talking about old times
3月の終わり。
厳しい寒さに終わりを告げ、暖かな陽気が続いていた。
「いい天気ですね〜!」
「そうね・・・。もう春もそこまで来ているって感じかしらね?」
「哀もそういうこと、言うようになったんですね?」
「?」
伸びをしながら公園を歩いていた私は、同行者の言葉を理解出来ず立ち止まった。
「昔の哀だったら何も言わずに素通りでしたよね?」
くすくすと笑いながら光彦は私と同じように立ち止まった。
私は、光彦の言わんとすることが分かって少しむっとする。
「どうせ、昔の私は可愛くなかったわよ。」
仕方ないじゃない・・・・。
あの頃の私にはそんな余裕など微塵もなかった。
あるのは組織への恐怖心だけ。
ごく当たり前の幸せを味わい、それに気づこうともしないでスリルを求めようとする彼らにイラついていたこともあった。
両手を広げて私を受け入れようとしてくれる人が居ることが沢山いることにも気づかずに。
「素直」なんて言葉は、どこかに置き去りにしていた。
「そうかなあ?」
「?」
光彦の疑問符に私は首をかしげる。
あの頃の私がひねくれていたなんて自他共に認める事実なのに。
これ以上何を不思議に思うって言うのよ?
「僕は、哀が可愛くないなんて思ったこと一度もありませんよ?」
「素直じゃなかったじゃない。」
「ええ、素直ではなかったですね。」
「はっきり言うわね・・・。」
昔のどこかおどおどしたような態度は今はもう、どこにも見当たらない。
そんな彼をどこかでまぶしく思いながら、くすり。と笑う。
「・・・・・。」
私を楽しそうな瞳で見つめていた光彦が不意に顔色を変えた。
なんだか伺う様な。
どこか探りをいれているような瞳。
そんなところは昔からちっとも変わらない。
「なに?」
「え!?」
私はまっすぐと前を見据えたまま、光彦に問いかけた。
案の定、彼は驚いたのか大声を出して身体をびくつかせた。
「聞きたいこと。あるんでしょ?何?」
彼に横顔を見せていた私は、くるりっと光彦の方へとターンした。
真正面から彼を見据える。
「やっぱり哀にはまだまだ敵いませんね。」
光彦は、はあっ。と大げさにため息をつく。
「で?なんなの?さっきから伺うような顔してちらちらと。」
「・・・真面目に聞いてくれます?」
「・・・私、冗談なんて言った事あったかしら?」
「・・・本当の事、教えてくれますか?」
「・・・時と場合によっては。」
「・・・。」
「・・・。」
繰り返される押し問答。
じっと二人、立ち止まったまま向き合っている。
私たち二人、どれくらいそうしていたのか?
光彦が根負けして、私への質問を口にした。
はっきり、きっぱりとした強い口調で・・・。
「哀は、コナン君の事が好きだったんですか?」
「え・・・?」
光彦の質問に私はその場に立ち尽くしてしまった。
何故、今更?の質問だ。
8年も前に消えたはずの人間の事だ。
今はもう、何処にもいない幻の人物。
・・・私がかつて間接的に作り出した人間。
その正体を・・・目の前の質問をした彼も知っている。
彼の今の師匠だ。
「どうして今更そんな質問するの?」
「今更・・・ですか?」
「そうよ、今更。」
光彦の伺うような疑問の言葉に私はきっぱりとした口調で返す。
「8年も前の事なのよ?今更じゃない。」
「・・・そうですね。」
言い切った私に光彦はいつもよりも低い声で言葉を返す。
どこか冷静で、どこか感情的な声だ。
「僕にとってはそんなに今更な話でもないんですけどね・・・。」
「・・・。」
「8年間、ずっと聞きたかったことですから。」
「・・・。」
「やっと冷静に聞けるかもと思えるようになったんです。丁度区切りもいいですしね。」
区切りがいいといった光彦。
それはこの春から高校生になるからだろうか?
彼の真意は読み取れない。
「哀?」
促すような彼の言葉。
問いかけるような瞳が私を射抜く。
卵だけど・・・真実を見極める目は師匠の太鼓判つき。
私は何も言わず、近くにあったベンチへと腰を下ろした。
「光彦。」
「僕は・・・いいですよ。」
言葉ひとつで私は、彼にも座るように勧める。
当然如く断ろうとする光彦の名前をもう一度を呼ぶ。
「座りなさい」とまるで命令するように強い口調で・・・。
ちょっとひるんだ光彦が渋々と私の隣に腰を下ろした。
「・・・・。」
しばらく黙ったままその場に座っていた。
光彦も何も言わない。
私がしゃべるのをじっと待っているのだろう。
今度は、私が根負けした。
「・・・あの頃の私にとって・・・「江戸川コナン」という人間は唯一無二の存在だった。」
「・・・。」
「だってそうでしょ?私と同じように幼児化した少年。頭脳はそのまま残っている。
・・・”本物の”小学生と比べたら、彼を頼るのは当たり前だわ。」
「そうですね。『普通の小学生とは違う』と思ったからこそ、僕らも興味を持ったのでしょうしね。」
光彦の声は冷静だ。
その事に少し、ほっとする。
「私は昔から、同世代の人間とは全く違う生活を送っていたから・・・。」
「?」
「頼るべき人=好意だと勘違いしてしまっていたのよ。」
私は、立ち上がり、彼へと向き直った。
「彼は、今までくれなかったモノを私に沢山くれた。『彼と共に居れば』私は変われると思い込んでしまった。」
「だから・・・好きだった?」
「好きだと思ってしまった・・・が正しいわ。」
「思ってしまった・・・。」
光彦は不思議そうにその言葉を反芻するように小さく呟く。
解らなくて当たり前だわ。
私だって、正解を順序よく説明なんて出来ないもの。
「それをコナン君には?」
「言ってないわよ?ま、彼一切気づいてなかったみたいだけどね?」
「でしょうね・・・。」
「?」
光彦の同意の言葉が解らず、私は首をかしげた。
それを見て、光彦は、くすり。と笑う。
「実はですね。ちょっと前に新一さんにもこの質問したんです。」
「は・・・?」
私は光彦の言っている意味が解らず、随分と呆けた声を出してしまった。
「『灰原さんの事を好きだと思ったことはありますか?』って。」
「随分とストレートね。」
「はい。もっとひねろうかとも思いましたけど・・・見抜かれそうで。」
「・・・こと恋愛に関しては彼の推理かなり鈍るから意味ないと思うけど?」
「そうですね。」
光彦はおかしそうに話す。
「随分とぽか〜ん。とした顔されましたよ。まるで言っていることが解らないといった感じでしたね。」
「・・・それは、予想以上ね。そこまで他の女が眼中にないなんて・・・。」
「ええ。仲間としては好きだと思うけど?って言われました。それ以上の意味は、全くでしたね。」
解っていたことだったけれども、あまりにも予想通りで笑ってしまう。
彼は昔から蘭おねえちゃん以外の人が目に入っていない。
・・・それが悔しいと思うこともあったのに。
今は・・・普通に見れる。
おかしいと思うほどに笑って居られる。
同じように笑い合える人が居るから。
「彼と共に居なくても」変われると知る事が出来たから。
「・・・答え、これでいい?」
「え!?」
隣で楽しそうだった光彦は、私の突然の問いかけに驚いた。
「・・・はい。」
「じゃ、私からもひとつ、質問してもいいかしら?」
「なんですか?」
「どうして、いきなりこんなこと聞こうと思ったの?」
光彦は、目を真ん丸くして、私を見た。
意味が解ってない感じ。
「どうして・・・って?」
「区切りとも言ってたわよね?何のこと?」
戸惑う光彦に気づかない振りをして、畳み掛けるように問いかける。
「・・・。哀の気持ちをね、ちゃんと知っておきたかったんです・・・よ。」
「気持ちって・・・一年前にちゃんとわたし・・・。」
「はい、聞きました。でも結構奔放に振舞ってくれるし、ポーカーフェイス上手いし。
不安に思ってたんですよ?」
「・・・。」
「高校入学と同時にしょっぱなから哀、派手なことやってくれるし。」
「・・・派手なこと?」
「新入生の言葉ですよ。当たり前ですけど、トップ入学ですから。」
「しょうがないじゃない・・・。」
「今までの哀ならば、断ってましたよね?」
じと目で見られて私はたじろぐ。
・・・言えるわけないじゃない。
私が断れば、次の成績上位者が読むことになる。
・・・・それは、光彦だったんだもの・・・。
目立つことして欲しくない。
私も光彦と同じことを思ったの。
だったら、私が読むしかないじゃない。
こんなこと・・・まだ言えるわけないじゃない?
昔、彼が居れば私は変われる。と思っていた気持ちと似た気持ちで。
今、彼が居れば私は変わらない。と思ってる。
でも、光彦には、まだ秘密にしておくの。
だって・・・。
恋愛には、適度な緊張感も必要なんだからということを歩美から切々と説かれたんだもの。
「甘やかしちゃだめ」なんだって。
それは蘭お姉ちゃんと、工藤探偵を見てれば私もそう思うから。
私、蘭お姉ちゃんほど、心広くはなれないの。
・・・光彦、ごめんね?
「光哀の日」参加作品です。
今は昔の思い出話。タイトルはそのまんまですね(笑)。
「コナン」の事を哀ちゃんはどう思っているか。私的考えなんですけどね。
でも、こんな感じで居て欲しいと思うのです。
ちなみに二人とも帝丹高校入学間近。
付き合っている設定です。
付き合いの始まりは、一年前、光彦からの告白でヨロシク(爆)。
主催者様、有り難うございましたv
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