「おっはよー!!・・・って、何?この騒ぎ・・・。」

いつも通り登校した朝、学校全体がやけにざわついているのに気づいて
私は近くにいた親友のカオルちゃんに話しかけた。

「ほら!明後日って七夕でしょ??んなもんだから皆お願いごとを・・・ねっ!!」
「お願い事・・・って笹でもかざってあるの?」

今年高校に入学したばかりの私にとって高校の行事なんて知らないし、そんな小学生みたいな事するの??
って不思議に思っていた。
そんな私にカオルちゃんは手をヒラヒラとふりながら話を続ける。

「やあね、紀子!笹なんて飾ってないわよ!小学生じゃあるまいし!!」
「え?・・・だって今、七夕のお願い事って・・・??」

七夕って笹に短冊をつるして牽牛と織女に願い事をかなえてもらうんじゃあ・・・??


「やあねえ!一年に一回しかあえない欲求不満カップルにお願い事なんかしたら逆にたたられちゃうわよ!」
「たた・・・。あのねえ!」

カオルちゃんのあまりの言い方に私はあきれ半分で頬杖をついたのにカオルちゃんは我関せずで平然と言い放った。

「あれ?だってそうじゃない。」
「もう!・・・それに年に一回しか逢えないから嬉しくて願い事をかなえてくれるんじゃないの・・・??」
「だったら!もっとご利益のある方に行かなきゃ!!」
「ご利益・・・・?」
「そっ!まあ、ついといでよ!」
「ちょ!ちょっと、カオルちゃん!!」

・・・今時の高校生って・・・(私もそうだけどさ。)考え方ドライだわ・・・・。
牽牛と織女捕まえて一年に一回しか逢えない欲求不満カップルだなんて・・・・。


軽いカルチャーショックに掛かっていた私を引き連れてカオルちゃんがやってきたのは三年生の教室。
ここは何だか学年関係なしで人でごった返していて・・・。

何があるの??こんなとこで・・・・??

「うわあ!さすがに人、多いなあ!!」
「カ、カオルちゃん!」

カオルちゃんは私に気づかずにうーんとうなっっている。

「あそこまでたどり着くのはちょっとホネかもなあ・・・。」
「ちょっと!!カオルちゃんってば!!」
「ん?なに?紀子。」

やっとカオルちゃんが私に気づいて振り向いてくれた・・・。

「何があるっていうのよ?ここ、三年生の教室でしょ!?」
「七夕よりご利益のあるところ!」
「なに・・・?」

カオルちゃんの言っている意味が全く読めなくて私は目を白黒させてしまった。

「アレよ!ア・レ!!」

カオルちゃんの指差す方向に必死で目を凝らす。三年の教室ってだけで別に何も変わりなんて・・・??

っと思っていた私の目に不意に入ってきたカップルが一組。
その二人の距離は結構離れているけどこの学校に通うなら誰もが知ってる超有名カップル。

「工藤先輩と毛利先輩・・・・?」
「そっ!ほら!ちょっと前に噂になったじゃない!工藤先輩と毛利先輩の馴れ初め話!!」
「うん・・・。」
「アレにあやかろうって人がちょっと前から増えかけててね、丁度七夕時期じゃない?
 そんで、”七夕よりご利益のあるとこ”になっちゃったってわけ!実際、うまくいったって人もいるみたいだし?」

三年生の工藤新一先輩と毛利蘭先輩。

ここ、帝丹高校一のベストカップル。美男美女で共に成績優秀で、先生や皆からの信頼も厚くて・・・。
しかも工藤先輩は今や、世界に通用するか!・・って勢いのある超有名高校生探偵・・・。

工藤先輩目当ての入学希望者で過去最高を記録したって話もあるくらい・・・。
ま、かく言う私も・・・その一人だけどね・・・。

ところが入学してみたら目当ての工藤先輩にはもう毛利先輩がいて。

あの時は一年生全体が落ち込んでたもんなあ・・。
女子だけじゃなくて、毛利先輩にあこがれてた男子も一斉に・・・。

でも結構好意的だったんだよねえ・・・。ま、分かるけどね。

毛利先輩すっごい可愛いし、優しくって性格も良いし・・・非の打ち所がないって言う感じで。
それに工藤先輩と毛利先輩のあんなすごい馴れ初め話聞いたら皆ナットク!っていう感じでさ。

すごい教祖様みたいに祭り上げられちゃってる・・・・。

「あーん!もう、こんなに人が多くちゃあ無理よお!」

カオルちゃんは大きくため息をついてる。

結局チャイムが鳴って私達はお伺いを立てることなく教室に戻ってきた。


昼休みだったのに私は理科の竹林先生に頼まれて屋上の日時計を調べに行く事になってしまった。

「めんどくさいな・・・。カオルちゃんついてきてよ。」
「嫌よ!工藤先輩と毛利先輩の所に行かなくちゃ!」
「あ!ちょっと!・・・もう!」

私の言葉なんてもう耳にも入ってない様子のカオルちゃんは七夕のお願いをするのに必死。
結局、私は一人で屋上への階段を上っていた。

キィ・・・っとドアを開け、日時計の所へ行き、レポートをまとめる。

「戻ろう・・・」とした瞬間、ドアが開き、見知った声が聞こえてきた。

「あー!くっそ!えれー目にあったぜ!」

や、やだ!工藤先輩!

思わず私は物陰のところに身を隠す。・・・なんで私こんなとこに隠れてるの・・・?

「ホントねー・・・。園子に訳聴いたとき、ビックリしちゃった、私。」

くすくす笑いながら毛利先輩も入ってきた。

「とりあえず、おベント食べよ?ハイ!」
「おっ!サンキュー!」

毛利先輩が工藤先輩にお弁当を差し出す。こういうところって・・・二人すごく自然だなあ・・。
変なところで関心してしまう。

「ったくよー!なにが”我が校の牽牛と織女”だよ!」
「なんでそんなことになったんだろーね?ほんと。」

・・・。それは先輩方のドラマよりすごい恋愛話・・・からです。

「七夕・・・かあ・・・。」
「何?どうしたの?」
「いや、さ。牽牛はわし座のアルタイルで、織女はこと座のベガだろ?」
「?そうよ?」
「毎年思うんだけどさあ・・・。直径が太陽の二倍のアルタイルと太陽の三倍強のベガがホントにデートしたらすげーだろーな?」

く、工藤先輩・・・。

「ばかっ!あんたホントにロマンも何も無いわね!!」
「しゃーねーだろ?ちょっと思っちまったんだからよ。」

何だか・・・工藤先輩の別の一面を見たような気がする・・・。
毛利先輩の前だとこんな顔もするんだ・・・。
ちょっと得した気分。
毛利先輩も拗ねつつも何だか嬉しそう。


「大体、願い事かなえろって、んなもん自分でなんとかしろってーの!」
「七夕・・・ってそういうのするじゃない。新一だって小さい頃お願い事してたじゃない。」
「だけど、俺は願ってたってちゃんとそれをかなえるために自分で行動したぜ?」
「・・・私は願ってた・・・かな?去年。」
「去年って・・・ああ。でもオマエだって別に願うだけじゃなかっただろ?」
「うーん・・・。そうかなあ?・・・きゃ!」
「俺が言うんだからそうなんだって!」

工藤先輩が不意に毛利先輩を抱きしめた。なんだか・・・工藤先輩が妙に切なそうな顔をして・・それがすごく気になったけど・・・。
これ以上覗いていたらいけないような気がして・・・気づかれないように・・そっとドアから出て行った。

なんだか私はすごく満ち足りた気分だった。すごい先輩のすごい恋愛話は皆が知ってるけど、ちょっとだけだけど、ほんのちょっとだけど
先輩達の本質を垣間見たような気がしたから。

あー!やっぱり二人が一緒にいるからものすごく好きなんだなー私!!

カオルちゃん、ごめんね?でも私だけ、願っておくね。


いつか工藤先輩と毛利先輩のようなカップルになれますように・・・。いつかそんな人とめぐりあえますように・・・。

これだけ・・・かなえてね?先輩!!

・・・・・なんだろう・・・コレは・・・?
いや、第三者視点で新蘭を書いてみたくなって突っ走って大失敗って感じですね。

「牽牛と織女が欲求不満カップル」って言うのと「ベガとアルタイルの実際の大きさ」
って言うのは別々の某漫画から取りました。
ただ単に使ってみたかった・・・だけです。ごめんなさい。

でも、良いそうじゃないですか?「ベガとアルタイルが本当にデートしたらすごい」
って・・・新一。(私、新一にどんなイメージ持ってるんだろ?)