神様にお願い!
1月1日。
新しい年の始まり。
皆が希望に満ちた気分で居る日。
たった1日違うだけなのに、何故か皆、幸せそうだ。
「あけましておめでとうございます!」
「おめでとう、和葉ちゃん。はい、お年玉。」
「ありがとう、おばちゃん!」
ニコニコと笑いながら和葉は靜からのお年玉を受け取る。
その隣では、我関せずでおせちにがっついている服部平次。
そんな平次を静は、持っていた扇子でぺチン!と叩く。
しかも、加減したわけではない、勢いのままかなりきつめに振り下ろされたため、音までクリアに聞こえる。
当然、叩かれた人間は悶絶していた。
「〜〜・・・・!!何すんねん、オカン!」
「平次。お正月の挨拶くらいし!」
「それだけの理由で扇子でぶったたくな!」
「それは平次が悪んやん。」
「おまっ!」
平次は果敢にも口答えをしてみるが、この達者な女性2人に攻められて、平次が勝てるわけもなく。
「平次。」
「・・・・おめでとうさん。」
今一度の静の強い口調に負けて、渋々ながらお正月の挨拶をした。
これは、服部・遠山両家のここ数年のお正月風景だ。
両家の大黒柱は共に大阪府警に勤務する警察官。
警察官たるものに世間一般にあるべき休日など存在しない。
それは、刑事部長と本部長という役職に就いても変わらない。
世間の皆様が浮かれやすいこのお正月こそ、警察官にとっては忙しい日々ということになる。
故に、昔から親交の深い両家は、ひとつの家に集まり、大晦日からお正月に向けて共に過ごすことが慣例になっていた。
「挨拶したんやし、年玉くれや?」
「全く、ちーっとも成長せんなあ、平次は。」
「うっさいわ。」
悪態をつきながら、お年玉を手のひらに載せて、平次へと向けた静の手の中から。
これまた悪態をつきながら、静の手の中からお年玉を奪取する平次。
いつもと変わらへんなあ・・・と和葉は楽しそうに見つめていた。
毎年、同じ。
でも、この同じ時を共に過ごせている幸せを和葉は感じていた。
いつもの通りのまったりモード。
勝って知ったる他人の家でくつろぎモード全開の和葉の頭を平次が叩く。
「いった〜!なにすんねんな。平次!」
「だらけきっとらんで、行くで!」
「え、ど、どこへ!?」
すでにジャンパーを着込み、出かけるモード満載の平次に気づき、慌てる。
「どこて・・・。初詣、行かんのか?毎年うっさいのに・・・。」
「い、行く!ちょ、ちょお待って!すぐ準備してくるから・・・!!」
ドタドタと走り去る和葉に平次は呑気そうに応える。
「はよ、せぇよ〜!」
一時のきまぐれなんだろうか?と和葉はどきどきしていた。
それでもいいのだが、気分的に違う。
う、嬉しい・・・!
平次が初詣に誘ってくれるのって初めてちゃうん!?
和葉が感動するのももっともな事。
去年までは、和葉がせっついて、せっついてやっとこさ平次が渋々動くといった感じだったのだから・・・・。
和葉は舞い上がりながら、手早く出かけれるような用意をする。
服・・・は、これで大丈夫や!
髪、崩れてるやん!直さんとっ!
あっ!顔ちょお大丈夫かなっ??
「お、おまたせっ!!」
全ての準備を整えて、約10分後、和葉は平次の前で、息を切らしていた。
「ん?・・・着物着ぃへんのか?」
「え!?あ・・・・。」
確かに、去年まで静に着付けてもらい、着物を着ていた。
ところが、今日は動きやすそうなカジュアルな格好。
それを疑問に思って平次が不思議そうにたずねると和葉は顔を少し赤くして口ごもる。
「何や?」
「え・・・・とな、平次。」
「?・・・まあ、ええわ。で、住吉さんと八坂さん、どっち行くんや?」
平次と和葉の住む寝屋川は大阪と京都の丁度真ん中に位置する。
平次と和葉は、大阪・住吉大社と京都・八坂神社を交互に行っていた。
「今年どっちやったっけ?」
平次が和葉に聞いた。
「今年、あたし行きたいところあるねんけど・・・。」
「?どこへ?」
「奈良の春日大社。」
「奈良ぁ?なんで、そんな面倒くさいとこ・・・・。」
確かに彼らの住む寝屋川市は奈良へ行くにはかなり面倒くさい場所にあるのだ。
だからこそ、和葉がそんなところへ行きたがるなんて不思議に思ったのだ。
「・・・だから、その格好しとんのか?オマエ。」
「あ・・・あははっ!」
平次がジト目で和葉を見ると、和葉はあはは・・とわざとらしく笑う。
平次はため息をついて、「待ってろ。」と階段を登っていく。
「ちょ、へ、平次!?」
和葉の声は空を切り、不安を増した声。
それとは裏腹に平次は階段をリズミカルに駆け下りる。
「和葉!」
声と共に和葉へと放り投げられたもの。
和葉は慌てて投げられたそれを受け止める。
「メット・・・?」
「奈良行くんやったらバイクの方が断然早いやろ?」
「平次・・・・。」
ぱあっと和葉の顔がほころぶ。
平次はそんな和葉に気づかない振りをして、バイクにエンジンをかける。
「和葉。行くで!」
「う、うん・・・・!!」
和葉はバイクにまたがり、平次の運転するバイクはその場を走り出した。
国道163号線を抜けて24号線に入り、奈良市街地へ入る。
道路は車で渋滞中だが、バイクですいすいと抜けていく。
そうして、バイクを駐輪場へと置いて、神社への道を二人で歩く。
東京の友人から遅れること3ヶ月。
去年のクリスマスに漸く想いを伝え合った二人。
まだ、二人ともに幼なじみと恋人の違いは分かっていないけれども。
二人揃って参道を歩く。
家族連れもいるし、カップルも居る。
友達同士で歩く者もいる。
その中に紛れて歩く。
奈良・春日大社は奈良北部に住む人たちが主に訪れる神社だ。
奈良に広がる世界遺産の中心的社寺だ。
和葉は嬉しそうに歩いているが、特別な何かがあるというところでもなさそうだ。
平次はわざわざここへ来たがる意味が分からず、首をかしげる。
本殿で手を合わせ、お参りする。
並んで手を合わせる。
お互いは何を考えているのかは分からないけれども。
二人揃って毎年、こんな風に並べたらいいと思っているのは同じかもしれない。
そう考えながら、ゆっくりと目を開けた。
「なあ、平次!何をお願いした?」
「・・・・さあな。オマエは?」
「え!?そ、そら受験の事に決まってるやん!」
「ほお?」
切り替えされた平次の言葉に和葉はごまかす。
上手くごまかせたかはかなり不明だったが、二人ともとても楽しそうだった。
本殿を抜けて、お守りを購入する。
「あ、おみくじしよ?」
和葉はおみくじを見つけて、楽しそうに平次を誘う。
「あ、やった!大吉!平次は?」
「俺も大吉やな・・・。」
「二人とも大吉やなんて凄いな。ツイてるんや!」
「んじゃ、持ち帰るか、これは。」
「うん!」
来た道を帰ろうと歩いていると、和葉は急に別の道へと誘う。
漸くわざわざ和葉がここへと誘った理由を知れると平次はやれやれと付き添う。
人ごみに紛れて漸くとやってきた場所。
やけにカップルが多い。
これだけで何なのかの予想がつく。
平次はやれやれ。と思う。
「ここか?」
「せやねん。」
「縁結び・・・か。」
平次はどこか呆れ顔だ。
「ん。ここな。日本で唯一大国様が夫婦で祀られてるんやって。」
「だから?」
「・・・・縁結びの神様っていっぱいあるやん?」
「せやな。」
「・・・・蘭ちゃんたち見てて、二人一緒に居るのが一番エエんやって教えてもろてん。」
「和葉、オマエ・・・。」
和葉の思いがけない言葉。
そして納得する。
元に戻った東の名探偵・工藤新一が小さな探偵「江戸川コナン」であることを和葉は知らない。
だとしたら、新一と蘭が「長くあえて居なかった」と思ってもなんの不思議もない。
そして、自分がそんな人間と同じコトをやっているのなら、和葉がどこか不安を抱えていてもおかしくはない。
だから、「夫婦で祀られている」この地へやってきたがったのかもわかる。
「いつまでも一緒に居られますように」それを祈りにやってきたのだ。
その願いを一番かなえてくれそうなとこをへと、足を運んで・・・・。
「アホか!」
「な!?」
「俺はオマエ残していきなり消えたりせんぞ?」
「分からへんやん!平次ただでさえ、怪我多いのに。」
「怪我は関係ないやろ!で?参っていかんのか?」
「行くに決まってるやん!あれもちゃんと書こうな?」
「あれ?」
和葉の指さした方向を平次が見るととたんに顔が引きつった。
和葉の指差した先にあるもの。
それは、ハート型の絵馬だった。
飾られている文字はまあ、定番のもの。
「恋人が出来ますように」
「恋が実りますように」
のような、お願い系から、恋人同士の書く連名のものまで。
「あんな木っ端図化しいこと出来るか!?工藤やあるまいし!!」
「ええやん、絶対やりたいねんから!」
引く平次を和葉がぐいぐいと引っ張っていく。
お参りをしてから、和葉の思い通りにハート型の絵馬に二人で書きこむ。
いつまでも一緒に居られますように・・・。
服部平次
遠山和葉
願いは此処夫婦大国社の大国主命と須勢理比売命の日本で唯一夫婦で祀られている社へと託された。
二人の願いが叶いますようにと二人が思い続けている限り、永遠に叶って行く。