夜も遅く。蘭の携帯電話の着信音が鳴り響く。
この着信音の主は分かってる。二日も音沙汰なしだった人物。
「もしもし?」
少し膨れたような声で出てみる。
「なんだよ?やけに機嫌悪りーじゃねーか。」
着信音の主はなんら変わり無い声と態度で応対してくる。
「べーつーにー!何にもないわよー。そろそろ寝ようかなって思ってたところに掛けてきた
大馬鹿推理の介さんには心当たりあるのかしらぁ?」
「まあ、そういうなよ。やっと一個事件が片付いたんだからよ。」
新一は少し苦笑しながら答える。
「明日は学校にこれそうなの?」
「あー、まあ、久しぶりには行けそうかな?」
「もー、出席日数危ないのに!」
「学校側も少しは考慮してくれてるよ。」
「そういう問題じゃないでしょー!もう!」
「まあ、課題は他よりは多いけどな!」
「当たり前でしょ!!」
のほほんと出される新一の答えにむくれて蘭が声を上げる。
「まあまあ。」
「もう!明日の朝迎えに行くから、ちゃんと起きてなさいよ!」
「分かってるって!じゃな!」
新一が蘭からの電話を切る。
事件で疲れた体と精神を休めるための方法。
「やっぱ俺にはこれが一番効くんだよな。」
どこか嬉しそうに一人つぶやく。
プルルルル!
いきなり、新一の携帯の着信音が鳴り響く。
(な、なんだ!?まさか立て続けに事件か!?)
又警察からの応援要請だと思い、怪訝に着信を見ると、それはたった今切ったばかりの蘭からだった。
「も、もしもし!?」
「あ、新一?」
「どうしたんだよ?」
「ん・・・。忘れてたの。」
「何を?」
「事件解決、おめでとう。ご苦労様。」
いきなりの蘭からの電話。
こんなどうでもいいと思うことでわざわざ電話を掛けなおしてくる蘭をとてもいとおしく思う。
「蘭。」
「な、何!?」
「ありがとな。」
「ん・・・。新一。」
「何だよ?」
「さっき、怒っちゃってゴメンね。・・・だいすき。お休み!」
それだけを告げると蘭は電話を切ってしまった。
カアーッと顔が赤くなるのが分かる。
照れた様に”だいすき”と言って切ってしまった蘭の言葉を思い返す。
・・・そんなの分かってる。うぬぼれじゃ無くて。
俺も大好きだから。
コナンだった時に思い知った蘭への想い。
何を犠牲にしても、どんなに困難でも、変わらなかった想い。
あの普通に会えなかった日々が今も心に残ってる。
あの日々が無かったら今も蘭との関係は変わってないかも知れない。
戻った今も会えない日々が勝負を決めると思ってる。
会えない日々に蘭を想い、それを積み重ねてる。
ほんの小さなことでも、伝えたいと思ったら素直に伝えた方がいい。
蘭はあのつらかった日々の中で思ったのだろう。
だから、電話してきた。
”ご苦労様””だいすき”
言いたかった事を告げるために。
俺も少しは言えた。素直に”ありがとう”って。
でも言い切れなかった。
”俺もだいすき”だって。”愛してる”って。
事件と聞くと黙ってられない性質は直らない。そのたびに蘭に寂しい思いをさせているのは分かってる。
でも蘭も放したくない。放せない。とても大切だから。
「恋と仕事、どちらかを選びなさい!」
そういわれて選べる人も居るかもしれない。もしかしたらほとんどの人がそうかもしれない。
でも、俺はそうじゃない。俺らしくやろうとしたら探偵も蘭もどちらも大事だ。
我侭と言われても仕方ない。でも、「工藤新一」と言う人間を形成するためにはどちらも手放せない。
蘭には明日、やっと会える。
いつも蘭の前ではかっこよく居たかった。でもたまには甘えてみようかな。と考えてる。
いつもしている俺からのキス。たまには、蘭から欲しくなる。
蘭からキスがしやすいように。背中をかがめて。顔を近づけて。
子供の頃の。そう、コナンだった頃の笑顔を思い出して。
コナンを味方につけて、蘭に甘えてみよう。きっと蘭は
「もう!ずるいんだから!」
なんて言いながらくれるだろう。
そんな明日を考えつつ、眠りにつく。
明日、蘭に会える日を思いながら。