真剣な瞳と背中のぬくもり


季節は秋。
そろそろ学園祭シーズンを迎えつつある今日この頃。

ここ江古田高校でも迫り来る学園祭の準備に追われていた。

2年B組の教室ではいくつかの人数ごとに分かれてちまちまと細かい作業を繰り返していた。

「ここ、これでいいの〜?黒羽くんっ!」
「お〜い、快斗っ!このコインこっからどーすりゃいいんだよ?」

皆一様に真剣に取り組んでおり、時たま決まって快斗が呼ばれていた。

「ばっかか、オメーっ!こここうしたらバレちまうだろ〜??」

悪態を吐きながらも快斗はゆっくりとクラスメイトたちに分かるように手品を披露する。


実は、快斗と青子の所属する2年B組は学園祭のクラス出し物として「マジックハウス」を企画しているのだ。


簡単にいうといくつかのブースに分かれた生徒たちが、やって来た客にマジックを披露するのだ。
見破れば豪華商品つき。
見破れなくてもテーブルマジックを間近で見ることが出来る。

若きマジシャン・黒羽快斗がいるのだ。
いい案だとクラスメイト皆が賛成する。

「よっ!天才マジシャンっ!」
「結構いいじゃん、いいじゃんっ!」
「うん。一個くらい簡単なの知ってたらいいよね〜・・・。」


なあんてクラス中からおだてられて乗らない快斗じゃない。
元々のお祭り好きも重なって、ついにはワンマンステージまで引き受けていた。
狭い教室でやるのだから。とテーブルマジック中心。
そしてよく見えるようにとのことで、先着10名限定。それを一日3回。

快斗はクラスメイトに教える傍らそのセレクトにも追われている。

・・・はずだった。

実際、クラスメイトたちは快斗の負担を重く見て、気を使ったりしている。
なのに本人がどこ吹く風。の如く本当にいつもどおりなのだ。


「黒羽君、大変なんじゃないの?」
「の、はずだけどな。」
「・・・そうは見えないよね?」
「ああ、全くな。」


不思議そうな、だけどどこか呆れたような声でクラスメイトたちは快斗へと視線をむける。
其処に居たのは快斗と青子の二人だった。



「青子、オメーほんっとに不器用だなあっ!」
「うるさい、うるさ〜い!だってわかんないんだもんっ!どーしてよ!!快斗、も一度やってっ!」
「これで5回目だぜ?いい加減諦めろよ?」
「い・や!!」


諦めたような声をだして快斗は真剣に自分の手元を見る青子にそれでもよく見えるように手元を寄せる。


「あれ、何してんの?」
「青子がマジックなかなか成功しなくてそのマンツーマンレッスン。」
「・・・ふうん。相変わらずねえ。」
「まあな。」

そう。
周りからはいちゃついてるようにしか見えない二人だったが、とりあえず青子は真剣そのものだった。

「快斗、役得だな。」
「そうね。」

クラスメイトたちは結局のところどういうシチュエーションだったとしてもこの二人は変わらないとため息をついて諦めた。



「は〜い!じゃあ、これでお開きにしよ〜!」
「え、ちょっと待って〜!青子まだ〜!!」
「青子は黒羽君のマンツーマンレッスンでしょ?どこでも出来るからいいじゃない。」

しっかり者の委員長が慌てる青子にさらっと真実を告げた。

「そんなことないもんっ!!」
「んなこと、言ってんじゃね〜!!」

青子と快斗が同時で叫ぶが慣れたクラスメイトたちは聞き流すのみだった。




快斗の部屋でふたり、お菓子を食べながらまた、マジックの練習をしている。

「あああっ!また駄目だ〜・・・。」


青子はまた肝心のタネのところで失敗してしまう。
どうしても後一歩が上手くいかない。

「あ〜あ。どうして出来ないのかなあ?」
「ん〜?」
「青子もさ、快斗みたいに出来たらって思ってるのに・・・。やっぱり駄目なのかなあ?」

しょぼんと落ち込み、普段の青子はなりを潜めてしまったように背中を丸めてしまう。



何かを言おうとしたが、快斗は何も言うことが出来ず、ため息をつく。

「いいよ、もう。青子裏方になるよ・・・。」
「もう、諦めんのか?青子らしくもね〜。」
「だってっ・・・!」

少し強めの口調の快斗に青子は反論しようとするが上手く言葉が出てこない。


「青子、全然出来てないわけじゃねーだろ?最後の一点だけなんだよ!」
「だけど・・・そこが大切なんでしょ?」
「だ〜からっ!」

いつまでもぐちぐちという青子を見ていたくなくて、快斗は後ろから抱きしめるようにして青子の手をとる。


「かっ!かっ、快斗っ!?」

突然の快斗の行動に青子は心底驚いて素っ頓狂な声を出してしまう。


「じっとしてろって!こーゆーのはコツなんだよ。」
「え・・・?」
「オメー、全然出来てないわけじゃないんだよ。ココで・・・ほら。」
「うん・・・。」
「ここで焦らないで、そう。・・・そうゆっくり溜めるようにやるんだ。」
「こ・・・こう・・・?」

ドキドキしていた青子ではあったけれども、真剣に教えてくれる快斗につられ、だんだん真剣になってくる。
間近で、手ほどきしてくれる快斗の指先に集中して、そのまま何度もやり直す。

「そう。・・・見ている人にわかりやすくみせるんだ。」
「・・・うん。」
「で、ここは見えないように素早く。」
「こ、こうか・・・な?」
「そうそう。で、ラストこうする。」
「あっ!出来たっ!出来たよ、快斗っ!・・・あっ。」


初めてマジックに成功した嬉しさから、青子は今、自分がどういう状況に居るか忘れて思わず振り返る。
思った以上に近かった快斗の顔にびっくりしてしまう。

それは、いままで普通に接していたはずの快斗も同じだったらしく、思わず抱きしめていた青子を放す。
いままで普通にというよりも、無表情に指導者そのものでいたはずなのに、目の前の快斗は顔を真っ赤にさせている。



・・・ずっと真剣に教えてくれていたはずなのに・・・。
ちょっとのことで変わってしまう。



変なの。



くすりと思わず笑みが浮かぶ。


「快斗。」
「あ?」

すこし落ち着いてきたのかぶっきらぼうな言葉。
でもまだ少し頬が紅いままだ。
青子がそんな快斗が嬉しくて。
満面の笑みを浮かべていた。


「快斗、ありがとね。」
「これで、文化祭、成功だな?」
「だよねっ!」


その二人の言葉通り、文化祭当日。
「マジックハウス」は大繁盛し、もちろん、青子のマジックも大成功を収めた。




祝日企画第13弾、「文化の日」です。

文化といえば?文化祭。
文化祭といえば?お祭好き。
お祭好きといえば?

・・・・やっぱり快青でしょ!
相変わらずの単純発想です、スミマセン。

ま、たまにはちょっとラブ〜vな二人もどうぞvというわけです。
真剣モードのときの快斗はきっとこんな感じで。
青子ちゃんドキドキvでも青子ちゃんも真剣になっていく。

ひと段落して、はた。と気付いたとき・・・。
二人してあたふたしてくれればそれでいいっ!って感じで。