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*拍手お礼SS(6):九龍妖魔學園紀より皆守夫婦(皆守×八千穂)(BYレースル)


 かつて今までこれほどまでに衝撃的な朝の目覚め方があっただろうか。

「おはよう、甲太郎クン。ところで、生まれそうなんだけど」

 ちゅんちゅん、ちちちち。
 小鳥の囀りが、途切れた言葉を追ってやけに非現実的に響く。
 窓から差し込む朝の陽光に目を馴染ますように何回か瞬きを繰り返し、隣で小首を傾げながら大きな腹を撫でている妻の顔を見返す。

「今、なんて?」
「なんか生まれそう?」

 寝ぼけた頭に、ゆっくりと言葉が浸透する。
 睡眠ですっかりボケていた脳神経が言葉の意味するところを拾い上げた瞬間、皆守はバネのように飛び起きた。

「はァ!?」
「うーん、お腹にちょっと違和感があるんだよね」
「何を暢気に!?陣痛を違和感で片付けんな!!あ、いや、つっこんでる場合じゃないな、きゅ、救急車を…!!」

 妊娠に気付くのも遅かったが、まさか生むときまでこんなにのんびりされるとは思わなかった!
 皆守は考える間もなく枕元に転がしてある携帯電話を引っつかみ、ろくにボタンを見ずに急いでプッシュする。
 2、3度コール音が鳴り、プツ、という音と共に繋がった気配。

「もしもし!」
「あ、甲太郎、久しぶりー」
 緊迫している自分の心情をぶち壊す、非常に能天気な声が電話から流れてきて、一瞬理解不能に陥る。
「…?」
「もしも〜し?甲太郎だよね?」
 救急センターの職員が自分を下の名前で呼ぶだろうか。いや、絶対ない。
 というか、もともと交友関係の少ない自分を下の名前で呼ぶ人間は多くない。ごく一部の人間に限られる。というかこの声は。
「…葉佩か!?」
「いかにもー」
「テメェ、死ね!」
「えぇ、何いきなり!?ひどい!久々に連絡があったと思ったら何その仕打ち!?」
「お前の相手してる時間なんて全く無いんだよ!!」
「はぁ!?電話してきたのそっちじゃん!」
 平常心で聞いていれば友の抗議は尤もだと思っただろうが、妻とお腹の子供の一大事を前に場違い極まりない友人の声は、これでもかというくらい神経を逆撫でした。
 思わず携帯電話を握りつぶしかけた皆守だったが、その前にすっと携帯電話が抜き取られる。
 弾かれたように振り返ると、妻が携帯電話を耳に当てるところだった。
「もしもし、九チャン?」
「あー、やっちー!元気?赤ちゃんも順調?っていうかもしかしてこのタイミングで甲太郎から電話ってことは、とうとう生まれた?この電話ってベビー誕生報告?」
「ううん、違うよ。今生まれそうなとこ」
「そうなんだ、生まれそうなん…って!?ちょっ、やっちー、何をそんなアッサリと!」
「もうすぐだよ多分」
「えぇー!!?」

 数々の修羅場を潜り抜けてきたはずの友人ですら動揺している様子が、電話から漏れた声で伝わってくる。非常に珍しい。
 慌てふためいているらしい葉佩の声と、あっけらかんと話す妻の声を背中で受けながら、皆守は自宅電話に手を伸ばした。

 今度こそ救急車を。

「もしもし!」
 勢い込んで受話器に向かって怒鳴る。が。
「××地方気象台が発表する、午前7時10分現在の気象情報をお知らせします」
 機械的な音声が返ってきて、皆守は反射的に受話器を耳から遠ざけた。
「なんで天気予報!?…あ、間違えたのか」
 通話を終了し、皆守は再度番号のボタンに指を押し込めた。
「落ち着け、落ち着け」
 呪文のように落ち着け、と唱えながら再度通話を試みた結果。
「午前7時17分50秒をお知らせします」
「時報かよ!!!」
 思わず受話器を投げ捨てる。

 掛け間違えるのにも程があるぞ!

 内心で自分自身にそうつっこんで、想像以上に自分が動揺していることを悟った時、無慈悲とも思える妻の言葉が背中に突き刺さった。

「あ、もうタクシー呼んでるから大丈夫だよ」
「…は?」
「甲太郎君を起こす前に呼んだの。もうすぐ来るから大丈夫大丈夫」

 葉佩との通話はいつの間にか終わっていたらしい。
 携帯電話片手にニコニコと無邪気な笑顔を見せる妻に、皆守は急激な脱力感に襲われた。
 俺の今までの苦労は一体なんだったんだ。っていうか慌てふためいた俺の立場は?

「じゃ、ちょっくら生んでくるね!」
「何がちょっくらだ!俺も行くから!付き添いいるだろ?」
「それもそうだね!じゃあタクシー来るまで暇だし、ラマーズ法のおさらいしよう!ヒッヒッフー。ほら、お父さんもご一緒に!」
「…………」



<了>


オチません(爆)。ボケ倒し夫婦です。
っていうかよほどの緊急事態じゃない限り、産科に救急車で駆けつけることはないと思いますよ皆守さん。







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