「なあ・・・蘭。」

ソファに寝転がって文庫本を広げていた新一はむくりと起き上がり、リビング周りを片付けていた蘭に話しかけた。


「ん〜・・・・・?」

蘭は片付けている手を止めることなく、新一の呼びかけに言葉だけを返した。


「なあ・・・・蘭。」
「何?」

再度新一に呼ばれ、蘭は今度は手を止め、新一の方へと向き直った。

「・・・どうしたの?」

不思議そうに首をかしげた蘭をまぶしそうに目を細めていた新一が問いかけた。


「俺たちの付き合いって・・・何年になるっけ?」
「え?」

いきなりの新一の質問に蘭は目を丸くして一瞬戸惑った。

「え・・っと・・・そろそろ3年・・・かな?」

人差し指をあごに当てて少し上向きに考えるそぶりをしながら蘭は答えた。

しかし、新一は蘭の答えに呆けてしまった。

「は・・・・?そんなに短かかねーだろ・・・?」
「え?だ、だって、17の時からだよ?今20才なんだから・・・3年でしょ?」
「あのなー・・・。それ、つまり・・・その。恋人として付き合うようになってからだろ・・・?
 そうじゃなくて!・・・知り合ってから何年になるかなあ・・ってコトだよ!!」

新一は蘭のその変わらない天然ぶりに苦笑いを浮かべながら「恋人」のセリフに今更ながらテレる。

蘭は自分の勘違いに顔を赤くしながら上目遣いで新一を軽く睨む。

「知り合ってからは・・・・意識無いときも含めると・・・丁度20年かな。」
「ま、産まれた時からだからな〜・・・・。」
「そう考えると凄いよね。」

いきなりそんな話をしだした新一の意図を全く分っていない蘭を新一は手招きで呼び寄せる。
蘭は、何のためらいもなく素直にその手招きに応じて新一のそばまで近寄った。

「新一?どうしたの?」

蘭が首をかしげたのと同時に新一は蘭の手首をとり、蘭を引き寄せて抱きしめる。

「やっ・・・!!新一・・・!!」

今更、何を恥ずかしがる必要があるのか?
というくらい蘭は顔を真っ赤にしていた。
そんな蘭が可愛くてたまらなくて、新一は蘭の肩に頭をこてんと乗せた。

「なあ・・・幼稚園のお遊戯会でさ、お前お姫様やっただろ?」
「え・・?う、うん・・・。そのとき、新一王子様だったんだよね。」

昔々の思い出。
新一は何処か懐かしむように話を紡いでいく。

「ああ・・・。なあ、本当はひいきなしにするためにも先生、俺を端役にするつもりだったらしいぜ。」
「え?そうだったの!?」

初めて知る真実に蘭は目を丸くして新一に問いかけた。

「そっ!!まあ・・俺もそこまで主役とかにこだわっていたわけじゃねーし、どうでもよかったんだけどな。」
「そう・・・だったんだ。」
「でも・・・さ。どうしてもって・・・わがまま言いまくって王子役にしてもらったんだよな〜・・・あの時。」
「え?どうしてよ?やりたくなかったんでしょ?どうでもよかったんじゃなかったの?」
「どーでもよかったぜ?やりたくもなかった、王子役なんて・・・・。」
「じゃあ・・・どうして?」
「お姫様の役がオメーに決まったから。」
「え・・・・?」
「お姫様の役がオメーに決まったら他の誰にも王子役なんてさせたくなかった。」
「新一・・・・。」


初めて知る真実。
だけど嬉しすぎる真実に蘭は頬を緩ませた。


「いろーんなこと・・・あったよなあ・・・。」
「うん・・・。新一にはいーっぱい泣かされてきたもんね〜・・・。」

おどけたような蘭の言葉。
だが、新一は強く反応した。


「ごめん・・・。ホント俺、オメーの事泣かしてばっかだよな・・・。」
「え?」

少し寂しそうに遠くを見るように紡ぐ新一の言葉に蘭が逆に心配してしまった。
自分が余計な一言を言ったせいだ・・・とあわてて反論した。

「や、やだ!新一、私、そんなつもりで言ったわけじゃ・・・!!」
「ほんとのことだから、蘭が慌てることはねーよ。」
「新一・・・・!!」
「てめーのしたいことやるばっかりで。そのさいたるのがコナンになっちまったことだよな〜・・・。」
「新・・・一。」
「いきなり小さくなっちまってオメーに何もいえなくて・・・。」

新一はぎゅう・・・っと蘭を抱く腕に力を入れる。

「新一・・・・?」

蘭は戸惑いながらも何て声をかければいいのか分らずにその腕の中でじっとしていた。

「ホントに・・・何も言わないで『待ってて欲しい』ばっかりで。
 泣いてるオメー見てたのに知らぬ存ぜぬ通して・・・。

 ははっ!ホントいま思い出してもサイテーな事してるよな、俺って!!」

乾いた笑いで自虐的な言動を繰り返す新一を蘭は腕に抱かれながら目を閉じて黙って聞いていた。


昔からそうだ・・・・。


と、新一は思う。


つらいとき、落ち込んだとき。

新一は気分が乗らないとき、誰にも何も言わず、ただ、黙り込んでしまう。

奔放な両親さえ、手を焼いた新一の昔からの行動だった。

蘭はそんな時、いつもいつも新一のそばに唯居てくれた。


何も言わなくて。
何かするわけでもなく。

唯、黙ってそばに居てくれた。

新一はいつもそんな蘭の行動に癒されてきた。


コナンだった時も。

あの生活が一生続くんじゃ無いかと思った時も。

今思えば、たった数ヶ月の出来事だったのにあの頃は果てしないほどに長い日々だった。

きっと蘭が居なければ気力なんて持たなかった。
蘭がいたから『必ず帰ろう』と思い続けられた。


たったひとり。
この世の中でたった一人だけ。

工藤新一を信じ続けていてくれた蘭が居たから頑張れた。

そんなことを言ってもきっと君は「そんなことない!」って言うだろうけど。


何度ものピンチが俺を襲ったときも神様なんて頼りにしたことなんてなかった。

自分の力を信じてた。


何より、蘭の力を信じてた。

蘭を想うその心が最後までやり遂げる力をくれた。


ただ、黙って聞いていた蘭がそっと口を開いた。

「新一はいつだって私に勇気をくれたの。」
「・・・蘭・・・?」

「いつだってそばに居てくれたじゃない!」

抱きしめていた腕をそっと緩めると蘭はぱっと顔を上げて満面の笑みを見せてくれた。

いつも新一を癒してくれる蘭の微笑み。
その蘭の微笑を言葉なく見つめ続ける新一。

そんな新一の視線から照れくさそうに逃れながら蘭は言葉を続けた。

「コナン君になったって私のそばに居てくれて私を励まし続けてくれたの!」


新一はホントにすごいの!

ぎゅう・・っと蘭は自分の腕を新一の背中にまわして抱きつく。


「新一が居たから。新一がいるからいつだって私は頑張れるんだよ!
 ・・・・信じていられるんだよ!」


また・・・と新一は想う。

また蘭に癒されている。

愛してる。

それだけの言葉だけでじゃ収まらないほどの想い。


俺にとって、蘭は・・・・。



でもここでもう一度言葉にしたい。

ずっと願ってきたこと。

これからも願うべきこと。


その一言をこの言葉に載せたい。


「蘭。」
「なあに?」



抱きしめていた腕の力を緩めて真正面に蘭に向き合う。

瞳をそらさずに見つめたままじっと動かない新一。


「ん・・・?」


何も分っていないようにキョトンとした目を真っ直ぐに向けている蘭に。


たった一言の言葉を告げる。



「結婚してください。」


真っ直ぐに新一に見つめられたまま蘭は動かなかった。


「yes」も「no」も言わない蘭にじれた新一が再度言葉を告げる。


「俺と、結婚してください。」


それでも蘭は何も話さないままじっとしていた。

蘭の瞳だけが揺れている。

「蘭・・・・?」
「し・・・いち・・・。」
「蘭?」
「い・・・ま・・・しん・・・いち・・・。」
「蘭?」
「し・・・んいち・・・。」

蘭の瞳から涙が溢れてきている。
でも顔は最高の笑顔がこぼれている。


今まで何度も見た蘭の泣き顔。
今まで何度も見た蘭の笑顔。

だけれども。

この日見た蘭の笑顔と泣き顔は初めてみるな・・・。

と新一はふと想った。

新一はぎゅう・・・っと蘭を抱きしめて3度目の正直・・・とばかりにもう一度言葉を告げた。


「蘭、俺と、結婚してください。」
「・・・・。」
「蘭・・・返事は・・・くれねえの・・・?」

蘭は新一をしっかりと抱きしめ返し、漸く言葉にした。

「はい・・・・。」





      南 司様リクエスト。
           チューブの「プロポーズ」をベースにした新蘭プロポーズ話です。
           本当にそうなっているのか怪しいのですが・・・。
           
           とりあえず、今回は新一に率直に「結婚してください」と言わせました。
           新一さんのことだから、結構凝った気障なせりふもありか?とも思ったのですが、
           よくよく考えてみると「あの」蘭ちゃんが気付かないかな?と思いましたので。

           ともかく、南さん、リクエストありがとうございました!