携帯電話の電源はもちろん、オフにしておく。

少し考えて家庭用の電話コードも引き抜いた。


警視庁へは連絡済だ。

「この2日間は絶対に呼び出さないでくれ!!」と。

西の奴へもエサを蒔いて絶対に来れないようにしている。

おばさん、感謝!!

好奇心旺盛なエンターティナーにもトラップは既に仕掛けてある。

たまには困れ!!


そして、そして。
一番厄介な問題点も今回に限っては既にクリアしている。


野望途中で全てがおじゃんにならないように、ここ2.3日の睡眠不足は既に解消済みだ。




全てはこの日のために!!!




東の名探偵・工藤新一が己の力を全て注ぎ込み、知力を尽くして作り上げた
彼にとってまさしく「最高の日」になるべくセッティングされていく。


後は待つだけ。


この彼の作り上げた「最高の日」に必要な重要出演者の到着を、彼自身の屋敷で・・・。





通称「黒の組織」と呼ばれる一大犯罪組織を壊滅に導き、漸く手に入れた「工藤新一」の姿。

神様はやはり居るもので心身共に極限まで使い切った彼に最高のご褒美を用意していた。


ずっと恋焦がれていた幼馴染の少女とのばら色の生活。

組織を全て解決させた時同じくして、灰原哀はアポトキシン4869の解毒剤を完成させた。

その薬の副作用で2週間の眠りについた新一がその眠りから覚めたとき一番最初に感じたもの。

それが彼の手に触れるぬくもりだった。

蘭が新一の手を握り締めたまま眠っていたのだ。

いいようの無い何かがこみ上げてきた新一は気配に気付いて目を覚ました蘭を何も言わずに抱きしめた。



ずっと心に秘めていた思いを彼女に伝えた。


じれったかった幼馴染という微妙な関係を終了させ、やっと手に入れた「恋人」という関係。


程なく彼は蘭の全てを手に入れることに成功する。
だけれども、それは何処か遠慮もあったし、配慮もしていた。



・・・・なんか・・・。
何かオレ、付き合う前よりも妄想・・・ヤバくなってねーか・・・・??

そう新一が不安に思ったことも1度や2度じゃ無かった。


前よりも蘭を見つめる目つきが変わったような気さえする。


傷つけたくないという想い。
本当に全てを手に入れたいという想い。

その二つに新一は揺れていた。


そんな苦悩が続いて居たある日。

丁度帝丹高校の定期テストが実施される季節になった。


江戸川コナンから工藤新一へと戻り、帝丹高校へ復帰して初めての定期テスト。


復帰時に学校側から出されていた条件があった。


本来ならば長きにわたる休学により、新一の留年は免れない。
だが、世界的な犯罪組織を壊滅に導いた新一のために学校側も特例を認めたのだ。

そのひとつがこの「定期テスト」において全教科、80点以上を取ること。だったのだ。



元々この進学校である帝丹高校において、常にトップの成績を維持していた新一にとってさほど難しくも無い問題だった。


そう、新一自身も思っていた。
だから結構余裕さえ漂わせていた。
今まで変わらない頻度で警察からの呼び出しにも応え、事件に関わっていたのだ。


だけれどもたった一人、蘭だけは違っていた。



だから今日も蘭は新一の家で新一に勉強するように切々と説いて居たのだった。


「もー!!新一聞いてるの!?あんたホントに出席日数危ないのよ!?ちゃんと分かってるの!?」
「分ーってるって!!」
「分かってない!!全然分かってない!!」


蘭は自分を心配してこんな風に言っている。
それは解かっている。

でも、何処か余裕を残している新一にとってみればそれよりも重要なこともある。
自分へのお小言よりもそんな風に怒っている蘭の魅力にやられているのである。

だが、彼はやりすぎた。

怒っている蘭の隙をついて彼女を押し倒し、キスを強要して、まんまと奪う。
しかもあろう事かそれ以上のことまでやってのけようとしてしまった。


コレが蘭の怒りを爆発させる原因となった。

彼女の平手が新一の頬を綺麗にヒットしたのだ。



「新一の馬鹿ーーーーー!!!」
「なっ・・・!?」
「何よ!人がこんなにも心配してるのにつまらない事って・・・・!!いつもいつも私だけが心配して、新一は・・・!!」

新一に文句を言いながら大粒の涙をこぼしている蘭を目の当たりにして新一はかなりあせっていた。

まず・・い。これは・・・まずい。蘭の奴・・・かなり怒ってる・・・。

「わかってるの!?今度のテストで新一進級決まっちゃうのよ!?」
「ああ。分かってる・・・。」
「先生に出された課題ってなんだったか覚えてるの!?」
「まあ・・・。全教科80点以上・・かなあ?」


焦りながらもまだ余裕を残していた新一だったが、あまりにもな蘭の迫力に押され、素直にうなづいていた。
彼女の怒りを収めようと必死に考えながら。

だが、彼女からの爆弾発言は収まらなかった。

それは「全教科100点とって」だった。



「む、無茶言うなよ!!全教科はさすがに無理だろ!!」


いくらオレだってそれは無理だ!
イージーミスが無いともかぎらねえ!!
な、何とか蘭の怒りをおさめねえと・・・・!!

新一は自慢の話術を総動員して蘭を落ち着かせようと必死だった。

だが、結果は。


「95点以上!!これ以上は譲れない!!」
きっぱり言い放つ蘭にもはや新一は反論できる余地は無かった。

ああ・・・95点・・か。かなり厳しいんだけど、あれだけ蘭怒らせた後で少しは軽減させたんだし・・・。
それにこれ以上の反論はまずいしなあ・・・。


ずうん・・・と新一は落ち込んでいた。

いくら新一でもミスが認められるのが2,3個。
ヘタをすればひとつも駄目。という状況はかなりきつい。

ああ・・・。
確か日本史で10点問題とかって・・・あったよなあ・・?
アレ、出題者の主観があるからそれがずれてたらあっという間だよなあ・・・・?
ああ〜・・・どうするよ、工藤新一!!


新一は大変困っていた。


困りすぎて彼の傍らで蘭が困ったような顔をして何かを思案し、「うん!」とうなづいたことさえも気づけなかった。
新一にしてはありえないことだった。


「あ、あの・・・ね、新一?その・・・もし本当に全教科95点以上取れたら、私に出来る事なら新一の言う事何でも聞くから。」

ピクン!!


今・・・蘭のやつ・・・なんていった・・・・??

新一は今蘭の言った一言に集中していた。

何でも・・・・。何でもいいのか・・・・・?


「何・・・でも・・・?」

新一はつぶやいていた。
自分では気づかないまま。

そして今までうなだれていたのが嘘のように新一の目に正気が戻り、
それと同時に蘭には気づかれないような怪しげな輝きが増す。

「何でも・・・って本当か?」
「う・・・うん。」

新一が蘭に確かめるようにゆっくりとした口調で繰り返す。
そんな物言いの新一に蘭は後に引ける場所など無かったため、少し戸惑いながらも了承の態度を示した。


新一は・・・・「何でも言うことを聞く。」と約束した蘭を目の前に、もう自分を偽ることをやめた。


もう・・・やめにしよう。
ウダウダいってたってしょうがねえ!!
オレは蘭の本当に蘭の「全てが欲しいんだ!!」
コレは神様がくれたきっかけなんだ!

生かさなきゃ男じゃねえ・・・・!!



・・・・・そのために。
野望を叶えるためにやるべきことは、ただひとつ・・・・!!


それからテストまでの数週間、新一の勢いは凄かった。

未だかつて彼がしなかったほどのテスト勉強。

普段とかわらない数の依頼をこなし。

警視庁からのヘルプコールも受ける。

その合間に「ご褒美」の準備も抜け目無く始める。


今回、一番厄介な大物邪魔者については準備は必要ない。
だけれども厄介な「邪魔者」はまだ他にもいろいろある。


一番手っ取り早く済むのは警視庁。
今度のヘルプの時にでも言っておけばいい。


「この2日間だけは呼び出さないでくれ。」
そう言った新一の血走った目に目暮警部をはじめとする警視庁の面々は後ずさりをしながら了承の意を伝えた。



「く、工藤君、おかしくないですか・・・??」
「ばっかねー、高木君。工藤君にあんな顔させるなんて蘭ちゃん以外居るわけ無いじゃないの!」
「はあ・・・。でもなんなんでしょうね・・・?」
「さあ?」

恐怖におののいた高木刑事をよそに、佐藤刑事は面白そうにしながらもそれ以上の追求はしなかった。
今の新一をからかっても楽しくないことを解かっていたからかも知れない。



後の問題は西のアホ探偵と好奇心旺盛なエンターティナー。
どちらとも頭は人並み以上に頭が切れる奴らだ。
ことは抜かりなく勧めなければ計画は頓挫する。


西の探偵に効くのは幼馴染の彼女か、母親。

確実にコッチへこないようにするためには今回のチョイスは母親が正しい。
悪魔のような高速回転で新一が正解を導き出す。

綿密な計算をもって行動を起こす。
幸い彼の母親は新一の味方となってくれた。

よしよし、難関第一弾は突破だな。
次は好奇心旺盛なエンターティナー。

・・・・外海にでも放り出して魚のエサにでもしてやろうか!!!


なんて物騒なことをつぶやきながら考える。


特に快斗には最近、へこまされることが多いので数倍返しでやり返したい気持ちもあった。

そんな私怨もはさんで新一は快斗をやり込める手をその自慢の頭脳で構築させていく。
・・・はじめの目的からは随分と摩り替わってしまっている。

それでも、邪魔されない且つ、私怨を果たす方法を思いつき、それを早速実行に移した。





これでもう邪魔者は全て消えた・・・・・!!
新一はテスト前日には全ての用意を整えていた。




まだ、全教科95点以上取れるとも決まったわけでもないのに・・・・。

それでも新一は確信している。

蘭のくれる「ご褒美」を手に出来ると。
そのためには何でも出来ると。

そして、それを本当に実行できる力も彼は持っていた。


血走った、寝不足の身体を引きずって。
それでも全教科95点以上という快挙を成し遂げた。

しかもぎりぎりの95点ではなくてほとんどが満点、もしくは満点に近い点数を持ってして。



蘭への報告もそこそこに。
彼は「ご褒美を貰うため」に休息をとり、準備を整える。



待ちに待った「ご褒美当日」。

後数時間もすれば「彼のご褒美」がやってくる。
そわそわと落ち着かない、はやる気持ちを落ち着けるためにパソコンを立ち上げた。



彼の大満足する顔が見れるまで、あと一日。




匂坂 七海様リクエスト。
 
 「テストのご褒美」の策士・新一編。
  これじゃあ、新一、策士というよりはまさに「危ない人」だよ・・・・。

わたしごときごときでは新一の策略ぶりなんて無理なのね・・・・!!
というか、ウチの新一さん、平次や快斗に恨みでももってるのかしら??

ま、散々からかわれてる・・・と思っててください(笑)。


ともかく、七海さん、リクエスト有難うございました!!