Side:新一
おかしい・・・つながらない・・・。
こんなことはめったになかった事だった。
今日に限って蘭への連絡が全く取れないのだ。
携帯の電源・・・切ってるのか・・??
蘭の行きそうなところ・・・で真っ先に名前が挙がったのは園子。
園子のところか・・・?と思ったがふと思い出す。
「いや・・・。あいつは今京極が帰国中のはずだ・・・。」
「邪魔しちゃ悪いもの」
とは、2日前の蘭の言葉だったはず。
じゃあ・・・蘭は今どこに居る・・・・?
まさか、犯罪に巻き込まれているとか!?
事故にあったとか!?
頭をぶんぶんと振りながらも嫌な予想ばかりが駆け巡る。
プル!プルル!!プルルルル!!
そんな時不意に鳴った携帯に慌てふためきながら俺は通話ボタンを押した。
「蘭!!!」
相手を確かめることもせず、大切な人の名を呼んだ俺を誰が攻められよう?
・・・少し、叫ぶような声だったかも知れない。
「でっかい声だすなや。コマク破れてまう。」
のんきそうな関西弁。
「は・・・っとり・・・・??」
「おう!久しぶりやな!元気しとったか?」
・・・・蘭だと信じて疑わなかった電話にそうではない人間が出た。
悪いとは思いつつも、俺の機嫌は、一気に悪くなっていった。
「何の用だ?」
「なんや、つれないやっちゃなー・・・。工藤がどないしとるか思って電話したんや。」
本当にのんきそうな服部の声に機嫌はますます悪くなる一方だった。
「・・・用がないなら、切るぞ。」
「あーっと!!ええんか?切ってもーても・・・。」
「あん?」
本当に電話を切ってしまいそうな勢いの俺にあせったようなでもどこか楽しげな声を出す。
・・・含み笑いを持ったような・・・そんな言葉遣いに余計イライラが増す。
「言いたい事があるならハッキリ言え。」
「おー・・・こわ。・・・なあ、工藤。」
「だから、何だってんだ!!」
「・・・時に、姉ちゃん元気か・・?」
ピクン!!
服部からの不意打ちのような言葉。
ふだんの奴なら普通こんな事は言わない。
と、いうことは。
「蘭、そっちに行ってるのか!?」
声が知らずのうちに大きくなっていた。
「おお、ルミナリエ行くとかいうて、和葉とえらい盛りあがっとるわ。」
「ルミナリエ・・・・?」
「ああ、クリスマス時期に神戸でやっとるイベントや。」
「・・・それに・・・・・?」
「和葉が招待したみたいやな。昨日から来とったみたいやな。」
俺が知ったんは今朝やけど。
という服部の声さえ、聞こえてるのかどうか・・・という具合だった。
蘭が・・・俺に何も言わずに大阪まで・・・・?
イベントを見るために・・・・?
「工藤には言うなって口止めされたんやけどな、和葉に。」
「え?和葉ちゃんに・・・?蘭じゃ・・・なくて・・・?」
不思議そうな俺の言葉に今まで強気で進めていた服部の声がとたんに弱くなる。
「あ〜・・・まあ、和葉の奴、工藤にあんまりエエ印象持ってへんから・・・。」
服部が言葉を濁しながら告げた。
「まあ・・・分かるけど・・・な。」
苦笑しながら俺はそう告げた。
そう。彼女が俺に対し余りいい印象を持ってないことは分かっている。
俺が「コナン」で会ったことを知らない以上、彼女には
「ずっと長い間、蘭のことをほったらかしにしていた薄情な男」
に映るのだろう。
そういうところは園子と同じなんだが、昔からの長い付き合いがある分、園子の方が理解力がある。
だけど、真実を話すつもりは無い。
園子にも、和葉にも・・・・。
蘭だけには包み隠さず全てを話した。
「コナン」であったことは、俺が「知っておいてほしい」人にだけ話せばいいことだ。
そういう意味においていえば、俺が自分の意思でしっかり決めて話したのは蘭ただ一人だけだった。
「工藤〜・・・?」
すっかり考え込んでいた俺は服部からの呼びかけに我に返った。
「あ・・・悪ぃ。」
「で?どうするんや?」
「決まってんだろ?今からそっち行く。」
「5時半位までに間に合うように来いや。ライトアップ点灯そのくらいの時間やから。」
「サンキュー・・・。」
短い礼の言葉で電話を済ませ、そのまま荷物を簡単にまとめ、家を飛び出した。
駅への道のりを走りながら俺は一箇所、電話を入れておいた。
「ったく、早とちりしやがって!!」
今、ここに居ない恋人への少しばかりの文句を口にしながら電車に駆け込んだ。
Side:蘭。
「もー!!新一ってばホント信じらんない!!」
「分かる!!平次かて、そやもん!」
女の子の好きなもののひとつ、おしゃべり。
めったに会えない大阪の和葉ちゃんとのコミュニケーションは電話かメールのどちらかが多い。
特に電話は、同じような立場で同じような悩みを抱えているため、話題が湯水のごとく溢れ困るくらい。
特に多いのが「彼氏」の話。
私も和葉ちゃんも「幼馴染の探偵」を彼氏に持っているから。
イイトコロ・・・いわゆる「ノロ気話」をすることもあるのだけれども・・・今回は二人とも
彼に対する不満が溜まっていたようでその内容に一貫していた。
「事件、事件ってかまけてたまに二人で居るときも推理小説ばっかり!
私が話題振っても、『うん・・。』『ああ・・・。』ばっかり!!」
「平次は本読んで夢中って事はあらへんけど、一人でバイクでプラーっとどっか行ってまうんやから!!」
二人ともかなりヒートアップして、普段なら「好きなところ」さえも愚痴の対象になりつつあった。
でも結局たどり着くのは「彼が好きだ」ということ。
和葉ちゃんがため息をつきながら話し出した。
「ルミナリエだけは毎年無理やり連れ出してるけど・・・平次分かってへんねやろうなあ・・・。」
「ルミナリエって神戸のだよね?確か。」
「うん、いっつもクリスマスの時期にやってんねん。メッチャ綺麗やねん!!」
「こっちでもテレビでやってるの見た事あるよ。
『綺麗ね』って言ってるのに新一ってば『あー・・・そうか?』だもん。
そのくせ、殺人事件とかのニュースには熱心に見入ってるんだもん、やんなっちゃう。」
たまに二人のときくらい全てを忘れていたいのに・・・といつも思っているから。
「なあ、蘭ちゃん、こっち来ーへん?」
突然の和葉ちゃんからのお誘い。
でも余りにも突然すぎる言葉に私は一瞬理解できなかった。
「え・・・・?」
「ルミナリエ!始まるし、うち、案内するで!!」
「え、でも。」
「な!決まり!いっつも東京案内してもろてるしそのお返し!!」
「ん・・・そだね!!」
急で驚いたものの、新一は事件、園子も京極さん帰国中で邪魔しちゃ悪いし、気分転換にもいいかな?と思ったのだ。
電話での彼氏の愚痴から始まっていたのにいつの間にか「ルミナリエを見に行く」になっていた。
本来なら新一にも話すことなのだけれど、急に決めたために日にちも少なかった。
しかもその2,3日さえ、彼お得意の「事件」のせいで話はおろか、顔を見合わせることさえ、出来なかった。
「事件になっちゃうと、私への連絡も途絶えちゃうんだもん。」
事件のために2,3日行方不明になることだってあるのだ。
携帯に電話してもつながらないし、メールも返って来ない。
ようやく連絡がついたと思ったらいつも
「悪ぃ、事件だったんだ。」の繰り返し。それがどこか地方って事も少なくない。
そのくせ私が友達と旅行に行って帰ってくると「ムスーッと」して機嫌が悪くなるのだ。
私が「わがままだよ。」と正論を述べると「プイッ」と顔を背け話も聞かない。
もっとひどくなると会った瞬間に「押し倒し」だもんね・・・。
だからメールを入れておこうと思ったけれど・・・やめておいた。
事件の邪魔しちゃ悪いと思ったのもホントだけど・・・
「たまには私からのオシオキも必要でしょ?」
そう判断した私は結局新一には一言も言わないまま、お父さんや園子には
「和葉ちゃんのところへ遊びに行くから」とだけ伝え、大阪へと旅立った。
流石に新幹線の中では新一のことを考えすぎてしまっていたけれどそれも大阪に着き、和葉ちゃんと会うと消えていた。
新大阪駅に和葉ちゃんが迎えに来てくれていた。
「蘭ちゃーん!」
「和葉ちゃん!ありがとう!久しぶり〜!!」
「そんなのえーって!さっ!行こ、行こ!めちゃおいしいパスタ屋さんできてん!」
「わあ!楽しみ〜・・・!!」
久しぶりに会った楽しさから新一のことも忘れ、大阪観光を楽しんでいた。
その楽しさは、和葉ちゃんの家にお邪魔してからも続いていて、おしゃべりは途切れることは無かった。
「んー・・・でも平次もたいがいやけど・・・工藤君もあんまりやんな!!」
「え?」
「だーって・・・ずーっと蘭ちゃん待たせて、まだ待たせ足りへんのやろか?」
「・・・ん・・・でも待たせる方も・・・つらいと思うから。」
和葉ちゃんは新一が「コナン君」だったことは知らない。
新一も「知らせる必要は無い」といったし、直接服部君に危害があったわけではないので変に心配させるよりはと
黙っていた。実のところ・・・新一が言ってくれた「蘭だけだかから」の言葉を・・・独り占めしたかった・・というのもあったりした。
「つらいと思うんだ、ほんと・・・に。」
そんな私の言葉に和葉ちゃんは反応したのか神妙な面持ちで話しかけてきた。
「ごめんな・・・。アタシ勝手に判断して・・・。」
「気にしてないよ!!そんなの。」
気にしてないのは本当。
私も勝手に服部君を判断することだってあるから。
「寝よか!」
「そだね、あしたはルミナリエだし!」
「そやね!・・・お休み、蘭ちゃん。」
「お休み、和葉ちゃん。」
そして、お休み、新一。
いつもの癖なのか心の中で密かにそうつぶやいて私は眠りについた。
次の日、朝起きると服部君がやってきた。
服部君も事件解決直後だったらしく、その前に和葉ちゃんに借りていたCDを返しに来ていたようだった。
「平次!?」
「おう、CDサンキューな。」
「服部君。」
「ねえちゃん!?・・工藤は?」
「え?新一来てないよ?」
「めっずらしー・・・。」
私が来ているから新一も来ているだろう・・・と考えていたらしい服部君が不思議そうな声を出した。
「あ!平次!工藤君に蘭ちゃん来てる事いうたらあかんで!」
和葉ちゃんが服部君に釘を刺すように言った。
「あ?なんでや?」
不思議そうな服部君に和葉ちゃんは「何でも」と有無を言わせなかった。
私はだって言っちゃったら「オシオキ」にならないじゃない?と思いつつも・・・
心のどこかで、『言ってほしい」「気づいてほしい」「来てほしい」と思っている私も居た。
ルミナリエは夕方・・夜からだけど人で埋まっちゃうから早めに行くことにして、神戸の町を散策することにした。
アンティークショップや、ブティック。普段しているウインドーショッピングだけど街が違うと新鮮に映る。
だけど、ショッピング中も
「新一に似合いそう。」や、「新一こんなの好きそう。」ばかり。
自分でも苦笑いが止まらないくらいの思い。
「あー・・・そろそろ行こう、蘭ちゃん。」
「え?もう?」
和葉ちゃんの言葉に余りに時間が早すぎないか?と思ったけれど、メインになるストリートにはすでに人が溢れていた。
「すごーーい!もう、こんなに・・・!!」
「ルミナリエって点灯の瞬間が一番綺麗やねん。せやからベストショットに早く来ようとする人が多いねん。」
「へえ・・・!!」
あんまり真ん中に居すぎると押されてしまうから・・・と少し端のほうでライトアップ点灯を待っていた。
何組ものカップルが目の前を通り過ぎていく。
少しずつ暗くなっていく町並み。
ライトアップ点灯間近でみんなわくわくしてきてる。
私ももちろんわくわくしてる。
でも・・・・。
Side:新一
新神戸の駅についた。
そこもルミナリエのための飾り付けがしてあった。
「ほんと、ルミナリエ一色だな・・・・。」
そんな独り言をもらしつつ、急ぐ。
「工藤!!こっちや!」
「ああ・・・。」
どうしても不慣れな土地。変に一人で動き回っても効率が悪い。
なので、服部にナビゲーションしてもらうことにしていたのだ。
早速服部は俺を案内する。
どうやら、和葉ちゃんと毎年見に来て、ライトアップ点灯を見る場所があるらしいのだ。
「たぶんそこにおるやろ。」
そういいながら話す服部もどこか笑みが漏れていた。
毎年出かけている「思い出の場所」って所か。
もうすでに人が溢れかえっていたのに服部は目的地に向かって突進していた。
それでも人の多さになかなか進めては居なかった。
「あ、あかん!もうついてまう!!」
服部の声にも焦りが見える。
蘭・・・どこにいんだよ、お前!!
蘭・・・・蘭・・・!!
必死に探す俺たちの願いが通じたのか・・・蘭を見つけた・・・!!
「蘭・・・・!!」
愛しくてたまらないその人物の名を呼びながらコートから少しだけ見えているその白い腕をつかんだ・・・・。
Side:蘭
ライトアップ点灯間近。
周りのみんな、とてもわくわくしてる。
もちろん、私だってわくわくしてる。
・・・でも。そのわくわくさえも・・・どこかへ消えてしまいそう。
ふと隣を見ると和葉ちゃんも・・・どこか寂しそうだった。
思いは同じなんだよね・・・。
新一と・・・見たかった・・・な。
そう思った瞬間・・・
「蘭・・・!!」
そんな呼び声とともに・・・腕をつかまれた。
その瞬間にルミナリエのライトアップが点灯した・・・・。
わあああああああ!!!!
きゃあああああ!!!
人々の歓声が巻き起こる中・・・・。
点灯に心奪われるよりも・・・・明るい光のシャワーの中に浮かび上がる・・・大好きな人の顔を・・・見ていた。
「し、新一・・・・!!」
「ははっ・・・!間に合った・・・・!!」
何が起こったのか・・・まだ良く分からない・・・。
でも隣で和葉ちゃんもびっくりしたような声を上げてた。
「へ、平次!?」
「やっぱりここやってんな!」
和葉ちゃんの顔もみるみる明るくなっていた。
きっと、私の顔も・・・。
「・・・事件、終わったの・・・?」
「あったりまえだろ?ったく、昨日終わらして連絡取ろうとしたら全然とれねーんだもんな!」
「ごめん・・・ね。」
「ま、俺も似たようなことやってるから人のことは言えねーんだけど・・な。」
ははっと笑いながらいう新一にもう・・・どうでも良くなっていた。
うん、そうよね?だって私は・・・事件にかまけちゃう新一も、焼もち焼いてくれる新一も・・・結局好きなんだもん。
すっと差し出される手。
「?」
不思議に思ってみてたら新一の少し赤い顔。
「人多いし・・・はぐれねーように。」
「うん・・・・!!」
満面の笑みで新一の手をとった。
望んでいた光景が手に入った。
新一と・・・二人手をつないでルミナリエのとおりを・・・抜けていった。
抜け切ったところで・・・・私たちは服部君と和葉ちゃんとはぐれてしまっていた。
「あ・・・あれえ・・・?」
見つけ出そうとしていた私を新一が制する。
「どうしてよ?」
「こっからは別行動。あっちも了承済み。」
そう短く伝え、新一は私の手を離すことなく進んでいった。
つれてこられたのは・・・三宮にほど近いところにある高級ホテル。
「え・・・・?」
「来る途中でとっておいた。」
「ちょっと待ってよ!」
あせる私をよそに新一はそのまま続けた。
「・・ホントはクリスマスイブにここへつれてきたかったん・・だけどな。」
「え・・・・。」
突然の新一の言葉に動きが・・・止まってしまった。
「なーのにお前、さっさと来ちまうからさー・・・。前倒しで取り直したんだよ。」
「・・・新一・・・ごめ・・・!!わたし・・・・!!」
思わずな新一の言葉に涙が溢れて止まらなくなった。
新一は・・・ちゃんと私のこと・・・考えてくれてる・・・・それがうれしくて。
「泣くなって・・・・。」
新一は笑いながら私の涙を指先で散らした。
「ありがとう・・・ね。新一。」
「今度はちゃんと計画たてて・・・こような。」
「うん・・・・!!」
来年も・・新一とルミナリエが見られたら・・・いいな。
そんな願い事を・・・偶然落ちてきたひとつの流れ星に・・・お願いした。