うしおじさん

 

僕の名前は、ゴン太です。

みんなは、僕の事をゴンちゃんとかゴン太君とかゴン太と呼びます。

僕は、ゴンと聞くと僕の事だと分かります。

だから、ゴンちゃんと呼ばれても、

ゴン太君と呼ばれても、ゴン太と呼ばれてもいっしょなのです。

 

僕の住んでいるのは、京都の伏見です。

伏見の字は、伏水(水が豊富)から名付けられたそうです。

伏見の町は、素晴らしい所です。

地名の由来どおりここは、おいしいお水で有名です。

それで、昔からこのおいしい水を使って作る、酒造りが盛んになったそうです。

 

 そして、僕には良く分からないのですが、

歴史的にも有名で、由緒ある建物や、地名が、残っているようです。

何故、僕がこんな事を知っているかと言うと

うしおじさんが僕に教えてくれるからです。

 

うしおじさんのお仕事は、町の印刷屋さん。 

うしおじさんのおじいさんの時代から、印刷屋さんです。

活版印刷機から写植そしてパソコンを使ったお仕事に換わってきたそうです。   

うしおじさんの趣味は、音楽。

ジャズが、大好きです。      

パソコンばっかりしていると、体に悪いので

ゆったりジャズを聴いたり、自転車で伏見の

町を、ぶらりと出かけます。

 

僕の家にも、時々やって来ます。

何をしに来るかというと、お仕事の用事で来るようです。

そのついでに、デジ・カメと言う物で、僕の写真を撮ります。

うしおじさんは、ホーム・ページを持っていて、

そこに僕の写真を載せています。

 

僕がペタンと寝転んでいると、

うしおじさんも僕の前にペタンと寝転んで撮ったり

僕のいろんな表情の写真を、パチリパチリ撮ります。

 

僕が知らん振りしていても、ソッポを向いていても、撮ります。

僕のキリッとしたとこや、かっこいいポーズや、すねている時も、

泣いている時もシャッターを、切ります。

 

僕は、まだ小さい時に頭から転んで、鼻のてっぺんを怪我したそうです。

僕は小さかったので、その時の痛みや怪我の事は、覚えていません。

でも、その時の怪我で僕の鼻の頭は、赤くすりむけてしまいました。

だから今でも、その時の傷跡が、

赤鼻のトナカイさんのように、赤くなっているのです。

 

こんな僕なのに、うしおじさんは、僕の写真を撮り続けています。

世界中の人々が見る事が出来るホーム・ページに出ているのは、

僕はちょっと自慢に思っています。

 

ある日、うしおじさんは、写真のモデルの

お礼にお散歩に連れて行ってあげようと言

いました。僕は、お散歩大好きです。

 そんな訳で、僕とうしおじさんは、お散歩に出発しました。

今日は、冬だというのにとっても良いお天気です。

 

お日様が、ポカポカと背中を温めてくれています。

僕は、うしおじさんの行く方向に着いて歩きました。

おやおや、この道はいつものお散歩コースと違うぞ。

なんだか、楽しくなってきました。

 

わくわくしながら歩いていると、お花がいっぱい咲いているお家がありました。

白くて、小さなお花です。

僕は、可愛いなと思い近づいて、匂いをくんくん嗅ぎました。

「君は、お外で元気いいね。僕は、うしおじさんとお散歩してるんだ」

と言うと、「ゴンちゃん、楽しんできてね」と、言ってくれました。

僕は、「うん」と答えました。

そして、そのお花たちにバイバイしました。

 

 

 

その様子を見ていたうしおじさんは、「ゴン太君は、お花とお話が出来るのか。

素晴らしいね」と、言いました。

それを聞いて僕は、「アレ?」っと思いました。

僕にこんな事を言った人は、初めてだったからです。

 

僕とうしおじさんは、また歩き出しました。

うしおじさんは、高瀬川に行こうかと、僕に聞いてくれました。

僕は、「うん」と返事をしました。

でも、その時僕は高瀬川の名前は知りませんでした。

誰からも、川の名前を教えてもらった事が、無かったからです。

すると、うしおじさんは高瀬川について話してくれました。

 

「高瀬川は京都の上の方から流れて来て、

もう少し行くと宇治川と合流して、次は淀川と合流して、

そして、海に流れ出るんだよ」

僕は、「海って、なんだろう」と思っていると、

「海は広くって、川から流れ出た水を、全て受け入れる所でね、

そこには、色々な生物が住んでいるんだよ。だから

川の水が汚いと、海の水も汚れるから川の水を

汚さないようにする事が大切なんだよ」

と、話してくれました。

 

僕達は、高瀬川の土手に着きました。

ここは、僕の知っている所でした。

前に何度か来た事がありましたが、高瀬川と言う名前は、今日知りました。

「うしおじさん、ありがとう。僕に、川の名前を教えてくれて」

と、心の中で思いました。

 

川沿いの土手を、どんどん歩いて行きました。

すると、前方に二羽の雀が舞い降りてきて、

チュン、チュンとお話をしながら、何かを食べていました。

僕は、びっくりさせないように、づっと手前で立ち止まりました。

そうして、雀が飛び立つまでじっと待っていました。

すると、うしおじさんは「ゴン太君は、紳士やね」と言いました。

僕は、少しテレくさかったけど、こんな風に言ってくれるうしおじさんが、

だんだん好きになりました。

 

また、どんどん歩いて行くと、

今度は、前から大きな黒い犬が、お散歩に連れられて来ました。

その犬が、あまりにも大きくて強そうなので、僕は、ビビってしまいました。

すると、うしおじさんが小さな声で「知らんぷりしとくのが、いいよ」

と、言ってくれました。

僕は、うしおじさんが言ったように知らん振りをして、通り過ぎました。

通り過ぎてから、僕はホッとしました。

 

そして、今度はうしおじさんが、少し休んでいこうかと言って

川に向かって土手に腰掛けました。

僕も、うしおじさんの隣に座りました。

うしおじさんは、太陽に照らされて、

キラキラ輝やいている高瀬川の水面を眺めていました。

僕もうしおじさんと同じように、眺めました。

高瀬川の水面は、キラキラ、キラキラ眩しく輝きながら、

ゆらゆら、ゆらゆら揺れていました。

うしおじさんがぽつんと、「綺麗やな」と、つぶやきました。

僕も「綺麗だ」と思いました。

 

しばらくここでノンビリしていると、川向こうの西の家の屋根の上に

真っ赤な大きな夕陽が、沈み出しました。

まるで、西の空が燃えているようでした。

うしおじさんは、それを見ると立ち上がって

寒くなるから、そろそろ帰ろうかと僕に言いました。

僕達二人は、夕陽の中を駆けて帰りました。

 

おしまい

 

ゴン太君の写真はうしさんのH・P「デジうしクン」からお借りしています。

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