或る秋の日
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[或る秋の日] この秋も、あなたは私から去って行くのね。 夕日の痛い、或る秋の日に呟く言葉はいつもの秋と同じだった。 彼らは去っていく。 春になればまた生まれるとは知っていても。 それでも私から生まれた彼らは同じではない。 春に生まれた鮮やかな姿も、夏になって落ちつく姿も。 千切れて飛んで逝った姿も、私の腕に這う生き物のお陰で傷ついた姿も。 風のざわめきの中で知ったたくさんの言葉も。 似ていても全てが同じではない。 秋になって黄色や赤や茶色に色付けば、それは別れの印。 何度も繰り返したこの別離。 秋が来るたびに私は一人になる。 この秋も、あなたは私から去って行くのね。 風が吹くたびに最期の囁き。 さようなら。 元気でね。 ありがとう。 さよなら。さよなら。 小さな囁きと共にぱさりと足下に落ちる。 それを止める術を私は知らない。 さようなら。 雨が降ればそれも聞こえない。 だけれど雨がやんだその時は多くの姿がもういない。 何度も繰り返したこの別離。 秋が来るたびに私は一人になる。 この秋も、あなたは私から去って行くのね。 囁いた言葉と一緒に風で腕が揺れた。 最期の囁き。さようなら。 秋が深まった日。 落葉樹は死んだ様に動かない枯れ葉に埋もれて静かに揺れた。 |
中華
2004年10月23日(土) 17時19分10秒 公開 ■この作品の著作権は中華さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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