或る春の日
  





  [或る春の日]








或る暖かな春の日だった。


私を繋ぐ銀色の鎖が。
朝露に濡れて、きらきらと光っていた。


まるで宝石の様で。
違う、宝石よりもずっともっときらきらしていて。


朝日を浴びているそれは太陽みたいで。
眩しくて、動けなくなった。


私の服も霞む銀色。
私の服は色とりどり、赤や青や黄色や黒があったけど。
皆は美しく優美だと賞賛するけれど。
だけどこの太陽の銀色には劣る。


大きく腕を広げたまま私はただその光を見つめていた。


身体に小さな振動を感じる。
身体全体が鎖と一緒に揺れている。
揺り篭というには激し過ぎ、台風という程強くもない。


それでも大きく腕を広げたまま私はただその光を見つめていた。


後ろから迫る黒い怪物は、きっと私を殺すだろうから。
飛んでいる時、私はその姿を見たことがある。

八本足の黒い怪物。
その牙は私の身体を簡単に貫いてしまうだろうと思うと。
とてもとても禍禍しくて、怖かった。


だから。
最後の瞬間ぐらい、このきらきら光る銀色の、太陽の鎖を見ていたい。
たとえそれが黒い怪物の作ったものだったとしても。
だってそれは今まで見たどんなものよりも美しいから。
死ぬ寸前の研ぎ澄まされた緊張で見た、黒い怪物の禍禍しい姿から生み出されたその鎖が。


今まで見たどんなものよりも美しいから。





太陽が中天を過ぎる頃、蜘蛛の巣の下にアゲハチョウの羽が落ちていた。
やがて風に吹かれて消えた。
蜘蛛の巣だけが太陽の光できらきらと輝いていた。




中華
2004年10月20日(水) 08時25分13秒 公開
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