教育実習のエピソード

去る05年05月30日〜06月10日まで,母校の大阪府立***高等学校に教育実習に行ってきました.そのエピソードを何点かご紹介したいと思います.

◆事前の打ち合わせで◆
 05月20日に事前の打ち合わせに行ってきました.私は塾講師の経験がなく,授業をきちんとできるのか不安だと先生に言った所,

(私の苗字)君が不安だったら,他の実習生はどうなるの!?」

と激励されました.随分と買いかぶられたものです.ここまで言われると却ってプレッシャーなんですが…….

◆いざ実習,だが?◆
 さて実習なのですが,今振り返ると,日程が設定ミスだったと思います(先生も言ってました).何故かと言うと,教育実習はたいていの場合実習授業をする前に授業見学をするのですが,前週に中間考査が終わったばかりのため,授業の見学に行ってもテストの返却ばかりで全然参考になりません(涙).私は実習授業を6クラス×2の12回行うことになりました.週2回の授業なので2週目に2回ずつ行えると思いきや,2週目の最終日が体育祭でその関係で時間割が変更になっていて,1回目の授業は全クラスで1週目にすることになりました.しかも2回中1回目の初回は3日目の水曜日です.ということでろくに授業見学も出来ないまま実習授業をすることになりました.
 実習授業を水曜日に控え,月・火の晩は授業作り(指導案作り)および教材研究で一杯一杯でした.ほとんど寝られませんでしたし,寝ていても夢の中で授業をしていました.で,夢の中でいいフレーズが浮かんだら飛び起きてメモって,って感じでした.ちなみに教材研究は教科書・資料集だけにとどまらず自分の持っている本や既有知識をフル活用です.「株式はイギリス英語ではshareといって,木の株(根っこ)を株主でシェア(共有)するイメージ」なんて教科書や資料集には絶対載ってませんからね.

◆実習授業の前にネタ作り◆
 ということで実習授業です.教材研究は完璧で,教科書中のどの語句を質問されても大丈夫です※.事前に授業の練習もしてあるのでペースも大丈夫っぽいです.ここまで来ると,最後に物を言うのはハッタリです.ということでいくらかネタ(?)を用意しておきました.
 ・ 社会科なのに白衣を装備
 ・ 「チョークケース」と四方にかかれたチョークケース(用のタッパー)
 ・ 自前の黒板消し
 ・ ポインターペン(指示棒)を持っているのにもかかわらずタクト(指揮棒)使用
 ・ チャイムと同時に始めてチャイムと同時に終わってみる.

 教育実習はスーツで行く訳ですが,チョークの粉というのは厄介で,スーツに付着するとなかなか取れません.ということで,授業は自前の白衣着用ですることにしました.アレだと粉がついても目立ちにくい上,はたけば取れますし,洗濯も容易です.「何で政経やのに白衣なん?」と,かなりウケました.
 2点目のチョークケースは,こんなやつです(1)(2).壁面と天面に「チョークケース」と印刷した紙を貼っておきました.これも「先生チョークケースに『チョークケース』って書きすぎ!」とかなりウケました.
 3点目の黒板消しは,読んで字の如くです.コーナンで売っていたコクヨの黒板消しで(1個約380円),2つ持って行きました.何故かと言うと,私は板書の代わりにプリントを使う授業は嫌いなので,後述するようにひたすら板書をしました.教室にある黒板消しは汚いことが多いので,そのまま消すと粉がたくさん飛んでしまうので,職員室であらかじめ綺麗にしておいた自前の黒板消しを毎時間持って行きました.これも生徒にとったアンケートを見たところ結構受けていたようです.
 4点目は,ポインターペンはあの例のラジカセのアンテナみたいなヤツですが,アレはもともと持っていたのですが,以前NHK教育の通信教育?を見たときに,タクトで説明していたのを見て,「これは使える!」と思ったので,わざわざタクトを通販で購入して,使ってみました.しかし,タクトだと細くて後ろから見難い上に,黒板をこするといやな音(爪でキーとやる感じ)が鳴るので,各クラス2回目の授業ではポインターペンに切り替えました.で,あるクラスで,タクトを使ってうっかり黒板をこすった所,生徒が不快な顔をしたので,「あぁ嫌な音がしますねぇ,じゃあこっちを使いましょう」といって胸ポケットからポインターペンを取り出し使った所,クラス中大爆笑.ここまでウケるとは思っていなかったので思わぬリアクションに面くらいました.確かにポインターペン持ってるんだったら最初からそっち使えって感じですね.いやー2000円も出してタクトを買った甲斐がありました.してやったりですね( ̄ー ̄)ニヤソ.
 5点目はどういう意味かというと,私の時計は電波時計なので正確なわけです.実習校の時計は19秒早かったので,そのことを頭に入れておけば,いつチャイムが鳴るか判るわけです.で,授業が始まるときは,「みんな教室入ってー,もうチャイム鳴るよー.あと5秒,4,3,2,1,」とカウントダウンをしてみたり,終わる時は,「ハイ,今日はここまでにします.」と言い終わると同時にチャイムを鳴らしてみました.すると生徒からは「おぉースゲー」と感嘆の声が上がりました.これもまたしてやったりです.
 念のために申し上げておきますが,別にネタばっかりやっていたわけではありません.教材研究をしっかりして授業の練習もできている上で,ネタをやったわけですよ.そこを勘違いしないで下さいね.

※たとえば本文に「銀行や保険会社などの法人の株主が増え」という風にさらっと出てきている「法人」の意味も調べわかりやすく説明できるようにしておきました.こんな感じ.

「法人とは自然人の反対です.自然人とは私たち人間のことで,法人とは法律上人間扱いされるものたとえば会社などを指すわけです.会社が罪を犯したといっても会社に手錠をかけて捕まえるわけではないですよね.会社が利益を追求するといってもモノである会社が実際に何かをするわけではないわけですけれども,あたかも会社が人間であるかのように扱われています.このように,自然人つまり私たち人間と同様に法律行為や経済行為をする組織体のことを法人と言います.」

◆実習授業◆
 さて,肝心の実習授業はどうだったかというと,スピード以外は説明も判りやすく板書も見やすいと好評でした.ただ,私は事前に自分が教える範囲を5ページ分としたのですが,意外と内容が濃くて45分※×2では困難だと思ったのですが,1単元を終えたかったので,スピードを上げることで収めました.スピードを上げたので,板書しながら説明(マシンガントーク)を45分間息つく暇もないほど繰り広げることになりました.これを3分の2のスピードで出来たらかなりよい授業になったろうなぁと思います.私は,板書をプリントで済ませて穴をひたすら埋めていくだけの授業は超絶退屈だと思うので,板書プリントは使わず(資料プリントは使いました),板書はひたすら黒板に書きました.やっぱり授業は黒板書いてノートにとってナンボだと私は思うんです.どの位書いたかというと,黒板1面を左右に分割して各7行を2面半=35行くらい書きました.これでも記憶から取り出す際にフックとなる語句(その語句を見れば記憶の中の説明などが引っ張り出される)だけしか書いておらず,長々とした説明の文章なんてのは書いてませんよ.それだけ指導内容が多かったのです.1回の授業で白チョークを4本くらい使いました.短いのは使いにくいのでそれは廃棄ね.

※本校では完全週5日制の導入に伴い45分×7時限に校時が変更となりました.45分の中で従来の50分分の内容を指導する先生が大半です(5分分短くすると逆に切れが悪くなるため).

 内容は経済の範囲だったので,できるだけ具体的・判りやすい例にするように心がけました.上述した株式の概念もそうですし,寡占市場でのカルテルや管理価格,価格の下方硬直性のところでは,第三世代携帯電話市場では3社の基本料金の最低料金が全て同一価格(4095円)となっている,という既存の例よりもわかりやすい例が提供できたと思っています.管理価格はビールでかつてキリンがプライスリーダーだったと言う例を出さざるを得ませんが,90年代初めに脱管理価格宣言がなされ,更にはオープン価格になりましたから,今では下方硬直性の例にはなりませんからね.第一,高校生にビールの話は縁遠い(はず)です.携帯電話の方がよほど身近な例になりえます.
 恐らく生徒に一番印象に残ったのは,「シャンシャン総会」の説明だと思います.シャンシャン総会というのは,株主総会で株主の席の一番前の列に社員(サクラ)を陣取らせておいて,議題ごとに「異議なし!」と叫ばせて拍手(シャンシャン)させ,株主に意見・質問させないイベントのことです.教科書にはシャンシャン総会の言葉は出てきませんが,株式会社の三権分立(株主総会・取締役・監査役)が実際には守られていないことが多い,というところの例としてあげました.こんな感じです.

「株主総会はこういった(教室)感じのホールなどでやるわけです.で,そっち(生徒)側に株主がずらーっと座っている訳です.そこの最前列に自分の会社の社員をサクラとして陣取らせておくわけですね.そして,こっち(教壇)側で,社長がですね,たとえば「次の社長を,今の副社長の○○さんにしたいと思うのですが,株主の皆様いかがでしょうか」などと聞くわけです.すると,株主がどうこう言う前に,その最前列に陣取っているサクラが拍手をしながら――この拍手の音をシャンシャンというわけですが――「異議なーし!」と叫ぶわけです.すると社長は「異議はないようですので,次の議題に移りたいと思います」という風にして株主に発言させる機会を与えないわけですね.」

この「異議なーし!」を実際に教室で叫んでみました.拍手もしてみました.いきなり先生が叫びだしたので生徒にはかなり強烈なインパクトを与えられたようです.私の2回の授業で生徒が何を覚えているかというとこの「異議なし!」は恐らく確実に覚えているでしょう.確かに教科書には載っていませんが,授業の中で何かひとつでも強烈に覚えていることがあると,それで授業は成功したと言えると思います.これをフックとして他の事を思い出すきっかけになることもあるでしょうし.

◆参観にこられた先生方の評価◆
「実に堂々としている」
「話し方が慣れている」
「声もよく通っている」
「説明も分かりやすい」
「教材研究がよくなされている」
「教材の内容をよく消化しており,俄か勉強の感じではない」
「私が生徒だったら好きになりそうな授業だ」
「よく知らない分野だがよくわかった」
「板書がよくまとまっており,字も綺麗で大きさもちょうど良い」
「板書がノートにとられることを意識したレイアウトとなっていて良い」

などと,すこぶる評価は高かったです.頑張って教材研究をした甲斐がありました.

「堂々としている」という評価があります.確かに堂々としていたと思います.一番最初の授業の初め5分くらいは足が若干ガクガクしましたけれど,そこは持ち前のハッタリで乗り切りました.で,教科書のどの部分を質問されてもそつなく答えられるほど教材研究はしてあるわけです(前述の「法人」の説明のように).すると何にも怖くないわけです.かかって来いという感じです.他の実習生の中には「○組はやたら質問してくるからやりにくい.これはこうやねん!質問すんな!って思う」などといっている人も多かったです.また,先生が言うには,実習生の多くは教材研究が足りず,授業中に時間が余ってしまったり,説明が誤っていてあとから先生が改めて授業をやり直さなければならない場合が多いそうです.私の場合は,説明のレパートリーは有り余るほどで,逆にホントはあれもこれも言いたいけれど時間の都合で泣く泣く削った説明が山ほどあるわけです.この辺が余裕につながっていたのでしょう.私の授業は内容がしっかりしているから改めてやり直す必要がない,と先生に褒められました.
 もともと説明するのは好きなんですよね.

 なお,他の実習生に「字が可愛い」と言われたのは不可解でした.実習中以外にも私は「女の子の字のようだ」などといわれることが良くあります.どういうことでしょうか?

◆生徒のアンケートより◆
「実習生より普通に先生っぽい」
「お世辞じゃなくて普通に授業,わかりやすかったです」
「○○先生(いつもの政経の先生)より先生らしかったです(笑)」
「実習生の中で先生が一番ステキだと思います」(←照れますね)

などと,概ね好評だったのですが,

「巨人の上原投手に似ていますね」

と,2人の生徒にかかれていました.そんなこと言われたのは初めてなのに,2人にも言われてしまって衝撃的でした.

◆授業以外のトピック◆
 なんと言うか,私たちの在校時よりも,生徒が子供っぽくなっている気がしました.レベルも残念ながら下がっているようです.
 生徒は元気一杯です.4つしか年齢が違うとは思えないほど若さに溢れています.ほとんど寝ていないにもかかわらず生徒たちの元気な姿を見るとこっちまで元気になりました.
 最終日の体育祭の日,実習生は,全員「実習生」とプリントされたお揃いのTシャツを着ました.このプリントは私が作りました.PCでプリントしてアイロンでくっつける紙です.実習で忙しい合間を縫ってあちこち探しに行ってきました.こんな感じです.これは実習生にも生徒にも先生にも好評でした.先生には「今年の実習生はまとまりがあるな」なんていわれました.
 私がホームルームを担当した3年2組は,実習最終日の体育祭のダンスコンテストで優勝しました.お祝いの言葉と,実習のお別れの言葉を言いたかったのですが,何と流れ解散となってしまい,ろくに挨拶もできないままあっけない幕切れとなってしまいました.
 あと,体育祭当日は凄くいい天気だったので,日焼け対策をしていなかった私は腕と顔が酷く日に焼けてしまい,執筆日現在(体育祭から4日もたった6月14日)もヒリヒリします.こんなに日に焼けたのは生まれて初めてです.

◆真面目な話◆
 私は実習授業で,スピード以外は概ね好評だったといいました.実際にこの内容を2.5〜3回で指導できたならもっと良かったのにと自分でも思います.しかし,教科書のページ数と45分授業週2回という回数からすると,5ページに3回も割いていたのでは時間をかけすぎです.昨今の い わ ゆ る 「ゆとり教育」(ゆとり教育は俗語です)の中で,考える授業が重視されてきており,授業にはディベートやディスカスが用いられるようになってきています.しかし,知識のないまま討論しても浅い結果にしかならず,論が誤った方向にすすむこともありえます.ということで,教科書の内容を理解した上で,討論すべきでしょうが,今の授業時間数では教科書の内容を消化するだけですら時間数が逼迫している気がします.一体どうしろというのだ!?と思います.諸外国はこの問題にどう折り合いをつけているのか気になるところです.
 また,先生が多忙だと言うのが良くわかりました.生徒数の減少で教員の数は減少している一方,学校に求められることは増え校務分掌は減るどころか増える一方です.校務の多い時にはメインであるはずの授業が片手間となっている実態があります.さらに,完全週5日制で平日は7時間,土曜は朝から夕方までクラブの指導と,完全週5日制実施前よりも忙しくなっている,という声も聞かれました.しかもお給料はそんなに高くないんですよ(たとえば土曜日のクラブ指導はほぼ無給(数百円)).「他の仕事と比べていいのか悪いのか,わからない.教員採用試験に落ちた方が幸いかもしれない」と 先 生 が 仰っていました.でも「教員は魔女みたいなもので,何だかわからないけど楽しいんだ」とも言っていました.また,同じ先生が「姫路城はまさに『城』である.他の城との対比など成立しない」といったように,教員という職業も,他の職業と比較すること自体が間違っているのかもしれません.

◆最後に◆
 このサイトのお客様の中で,私の授業を受けてみたいという奇特な方がいらっしゃいましたらご一報下さい.対1人でもやりますよ.で,批評や感想をいただければこれ幸いです.
 またこのエピソードの感想もお待ちしております.