2周年記念フリー小説v

柔らかな日差し



蘭は、目を覚ました時、見慣れない天井に、一瞬戸惑う。
起き上がると、額に乗せられていたであろう折り畳まれたタオルが、布団の上に落ちた。
あれ?
よく見ると、ベッドに突っ伏して新一が眠っている。
サイドテーブルに、水の入った洗面器。
ええと・・・。
状況を思い出そうとしてみても、何も浮かばない。
私、どうしたんだろう?
それに、ここはどこなんだろう?
何で、新一が・・・?

戸惑っていると、そっと音をたてないように気遣って、ドアが開けられた。
入ってきたのは、新一の母・有希子。

「おばさま・・・?」
「あら、蘭ちゃん。目が覚めたのね!」
ゆっくりとベッドに近づいてくると、手を伸ばして蘭の額に触る。
「うん。熱は下がったみたいね」
「あ、あの・・・」
「食欲ある? 何か食べれそう?」
「えっと・・・」

まだ、状況が飲み込めないでいる蘭に、有希子はふんわりと笑いかけた。

「そっか。蘭ちゃん、熱があったから昨日のこと覚えてないのね?」
「昨日・・・?」
「そこで眠っているバカ息子と飛行機でロスに来たのは覚えてる?」
「あ、はい・・・」

答えながら、蘭はその時のことを思い出していた。

飛行機の中で起こった事件に首を突っ込んで、探偵まがいのことをしていた新一。
目暮警部を相手に啖呵を切っていた、自信満々の新一。
トリックを見破ろうと、ワクワクとした瞳をしていた新一。
そして、すっきりと解決して、隣でぐっすりと寝込んでしまった新一。
どれも眩しくて、ドキドキしていたっけ。

「その後、またすぐに飛行機に乗って、ニューヨークへ来たことは?」
「ニューヨーク・・・?」
「そうよ。ここは、ニューヨークよ」

シャッと窓にかかったカーテンを開けると、目の前に広がっていたのはセントラルパークの緑の洪水と、
その向こうにそびえ立つ摩天楼の高層ビル群。
テレビや写真でしかみたことのなかった風景が蘭の目の前にあった。

「ん・・・」

入り込んだ朝陽を浴びて、新一が目を覚ました。
最初は、うっすらと重い瞼を持ち上げていたけれど、途中から、ガバッと体を起こした。

「蘭!!」

慌てて辺りを見渡して、有希子と談笑している蘭を見つける。
元気に起き上がっているところを見て、ホッと胸を撫で下ろす。

「起きてて平気なのか?」
「うん。もう、大丈夫だよ!」
「そっか・・・。なら、よかった」
「あ、もしかして、ずっと看病してくれてたの?」
「え? あ、まぁな。他に誰もいねーし」

ちょっと照れてプイッとそっぽを向く。
そんな息子に、じれったさを感じずにはいられない有希子は、2人のやりとりを見ながら笑みを漏らす。
昨日、劇場の控え室で蘭のことを『未来の娘』と言っていたのは、あながち夢で終わるわけではなさそうだ。
微笑ましいくらいの幼い恋心ではあるけれど、着実に2人は自分の思うとおりに進んでくれそうだ。


ラウンジで軽い朝食をとる。

「日系のホテルなら、お粥とかあったかもしれないんだけど・・・」
「あ、おばさま。大丈夫です」
「食えるんなら、しっかり食べておけよ。体力がなきゃ、回復もしねーぜ?」
「わかってるわよ」

蘭は、自分が熱を出していたという事実すら、記憶になかった。
だが、今、目の前に並んだ食事を見て、拒否反応は出ない。
と言うことは、食べても大丈夫だろう。
それでも一応、コーンスープとバターロール辺りから試していく。
一口ずつ、ゆっくりと。
新一は、元々、朝食はあまり食べないほうだ。
と言うよりは、両親と離れ離れに暮らすようになってから、朝食に時間をかけていられるほど朝に余裕はなかった。
だから必然的に、起きてコーヒーを沸かして、その間に準備を整え、淹れたコーヒーとパンを詰め込んで出かける。
そんな日が続いていた。

「新一こそ、ちゃんと食べなさいよ?」
「そうよ。新ちゃん、私たちと離れてから、食生活乱れてるでしょ?」
「母親を放棄した人に言われたかねーな」
「やっぱり、一緒にロスに連れて来ればよかったわ」
「だから、それだけはイヤだって言ったろ」

不貞腐れた表情の新一。
両親の勝手で、ロスへの移住計画が実行に移されたとき、新一は頑なに一緒に行くことを拒んだ。
その原因が目の前いにいるのに、その話だけはするなってんだ。

「そうそう。今日、どうする?」
「またロスにとんぼ返りする気じゃねーだろーな?」
「えっとぉ・・・」

どうやら図星だったらしい。
昨晩の話では、優作はロスのホテルに缶詰になっているらしいから、有希子としては帰りたいだろう。

「蘭が体調を崩したのだって、元はと言えば、母さんが無茶させたからだろ?
今日は、1日、こっちでゆっくりさせてもらうからな!」
「わかったわよ・・・」
「あ、おばさま! 私なら大丈夫ですから!」
「蘭! あんまり甘やかすようなこと言うんじゃねーよ! 母さん、放っておくと、とことんつけあがるからな!」
「本当に、大丈夫だから・・・」

自分のことは随分な言われようだとは思うが、蘭のことを考えてあげている息子の優しさに嬉しくなる。
探偵を目指すんだと豪語して、昨晩のように死体を見ても顔色を変えない辺り、
どこかで教育を間違えてしまったかとも思っていたのだけれども。
人を思いやれる心があれば、大丈夫。
優しい心を持ち合わせていれば、探偵として殺伐とした事件を追いかけるようになっても、大丈夫。
父親とよく似た表情を見せるようになった息子を、ちょっと誇りに思う有希子であった。

「そうね・・・。じゃあ、午前中の気持ちいいうちに、セントラルパーク内でも散策する?」

有希子の提案で、朝食後、目の前のセントラルパークに散歩に出かけることになった。
セントラルパークは、名前の通り、マンハッタン島のど真ん中にある公園。
だが、ただの公園と呼ぶには広大だ。
幅が約800mで、長さは4km近くに及ぶ。
中をバスや車が走っているほどだ。
ジョギングしている人もたくさんいるが、『皇居を一周』という感覚ではいけない。
芝生や木々が生い茂っていて、動物達も顔を覗かせている。

「あ、見て見て! 桜がある!」
「結構、色んな国との友好で、木とか植物とか植樹したりしてるらしいぜ」

ちょうど、日本で言うところのゴールデンウイークに旅行していたから、日本であれば桜は終わりを迎えている。
しかし、東京よりも寒い気候になるここニューヨークでは、ちょうど見ごろをだった。

「嬉しいなぁ。またお花見ができるなんて!」

蘭は上機嫌で桜の下に駆け寄っていく。

「せっかくアメリカに来てんだから、日本のものより、こっちのもの見ろよなぁ」
「いいじゃない。アメリカは移民の国なんでしょ? 桜だって、日本からの移民だよ? これも立派にアメリカよ!」
「御託並べやがって・・・」

そうこうしていると、リスが数匹寄ってきた。
何かえさになるようなものを貰えるかと窺っている。
きっと、何か貰えることが多いのだろう。
人に慣れてしまっている。
簡単に1匹捕まえると、蘭に見せる。

動物だとか、植物だとか。
蘭は、こういったものが好きだから。

リスを手渡して、それにじゃれ合っている蘭を、新一は見つめてしまっていた。

昨日のこと、覚えてないんだな。
熱のせいだけではないのかもしれない。
純真で、事件などと言う世界とは無縁だったはずの蘭を、巻き込んでしまったのかもしれない。
自分は、謎を解くことに夢中になってしまっていて、蘭の感情など考えてやれる余裕がなかったのも事実。
蘭は、自分が殺人犯を助けてしまったことで、事件が起こってしまったのだと思い込んでいたのかもしれない。
だが、事故が起こるかもしれない時、そしてそれを防げるかもしれないとしたら。
蘭でなくても、助けてしまうだろう。
例え、事故にあいそうになっているのが、凶悪な人物であったとしても。

理由など考えるまでも無く、目の前に危険があれば、体は動いてしまう。
目の前にいる人を助けてしまう。
そう、それは、自然に。
その行動に名前をつけるほうがおかしいはずだ。
『訳なんているのかよ?』
昨日言ったあの言葉が、自分と蘭にとっての『真実』。



蘭は、自分を見守ってくれている新一の視線に、時折、切なげな色が含まれていることに気付いていた。
最初は、体調を崩した自分を心配して、様子を窺っているだけだと思っていたのだけれども。
階段があったら手を差し伸べてくれたり。
パーク内を歩いている今も、有希子と新一とで蘭を間に挟んでくれていたり。
ドアを開けて、自分を招き入れてくれたり。
でも、それだけではないのかもしれない。

蘭からも見返して、視線がぶつかると、その表情はパッと消えてしまう。
それでも悲しげなその表情が気になって、何度も見返してしまっていた。
その度に、新一は表情を隠して、いつもの悪戯っ子の瞳に変えてしまう。

そして、気付く。
こう何度も視線がぶつかるということは、新一も蘭を見つめていると言うこと。
改めて、もう一度新一を見返すと、やっぱり視線がぶつかる。
切なげな表情が一瞬で消え、『見とれてたんだろ?』とでも言わんばかりの、不適な笑みを見せてくれる。

「何でこっち見てるのよ!」
「別に・・・」
「あ、昨日、何かしたんでしょ?」
「はい?」
「私が思い出さないか、気にしてるんだ!」
「あのなぁ・・・」
「そうじゃなきゃ、私のご機嫌を取ろうとしてるんだわ!」
「・・・・・」

蘭の言葉に、新一の目が点になる。

ったく。
蘭にとって、オレってそんな程度かよ!

ロスまでの飛行機の中での、無防備な寝顔。
いくら幼馴染とは言え、一応は男と女。
少しは危機感ってものを持って欲しい。

もちろん、そのせいで、ギクシャクしてしまうのもイヤなのだが。

それでも、『男』として見て欲しい。

そう思わずにはいられない。
自分は、もう、ずっと前から、蘭を1人の『女』としか見れなくなっているのだから。

「あ、メトだ・・・」
「ん? ああ、メトロポリタン美術館ね」
「これも、ここだったんだ」
「見てくか? お前、美術館とか好きだろ?」
「いいの?」
「いいって。なぁ、母さん?」
「え、ええ。もちろんよ! せっかくニューヨークに来たんだもの。少しは観光もしないとね!」
「・・・。無理すんなよ。買物に行きたけりゃ行ってきていいぜ?」
「何言ってんのよ。新一だって、ニューヨークは始めてでしょ? そんなところに子供2人放り出す訳にはいかないわ」
「・・・だから、子ども扱いすんなって・・・」

昨晩と同じことを、新一はボソリと呟く。
でも、有希子にはどこ吹く風で、カツカツと美術館の入口へと向かい、チケットを買っていた。

「すごーーい・・・」

美術館に入ってから、何度、蘭はその言葉を呟いただろう。
意地悪心から新一がその回数を数え始める。
中は複雑に入り組んでいて、蘭を放っておくと、すぐに迷子になってしまいそうだ。
新一はとりあえずそんな蘭についてまわる。
有希子はというと、ハイヒールで長時間歩いたから、疲れたと言って、カフェへと消えていった。

「すっごいなぁ・・・」

またこの言葉。
笑いながら、蘭が目を奪われている絵画に目をやる。
新一も、世界の名画と言われるものに関しては、一通り、作者位は知っているが、その良し悪しと言われると、
実際には、よくわからないと言うのが感想だった。
蘭が見ていたのは、風景画だった。
作者の名前に聞き覚えはなかったかが、ここに飾られるということは、アメリカ国内では有名な画家なのだろう。

きっと、真面目に鑑賞しようとしたならば、1日はかかってしまう。
だから、簡単に一回りだけして、有希子が休んでいるカフェのコーナーに戻ってきた。

「蘭ちゃんも、甘いものでもどう?」
「あ、はい。いただきます」
「新ちゃんはコーヒーでいいの?」
「ああ」
「ホント、優作そっくりに育っちゃって・・・」

文句を言いながらも、2人ぶんの追加注文をしに席を立つ。
有希子が座っていた席は、ガラス越しにセントラルパークを見渡すことができた。
麗らかな日差しが差し込んできて、温室のようにポカポカと温かい。
外を行き交う人々も、犬の散歩をしている人や、ジョギングしている人。
そして、パーク内で遊んでいる子供達と、それを見守る親の姿。

「私たちって、親子3人連れに見えるのかなぁ・・・」

蘭がポツリとつぶやいた。
一瞬、昨晩のことを思い出したのかと思って、新一はドキリとする。
劇場の楽屋で、言われた言葉。
『その2人は、あなたの子供なの?』
両親の別居が長引いているから、蘭は『家族』という言葉に敏感だ。

自分は、毛利家の家族に見えるのだろうか?
新一と有希子といると、工藤家の一員に見えるのだろうか?

そんな疑問が浮かんでは消える。
両親のことは、両親が解決するしかないのかもしれないと、蘭も半分は諦めていた。
そして、こんなに仲のいい親子なのに、どうして新一は一緒にロスへ行かなかったのかという疑問もある。

中学の卒業が近づいてきた頃、新一が呟いたことがある。

「オレ、卒業したら、ロスに行くかもしれない・・・」

最初は、旅行か何かだと思っていた。
実際、夏休みなんかの長期休暇の時に、工藤家の3人が揃って海外旅行していることは、昔からあったから。
だが、その新一の表情がいつもに増して真剣で。

「親父が、ロスに移住するって言い出した」
「ええ??」
「だから、オレも一緒に行かなきゃならねーかも・・・」
「そんなっ・・・」

物心ついたころから、新一とはずっと一緒に育ってきた。
家が近かったから。
両親が知り合いだったから。
それ以上に、新一といると楽しかったから。

それが突然、消えてしまうのかと思ったとき、胸が痛んだ。

結局、新一だけは残ることに決まり、蘭も胸を撫で下ろしたのだけれども。
その時に胸に刺さった棘のようなものは、ずっと、消えることはなかった。

新一の眩しい笑顔を見たとき。
新一の悲しげな顔を見たとき。

ことあるごとに、その棘は蘭の胸の奥深くへと更に突き刺さってくる。

「蘭!」

大きな声をかけられて、ハッとして声の方を向くと、新一が焦った顔で自分の方を見ていた。
蘭もその時になって気付いたのだが、肩をかなりの強さで掴まれていた。

「大丈夫かよ? ボーッとしてるぜ? やっぱ、まだ熱あんじゃねーのか??」

今日、何度目かの同じセリフ。
昨日の自分は、そんなに酷かったのだろうか?
もちろん、蘭はまったく覚えていないのだから比較のしようもないのだけれども。

「あ、違うの。ちょっと、考え事をしてただけ・・・」

ニッコリと新一に笑顔を見せる。

「今日は、もう一晩、ゆっくり休んだ方がよさそうだな」
「そうね。ロスに移るのは、明日にしましょう」

2人の心遣いが蘭には嬉しかった。
息子の幼馴染の蘭に、こんなにも優しくしてくれる有希子の存在がありがたかった。
新一が優しいのは、きっとおばさまの優しさを受け継いでいるからなのね。

「もう少し、歩いても平気か?」
「うん。大丈夫よ。お天気もいいし、風も気持ちいいもん」

眩しい太陽と、心地いい風が、嫌な気分を払拭してくれる気がした。
だから、蘭はスキップでもせんばかりに上機嫌で歩いていく。

「あんまり先走るなよ!」
「大丈夫だってば!」

ここがニューヨークだってこと、わかってないんじゃねーか?
まったく。
新一は、周囲を警戒しつつ蘭の様子を窺う。

きっと、自分と一緒に渡米しなければ、事件に遭遇することもなかっただろう。
有希子の一方的な誘いを、嫌な顔1つせずに受け止めて、『幼馴染』というだけで、ここまでついてきてくれた。
けれど、立て続けに3つも事件に遭遇してしまえば、誰だってショックを受けると言うものだ。
特に、昨晩のことは、熱のせいもあってか、まったく覚えていないようだった。

まぁ、そのほうがいいだろう。

新一は探偵になるつもりでいるから、事件発生は自分の腕試しにもなると思い、正直、喜んでいた。
でも、蘭は。

蘭は、普通の女子高校生なのだから。

住む世界が違うとか、そういった意味ではなく。
普通の女の子ならば、一生のうちでも、殺人事件などに遭遇するなどと言ったことは、1回もないはずだ。
それなのに、新一といるばっかりに、もう、2件の事件に居合わせてしまった。

事件が探偵を呼ぶのか。
探偵が事件を呼ぶのか。

そんな話は水掛け論だろうけれど。
殺人事件などという、陰鬱とした世界に、蘭を巻き込んでしまっているのは事実。

通り魔を非常階段に追い込んで、駆け下りていた時、下から蘭が登ってくるのに気付いた。
しかも、通り魔は拳銃を持っている。
手負いの殺人犯は、何をしでかすかわからない。
そう、もう1人殺すことなど、意に介さないはずだ。
簡単にやられるような蘭ではないことはわかっている。

それでも、巻き込んでしまった自分の罪は消えない。

蘭には、こんな世界を覗いて欲しくない。
そう、例えば、今、この公園に降り注いでいる、柔らかな日差しのように。
穢れのない、無垢なままで。
そんな蘭でいてほしい。

傲慢かもしれない。
身勝手かもしれない。

そんなことはわかっているけれど。

光と影が一対であるように。
陰と陽が切り離せないものであるように。

きっと、この先、残忍な世界を覗かなければならなくなるだろう。
そうなった時、その世界に足をすくわれないように。
自分の中に溜まるであろう、暗い影を中和してくれるように。

蘭には、光り輝く、優しい日差しであってほしい。



自分を見つめる新一の眼差しから、切なげな表情が消えていることに蘭が気付いたのは、
セントラルパークを後にしようとしていた頃だった。

あれ?
さっきまでと、表情が違う・・・?

自分を見守ってくれているように、視線を送ってくれていることには変わりない。
でも。
時折混ざっていた、悲しげな表情が消えている。

今は、本当に優しく、柔らかく、穏やかに微笑んでいる。
ぼーーっとその顔を見つめてしまっていた。
ずっと後ろにいてくれて、守られているような安心感がある。

何があっても、大丈夫。
新一は、そばにいてくれる。

そして、蘭自身も、新一のそばにいたいと思った。
いつも、こんな笑顔を見せてくれるのならば。

ロスへの飛行機の中で事件に遭遇してしまった時、新一は探偵の真似事ができて喜んでいたけれど。
蘭は、正直、怖いとも思っていた。
飛行機という巨大な密室。
ということは、マジックでも仕掛けない限りは、殺人犯は同じ機内にいるということ。
気付かれないように、どこかで身を潜めているということ。
それが、怖かった。
新一が犯人を追い詰めたりしたら・・・。
逆上した犯人が、誰か別の人までも襲うかもしれない。
そして、それは、自分の罪を暴いた新一へと矛先を向ける可能性がたかいのだから。

もちろん、蘭がとやかく言ったところで、子供の頃からの夢だと熱く語っている新一が、探偵をやめるはずがない。

きっと、大人になったら、本当に探偵になるのだろうと蘭自身、思っていた。
有言実行の人だから。
そのために、あんなに頑張っていたサッカーもすっぱりと辞めてしまった人だから。


でも。
こうやって、蘭のそばで笑っていてくれる新一は、どこにでもいる高校生の男の子。
特別な人だという感じはない。

それが、自分だけに見せてくれている笑顔ならば、もっと大切にしたい。

「蘭! ぼーっとしてないで、行くぞ!」
「あ、はーーい」
「ほら、そこ! 段差があるぞ!」
「言われなくても、わかって・・・・、きゃっ!!」

新一に指摘されたにもかかわらず、蘭はその段差に見事に躓いた。
倒れかけたところに、新一が腕を差し伸べて支えてくれる。

「ったく。ホントに目が離せねーよなぁ・・・」
「あ、ありがと・・・」

ほらね。
本当の新一は、こんなに優しい人だもの。



新一も、蘭も、同じ想いを抱いていた。

この柔らかな日差しのような気持ちを、ずっと持ち続けていたいと。
この柔らかな日差しのような時間を、共に過ごしていきたいのだと。






     End






beさんのサイトの2周年企画のフリー小説をゲットしてきました!

「ニューヨーク編」の描かれなかったその後のお話ですvv
beさんの書かれる新一は何処か余裕があってかっこいいのでいつもうっとりしてしまいます。

beさん、ありがとうございました!