うちの王女様はちょっと、いやかなり、というかメチャクチャ変わっている。
確かに見た目は絶世の、とまではいかなくてもかなりの美人であることは、まぁ認めよう。仕草にも育ちの良さが滲み出ており、一見して身分の高いお人だということもすぐにわかるだろう。
だがそれも口を開かずに黙っていれば、という非常に難しい条件付きの話だ。
本人がそれを欠点と認識していない分かなり不利に働いているのだが、もちろんそんなことはお構いなし。
理不尽な言動と、それを上回る無茶な行動。それがラーチェル様だと言ってしまえばそれまでなんだが。
「…でもこのままだと確実に行き遅れますよ」
今日も今日とて俺を連れまわして街をうろつくラーチェル様に、かみつかれるのを覚悟で言ってみる。
いい加減、王族にしたらいい年齢の女性がこれまたいい年齢したお付の盗賊連れ回してばかりってのも考えものだろう。
しかもラーチェル様は仮にもロストン聖教国の後継者にあたるお人で。隣に立つのに相応しい猛者ってのはどっかの国の偉いさんにいるはずだ。
ロストンの行く末を心配しての俺の言葉に、だがラーチェル様はいつものようにあっさりと答えた。
「あら、そんなこと気にする必要はありませんわ。わたくし、結婚相手くらい自分で決めますもの」
いつにもまして、きっぱりずっぱりと言われて俺は絶句する。
そうだった、このお人にこんな嫌味が通じるはずがない。ついでに一般的な常識や価値観も通じるはずがない。
おもわず遠い目になってカルチノの方角を見つめてしまった俺の横で、ラーチェル様は「それに」と尚も続けた。
「いざという時はレナックがいますもの。なんとでもなりますわ」
………………………………ええと。
いや待て落ち着け俺。額面通り受け取れるわけないだろ?相手はあのラーチェル様だぞ?
冷静になれ。大体物事には順序ってものがあるだろうが。この場合はなんていうか、アレだアレ。
だから、つまり、その。
混乱する頭が気の利いた答えをはじき出してくれるはずもなく。
やっぱり俺はこれからもこの姫様から逃げられないのだと、微かに赤くなった顔を隠しながら確信した。
≪終≫
聖魔よりレナラー…というかむしろラーレナ(笑)。最終的には姫に押し切られる盗賊希望。