勝敗の行方


朝早くからオカンの叫ぶ声が聞こえる。

「平次、早うし!!墓参り行くって言うてあったやろ!!」

静華の声に平次は漸くベッドから起き上がる。
今日は祖父の墓参りに行く日だ。

本来ならば秋分の日を挟んで前後一週間が彼岸だ。
だが今年はどうしてもそれに合わせることが出来ず、前倒しで今日になったのだ。

「敬老の日」

祖父のために行くにはいい日かも知れない。


いつもは面倒くさがる平次だがとても可愛がってくれた祖父が大好きだった。
だからこそ、毎年行っている。

一人で墓参りには行っては行けないと古臭いしきたりのようなものにこだわる母・静華の言い分もあり、
平次は家族揃っての墓参りに同行しているのだ。


祖父も父・平蔵と同じく警察官だった。
かなり破天荒な警官だったとよく自慢話を聞かされた。
風貌も浅黒い肌を持ち、平次によく似ているという。

昔からよく聞かされた話なので平次自身もよく覚えている。



探偵としてのイロハは全て祖父に教わった。
子供には現場を見せたがらないかたくなさも今の平次に受け継がれている。




服部家の墓は自宅から1時間足らずのところにある。
年に一度の家族揃ってのお出かけ。といったところだ。

何故かこの時には和葉さえも同行させない。
誰が取り決めたわけでもないのに、家族だけでの墓参り。
其れが通説になっていた。



途中の花屋で墓前用の花を買い求め、寺までの道をゆったりと歩く。
その途中、会話は無い。
ただ、無くても家族。
きっと同じように祖父を思い出しているのだろうとお互い感じ取ってはいた。

なだらかな寺への坂道。
紅葉にはまだ早く、青いもみじが目に飛び込む。
いつもと変わらない風景が広がる。

だが、いつもの彼岸の頃と違い、人はほとんど居ない。
静まり返った境内をゆっくりと進む。
一歩、一歩と歩くお互いの足音だけが耳に届く。
紅葉にもまだ少し早いらしく、いつも見る紅葉や銀杏の葉はまだ青い。

密かにこの道の紅葉が好きな平次は「惜しいなあ・・・」などとあたりを見渡すのも通年通り。
少し平地よりも高い場所にあるこの地はもとより紅葉の時期も早いのだが、流石に早すぎる。
それでもいつもとは違う空気をまとっていた。

いつもと違う報告をしなければならない今日、この日。
やはりいつもとは何もかもが勝手が違うようだ。


緊張してんのか・・・、俺?

平次はぼんやりと考えた。
でもすぐにその考えを否定する。


緊張?何を今更。
じいさんの墓参りなんて毎年の事やで?
何を緊張すんねや!!


「緊張しとるんか?平次。」

普段寡黙な父がぱっと口に出す。
平次の考えを読んでいるようだ。

「へえ?平次が緊張。珍しいこともあるもんやねえ?」

母はからからと笑う。


「なんで、俺が緊張すんねん。」

むすっとすねた声を出すが、両親にはばればれなのだとバツの悪い思いをする。
大人と認められる年齢に達しているというのに、未だ両親には敵わない。
それが平次には悔しいから苦虫をつぶしたような顔を上手く隠すことが出来ない。
からかっていた両親だが、それ以上の事を突っ込む気は無いのか。
そのまままた、なんの言葉も発することは無かった。

また穏やかな雰囲気のまま、参道を歩く。
押し黙ったままの静かな時間。



ふと平次は考える。
目の前を歩く父も自分と同じような考えを持ったことはあるのだろうか?
父と同じように警察官という職業を選び、出世を重ねる。

父の現在の役職は「大阪府警・本部長」。
地方警察のトップに君臨する。

確か祖父は其処までは行かなかったはず。
真に、父よりも上に行くことの出来た目の前の男は、果たしてどんな気分だったのだろうか?と。





参道を進み、墓石が整然と並んでいる。
身体が覚えてしまっている通りに迷うことなくひとつの墓石の前にたどり着く。

服部家先祖代々の墓。
過去から始まり、未来永劫続いていくであろう場所。

母がなれた手つきで古くなっていた花を抜く。
父は汚れた墓石を丁寧に磨く。
平次は目に付く雑草を抜く。

広くも無い場所だ。
大人3人が一斉に動けば短時間で綺麗に場所が整う。

墓に一升瓶から水をかけ、花を飾る。
お供え物を置き、線香に火を灯す。


いつもと同じ様式なのに。
人が居ないだけで。いや、志が違うだけでこんなにも違う。



平次は両親と揃って墓の前に並ぶ。
いつものような底抜けに明るくという雰囲気は感じ取れない。
其れこそが平次が緊張している証拠だと父と母は気づいている。

「平次。どないした?」
「何が?」

父が不意に話しかけた。
静であり、ゆっくりとした口調。
そこに「鬼の平蔵」の姿はない。

あるのは父親としての彼だけだ。


それに気づいているからこそ、平次は何の感情もない声を取り繕う。


「さっきからお前、ワシに聞きたいことがあるんと違うか?」
「・・・。」

流石は府警本部長にまで上り詰めた男。
平次の先ほど考えていたことなど既にお見通しだったようだ。


「・・・親父は・・・じいさんに勝った時どう思った?」
「・・・。」


いつも減らず口ばかりを叩くヤツが随分と成長したものだと嬉しく思う。
其れは母も同じ。
同じ立場。
同じ目線でモノを見られる人間と知り合い、成長させてくれたのかも知れないと人知れず感謝をする。

もちろん、そんなことをわざわざ平次に教えてやるつもりなど毛頭ない。

平蔵は静かに目を閉じ、父に勝ったときの事を思い起こそうとする。

きっとこいつは府警本部長になったことを言っているのだろう。
簡単に予測がつく。


「そうやなあ・・・。」

静かに話し出した父に平次は注目する。

「感慨深かった。いろいろな意味でな。嬉しかったけれど同時に寂しかった。」
「ふうん、寂しい・・・。」

平次は内心驚く。
とても嬉しいという答えが出ると思っていたのに父の口から出たのは正反対。

なんでや・・・??


理解できないと考え込んでしまった平次を横目でみて、父は含み笑いをする。

「幾ら考えてても無駄だな。・・・”今の”平次では理解は出来んだろう・・・。」
「・・・。」

むっとする平次に気にするでもなく父は続ける。


「・・・これからお前が所帯を持ちやがて家庭を築き、子供が出来たとき。きっと理解するだろう。」
「・・・親父も・・・か?」
「ああ。」
「ふうん、そっか。」


父と子の会話。
母は黙って聞いている。


会話は自然に終わり、平次はそのまま祖父の眠る墓前に向かう。



なんて声をかけていいのか迷ってしまって何も出てこない。
平次は目を閉じて祖父との思い出を鮮やかに思い起こす。


結局何も言わずにその場を離れた。


「平次、行こか。」

母がその場を離れようと平次に声をかける。
その声に反応して平次はその場を離れようと歩きかけてその場で振り向く。


じいさん、来年の墓参りはもう一人増えとるから・・・楽しみにしとってな。

ふわりと風が揺れて祖父が返事を返したように感じ、ふっと笑う。
そうして納得した平次は墓を離れた。



祝日企画第10弾!
ついに二ケタ行きました!どんどん、ぱふぱふ♪
しかしお話内容はそれに伴ってない感じです。・・・ううう。

今回は平次中心です。
や、祖父母関連が出ているのが平次のところか蘭ちゃんのとこくらいだったので・・・。
今回は平次セレクトでv
・・・勝手におじいちゃん亡くなったことにしちゃったけど・・・原作で生きてたらどうしよう!
そのときはまた考えます。
しかしおじいちゃんとの話というよりは父子話になったような気がします。
趣旨違う!!

処でこのお話の平次はいくつなんでしょう?
いちおう和葉ちゃんと婚約中でございます。出来ちゃったでない事を祈りましょう(爆)。