「こちらA地点、異常なし。」
「了解。」
「こちらB地点、異常ないで。」
「了解。」
「こ、こちらC地点、異常ありません・・。」
「了解。全員に告ぐ。ターゲットには絶対に気づかれるな!いいな!」

小型のトランシーバーから聞こえる少し強めの口調。
その口調が他の3人の反論を一切受け付けないことを示していた。

彼らのターゲットが現れるまで後数分に迫っていた。



*************************
 工藤新一と毛利蘭が帝丹高校を無事に卒業し、揃って東都大学に入学して早半年が経とうとしていた。
相変わらず、“学生探偵”として新一は警察の要請を受け、活躍していた。
そんな新一を蘭は高校生の頃と同じように世話を焼いていた。
一緒に過ごす時間は他の恋人同士よりもかなり少ない。
それでも僅かな時間を二人、大切に思い充実した日々を過ごしていた。

 今日は珍しく各所からの要請が無い新一は蘭と二人、のんびりと自宅で過ごしていた。
新一の淹れたコーヒーを味わいながらまったりとした時間を過ごしていた。

「ねえ、新一?私教習所に通おうかなって思ってるの。」

新一の淹れたミルクたっぷりのカフェオレを飲みながら蘭は新一に話しかけた。

「教習所・・って車か?」
「うん、そうだよ。園子にね、一緒に通わないかって誘われたの。」
「別に蘭が車に乗らなくても俺、運転してやるぜ?」
「でも新一、居ないとき多いじゃない。その時どうするのよ?」
「でもなあ・・・。」
「今時、女の子だって運転免許持ってる人一杯居るじゃない。」
「・・・・まあ。」
蘭は新一の言葉に一つ一つ、正論を返していく。
蘭は新一が何が気に食わなくて反対しているのかがさっぱり解らず、クエスチョンマークをたくさん飛ばしていた。

いくら蘭が推理しても不機嫌の理由は解らないだろうと新一は気づいていた。
理由が解る様な蘭なら新一は此処まで苦労していない。
蘭にはいつでも自分の助手席に乗っていて欲しいと思っている新一は蘭が運転免許を持って誰かを助手席に乗せて運転することが気に入らないのだ。
それならば、蘭が運転する時に新一が助手席に座ればいいだけの事なのだが、新一だって蘭が絡めばただの馬鹿な男。
“運転するかっこいい俺”を蘭に見てもらいたいという気持ちがあるのだ。
だから新一は蘭の運転免許取得に反対なのだ。
周りから見たらなんとも馬鹿馬鹿しいものである。

そんな理由から新一は蘭の教習所通いを反対していたのだが、敵もさるもの。
蘭は頑として譲らず、結局新一は反対するまっとうな理由が思いつかず、いい負けてしまった。
しかし、新一はやはりこの時、もっと強く戦っておくべきだったと後悔した。

もちろん、ソレさえも新一のばかげた嫉妬から来るもので、他人様が聞けば呆れかえるようなことではあるのだが、新一には重要な事柄だった。

*********************

 蘭が自動車教習所へ通い始めて早、1ヶ月が経とうとしていた。
持ち前の運動神経を生かし、蘭は早々に仮免許取得までこぎつけていた。

「えへ〜vこれで今度から公道を走れるようになるのよ。」

嬉しそうに蘭は取得したばかりの仮免許証を手に、新一に話しかける。
新一はふうん。と我関せずとばかりに推理小説に見入っている。
・・・と思っているだろう、蘭は。
だが内心、はらはらし通しである。
頭ではわかっていたはずなのに、実際、教習所で見た光景が頭から離れない。

それは教習所ではごく当たり前の事だ。
蘭にそんなつもりなど毛頭もないだろうし、はなからそんなことさえ気づいても居ないだろう。
他のどんな人に聞いたとしても新一の主張は「何故?」と首をひねり、理解は出来ないだろう。

“大体、なああんで、蘭の助手席に乗るのが俺が一番じゃないんだよ!”


これが、新一の一般人には理解されない嫉妬の理由である。
当然、新一の愚痴を聞かされていた快斗や、平次にだって、理解はされない。
彼らも大概彼女馬鹿ではあるが、「新一には叶わない。」と、こうして新一の話を聞いていると認識させられる。

「新一、お前なあ。蘭ちゃんそんなつもりじゃ全然ねーだろ?」
「せやせや!あくまで、教官と生徒の関係でしかないで?」

快斗と平次は最早あきれ果てている。
普段は驚くほどに冷静・沈着なはずなのに、「彼女」が絡むと此処まで変わるのは何故なんだろう?
これこそが最大のミステリーなのではないかと思ってしまう。

「大体、オメーらだって、あんな光景間近で見たら冷静で居られねーよ!」

フンッ!と鼻息荒く鳴らしながら未だに納得できない!といわんばかしの態度をとり続けている。
新一の頭の中では高速回転でさまざまな想像が走る。

蘭と二人きりなのをいいことに教官の名を借りてセクハラしてくる奴が居るかも知れねえ!
蘭のあの白雪のような白い手を握ってみたり、あわよくば綺麗に伸びた足だって触るかも知れねえ・・・!

ゆ、許せねえ・・・・!!

新一は一人、想像の世界に飛んでしまい、快斗と平次は最早諦めてため息をついた。
普段ならこんな新一珍しいと面白半分に観察する彼らも、さすがに此処まで新一がイっちゃってたら、割り込むスキさえない。
黙って見守るのみだ。
こうなってしまった新一を止められるのは世界でたった一人なのだから。
そのたった一人が今、この場に居ないのであれば、ただ黙って、新一が落ち着くのを待つのみ。が彼らに残された選択肢だ。
黙っていれば、自分たちに危害は降りかからない。だからこそ、黙っていたのに・・・・今日だけはそれが通用しなかった。
二人にとっても、晴天の霹靂、厄日なんじゃないかと頭を抱えたくなるほどの衝撃を与えられたのだ。

「な、何考えてんだよ!新一!」
「あん?」
「せや!あまりにもアホらしゅうてやってられんで!」
「テメーはこうしててぐすね引いてる間に蘭が教習所の教官にセクハラされたらどうするつもりだよ!」
「あらへんって・・・・。向こうも仕事やねんし・・・。」
「わからねーだろ、んな事!だったら、蘭の教習時間を尾行するしかねーだろ!」

日本警察の救世主。
正義の味方。
悪を許さぬ鋭い眼光。

・・・など、すばらしい美辞麗句が並ぶ名探偵・工藤新一は、彼女への執着心の強さから犯罪を犯そうとしていると、快斗と平次は頭を抱えた。

「こいつ本気で言うとんのか?」
「や、蘭ちゃん絡みだったらこいつは何でもやる!」
「・・・せやな。」

はあっとため息を盛大について、彼らは諦めの境地に達していた。
何でも自分の意思を曲げようとはしない強い信念を持っている。もちろん、それが数多の犯罪を阻止してきたといえる。
だが・・・。
“毛利蘭”の事となるとその方向がとたんに間違った方向へ行きやすいのだ。
現に、今も彼は「悪いことをやっている」という意識さえ、全くない。
あくまで「蘭を守るため」という名目で行動しようとしているのだ。
周りの人間が頭を抱えたくなるのは、こうした新一の行動を一番目の辺りにしていそうな蘭本人がちーっとも気づいていないことである。だからこそ、結果的に新一は愚かな行動に出、周りはそれを目の当たりにしてしまう羽目になるのだ。
それを一番目にするのが、ある意味新一が全く気を使わない快斗・平次の二人となるのだ。
だからこそ、今日も犠牲者は二人のはず・・・・だった。

「よし!じゃあ、ここにいる4人で監視するからな!」
「うえ〜!」
「マジかい・・・。」

高らかに宣言する新一。
もちろん心の底から嫌そうな快斗と平次。

「え・・・・・?4人って・・・私もですか・・??」

そう、この場にはもう一人、予想外の人物が居たのだ。
そもそも、今日は彼らとその彼女たちとが揃ってのグループデートだったのだ。
今、女の子たちはふと見つけた特別セールに夢中だ。
その待たされている間、男連中は喫茶店で待機中というわけだ。

メンバーは新一と蘭、快斗と青子、平次と和葉。
そしてもう一組、蘭の親友・園子と久々に帰国していた京極真だったのだ。
物静かな上に、彼らよりもひとつ年上の京極は彼ら3人の会話を静かに聞いていた。
楽しい人たちだな・・という程度の認識だ。
なのに新一は彼にも蘭尾行の任務を負わせようとしていたのだ。
全くの予想外の展開に京極は目を見開く。

「もちろん!この4人でするんだけど?」
新一は京極の不思議そうな声の意味など全く汲み取ろうともせず、さも「当然」といった風に返す。
結局京極は新一の迫力に初めて触れ、それに逆らえず、メンバーに入ってしまっていた。

平次と快斗は同時に思った。
新一だって二人と同程度には頭の回転は速い。
普段の新一なら気づくであろう簡単なこと。
今日の新一にはいくら言っても無駄だろうと諦めていること。

彼らの予想は寸分違わず的中する。
新一もこの時、気づいていればミスを犯すこともなかった。

といっても後の祭りにはなってしまうのだが。

**************

そうして迎えた決行日。
警視庁に呼び出されないために携帯の電源まで切るご丁寧さ。
当然、平次・快斗・京極にもそれは強制する。

「おいおい、マジかよ。」
「んなことせんでもえーやろーが!」

快斗と平次は反論する。
此処までする必要などないだろうし、あわよくば電話が鳴ったふりをして逃げようと考えていたのに、これでは台無しである。

「んなもん、オメーらが逃げ出さないようにするために決まってんだろ。」

ぎゃあぎゃあと文句を繰り返す快斗と平次を一瞬見て、さも当たり前。といった顔つきで新一はあっさりと答える。

快斗と平次はがっくりと肩を落とした。
なにも名探偵としての頭脳をこんなところで披露しなくても・・・といったところだろう。
いちゃもんをつけている二人とは対照的に京極はもくもくと作業を繰り返していた。

というのも蘭の通っている教習所は園子も通っているので園子を遠目からでも見られると思うと京極は他の二人よりも新一に協力的だったのだ。

新一は事前に入手した蘭の運転経路を手に、尾行期間を立ち上げる。
綿密にそして容赦なく。といういつもの探偵業と変わらない新一のスタンスで作り上げられていく。一番それを目にし、嫌というほどその餌食となっていた快斗はこの綿密さに舌を巻く。今まで知らなかった裏の作業を間近で見、いかに自分が危ない橋を渡ってきたものだと関心した。
しかも、一度や二度ではない。
「なあ、平ちゃん。俺今度新一と対決する羽目になったらその時は今まで以上に対策練ることにするよ・・・。」
「ああ、せやな。それがエエと思うわ。」

快斗の心からの言葉と平次の的確なアドバイス。
二度と使うことはないと信じたい。

「おしっ!そろそろ時間だ。もちろんスペースはきっちりと守れよ?」
新一のいつも以上に迫力ある態度。

・・・きっとさっき教習所で蘭に親しげに話しかけた野郎どもがいたせいだなんて推理するまでもない。

それらは言葉に出すことなくそれぞれ4人は持ち場に離れていった。


***********

第一のポイント場所は教習所内だ。
ここの持ち場担当は京極真。
此処では教習所内で見張るのが主な仕事だ。しかし、公道を走る仮免許取得者はすぐに教習所を後にする。
約1時間後に車が戻ってくるまでとても暇なのだ。しかも、目当てにしていた園子も当然、仮免を取っているために公道組。当然、姿を見ることも叶わず。
突然、手持ち無沙汰になった京極は時間つぶしに空手の型を復習しだした。

教習所を出た蘭の乗った教習車を一台のバイクが追いかけていた。
運転に集中している蘭は当然気づいていない。
教官もさほど気にしていない。

追跡者にとっては好都合だ。
この教習車を追いかけているのは新一だ。
服部のバイクを分捕り、彼自らが蘭を徹底追跡する。
当然、蘭と二人きりで乗っている男が居るというだけで彼の機嫌は最悪だ。
新一の今の眼光は凶悪犯さえも射抜く鋭さだ。
同乗の教官は気づかないはずなのに武者振いを起こさせるほどの。

本来ならばバイク追跡は平次の役割だ。
しかし、土地勘のあまりない場所でのことなので新一が自ら追跡に回ったのだ。

「ホンマに・・・・なんで俺らがんな犯罪者すれすれのことせなあかんねん!」
「そう思うんなら新一の行動をとめろよ。」
「お前やったらとめれんのか!?黒羽!!」
「だったらもう諦めたら?」
「・・・お前、こんなことさせられて嫌やないんか?」

激昂したままの平次とのほほんと交わす快斗。
彼らの役割は事前に蘭に仕掛けた発信機で教習車の行動をチェックすることと、もし万が一のための代役だ。

「俺は結構楽しんでるよ?」
「なんでや!?」

快斗の意外な言葉に平次は目を丸くする。

「何でこんな面倒くさいことやらされて楽しめるんや?オマエ。」
「これまではずっと“追われる立場”だったからね。たまに追う立場にも立ってみたかったし、結構新鮮かなって。」
「犯罪者の気持ちはよう解らんわ。」
「あ、ひどっ!“元”といって欲しいね!それに・・・今回のだけ見たら・・・俺よりも新一の方がタチ悪いと思うけど?」
「あの姉ちゃんが絡んだ際の工藤はばれたかって免除される。」

平次は快斗の心配をよそに平然と言ってのける。
今度は快斗が目を丸くする番だ。

「は?・・・免除って何だよ?」
「そのままの意味や。」
「新一の蘭ちゃんへの執着心が警視庁にも知れ渡ってるって・・コトね。」
「ま、そういうこっちゃ。」
「それは安心だな・・・。」
「せやな・・・。」
蘭も新一も知ることのない事実を確認しあい、平次と快斗は馬鹿馬鹿しくなり、会話を中断させた。
蘭を追うことにいっぱいいっぱいになっている今の新一から怒りの連絡が入るとは二人とも思っては居ないが、ちょっと真面目にモニターに見入ることにした。

人の振り見て我が振り直せ。

昔の人はいいコトを言う。
彼女は確かに大切だが・・・新一のようにならないでおこう。

平次も快斗も心に強く誓った。



一方の新一は、二人にそんな噂をされているとも思わず、相変わらず蘭の乗る教習車を追いかけていた。
相変わらず助手席に教官という名の男が乗っており、むかむかしたままだ。
当然の如く、不埒な行動は見て取れないのが、一応の安心材料だ。
遠目ではあるものの、蘭の真剣な表情も見れて役得も味わえてはいる。
どうせなら、自分が助手席に乗って、間近で味わいたいという思いもむくむくと沸いてはいた。


真剣な表情のきりっとした蘭の顔を間近に眺めながら二人きりで楽しいドライブ。
たまにちょっかい出したりしてさ。

「ちょっと!やめてよ、新一!気が散るじゃない。」
「いーじゃん、ちょっと位。ほら、蘭前見ろよ。」
「んもう!」
綺麗な蘭の足に触れてみたり。
あ、そうなるとその時はミニスカートだな。
でもそうだったら車から降りさせられねーから、車に乗ったまま楽しめるところを考えねーとな・・。
ああ、楽しみだな・・・・。

世の中の探偵・工藤新一ファンには絶対に見せてはいけないだろうと思われるほど崩れた笑みを覗かせながら新一はいけない妄想を繰り広げる。
はっきり言って、教習所の教官云々と言い、尾行までやってのける人物にはとても見えない。
むしろ、彼のほうが彼女にとっては有害なんじゃ?と周りの友人たちからは噂されるほどの危険度だ。
それに気づかないからこそ、新一と蘭は自分たちはごく普通のカップルだと信じて疑わないんだろうというのが、周りの友人たちの一致した見解なのだ。

それはともかくとして、新一が妄想に浸りつつ、蘭に気づかれることなく尾行をして、そろそろ、蘭の乗る教習車が教習所に戻る時間がやってきたようだ。

何とか、大丈夫だったようだな・・今日のところは。

新一はほっとしつつ、教習車から別方向へと転換させた。
後は、京極の待つ、教習所で降りるところを確認すれば今日の任務は終了だ。

全てはこちらの思惑通り。
実にスムーズでエレガント。

・・・と新一は思っていた。
そうなるはずだった。



教習所では公道に出ていた教習車が続々と帰還していた。
京極はそれに従い、蘭たちの教習車をチェックしなければならなかった。
しかし、彼は空手の型に夢中で、失念してしまっていた。

しかも。
最悪なことに隠れてチェックしてたはずのその場所は車に乗っている人間からは丸見えの状態にあった。

それに気づいたのが、見知らぬ人間であったならば、何の問題もなかった。
だが、えてしてこういうときに気づくのは気づいて欲しくない人間と相場は決まっている。
もちろんそれは、目ざといかどうかにも左右されるが。
彼を見つけたのは、新一さえも一目を置くほどの鋭い人間。
そう。
彼の恋人でもある、鈴木園子、その人だったのである。

園子も蘭と同じように仮免許取得者なので、公道を走っていた。
やれやれで帰り着いた時、彼を見つけたのだ。


あ・・・れ?真さん・・?何、やってるのかしら?
私を待ってた・・?でもそんなこと一言も・・・?

園子は車の中から疑問に思いつつ、終了後、彼に気づかれないように、そっとしのび寄った。

「真さん!」
「・・・!!そ、園子さん・・・・!!」

京極は心臓が飛び出るほど、驚いた。
愛しいその人が目の前に立っていたから。
そして、「気づかれるな。」といわれていたのに、気づかれてしまったから。

「どうしたの?こんなところで・・・。」
「あ、いや、その・・・。」
「私を待っててくれたの?どうして?」
「え・・・と。」

元来口下手な上に言い訳も上手いほうではない。
しどろもどろのまま、園子の質問に答えられずにいた。

そして、また、間の悪いことは怒るものだ。

「京極さん!もう終わったか〜?」

!!!

京極の持っていたバッヂから聞こえる新一の声。
それを慌てた拍子に落としてしまった。
それに気づかないほど園子は鈍感ではない。

「今の、新一君の声・・・よね?」
「・・・あの・・・その。」
「園子、何してるの?あれ?京極さん?」
「蘭。」
「ら、蘭さん・・・!!」

教習を修了させた蘭も園子を見つけ、近寄ってきた。
絶体絶命のピンチ。
ずっと黙っていた園子はにやり。と笑う。

「京極さん〜・・・?」

京極からの反応のなさに新一からの声が聞こえてくる。
京極の手の中にあったトランシーバーを取り上げ、おもむろに声を出す。

「あれ、新一君、なあに?どうしたのお?」
「そ、園子・・・・!!」

信じられない人物からの返答に新一は絶句する。
それも、一番知られては不味い人物に。

「どおしたのお?これ。何してるの?ねえ、新一君?」
「え、新一?」

思いがけない名前を聞いて、蘭も思わず声を上げる。
蘭にも気づかれたのか・・・とがっくりと新一は頭を抱えた。
こういうことにおいても頭の回転が遅い新一ではない。
全てがばれたことを新一は悟った。

その後全てを白状させられた新一は、蘭から特大の雷を頂戴することとなり、当然の如く、教習所への出入りを禁止され、蘭の教習時間も秘密裏にされ、その上、一週間以上も口も聞いてもらえないという状態が続いた。

一番最後の刑が新一にはかなりのダメージになり、探偵業務さえも支障をきたす羽目に陥り、警視庁の面々から「頼むから」と懇願を請われ、蘭は新一を許すこととなった。

それを一部始終見ていた平次と快斗は蘭絡みの犯罪が許されるとはこういうことかと凄く納得した。
彼らも彼女たちからきついお咎めを頂くことになるはずだったが、「新一くんがらみだったら。」と彼女たちに不思議な納得のされ方をされてしまった。



「ねえ新一。どうして、此処までするの?
そんなに私が運転免許を取るのが不安なの?」

これだけあからさまなばれ方をした割に、蘭にはいまいち伝わっていないのが・・・新一の不幸たるゆえんかも知れない。と平次と快斗は思った。
だからこそ、新一の蘭絡みの犯罪は周りの人間に寛容なのだ。

蘭絶対主義の園子でさえも、新一の肩をぽんっと叩くほどに・・・。