或る夏の日






[或る夏の日]




或る太陽が輝く夏の日だった。



同朋がただひっきりなしに叫び続ける。

ただその叫びも日に日に小さくなっているのに気が付いていた。



私は、私もずっとその叫びの中にいた。

闇から解放されて青い青い世界に飛び出した瞬間から。

ずっとその叫びの一因だった。

ただ思い出す限りずっとずっと叫び続けていた。

ぎらぎらとした太陽の届かない影で。

空を駆ける大きな影に脅えながらも。

それでもただ叫び続けていた。



長かったのか短かったのかはわからない。

闇の中に息づいていた時間と、世界に飛び出した時間の長さも。

もう今となってはわからない。

意味もないかもしれない。

ただ私は世界に出た瞬間の様に、遠い青さを目の前にして仰向けに倒れている。

本来そうなるべきではない体は、それでも動こうとはしない。

手足の感覚も、透明な羽根の感覚ももうない。

叫び続けてきた声ももう出る気がしない。

身体のどこかは動いているのだろうか、それとも動いていないのだろうか。

痙攣ぐらいはしているのかもしれないけれど、それもわからない。

もう今となってはわからない。

意味もないかもしれない。




同朋がただひっきりなしに叫び続ける。

私が世界に飛び出したすぐを考えると随分少なくなった叫びが。

私をただ包んでいる。




長かったのか短かったのかはわからない。

闇の中に息づいていた時間と、世界に飛び出した時間の長さも。

もう今となってはわからない。

意味もないかもしれない。

ただ私は世界に出た瞬間の様に、遠い青さを目の前にして仰向けに倒れている。

本来そうなるべきではない体は、それでも動こうとはしない。





最期の時は、来たのだから。




この身体は、ただ息づいていた闇に帰るだけ。





次の夏、その次の夏、そのまた次の夏。

いつかまた、生まれ出る日が来るのだろうか。

息づいていた闇の中から。また。







夏のおわり。

蝉の鳴き声も少なくなった頃。

地面に仰向けになったその蝉は静かに土に帰っていった。





中華
2004年10月22日(金) 22時27分28秒 公開
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■作者からのメッセージ
…モデルはクマゼミ。

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