*微糖な関係10題(ロイアイ@鋼練)* |
BYレースル |
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1:「おはよう」 ただそれだけの朝 |
2005/04/26up |
2:手を握っても何も変わらない |
2005/04/26up |
3:その視線に意味はあるのか |
2005/04/26up |
4:背中合わせで話して |
2005/04/26up |
5:いつもの君と違う何か |
2005/04/26up |
6:気になるっていうのはどういうことだ |
2005/04/26up |
7:告白されたって本当ですか |
2005/04/26up |
8:…調子が狂う |
2005/04/26up |
9:「また明日」 嬉しいなんて思ってない |
2005/04/26up |
10:そして近づく君との距離 |
2005/04/26up |
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1:「おはよう」 ただそれだけの朝
「おはよう」
「おはようございます」
交わす言葉は少ない。
死の臭いが漂う荒野を照らす曙光の明るさに、自然と漏れる社交辞令。
今日一日が終わる時、また会えることを祈って。たった一言の挨拶。
それは、今はお互い生きているのだと確認する瞬間。
微かな歓喜と、絶望の一日の始まり。
ただそれだけの朝。
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2:手を握っても何も変わらない
傍らで息を潜める彼女の手を見る。
平素はきっと、美しい手なのだろう。骨格、大きさ、バランス、比率。
しかし、その手は、緻密な構造をした銃の手入れに、せわしげに動いている。
苛酷な環境に荒れ、関節は腫れ上がり、肌は皸を起こし、爪は欠けている。
「…少佐?どうかしましたか?」
「いや」
小さな手。目的の為なら、人殺しを厭わない手。
こんな少女にそんなこと、させてやりたくないのに。
包んで守ってやりたくても、そうはいかない。
君はきっと、そんな優しさは求めていないだろうから。
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3:その視線に意味はあるのか
彼女はいつも、一歩後に控えている。
私を危険から遠ざけるために、常にあちこちに注意を巡らせている。
だから、彼女の視線とは、並んで歩く時にはあまり交わらない。
私が振り返らない限り。
「ホークアイ少尉」
時々、中佐はあまり意味無く私を呼ぶ。そして振り返る。
私が本当にそこにいるのか、確認しているように。
でも、そんなことくらい、足音で分かるだろうに。気配で分かるだろうに。
私は貴方を絶対に裏切らない。それくらい、解っているだろうに。
どうして貴方は振り返るのか。
真っ直ぐ前を見据えていてほしいのに。
私のことなど、気にかける必要なんてないのに。
必要なくなったら、いつだって切り捨ててほしい。
そうでなければ、貴方の側にいる意味がない。
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4:背中合わせで話して
「今日はどうする?」
声の振動が背中から微かに伝わってくる。
温もりがすっと離れかけたから、体を後ろに倒して、幾分自分より広い背中を追いかけた。
「このままでいいです」
体重を預ける。
窓から差し込む日差しが、キラキラとレースのカーテンを通して煌いた。
まどろみの中、ゆっくりと流れる時間。
忙しない日常から離れ、死の恐怖に直面する非日常からも離れ。
ただ、背中に感じる貴方の命の息吹。
「このままがいいです」
そう、このままがいい。お互いの顔が見えない方が。
今の私の顔、貴方には見てほしくない。
幸せに綻ぶ私の顔は、きっと、貴方の枷になる。
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5:いつもの君と違う何か
「…中尉、いつもと違わないか?」
「いえ、別に変わりはありませんが?」
「なんとなく、雰囲気が違って見えるのだが」
「はあ」
「あ、分かった」
「はい?」
「ピアスがない」
「えっ!?あ、落とし…」
「――どこの男の部屋で落として来たのかな?」
「……!」
「昨日私の部屋に落として行ったよ」
「〜〜〜〜ッ!!」
「ハハハ、そう怒るな」
「怒ります!誰かが聞いていたら…!」
「悪戯な小人が悪さをしたのだと言うさ」
「…随分大きな小人でしたけどね」
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6:気になるっていうのはどういうことだ
今日はやけに中尉の機嫌がいい。
そう指摘すると、そうッスか?と部下が首を傾げる。
いつもと変わらないように見えますけど、と部下は言うが、私にはそう見えない。
書類を捌く指も、応答のテンポも、いつもより一層冴え渡って、これ以上ないほど有能な働きっぷりを見せているじゃないか。
今にも鼻歌でも歌いだしそうなくらい、足取りが軽いじゃないか。
楽しいという感情が、彼女の身体全体に透けて見えるじゃないか。
「では、お先に失礼致します」
いつも以上に素早く仕事をこなして、リザが誇らしげに執務室のドアをくぐっていく。
フワリと翻る長い髪が、彼女の高揚している気分を表しているようで。
「気に食わん」
「左様で」
やれやれ、とでも言わんばかりのハボック。
ちっとも相手をしようとしない部下に辟易と口を噤んでみせて、自分がとんでもなく子供っぽい嫉妬心に駆られていることに気付く。
彼女がプライベートタイムをどう過ごそうと、それは彼女の勝手であり、そこは上司の介入していいところではないのだ。
彼女は、私の目の届く所にいつもいることが普通だと思っていた。
たった数時間目を離すだけで、こんなにも気になる。
なんて幼稚な独占欲。
こんなにも気になるだなんて、どういうことだ。
いや、考えるまでもない。そういうことなのだ。
「あーくそっ!」
「な、なんですか大佐、いきなり!」
「うるさい!仕事するぞ仕事!」
「え、マジですか?今日は嵐だな…」
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7:告白されたって本当ですか
「え、告白されたって本当ですか!?」
「そうよ」
部下の言葉にさらりと答えた彼女の顔には、全く何の変化もなく。
正直ホッとした。
「だ、だだだだ誰に!?」
「何故貴方がそんなに動揺しているのか分からないんだけど」
彼女は不思議そうに目を瞬かせる。
「いや、だって…」
何か物言いたげなアイスブルーの瞳が、ちらりと横目で私を捉える。
―――そんな目で見るな馬鹿者。
私がそんなことで怒り出すとでも思ったのか。告白相手を焼き殺すとでも?
そこまで彼女を束縛するつもりはないぞ、私は。
尤も、彼女が告白相手を全く歯牙にかけていないのが確認出来て、ちょっと安心している自分がいるのは確かかもしれないが。
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8:…調子が狂う
調子が狂う。
気持ち良さげな寝息が、頭の後ろ辺りでスースーと音を立てている。
同時に、足元に蹲っている黒い毛玉も、気持ち良さそうに寝息を立てている。
「お前のご主人様がこんなにも酔っぱらうなんて、珍しいな」
黒い毛玉に向かって話し掛けるが、反応はなかった。静かな寝息が、ダウンライトだけの暗い室内に響き渡るだけ。
全く――――。
「危機感がないのにも程がないか?お前は番犬だろうに」
右手が自由にならない上、左手では届かない位置にいたので、足をのばして爪先で黒い毛玉をつつくと、ブラックハヤテは鬱陶しそうに一度目を開けてロイを睨んでから、もぞもぞと更に体を丸めた。
「……まあ、害意がないと理解してくれているのなら、それでいいんだがね」
ロイは、自由にならない右手を見た。正確には、右腕の袖口の向こう。
酒のせいなのだろう、薔薇色に染まった耳朶。そこに、鈍いゴールドのピアス。
長い金色の睫毛がほんのり紅い頬に影を落とし、薄く開いた唇は、サイドテーブルの光を跳ね返して非常に艶めいて見える。
「………………」
泥酔した彼女をベッドに運び、理性をフルに働かせて紳士らしくいざ家に帰ろうとしたら、袖口を掴まれた。
同時に、一言添えられて。
(―――酒の力とは恐ろしいものだな)
普段の彼女なら、絶対言ったりしない言葉を、彼女は呟いた。
たった一言。一言だけ。
「側にいて下さい」
そして、今も彼女は、袖を離さない。
「全く…調子が狂う…」
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9:「また明日」 嬉しいなんて思ってない
今日が明日に繋がることを、普段は疑いもしない。
明日がないかもしれないとは、平和の内にある時は考えもしない。
「では、また明日」
何気なくこう言えることの、なんと素晴らしいことか。
「ああ、また明日」
微笑む貴方のその言葉を聞けることの、なんと素晴らしいことか。
貴方と共に在る今日。
それが続く明日。
それはとても素晴らしいこと。
でも、それが嬉しいなんて、思っていない。
思っちゃいけない。
越えてはいけない境界線を侵さないために。
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10:そして近づく君との距離
不意に差し出された白い花。
屍が山積みにされたこの死の大地のどこに、そんなものがあったというのだろう。
「少佐、それは、どこで?」
リザは不思議そうに花を見、視線を上げた。
白い花と対称的に、全ての光を吸い込んでしまいそうな黒い瞳が、そこにはあった。
「すぐそこに」
ロイは、顎で近くの木立の下生えを示す。
「そうですか」
頷くリザ。流れる沈黙。奇妙なほど、静か。
さっきまで鳴り響いていた銃声はどこへいったのだろう。
さっきまで轟いていた地響きはどこへいったのだろう。
怒号は、呻き声は、すすり泣く声は、どこへ。
「この花を」
「はい?」
「花を生けておいてくれ」
「…水は貴重ですので、致しかねます」
「准尉、君にはこれが必要だ。戦争以外のものを見ることが」
一歩、ロイは前に出た。
汚れた、幾分自分より小さな手をとって、白い花を置いた。
「生きているものを知れ」
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