「い、乾…!?」
 ぐ、と短く呻いたかと思うと、次の瞬間には乾は全員の視界から消えていた。
 何のことは無い、椅子から落ちて床に倒れたのだった。
「乾!」
 全員があたふたと駆け寄ると、乾は浅い息を繰り返しながら呟いていた。
「ああ、三途の川が見える…死んだ祖父が手を振っている…」
「乾、気を確かに…!」
 大石の叫びに、乾はクッと笑った。
「ああ、三途の川なんて非科学的なものは存在しないと思っていたのに、最期の最期でその存在を確認するとはな…データを記録できないのが惜しいよ…」
 言って、乾はぱたりと手を床に落とした。
「乾…!」
 驚きに耐えられない、といった感じで口元に手を当てていた桃城が、やおら口を開く。
「…い、今がチャンスなんじゃないですか?乾先輩の素顔を見る…」
『!?』
 全員が一瞬桃城を振り返ったかと思うと、次の瞬間、全員の視線が興味津々といった風に、意識を失った乾の顔に注がれた。
「確かに…」
 呟く海堂に、不二が頷いた。
「そうだね、このチャンスを生かさない手はないね」
 言って不二が手を伸ばした―――途端、乾の手が不二の手首を掴んだ。
「やあ」
 不二がにこやかに言うと、乾もにこやかに応じた。
「目が覚めるの早いね」
「嫌な予感がしてね」
「ちぇ!せっかく乾の素顔が拝めるかと思ったのにー!」
「残念無念また来週」
 乾は英二の言葉をそっくりそのまま口にして、にこりと笑った。



※あとがき※