚れていて、蘭にウェットテッシュを貰ってしまったけれども。


あああ〜・・・。
昨日の事で落ち込んでるかと思ってたのに・・・案外そうでもなさそうだな?
女ってのは・・・やっぱり強いのか?











昨日5月4日は新一の誕生日だ。
どうやっても今、新一として蘭の目の前に現れてやることは出来ず。
結局涙に暮れる蘭に新一として電話をしてやることで精一杯だった。



黒の組織の行方は依然として闇のままだ。
コナンを元に戻す解毒剤の研究も、灰原が頑張ってくれているが、いい報告はまだ。
あせってもしょうがないと解っていても、焦りがコナンをいらだたせる。

・・・昨日のような光景を目の当たりにすると特に。
蘭を安心させてやりたくて。
新一として、蘭の前に立ちたくて。

どうしても思考が狂う。





「どうしたの?そんな思いつめたような顔して?」
「蘭・・・姉ちゃん・・・。」


ソファにごろんっと寝転がっていたコナンを覗き込んだ蘭は楽しそうに話しかける。

「いい天気だねっ!お買い物に行かない?」
「え、今から?」
「うんっ!自分の事で一杯になっててコナン君のお誕生日お祝いしてあげられなかったし。」
「え・・・。」
「それに今日は子供の日だもんねっ!コナン君の好きなものいーっぱい作っちゃうから!」
「僕の・・・誕生日・・・って?」

蘭がガッツポーズをしてコナンに話しかける。
だが、コナンはどこか嫌な汗が流れる。

「な、どうして僕の誕生日・・・。」
「何言ってるのよ?クイーンセリザベス号で言ったじゃない?コナン君、夏美さんと青蘭さんの誕生日の間だって。」
「あ・・・。」

そういえばそうだった。
自分の過去の失言を思い出し、焦る。
過去のたわいもない世間話。
それを蘭はきちんとインプットしていてくれたのだ。


「ねっ?行こう?」
「う、うんっ!」

蘭の誘いにこれ以上拒否して疑われるのもマズイと思い、「子供らしく」を心がけて無邪気を装いうなずいた。
どういう理由にせよ、蘭が笑っていてくれる。
そんな光景にほっとして。







新緑の季節。
五月晴れのいい天気。
ぽかぽかとした陽気は、散歩にはもってこいだ。

蘭はコナンの手を引き、そんな陽気に誘われるように川原沿いの道をのんびりと歩く。
そんな光景は新一だったときにも良くある光景だった。

手こそつないでは居ないが、推理に煮詰まった新一をグットタイミングで連れ出すのだ。
何も言わなくても解ってくれる長年の幼なじみとしての勘なのか新一にはわからなかったけれども。
それでも蘭と共にゆっくりと歩くだけで、こんがらがった頭がすうっとクリアになる感覚を味わえた。

今も同じ。
先ほどまでいろいろと考えていたことがすうっとクリアになっていくのを感じる。

もちろん。
蘭はそんなこと今も、昔も気づいてなんて居ないだろうけど。


「ん〜!気持ちいいね、コナン君。」
「ほんとだね、蘭姉ちゃん。」
「コナン君は欲しいもの何かある?」
「え・・・?」
「誕生日プレゼント。」
「あ・・・。い、いいよ。別にそんなの・・・。」

蘭の言葉にコナンは遠慮の意を伝える。
本当に欲しいものは、今コナンの立場では思わない。

「遠慮なんてしなくていいのよ?」

蘭はコナンの心の奥を読めず、そんな風に返す。
そんな蘭の気遣いが、嬉しい。


「ちまきと柏餅も買わなきゃ!今日はコナン君の大好きなハンバーグだからね!」
「わあい。うれしいなっ!」
「ふふっ!コナン君サッカー好きだからボールにしようか?それとも日本代表のユニホーム?」
「いいよ、ホントに!蘭姉ちゃんにお祝いしてもらっただけで嬉しいんだ、ボク!」
「え〜・・・でも・・・。」
「蘭姉ちゃんと一緒に居ることがボク一番嬉しいから。それでいいんだ!」
「ありがと。」

蘭は素直に感謝の言葉を口にする。
コナンも珍しく素直な言葉が零れ出る。
「新一」では言えない一言も「コナン」でなら簡単だ。

それが子供になったメリットかもしれないとコナンは思う。
だからそれを自分への「プレゼント」だと思うことにした。

本気に取らない蘭へ向けて。
今まで胸の奥に無理やり仕舞い込んでいた気持ちを言葉にした。

「蘭姉ちゃん大好きだよ!!」
「うふふ。ありがとうコナン君!私もコナン君、大好きだよ!」


これだけ予行演習しておけば・・・「本番」のとき、焦らなくていいだろ?なんてコナンは思っていた。


もっとも?

上手くいくかどうかは・・・その時になってみないと誰にもわからない。
「本番」と「予行」がまるで違うのは当たり前の事なのだから。





祝日の日企画第8弾です。

「こどもの日」とくればやっぱりコナン君で!!
って事で子供だからこそっ!

という素直ーなコナン君です。
蘭ちゃんに「大好き」とかいえるのは「自分が子供だから」と思いこむから。

・・・でなければコ蘭はじめての出会いで「僕、ねーちゃんところがいい〜!」
などとフトモモにぴとりとくっついていえませんよねっ!
・・・演技派め(爆)。

え?本番の結果ですか?
そんなもの言わなくても解かりますよねっ(笑)。