園子と蘭の憲法記念日


5月2日の放課後の教室。
蘭と園子が二人、密談中だ。


「でっ?今年はどうするの?」
「う〜ん・・・。どうしようかなって悩み中かな。」
「ま〜、あやつの事だからどうせ今年も忘れてるだろうしねえ?」
「そうなのよ。だからあっと驚かせてやりたいなあって思ってたりもするんだけどね。」
「あ、じゃあ、こんなのはどお?」

園子が思いついたように前かがみで、蘭に提案した。



「え、えええええ〜!?無理よ〜!」
「どうしてよ?」

大声で即効、反論を返す蘭に園子は冷静そのもので言い返す。
まるで、「無理なんてわけないじゃない?」とでも言いたそうな顔つきだ。
そんな園子の態度に蘭は思わず口ごもってしまう。

「だ、だって新一だますなんて無理に決まってるじゃない・・・!」
「そうかなあ〜?あやつ蘭の事になると途端に鈍るからいけると思うけど〜?」
「鈍いって・・・どこがよ〜!!知って欲しくないことばかり知ってるわよ、新一!」

ぶんぶんと頭を振る蘭を見ながら園子は相変わらず凛とした態度を崩していない。

「蘭ってやっぱり『恋は盲目』を地で行ってるわよね。」
「・・・そんなことないもん・・・。」

ぷうっと頬を膨らませて蘭は園子の言葉に反論する。
だけどどこか自分でも弱いと解っているからか、声は若干小さい。

それに気づかない園子ではないし、蘭に反論されたくらいでこの確固たる意見を変えるつもりもない。
故に言葉もどこかクールに響く。

「あら、そう?」
「新一が推理オタクで事件フェチで・・・ってちゃんと解ってるもん。」
「だけど、そこがかっこいいって思ってるわけでしょ?蘭の場合。」
「だ・・・だって・・・。」


ホントにかっこいいんだもん・・・。

などとはうかつに声には出せないと蘭だって解っているから、心の中で唱える。
長い付き合いの園子は当然、そんな蘭の心の声などお見通しだ。
第一、ちゃあんと顔に現れている。
新一は蘭にさえ祝ってもらえればサプライズがあろうがなかろうが大感激することは確信出来る。
第一必ず忘れる男相手では、どんな行動を取ろうが「おめでとう」の言葉だけでサプライズの出来上がりだ。
周りの事はよく読める園子は、冷静にそう分析する。
が。
大切な親友がああでもない。こうでもない。と一生懸命なのだ。
だったら、サプライズをセッティングする準備をしてあげたいと思うのが友情ってモノだ。

だからちょこっとアイデアを提供したのだ。
女の子は本番よりも準備期間のほうがドキドキしやすいもの。
特に蘭はその傾向が強い。

だったら誕生日だと気づかれないように沢山のサプライズを用意して、最後にお祝いすればいい。と提案したのだ。

「新一君に何言われてもぜーったいに最後まで種明かししちゃ駄目よ、蘭!」
「園子ぉ〜!」
「これ、園子様の決めた法律っ!」

にっと笑って高らかに宣言する。

「ほ、法律って・・・!!そんな大げさなっ!」

蘭は園子の言葉に焦る。
それは確かにそうだろう。
彼女のした相談事はそんな大げさなものではない。
ただ、「彼氏を誕生日の日に驚かせたい」だったのだから・・・。

「いいじゃない、それくらいやんないと気合い入らないでしょ?」
「園子・・・人事だと思って悪乗りしてない・・・?」
「そんなことないわよぉ!」


園子はそういいつつも、自分の発言を思いのほか気に入っていた。

「いいじゃない、法律っ!ひとつじゃだめよね〜。憲法みたいに一杯考えようか?」
「園子ぉ〜!!」
「丁度いいじゃない。日本の憲法記念日の次の日なんだし3日が憲法施行日って事で。」

こうなると最早蘭の意見など聞き入れてなどくれない。


・・・こういうところ新一と園子って似てるわよね・・・。

蘭は諦めモードで、ため息を吐いた。


「ちょっと、蘭、聞いてる!?」
「はいはい。解ったわよ〜。」

園子に制服を引っ張られてため息を吐きながら蘭は答える。
確かに、せっかくの新一の誕生日。
思い切って園子の立てた策略に乗ってみるのもいいかな?と思ったのだ。


・・・だけど「法律」とか「憲法」とかはやっぱり大げさよね・・・とは思ったが。
まあ、憲法とはいってもそんな大層なものではなく、ちょっとしたルールのようなものではある。
守るのは蘭一人だしまあいいか、と思った。

それに、いつもいつも自分ばかりが新一の手のひらで転がされているような気がしていて。
・・・ちょっとばかり、仕返ししたいという想いもある。


いーっつも新一ばっかり全てを見透かした顔して私を負かすんだもん!
たまには仕返ししてもバチ、あたらないよね?


ぎゅうっと自らのこぶしを握り締め、蘭は決意する。




あ〜あ。
またしても蘭、勘違いしてるよ・・・。
新一君もかわいそうになあ〜・・・。


決意を固くする蘭を見て、園子は普段めったにしない同情を新一へと向ける。



きっと、「いつも私ばっかり好きで・・・。」なんて思ってるのよねえ・・・。
傍から見たら新一君の気持ちって解りやすいのに・・・。
普段の勘働きはいいのに・・・どうしてそっち方向には向かないのかしらね?

ま、それ言い出したら新一君も一緒か。
こんなに解りやすい蘭の気持ちにずーっと気づいてなかったわけだし・・・。

ほんっとに似たもの同士。


くすり。と園子が笑うと蘭が目ざとく反応した。

「あ〜!園子今、笑ったでしょ?」
「ん?」
「どうせ馬鹿なことって思ってるんでしょ〜?」
「さあ、どうかなあ?ま、頑張れっ!」


最終下校のチャイムが鳴り響き、園子がかたんっと音を立ててイスから立ち上がりながら蘭を励ます。


「園子。」
「ん?」

蘭の不意の園子を呼ぶ声に園子が振り返る。



と。
ぎゅっと園子にしがみつく蘭。

「ありがとね、園子。」


蘭の心からの感謝の言葉が耳に届く。


「今更、な〜に言ってるのよっ!」


苦笑いしながら園子はら 蘭に言葉を返す。
ちょっとの罪悪感を胸の奥にしまって。


「それより、明日10時に駅前だからねっ!遅れないでよ?」
「はあいっ!」


元気よく返事を返して蘭と園子は教室を出た。







園子は自分の広い部屋の広いベッドに寝転がって親友の恋人へと謝罪をする。



ごめんね。
憲法なんて持ち出して約束させたけど・・・。
実際のところ新一君が「誕生日を認識するのを遅らせてる」、のよね。




新一の事を思う蘭はとても綺麗だ。
だからこそ、こんなに蘭を綺麗にさせる新一にちょっとの嫉妬もある。
新一が「誕生日」と認識して「誕生日だから」と蘭にアレやコレやと言うのが予想できる。
その時間を・・・ちょっとだけ遅らせてみる。



でもね?そんなオアズケから貰うプレゼントは格別よ?


新一への謝罪とメリットを心の奥にしまって。
園子は時計を見る。


後ちょっとで日付が変わる。

5月3日に施行される蘭と園子、たった二人の憲法は2日だけの効力。



3・2・1。

カウントダウンで憲法施行を確かめて。
ふわあっと大きなあくびをひとつ零す。




明日は蘭に付き合って新一君のバースディプレゼント買いにいくから遅れないようにしなくちゃ・・・。




そんなことを思いながら園子は夢の世界へと旅立っていった。



祝日の日企画第6弾です。

「憲法記念日」・・・逸脱してます。
意味違いますからっ!

でも、アイデアあふれる園子ちゃんはきっと一緒にあれこれ考えてくれると思います。
そして、新一よりも蘭ちゃんの方が好きだから、新一へこっそりと嫌がらせも忘れません。
それでこそ、園子ちゃんだと思います(笑)。

そしてこんな風にいろいろノリノリでやってくれるのも園子ちゃんのいいところだとも思うのです。