◆EPISODE;『年末の菊丸家』◆
「英二〜、お風呂入りなさい」
「はーい」
英二が元気よく答えて脱衣所の扉を開けると、背後からぱたぱたと足音が駆けて来た。
振り返ると、長姉が英二の部屋にある熊のヌイグルミ、大五郎を抱えていた。
「これ、大分汚れてるじゃない。せっかくだから、これも綺麗にしてあげなさい」
「…明日洗濯機で洗ったらいいんじゃないの?」
「ヌイグルミを洗濯機で洗ったら手とか足とか痛んじゃうじゃない。中の綿にも良くないし。だから。ほら」
長姉は言って、英二の手の中に大五郎を押し込む。
目をぱちくりさせて長姉を見返す英二。
「大五郎を一緒にお風呂に入れてあげるのよ。んで、よく揉み洗いして、よごれを落としてね」
「え〜っ!!大五郎と入んの!?」
「そうよ。ちゃんと洗ってあげて、ぴかぴかにしてあげるのよ」
「…………」
英二は腕の中に取り残された大五郎を抱えながら、脱衣所に入った。
籠に衣服を放り込みながら、壁にもたれかかっている大五郎と視線を合わせる。
「……一緒に入ろっか」
言いながら、熊を抱え上げ、英二はバスルームの扉を開けた。
その後、大五郎と共に湯船につかり、英二は同じく湯船につかった(浮かんだ?)大五郎に語りかけていた。
今でも時々大五郎に向かい合って喋りかけたりするが、一緒に風呂に入ったのは初めてだった。
小さい頃からずっと一緒だった大五郎とそうしているのが、なんとなく嬉しくて、英二は終始笑顔だった。
|