He fell in love with her at first sight


「な〜な〜っ!センセー?魔王のどこが好きなのさ?」
「か、快斗君!?」
「あ、それ俺も興味あるなあ・・・。」
「コナン君までっ・・・!」

ませた小学生二人組に問いかけられ、一人の青年はあたふたしていた。
そんな姿を見るのが面白いから「もっとからかってやれっ!」と二人は結束を固めた。

「興味あるんだもんなあっ!」
「確かに。あの一筋縄じゃ行かない人見て好きになる気持ちをぜひ知りたいよな。」
「あ、あのね・・・。」
「それに俺たち共通点あるじゃん?年上の女に惚れてるって!」
「あ〜・・・そういえばそうだなあ。」
「だっろ〜??そこんとこをぜひとも参考にしたいわけなんだよっ!」

小学生ながらにして、人をひきつける技は完璧な二人の話術。
素直な性格という意味においては、彼らの仲間内でもトップクラスに位置する青年なのだ。
彼らの裏の意味など微塵も気づかずに、納得してしまった。




とある休日の午後。
中学教師である円谷光彦(23)は、とある大きな屋敷に居た。
此処は光彦の学生時代の先輩であり、同じ中学の同僚でもある工藤新一(25)の邸宅。
家主は野暮用で出かけており、留守と小学生のお守りを言い付かっていた。


思春期真っ盛りの中学生を相手にする教師という職に就いている光彦。
子供相手はお手のもの!と侮ってはいけない。
何せ相手にするのは、一癖も二癖もある、ある種特別な子供たちなのだ。

明るく無邪気に振舞いながら、どこまで本気か分からない黒羽快斗(12)。
年齢詐称を言われ続けるほどに子供らしからぬ言動の多い江戸川コナン(10)。

光彦大好きの快斗は、わくわくと大変楽しそうなのに反して、コナンの機嫌は地を這っている。
理由は単純。
この家の家主と共に出かけていった少女・毛利蘭(15)に問題があった。

正確に言えばこの家の家主と共に出かけた。という事実が彼には気に食わないのだ。
だが彼女のお願いには大層弱い彼は、「この家でお留守番をしていて欲しい」という言葉に渋々と従ったのだ。

彼女が出かけるときは満面の笑みで見送った彼だったが、扉が閉じた瞬間、表情が一変した。


彼と共にこの家にやってきていた快斗は、「こんな仏頂面の奴と居るなんて耐えられるか!」という理由の下。
彼の機嫌が直りそうな話題を振ったのだ。

この場合、快斗のターゲットとなったのが哀れなことに光彦だった。というわけだ。





「でっ?センセーが魔王を好きになったのってやっぱ帝丹中学に赴任したとき?」
「それしかねーだろ?それまで会った事ねーんだし。」
「まあな。」
「あはは・・・。」


光彦は、渇いた笑いを零していた。
ぎゃあぎゃあと盛り上がる二人に対して、光彦は大変冷静に振舞っているといえる。


手っ取り早く正解から言うと。
彼らの予想は残念ながら、大はずれなのだ。


光彦が、かの憧れの女(ひと)に出会ったのは、彼らが予想するよりも随分と早い。
光彦がまだ、高校生の頃の出来事だ。









「ああ良かった、間に合いそうですね。」

光彦は、左腕にはめた時計に目を落としながら、少しほっとしたような声をだした。
小走りだった彼の足は、少しゆっくり歩くように速度を落とす。
高校の先輩である新一の家へ行く約束をしていたのだが。
出掛けに言付かった用事のせいで、微妙に家を出発するのが遅れたのだ。
家から此処まで全力疾走していた彼の息はちょっと荒い。




「志保ちゃーん!遊びに来たよ〜!」

新一の家まであと僅かだったけれども、息を整えようとして近くの電柱に手を突いていた。
そんな光彦の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「この声・・・蘭ちゃん・・・?」

新一の家で何度か出会ったことのある小学生の女の子だ。
ふと聞こえてきた声に導かれるように顔を上げた光彦の目に飛び込んできた一人の女性。
丁度蘭を出迎えようと出てきたほっそりとした肢体を持つ、綺麗な女性だ。


結構距離は離れていたのだが、彼ははっきりとその姿を目に捉えた。
ストン。と恋に落ちるという意味を彼はこの時、正しく理解した。


「いらっしゃい。待ってたわよ。」
「おじゃましま〜す!!」

光彦の視線を感じることなく、二人はすぐに扉の向こうへと消えた。

僅か一瞬の出会い。
それでも、彼が恋に落ちるのには十分の長さに感じられた。




「おい、光彦?光彦ってばよっ!!」
「・・・・・。」
「光彦〜っ!!」
「へ・・・?先輩、なんですか??」
「オメーなあ・・・。」

ボーッとして、抜けた返事を返す光彦。
家についた瞬間からこの調子。
普段の彼とは違う様子にいぶかしがってジト目でみる新一。
でも光彦はそんな目で見られていることにさえ、気づけていない。

新一の家でも先ほど出会った女性の事が頭から離れないのだ。


あんな・・・綺麗な女性、初めて見ました。
でも蘭ちゃんに向かって笑っている姿は・・・とても可愛くて。
きっと素敵な恋人とかいるんでしょうね・・・。
あんなに素敵なひとなんですから・・・。

はあっ!とため息をついて一人の世界に入る光彦に新一はますます不思議そうだ。


「こんにちは〜!」
「蘭っ!」

不思議がっていた新一だが、蘭の声が聞こえた瞬間に、飛び出していった。
蘭が新一に導かれてリビングへとやってきた時、光彦を見つけた蘭は、大きな目を更に大きくさせていた。

「あれえ?光彦お兄ちゃんも来てたんだ。」
「こんにちは、蘭ちゃん。」

そんな蘭に光彦は笑みを浮かべて挨拶をする。

「こんにちはっ!」

蘭もニコニコと笑みを絶やさずに挨拶を返してくれる。
子供ながらにしっかりしているな。と感心するばかりだ。

「蘭、今日は遅かったんだな?」
「うん。先にね、博士の家に行ってたから〜!」
「はっ、博士の家にか・・・?」
「うんっ!だって、志保ちゃんが来てるっていうんだも〜ん!」
「みっ、宮野があ!?」

新一のあせる声に感づいていないのか。
蘭は、のほほんとした調子のまま答えを返す。



そんな新一と蘭のやり取りを見ていた光彦はドキドキと早鐘を打ちならし、気ばかりが焦っていた。


さっ、さっきの人の事が聞けるかも・・・・!!


「あ、あのっ!!」
「何だよ?光彦。」

思いがけない大きな声を出してしまった。
新一もいぶかしげに見ては、警戒したような雰囲気をまとっている。

自分の声の大きさに、今更ながらに恥ずかしくなりながら。
光彦は高鳴る心の音を鎮めるようにとの無駄な努力をしながら、もう一度口を開いた。

「あの・・・ですねっ!」






新一や蘭からそれとなく得られた情報。
それは、彼女の名前が宮野志保ということ。
光彦よりも3つ年上であること。
新一の家の隣の阿笠博士の所によく来るということ。

今は恋人は居ないということと、新一は彼女には興味がないということだった。

運が合えば出会えるだろうといわれたが、結局、彼女にきちんと会えないまま、年月が流れた。
無理に会おうとは思わなかった。
時折一瞬、姿が見られるだけで光彦は満足だった。



運命の出会いは数年後、帝丹中学の保健室で。






「お〜い。光彦センセ〜??」
「光彦??」


光彦の目の前で小さな手が二つ、ひらひらと動いている。
ぼーっと一目ぼれの瞬間を思い出していた光彦を心配して快斗とコナンの二人が振っていたのだ。

「あ・・・ごめんね。何でもないんだよ。」
「ふうん・・・ならいいけど・・・。」
「で?で?魔王との出会いをさっ!」


わくわくと興味深々で聞いてくる快斗。
光彦はくすり。と小さく笑い、きっぱりと言い切る。

「駄目だよ。大切なものだからね。」
「え〜・・・?」
「なんでだよ〜!」


ぶうぶうと文句たらたらな二人。
その瞬間に玄関の鍵が開く音がする。

「帰ってきたっ!」

一番最初に反応したのはコナン。
後から快斗と光彦が玄関へと続く。

「ただいま〜!」
「お帰りなさーい、蘭姉ちゃんっ!!」

「バ快斗、何で居るのよ?」
「青子だって来てるじゃん。」

「ったく・・・おめーら、ちゃんと光彦の言うこと聞いてただろうな?」
「聞いてたよ、あったり前じゃんっ!」
「センセー!お鍋って、どこ〜??」
「ああ、それなら・・・。」


いつものようににぎやかな日常風景。

「宮野先生。」

志保に気づいた光彦が玄関でヒールを脱いでいた彼女に声をかけた。

「あら、円谷君も来てたのね。お留守番?」

玄関にある靴箱に手をついてハイヒールを脱ごうとしていた志保は、不意に顔を上げる。
そこに居たのが光彦だとわかると表情を緩めた。

ただそれだけの事なのに光彦は途端に心が踊りだすのがわかる。



「はい。」
「相変わらず人使いが荒いわね、工藤君も。」
「まあ・・・コナン君と快斗君が居てくれましたから。」
「あの二人じゃ、トラブルメーカーにしかならないでしょ?」
「あはは・・・。」

正確な正論を返す志保に、光彦も苦笑いしか出来ない。
二人同時にリビングへと向けて歩き出す。



こんな風に光彦が志保と話すのもまた、日常にきちんと溶け込んでいる。
歩く速さでゆっくりと。
それが光彦と志保のペースなのかもしれない。




なにはなくともまず謝罪から。
たかさん、オザワさん、勝手拝借済みませんでしたっ!!
そして、「2515」シリーズのファンの皆様、すみませんっ!!

このお話、巷ではもう有名な「2515」シリーズをベースに作られています。
このシリーズを初めて拝見した際、私が妄想したのは主役の「2515」ではなく。
「2326」ならびに「2615」という趣味丸出しのカップリングでした(笑)。

このお話を思いついたのは、設定集を頂いた時なのですが、
途惑われ、そのまま頭の中に放置されておりました。

「光哀企画」が今年もある!とわかったときに、そのときになら出せるかも・・・!
と野望を抱いて書き出したのですが、どーにも間に合いそうになくて諦めました。

書きかけのお話は放置されるはずでしたが。
日記等にニュアンスをにじましていたらカンのいい、オザワさんが気付かれ。
「間に合えば」とのお言葉を頂き、続きを書き出したのですが。
・・・出来上がったのは、終了日でした(苦笑)。

放置、しようかな〜??とも思ったのですが・・・。
せっかく書いたし・・・書いてアップしますね〜。とも言ったし。
で、開き直ってみました(爆)。

私の頭の中にある「2326」出会い編。です。
公式発表とは違う・・・いわゆる2次の2次?

広い心で見ていただけると幸いです。

最後に感謝の言葉をv
たかさん、オザワさん。
こんな素敵な妄想(笑)膨らむ設定を生み出してくださり、本当に有り難うございました!